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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第三章:希望の星は、流れ墜ちていく

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092:最悪な味の思い出(side:リック・ハイゼン)

 コックピッド内が激しく揺れる。

 機体が悲鳴を上げているのではない。

 敵を見つけて、血に渇いた獣のように喜びを表している。

 悲鳴を上げているのは俺の体の方で、意思伝達ユニットを使っていないでこれほどの負荷だ。


 凄まじい速さで加速するファルコンⅢは、まさに暴れ馬だった。

 一瞬でも気を抜けば、体がぐちゃぐちゃになってしまう。

 そんな危険をはらみながら、俺は雷を睨みながら飛行した。


 これほどの加速力。これほどの攻撃性。

 それがあったとしても、まだ奴には届かない。

 以前よりも奴は自由に空を翔けていた。

 何処までも自由に何ものにも縛られずに飛んでいる奴に舌を鳴らす。


「自由を自慢したいのか。そんなもの、俺にはとっくに無いッ!!」


 操縦レバーを引いて上昇。

 奴から距離を取りながら、サブアームを起動させた。

 カタカタとコンソールを叩いて、自動迎撃モードに切り替える。

 これで後方に取りつかれても、奴を牽制する事が出来るだろう。


 素早くシステムの変更を済ませる。

 そうして、再び操縦レバーを握った。

 一気にペダルを踏んで加速すれば、ハイブースターから爆音が鳴る。

 殺人的な加速力であり、気を抜けば意識どころか魂が飛んでいってしまいそうだ。

 シートに体を押し付けられて、骨がきしむ音が耳に聞こえた。

 俺は強く歯を食いしばりながら、変則機動によって雷をかく乱する。

 奴の特注のライフルが火を噴いて、精密な射撃を披露してきた。


 一部の乱れも無い完璧な射撃であり、此方が一つでもミスをすれば命取りだ。

 ただでさえ、掠めただけで装甲を容易く溶断する特殊弾なのだ。

 気を抜くことは許されず、俺は警戒心を強めながら奴の背後を取ろうとした。


 奴は圧倒的な速度で飛行しながら、後ろを向いていた。

 バラバラと弾を放ちながら俺を牽制してくる。

 遅れてやって来た味方が攻撃を仕掛けるが、それすらも意に介さない。

 まるで、四方八方に目がついているように奴は軽々とした動きで飛んでくる弾丸を避けた。


 恐ろしい。奴は人間ではない。

 人間がアレほどの反応速度を持っている筈がない。

 一流を超える戦闘スキルに、神懸かり的な勘の鋭さ。

 敵にすればこれほど恐ろしい相手なのかと思いながら、俺は連続ブーストを実行した。


 一瞬にて三回のブーストを掛けた。

 それにより体からバキバキという音が響いた。

 俺はヘルメットの中でがふりと吐血した。

 咄嗟にシールド部分をずらせば視界は何とか保てた。

 ピピピという機械音が響いて、奴へのターゲティングを済ませる。

 ロックオンサイト越しに頭上から奴を見ながら、俺はニヤリと笑う。


 

 これで仕留める。

 これで終わらせる――俺は自由になる。

 

 

「堕ちろ――ッ!?」


 

 引き金を引いて弾を発射した。

 しかし、そのタイミングで奴はブーストを敢行した。

 あれだけの速度を出しながら、更に加速して見せたのだ。

 あんなことをすれば襲い来るGに人間が耐えられる筈がない。

 しかし、奴はひらりと回転しながら上空を舞う。

 まるで、蝶の羽ばたきのように軽やかで――俺はキレた。


「何者にも縛られず、欲しいものを何でも手に出来るお前が――俺の前に立つなッ!!!」


 限界を超えて加速する。

 ズキズキと体中が痛みを主張する。

 骨が軋んで今にも折れてしまいそうだ。

 吐きそうで、眠ってしまいそうで――唇を噛む。


 強く噛めば、血がにじんできた。

 口の中は最悪であり、良い眠気覚ましになってくれた。

 爆音を立てながらハイブースターが咆哮を上げて。

 俺の殺意に呼応する様に、ファルコンⅢは感度を増していった。


 こいつに勝てなければ、俺は自由になれない。

 こいつを殺さなければ、俺は終わる事が出来ない。

 こいつをのさばらせておくことは――俺には我慢ならない。


 上空へと上昇しながら、俺たちは一歩も引くことなく相手へと攻撃を仕掛ける。

 互いの弾丸が空中で爆ぜて、ガタガタと揺れ金属が擦れる音が響く中で。

 俺は遥か上空を見つめながら、奴に並ぼうとした。

 しかし、奴は俺よりもずっと速い。

 奴を縛るものは何も無く、重力でさえも奴を押さえつけられない。


 何処までも自由で、何処までも理不尽で。

 俺が欲しいものも、俺に無いものも手にした男を見ながら。

 俺はだらりと血を流しながら大きく笑った。


「お前の翼を奪う。お前が飛べないように、俺がケリをつける。もうどうなろうとも関係ない」


 呼吸を大きく乱しながら、俺は額から大粒の汗を流す。

 そうして、操縦レバーを強く握り、ゆっくりとコマンドを発した。


 

