073:宴と共に
イスラールを倒し、レジスタンスは放送局からその報を流した。
国民の中には、これを良く思っていない奴もいるだろう。
しかし、オリアナはゆっくりと時間を掛けて自分の願いを体現していくと言った。
全員が納得できるような道を、彼女は作っていくと言ったのだ。
俺はそれを応援している。
レジスタンスの仲間や兵士たちは、宮殿内の広場にて酒盛りを開いていた。
彼らからしてみれば、これで大手を振って街を歩けるのだ。
仲間たちと会話をしてから、俺はゴウリキマルさんたちと合流する。
彼女の手にも酒が握られていて、俺は酔ってないかと心配した。
しかし、心配は無用であり、彼女は普通に話しかけてきた。
「支援班ともやり取りはしていたけど。これなら雷切を使わなくても良さそうだな」
「……アレを運んで来たんですか?」
「ん? そりゃそうだろ。何が起きるか分からねぇんだ。万全の態勢で挑まないとな」
「で、でもプロミネンスバスターは街中での使用は」
「あぁ? 阿保か。アレにはセーフティが掛かってんだぞ。街一つを消し飛ばす事ができるもんに、何の安全装置もつけない馬鹿はいねぇよ。精々が、メリウス一機を撃ち落せるくらいの威力に調整する様になってんだよ」
「……あぁなるほど。それならまぁ、安心ですかね」
彼女の言う街一つ消せると言うのは本当なのか。
もし本当なら恐ろしい威力であり、間違っても仲間には向けたくない。
誤射でもしようものなら大惨事であり、俺はよく考えて使おうと肝に銘じた。
「でも、通信機が使えないのにどうやって呼ぶんですか?」
「あ? それは心配ねぇよ。アレには搭乗者の意思を反映させる機能が付いている。すぐ近くに機体が待機しているんだったら、すぐに飛んでくるだろうさ。所謂、遠隔操作ってやつだ」
「ほぇ、それはすげぇや……因みにいくらほど掛かって――いっ!」
下世話な話をしようとすれば、ゴウリキマルさんにつま先を踏みつけられた。
俺は痛みで短いを悲鳴を上げて悶絶した。
ゴウリキマルさんは舌打ちをしながら「そんなこと聞くな」と言って去っていく。
彼女を怒らせてしまったようであり、後で謝らないといけないな。
俺は頬を掻きながら、小さくため息を零す。
「……マサムネ」
「ん? あぁオリアナか。どうしたんだ?」
見れば、オリアナが立っていた。
彼女は手にグラスを握っていた。
中身は入っているようであり、あまり飲んでいないように見えた。
無理も無い話だが、イスラールを倒すと言う目的を果たして。
彼女は明日から王女として仕事があるのだ。
国民全てが納得がいくように、彼女は動いていなかければならない。
気持ちが休まる時は、あまりないだろう……もしかして、それが不安なのか?
俺はオリアナに元気になってもらいたかった。
だからこそ、根拠のない言葉で彼女を励まそうとしてしまった。
しかし、彼女は腹を立てることも無く、くすりと笑う。
首を左右に振りながら、それを心配している訳ではないと彼女は言った。
ならば、何が心配なのかと俺は彼女に聞いた。
すると、彼女は口を閉ざしてから目線を落とす。
そうして、両手でグラスを持ちながらぼそりと呟いた。
「……此処でお前たちと別れる事になる。それが少し……いや、かなり寂しい事だと思っているんだ……私にとって、お前たちはもう家族のようなものだ。それがいなくなってしまうのは、私には辛い」
「……俺も寂しいさ……でもさ! 一生離れ離れになる訳じゃない。何時かさ、また会える日が来る。この世界が平和になって、戦う必要が無くなった時。その時は、皆でオリアナに会いに来るよ。お土産一杯持ってさ! だから」
「……分かっている。離れていても、心で繋がっている……友達、だからな」
儚げな笑みを浮かべながら、彼女は言った。
そうだ。離れていても心で繋がっている。
遠い異国の地で王となる彼女を、俺たちは何時でも思っている。
頑張って良い国を作って……俺たちも平和の為に戦おう。
何時終わるのかも分からない戦いだ。
終わりを迎えるまでに、あとどれほどの時間が掛かるのかも分からない。
仲間たちが生きている保障だって無いのだ。
でも、約束をしてしまったのなら意地でも生き残って見せる。
また皆で笑い合って、そして――レノアが走って来る。
「ままままマサムネさーん! たたた大変ですぅ!」
「な、何だよ急に? え、本当に何さ」
「とととトロイさんがレジスタンスの人たちと飲み比べを初めて、さ、酒樽を一気に呷って、それでそれで!」
「……あー、うん。もういいよ。分かったから……はぁ。ご、ごめん! ちょっと見てくるから!」
「……ふふ、あぁ行ってこい」
俺は頭痛を覚えながら、レノアについていく。
トロイの奴は何処に行っても通常運転で。
ある意味、良いムードメイカーであると思っていた。
足を動かしてついて行けば、人混みが出来ていた。
俺たちはそれを割って中へと入っていった。
「……何やってんだよ。おい」
「えぇぇぇ? あにがだぁぁぁ?」
「……マルサス君に写真を送るぞ」
「うえぇえぇぇぇ? はしうぅ? いいろぉうぇぇい」
顔を茹蛸のように真っ赤にしながら、阿保は他の阿保と肩を組んで笑っていた。
千鳥足でダンスをしている馬鹿に向かって端末を向ける。
そうして、パシャパシャと写真を撮ってからそれを保存した。
帰ったら絶対に見せてやると考えながら、俺は不敵な笑みを浮かべていた。
隣に立っているレノアは俺の表情を見て怯えていた。
何故、怯えているのか分からないけど。
俺はこの写真を絶対に彼の弟であるマルサス君に渡す。
素面に戻ってから泣いて懇願されようとも、絶対にだ。
「ふ、ふふふ、ふふふふふ」
「ひぃ。何で笑ってるんですかぁ」
ブルブルと震えるレノアを他所に俺は笑う。
そうして、グラスの中の酒を一気に呷った。
程よいアルコールが体中に駆け巡って、体がポカポカとする。
砂漠地帯の夜はよく冷えるが、今はそれがとても心地いい。
程よい酔いに身を任せながら、俺たちは夜が明けるまで騒いだ。
街の方からも声が聞こえてきて、盛り上がっていると分かる。
この国は大きな一歩を踏み出して、前へと進もうとしていた。
革命……というほでもないかもしれない。でも、確かな一歩だ。
幸せな空気に包まれながら、俺たちは笑い合った。
夜空に浮かぶ月は綺麗な三日月で――俺はたまらず笑みを深めた。




