第17話 新たな仲間、未来を夢見て
次にラハブと会うのは七日後。
勿論、なんとなく生きて日常を過ごす訳じゃない。
そうだな、まず村に帰ったら……
歩きながら色々と思考を巡らせていると、食欲を誘う匂いがやって来た。
いつの間にか村の入口までたどり着いたらしい。
しばらく匂いのする方向へ歩いてたが、途中で足を止めた。
目線の先にいたのは、心地良い音を口ずさむベル。
そして、それを聞き入っている子供たち。
恐らく、大人達が食事の準備をしている間の子供の世話を任されたのだろう。
相変わらず良い歌声だ。
ベルの歌が一区切りつくと、子供たちは拍手をしながら口々に褒め称えた。
僕も素直に拍手を送った。
しばらくして拍手が止むと、皆一斉に同じ場所へ走りだす。
方向から察するに、昼食が出来ているかを確認しに行ったのだろう。
だが、一人だけずっとベルに話しかけ続けている少女がいた。
獣の耳と尻尾、そして桃色の髪。
確か名前はモモエ、だっけか。
「ベル様、すごいです! 私、感動しました!」
「ありがとう、モモカ」
モモカだった。
あれ? モモエじゃないの?
いや、でもモモカだったような……
「コウ」
変なことで頭を悩ませていると、ベルの方から話しかけてきた。
モモ……カとの話が終わったようだ。
「ああ、お疲れ様」
「どうしたの?」
「いや、別に何でも無い」
本当に何でも無い悩みだったので頭から消すことにした。
「ところで村長がコウを探してたけど」
「あ」
そう言えば、村長に何の断りも無く出掛けていたのを思い出した。
あんな事があった直後だから、余計な心配をさせてしまったかもしれない。
「すぐに行かないと、二人もついてきてくれ」
「はい」「いいよ」
村長は村の中央で配給を手伝っていた。
「あの、村長、これは、その」
「ああ、コウさん。さあどうぞ、お腹が空いてるでしょう」
村長がスープを手渡してきた。
多分、何も聞かずに振る舞った方がいいと考えているのだろう。
だからこそ、こっちから話を振らなければいけない。
「村長、後で話をしよう。ヨームも連れてきてくれ」
「……分かりました」
昼食を取った後、僕らは教会の1階に集まっていた。
ここに居るのは五人。
僕とムサシとベル、そして村長のオスカーさんと獣人のリーダー、ヨーム。
「まず皆に話したい事がある」
重い沈黙を破る為に僕が最初に発言した。
「知っての通り、アントンとメルケルが殺された。だが、冒険者にとってどんな事も自己責任、これも仕方ないと思う」
これはこの世界に来て一日目の夜、アントンに言われた言葉だ。
当時は意味を知ったようなふりをして聞き流していたが、今なら理解出来る。
もしかしたら、こんな状況を想定していたのかもしれない。
「でも、そのセリフで何でも割り切れるほど僕は器用じゃないし、これ以上仲間を失いたくは無いのが本音だ。
かと言って、この村以外のどこかの国に亡命するのも難しい。
ムサシもベルも魔物だからな、
そこで一つ案を思いついたんだ」
みな静かに聞いている。
「そもそもこの村は政治的に弱い立場かつ、人と魔物が共存する極めて珍しく厄介な村だ」
「……否定はしません」
「この世界は人と魔物が常に対立してるんだろ? もしこの村が公に晒されたらどうなると思う?」
「それはやはり、ギルドや大国によって獣人か人間、もしくは村人全員が処罰されるでしょう。しかし、そうならない為に我々はひっそりと暮らして――」
「それじゃ駄目なんだよ」
前から思っていたが、オスカーさんはかなり穏健派な性格をしている。
でもそれは必ずしも良い事とは限らない。
特にこういう事態の時は。
「よく考えてみろ、二十人程の村だぞ? 絶対にいつか見つかる。
大切な物を守るには逃げるだけじゃなく、立ち向かえる力も必要なんだ」
「……では聞かせてください。貴方は何を画策しているのですか?」
17の若造が何倍も経験を重ねている人の考えに口答えをするというのは、自分でも中々ヤバイと思う。
