第12話 勉強中に仮眠しようと思ったら朝になってた、的な
“人と魔物が共生する村”
メルケルは確かにそう言った。
だがそのことについて聞いても「馬車に乗るまで話せない」の一点張りだ。
「で? その村って何なのさ」
「だーかーらー馬車に乗ったら話すってさっきから言ってるだろ」
……とこのように何回聞いても教えてくれないのだ。
「まったく、何回聞いても同じことしか言わないんだから強情だよな」
「何十回も聞いてくる方がよっぽど強情だろ」
そんな問答を繰り返している間に、ギルドに着いてしまった。
相変わらず妙に高級そうで、それでいて成金っぽい存在感を放っている。
「お待たせいたしました。こちらがコウ様とムサシ様、それぞれのライセンスカードになります」
……?
このカード真っ白なんだけど。
「ご説明いたします。まずはそちらのライセンスカードに、利き手の親指と人差し指だけを触れさせてください」
「おお、なんか浮き出てきた」
「ライセンスカードは魔法によって内容が隠されています。これを解くには、カードの持ち主の指紋が必要となり、これで本人確認が出来るのです」
「でも、僕はこのカードに何の細工もしてませんけど」
「いいえ、今確かに細工をしましたよ。利き手の親指と人差し指を使って、ね」
なるほど、こうやって登録するのか。
「もしカードを紛失してしまったり、指が無くなったりした場合は、パーティーの方と同伴でお近くの冒険者組合までお越しください。それでは良き冒険者ライフを!」
「それじゃ、話してもらおうか」
お望みどうり馬車に乗ってやった。
もう逃げられないよ。
「そうだな、まず何故あの町を知っているかという点から……いや待て、やはりここはそもそも何故人と魔物が争う事になったか、から遡って話した方が良さそうだ」
「ええ、歴史の勉強かよ」
「飽きないように物語風に話すからよく聞け。えー、コホン」
*
これは遥か昔の、正確には千年前の話。
かつてこの大陸にはたった一つの巨大な国がありました。
その国には人間と魔物と、神様が仲良く住んでいました。
その国には今と比べ物にならない程、高度な文明がありました。
人間は知恵と勇気を使い、科学を発展させました。
魔物は力と才能を使い、魔法を発展させました。
神様は時々、神託を授けて下さりながらも、いつもニコニコと微笑みながら私たちの様子を見守っていました。
ある日誰かが言いました。
「科学と魔法、どちらが優れているのか」と。
この問いはあっという間に世界中で話題になりました。
深く議論する者たち、公正な競技で証明しようとする者たち、その途中で魔法を研究する人間や、科学を研究する魔物が多く現れました。
王様はこの問いを神様に投げかけました。
しかし神様は「貴方達で決めなさい」とだけ言い残し、天へ帰ってしまいました。
それからしばらくして、魔物が人間に戦争を仕掛けました。
その指示をしたのは魔法に絶対の信頼を持つ魔物の王、「魔王」でした。
魔族の侵攻により離れ離れになった人族、そこに新たな希望が現れます。
彼は言いました。
科学を極めた私と私の二十人の弟子が、必ず魔王を打ち倒す、と。
彼の言葉は本当でした。
多くの犠牲を払い、彼とその五人の弟子しか生きて帰ってきませんでしたが、彼は確かに魔王を打ち滅ぼしました。
彼は誓いました。
魔物はまだ完全に滅んではいない。
だが私は勇気ある者、「勇者」として死ぬその時まで魔物と戦い続ける。
彼は、持っていた剣を高く掲げました。
こうして、人間は魔物と戦う事になったのでした。
*
「……以上が私が覚えている範囲での過去の全てだ」
「はい、メルケル先生質問があります」
「なんだ」
「本当にそれだけですか? 人間と魔物が互いを敵視した理由は」
「……いいや、実はこれには後日談があってな、私も話していく内に段々とそっちの方が重要な内容が載っている気がしてきた」
「その後日談とは?」
「さあな、私は知らん」
僕はこの話を聞いてつい、なんだコイツ適当言ってんじゃないか、と思った。
「なにぶん、学生時代に聞きかじったことで、専門じゃないからな。私もそこまで詳しいことは知らん、だが今話したのはこの世界に実際に起きた事実だ」
「切りの悪い所で終わらせやがって」
ふと横を見ると、ベルが僕にもたれかかっていた。
さっきの物語を子守唄と勘違いして、寝てしまったらしい。
少し動きずらいが、悪い気はしない。
というか、アントンとムサシも昼寝してるし。
僕も少し寝るか。
起きた時にはもう真夜中だった。
……少し休憩するつもりが、ガチ睡眠を取ってしまったらしい。
「起きましたかな? 間もなく着きますぞ」
馬車の運転手……運転手って表現が正しいか分からないけど、とにかく手綱を握っている人が話しかけてきた。
「それにしても、本当に村長のお願いを聞き入れてくれるとは、何とお礼を申し上げたらいいか」
「私達は借りを返したいだけだ。礼は必要ない」
理解が追いつかない僕らに気付いたらしく、メルケルはこちらに向き直った。
「私とアントンは前に、とあるクエストの途中であの村の世話になってな、時折、文通をしているんだ」
「それでお願いってのは?」
「どうやら魔物を拾ったらしくてな、拾ったは良いが色々と不安なようで、相談を持ち掛けられた」
不安になるなら、そもそも拾うなよ……いや、僕が言えるセリフじゃないな。
「拾ったのではなく、受け入れたんですよ」
いきなり運転手が会話に混ざってきた。
シリアスな雰囲気で。
「村長は……奴隷の魔物共を受け入れたんですよ」