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第11話 魔法使い、コウ

 ここは冒険者組合の応接室。


 僕らは今からギルド支部長にクエストの報告をしようとしている。

 普通は報告書に事のあらましを書いたり、証拠として魔物の角だったりを渡すのだが、今回は色々と例外なため、支部長さんと面談する事になったとか。


「初めまして。私がこの冒険者組合の支部長、レオナード・マルシークだ」

「はあ、どうも」


 目の前に座る白髪の男がこちらを見る。

 なんというか、自分にも他人にも厳しそうなストイックな爺さんって感じだ。


「ではアントン、コモレの森に入ってから何があったか、説明してもらおう」

「そうだな、まず森に入ってから暫くは、集団との戦闘を避けながら調査をしていて……」


 当然ながら、ベルの事をそのまま話す訳にもいかない。

 という訳で、メルケルからの提案で以下の筋書きを話す事とした。


「一日目は特に何も無かったが、二日目にとある人型の魔物と戦ったんだ……実はそいつこそが異変究明の鍵だったんだけどな」

「ふむ、それが何者か話してもらおうか」

「その魔物は、人間の体に触角と羽を生やしたような姿をした『男』の魔物でな、俺たちはそいつと戦って、何とか勝った。だが奴は最後にこう言い残したんだ『我が倒されようとも、我が主であり、知の魔王様の幹部であられるルシ様が、オーク共を引き連れてお前たちを皆殺しにするであろう』ってな」

「ふむ」


 レオナード支部長は渋い表情のまま、お茶を飲んだ。

 せっかくなんで僕も一口。

 ……うっ、苦っ。


「それが事実だとすれば、最悪の場合戦争に繋がるかもしれんな。アントン、その魔物の触角や羽等は持って来たか?」

「いやあ、それがあいつ自爆しちまってよ」

「自爆だと?」

「ああ、証拠を残さない為か知らんが、ジェムを暴発させて自爆したんだ」

「ううむ」


 どうやら半信半疑といった様子。

 まあ、だろうねって感じだ。

 そりゃあ、証拠も無しのこんな報告を完全に納得させるのは、無理だろう。


「信用出来ないが、無視も出来ないな。この件は冒険者組合本部へ持っていき、対応を待つ事とする」

「それ、クエストクリアって事でいいか?」

「……まあ良いだろう。早速ライセンスの発行を行う。そうだな……三時間後ぐらいにまた来い」


 支部長は懐中時計を見ながらそう言った。

 そういや僕もああいう時計ずっと欲しかったんだよなあ。





「これからどうする?」


 三時間も暇になったので、なんとなく聞いてみた。


「まず次のクエストに備えて食料の買い込み、そしたらベルの安否確認をしつつ昼食を取って、恐らくまだ時間が余るから……」

「では、コウとムサシは念の為、ベルの所に先に行っておいてくれ。場所はわかるな」


 ベルには町から少し離れた洞穴に隠れてもらっている。

 一応、よく見ないと分からない仕掛けが施されているが、物好きな冒険者が来ないとも限らないからって事だろう。


 洞穴に入ると、ベルの歌声が聞こえてきた。

 昨日聞いたヒューといった音ではなく、まさしく歌手の歌のようだった。


「それなんて曲?」

「さあ、頭に浮かんだメロディーをそのまま口に出しただけ。……それより」


 彼女が何かを言う前に、彼女の胃袋がおねだりをしてきた。


「お腹空いたの?」

「肉」

「はいはい、ここにあるよ」


 持っている肉を全て渡すと、物凄い勢いで食べ始めた。

 まさかマジで全部食べる気か?

 そ、そんなわけない、だろ多分。


 二人を待っている間暇なので、さっき買った手書きの本でも読もう。

 本のタイトルは「魔法について」

 ページ数は百ページも無かったため、直ぐに読み終えたが、僕のような魔法の基礎も知らない人間にはとても参考になる事が記されていた。


「主様、何が何やらサッパリです」


 一緒に読み進めていたはずのムサシは、頭から湯気を出していた。

 ムサシにも魔法を覚えてもらいたいし、説明してやりますか。


「いいか、まず魔法には相手に害をなす事が目的の『攻撃魔法』回復や身体強化の『補助魔法』そして生活を豊かにする『文明魔法』という三つの分類に分けられる」

「はい、そこは理解出来ました」

「じゃあ属性の部分は理解できたか?」

「えっと、人によって生まれつき得意な魔法は才能によって違っていて、その魔法の才能を炎、水、土、光、魂の『属性』で分けるのが一般的である、ただし、才能の無い属性でも努力すれば使えるようになる、ですよね?」


 なんだ、わかってんじゃん。


「例えば、私は土属性の魔法の才能があるけど、努力の結果、魂属性の補助魔法を使って回復させることが出来る様になった、って感じかな」

「あのーベルさん、僕らの分の肉は?」

「え? 知らない」


 ……次からは慎重に量を調整して渡さないとな。


「主様、俺が分からないのは、その属性の章以降のページのことです」

「ああ、その先ね……正直僕もここら辺はよく分からん」

「でもさっきはスラスラと読んでいましたよね?」

「いや、流し見してただけ」


 後半に書かれていたものはハッキリ言って理解不能。

 もう一度ゆっくりと読んで見たが、やっぱり分からん。

 魔術の方程式、魔法式の解読方法、更には著者が研究している作りかけの魔法が書かれていたが、僕には怪文書にしか見えなかった。


「でも、この『家を作る文明魔法』って研究は面白そうだな」

「やめたほうがいいぞ」

「うわっ!」


 いきなり耳元で囁かれたので、ビックリした。


「メルケルか……脅かすなよ」

「呼びかけたが反応が無かったからな、というかさっきも言ったが、その魔法を研究するのはやめろ」

「なんで?」

「そこに書かれている魔法は、とても高度な魔法か、扱う上で危険な手順が入っているものばかりだ。少なくともお前には若すぎて無理だろうな」


 うーん、残念。


「昼飯を取ったら、ライセンスカードを受け取りに行くぞ」

「その後にムサシのスクロールを発行して貰う予定だよな」

「いや、どうやらその前に別の村に向かうらしい」


 アントンがメルケルの方向を見ながら言った。


「別の村ってどこ?」

「それはだな」


 それは?


「人と魔物が共生する村だ」


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