「意思伝達ユニット――接続ッ!!」

《コマンド認証。接続開始》


 シートに取り付けられたコネクターが首に刺された。

 かしゅりと音を立てて首に接続されて、脳内に一気に情報が流れ込んでくる。

 視界が一気に広がって、全てを網膜を通して見る事が出来た。

 胸の辺りが痛みを発しており、機体が受けたダメージが体にフィードバックされる。

 痛みが全て反映されるが、これで戦いやすくなった。


 俺はセンサーを発光させながら更に加速する。

 体全体で風を切り、奴に並び立つ。

 そうして銃口を向けながら、バラバラと弾をバラまいた。

 しかし、避けるだろうと思っていた。

 避ける前提での攻撃で――奴は機体を回転させて避けて見せた。


 それを確認する前に、サブアームが掴んだ武装から弾が放たれる。

 奴の回避行動を予測して、その進路上に弾をバラまいた。

 すると、奴から驚きの感情を感じた。

 動揺をしながら何とか回避しようとしたが、何発かが被弾した。


 肩と足に弾が被弾して、奴の装甲を弾いた。

 バチバチとスパークしながら、奴は俺を牽制する為に弾をバラまく。

 避け辛いと感じていたその弾の機動が読める。

 俺は自分の手足のように機体を動かして、全ての弾を紙一重で回避した。


 痛みが全て体にフィードバックされるが、機体を感覚で動かせる。

 より速く、より精密に、俺の意思が伝達されていく。

 鋼鉄の体が己の体のように感じながら、俺は仮初の自由に歓喜した。


「届く。お前の心臓に、手が届くぞッ!!」


 限界を超えて飛翔して、逃れようとする奴を追う。

 すると、奴はチラリと俺を見てきて僅かに速度を落とした。

 何をするつもりなのかと警戒して――奴の機体がズレた。


 その瞬間に、照り付ける太陽が俺の視界を塞いだ。

 感覚が強化されたせいで、目に映る光がより強く感じた。

 意思伝達ユニットと接続したことによって、眼を瞑る事も出来ない。

 俺は視界が激しく点滅するのを感じながら、姿を消した奴を追う。

 何処に行ったのかと気配を探して――そこだッ!!


 奴の殺気を感じた方向に弾を放つ。

 すると、俺の弾丸は精確に奴を穿つ。

 爆発音が響いて――いや、軽いッ!


 衝撃の軽さによってそれがダミーであると瞬時に気づく。

 その瞬間に後方から勢いよく弾が放たれた。

 一瞬の判断の遅れによって回避が間に合わ――ッ!!?


 緊急回避を試みたものの、奴の弾丸がブースターに直撃した。

 俺はハイブースタをすぐにパージした。

 すると、その直後にハイブースタが大きく爆ぜた。

 機体全体で衝撃を感じながら、それを利用して奴から距離を取る。

 破裂音と爆風、広がった黒煙によって奴の機体が隠れた。


 俺が煙から出れば、奴もほぼ同時に煙から出てきた。


「……くそ。新型の調整が間に合わなかった……違う。俺の腕が」


 こいつの限界はこんなものではない。

 俺の体が追い付いていなかった。

 俺が縛り付けられたのではない。

 俺がこいつを縛り付けてしまった。

 自由に羽ばたく事が出来れば、奴を堕とす事も出来た筈だ。


 調整が不完全だったとか、奴の情報が不足していたとか。

 そんな事は言い訳にしかならない。

 僅かな時間の間であっても、意思伝達ユニットを使ったのなら勝たなければならない。

 俺は負けた。奴との勝負に負けた。

 それは認める。認めるからこそ――こいつは此処で堕とす。


 俺を撃墜しようと奴が襲い掛かって来た。

 そのタイミングで、俺は機体に隠された切り札を発動させた。

 ファルコンⅢを中心に、強力な高強度電磁界を発生させる。

 空気がびりびりと振動して、激しい電流の波が周囲を襲う。

 近くに迫った雷は、その影響を諸に受けてしまう。

 奴のセンサーから光が消えて、ゆっくりと落ちていく。

 俺の機体も全てのシステムがシャットダウンされて、意思伝達ユニットから強制的に外された。


 目や口、耳から流血しながら俺はせせら笑う。


「地獄が見えるか? すぐに会えるぜ」


 地面へと降下していきながら、俺は意識を手放しかける。

 俺の仕事は終わり、後は他の部隊の奴らが片付ける。

 奴はお終いであり、この俺も終わりか……はぁ、嫌だな。


 死にたくないし、次も欲しくない。

 次の自分を作らせない為に戦ってこの様だ。

 俺はゆっくりとハイドから貰った煙草を胸ポケットから出す。

 揶揄う為に用意したのか、いらないと一度は断ったそれを俺に押し付けて。

 奴は戦いが終わった時に吸えばいいと俺に言っていた。


 奴の言葉に従うの癪だが、もうどうでもいい。

 ポケットから銀色のライターを取り出す。

 そうして、ライターで火をつけてゆっくりと煙を吸い込んで、ふぅっと吐き出した。


「はぁぁ、まっずいなぁ」


 久しぶりに吸う煙草の味は最悪で。

 死へと向かいながら吸ったそれを記憶して――体全体が押しつぶされた。

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