でも確信しているんだ。
この計画は、天龍の力を継ぐ僕だからこそ出来るのだと。
「僕は、この村を基に国を創りたい」
これが答えだ。
「それはまた大層な」
「しかし、指摘自体は的を射ていると思います」
オスカーさんは懐疑的だが、ヨームはそれなりに賛同している様だ。
「何の勝算も計画も無く言ってるんじゃない。ちゃんと専用スキル以外の武器もあるんだ……今は見せられ無いけど」
「それは、秘密という事ですか?」
「まあ、秘密兵器ってことで」
正直に天龍があーだこーだ言った所で無駄だろうし、ここはそういうことにしておこう。
村長は腕を組んで悩んでいたが、しばらくすると僕の目を見て言った。
「コウさん、貴方が本気だと言うなら、一つ試してもいいですか?」
「試す、か。いいよ何でも言ってくれ」
こういう実践的な方法を取らなければ、いくら議論しても無駄だろう。
「この近くには二つの集落があります。もし国を創るとしたら、それらとも交流をしなければなりません」
「そうだね」
「そこで貴方には実力の証明として、そのどちらか一つと協力関係を結んできてください。もし本当に出来れば貴方を信じます」
正直、その内容は簡単そうに聞こえた。
自分からその集落に出向いて、「取引しましょうよー」って言えば良いんじゃないかと。
でも、きっとそんな単純な訳が無い。
「一つはハーピーとシルフ、二つの魔族がいる集落です。
彼らはどちらも風を操るのが得意な種族のため、風操と呼ばれています。
排他的な集落ですが、メリットのある話には積極的に食らいつくようです」
メリットねえ。
この村にそんなもんあるか?
うーん、アットホーム、若手が活躍、風通しの良い職場。
駄目だ、ブラック企業の宣伝文句しか思い付かない。
「もう一つは魔人族が暮らす集落です。
彼らは常に強者に従い、弱者を見下しています。
協力を要請するには最初に力を示さなければいけないでしょう」
前者に比べてこっちは単純だ。
その集落で一番強い奴とムサシを戦わせれば良い。
先にこっちから行く方が良いかもな。
「とりあえず、近いうちに両方の集落に行ってくるよ」
会議が終わった後、僕はすぐに教会の二階へ行き『従者創作』を使用した。
従者創作は三人まで思い通りの従者を創ることが出来る能力。
しかし、僕がそのスキルを一回しか使わなかったのは理由があった。
一つは創っている間は精神が徐々に摩耗していくという点。
何せ種族、姿、性格その他諸々をゼロから創らなければならない。
その上、最初から強すぎない様に制限を設けられているのだ。
なまじ自由度が高い分、この制限が本当にキツイ。
実はムサシを創った時も体感で一時間以上は掛かっていた。
だが真の理由は二つ目、強い種族が分からないという点にあった。
やはり制限があるとはいえ、最初から強い方が良い。
特に人間よりも強い種族の方が。
前まではその種族が分からなかったが、ラハブに種族について質問しまくった今、ようやく作成に踏み切ったという訳だ。
……まあ、当然ながらバランスブレイカーの天龍は無理だったが。
「「主様に命を頂いた恩に報いるべく、我らは貴方様に忠誠を誓います」」
二人が目の前で跪く。
案外、同時作成もできるもんだな。
右側にいる耳が尖った女性は、エルフのネリー。
彼女は戦闘が得意では無いが、その代わりに高い知能を才能として与えた。
将来は僕の秘書的なポジションに立ってもらおう。
左側にいるのは幽物質のジュード。
幽物質は本来ならば恨みを持った魂や、この世に未練のある魂が一つの死体に寄せ集められて魔物として復活する現象。
しかし、ジュードは一切の穢れの無い魂として僕が生み出した。
彼には戦闘と知能の両方に才能を割り振った為、器用貧乏になるか万能超人になるかは育成次第である。
これでもう僕の『従者創作』はお役御免だ。
後は彼らをどう成長させるかに掛かっている。
ついに役者は揃った。
さあ、新しい舞台の幕開けだ。