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第14話 君が望んだ物語だよ

「メルケル、一旦休憩だ」

「ああ、もう昼飯の時間か」


 クワを振り上げて、振り下ろす。

 そんなことを何百回と続けている内に、私の中から時間の概念が消えていた。


 私とアントンを主軸とし、村の全員で畑を拡張する。

 その間にコウ達が村の外で狩りを行う。

 これが私が考えた今日の流れだ。


 午前中の作業はかなり順調に進んだ。

 やはり獣人達が素直に従ってくれたことが大きい。

 この調子なら食糧難の問題はすぐに解決するだろう。


 もう一つ誤算があった。

 アントンによると、コウ達が狩りを大成功させたらしい。

 この報告には驚かざるを得ない。


 普通、狩りというものは遠距離からの攻撃で対象を仕留めるのがよく用いられるが、今回彼らには弓矢などは持たせなかった。

 コウの炎魔法でも一応は可能だが、逃げられるか、黒焦げにするかのどちらかだ。


 それを分かっていて行かせたのは、彼らをテストしたかったから。


 例えばコウ、彼には人を指揮する才能と、危機を乗り越える能力がある。

 その反面、冒険者としての体力が全く無い。


 次にベル、虫を使った諜報とパーティーで唯一の回復魔法使い。

 しかし彼女は戦闘が出来ない、というより「したくない」という言い方が正しいだろう。

 どちらにせよそれは致命的な弱点だ。


 最後にムサシ、流石は魔人というべきか、戦闘能力と身体能力が突出している。

 だが彼にはマルチタスクが出来ない。

 これはコウがムサシに与えた「自分を守るための護衛」という目的に対して最悪の欠点だろう。

 故に彼には「コウを守りつつ、目的を遂行する」ということが出来ないのだ。


 まあ、つまり彼らには絶対的な長所と短所があり、それをどう操るのかを見てみたかった、という訳だ。


 三人は村の中央にあるベンチで休んでいた。

 見たところ、服に土の汚れは付いているものの、大した怪我や血痕などはない。

 結果だけを見れば、彼らは見事に目的を果たしたと言える。

 しかし、それならば何故あそこまで深刻な表情を浮かべているのだろう?


「なあ、メルケル、『天龍』ってなんだ?」


 質問をする前にコウから先に質問をされた。

 まさか、彼らの悩みはあの天龍に関わることなのか?


「……天龍は神の代行者。百年に一度、彼らのおわす天龍山の頂きから下界に降り、天罰を下す存在だ」


 コウはうんともすんとも言わずに、ただ黙って話を聴いてる。

 私は気付くと、彼に本を渡していた。


「それは天龍教の教本だ。より詳しく知りたいのならそれを読むといい」


 昔、教会に行った時に話の流れで受け取ってしまった、無駄に分厚くて重い本。

 これまでずっと何らかの機会に捨てようと思っていた本が、まるで物が上から下に落ちるぐらいすんなりと彼の手に渡った。


 これは運命なのだろう。

 彼はきっと、この本に価値を見出すはずだ。



 ーーーーーーーーーー




 メルケルから受け取った本をパラパラとめくってみる。

 活字、活字、挿絵、活字、活字、活字、活字、活字、活字、活字、活字……


 これをマトモに読んだら頭が痛くなるだろう。

 とゆーか既に痛くなってきた。


「やっぱ要らね、返すわ」


 本を返されたメルケルは「お前、マジか……」とでも言いたそうに瞳孔を開いて僕を見ている。


 そもそも僕はあの時、質問に「いいえ」と答えてしまったんだ。

 それならばもう、うじうじと悩むのも馬鹿らしいだろう。


「そんなことよりメシだ! メシを食うぞ!」

「私、熊肉食べたい」




 それからも僕らは村の為にあくせくと働いた。




 ある日はムサシと共に、建築で使う木材を確保する為に樹木の伐採をしたり……


「ムサシは木ーを切るーヘイヘイホー、ヘイヘイホー」

「主様、なんですか、その歌」

「僕もあんまり知らないんだよねー」




 ある日はベルと釣りをしたり……


「見ろベル! 魚が釣れたぞ! 凄いだろ!」

「私も釣れたよ」


 ベルは、僕が持っている魚より何倍も大きい魚を見せてきた。


「これ、焼いたら美味しそうじゃない?」

「うん……そうだね」




 ある日はアントンの剣術指南を受けたり……


「おいおい、この程度でへばるなよ」

「ちょっと……剣が重くて……無理かも」

「ったく、まずは体力作りからだな」

「ウソ……まだやるの?」




 ある日はメルケルの魔法講座を受けたり……


「えーと、漂う魔力よ、我は龍に選ばれし者、そして……そして? あ、そう、魔を操る正当な魔導士なり。我が内なる……力と共に今、僕の、じゃなくて、我の言葉に従い、雷光に姿を変えよ……サンダー、ボルト」


 しかし魔法は発動しなかった。


「あれ? おかしいな」

「そんな適当な詠唱で、出来る訳ないだろ。もっとイメージを膨らませろ、深淵を見るんだ。さあ、もう一回」

「ちぇ、わかりましたー」




 ある日は……



「洞窟を発見した?」


 確認のために復唱して問いただす。


「そうだ、そして未発見の洞窟には秘宝がある可能性が高い」


 珍しくメルケルが興奮気味に話している。

 朝早くから叩き起こされて気分の悪い僕とは対照的だ。


「お前たち前に林に行っただろ? ヨームの話によると、あそこを真っ直ぐ歩くと洞窟があるらしい。こういう類は早い者勝ちだから、すぐに行かなければ」


 ヨームとは獣人達の脱走を指揮したリーダーの名前だ。

 獣人達には名前が無かったので、僕が全員に名付けしてやった。


「フーン、行ってらっしゃい」

「何言ってんだ? お前たちも来い」

「え?」


 言葉を反芻する暇も無く、一方的に決めさせられた。

 そして反論の余地無く、行動することになった。




 林を突き進むこと数時間、ようやくお目当ての洞窟が見つかった。


「横幅は二人分程か。念の為、俺とメルケルが先行する」

「そう言って秘宝を独占するつもりだな」

「フッ、安心しろ。特別に見るだけならタダにしてやる」


 アントンが軽口をたたきながら洞窟内にズカズカと入っていく。

 それを皮切りに、僕らも洞窟に歩を進めた。


 内部は一本道、今のところ迷う要素は無い。

 だが秘宝に近づいているという実感が全く湧かない。


 ふと、後ろを振り返ってみた。

 入口の光が小さくなっているので、絶対奥に進んでいるはずだ。


「こっちであってるんだ、よ……な」


 ……止まった。

 あの何とも形容しがたい状況を、あえて言葉で表すのなら、「止まった」という表現が適切だ。


 僕はそれを目撃した瞬間、動きが止まった。

 それと同時に時間すら止まった気がした。


 混沌とした空気を吸って、やけに大きい心臓の音を気にしないように、ゆっくり吐く。


 僕は今起きている事を理解しようと、散らかっている頭の中を整理した。

 ああ、いや、違う。

 散らかっているのは、現実から逃げたかったから。

 見たままを受け入れたらよかったんだ。


 そうだな、三行でまとめよう。


 アントンとメルケルが、

 首を切断されて、

 死んでいた。

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