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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第二章:何を成し、何を手に入れるか

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057:再会し、結ばれた誓い

 ――少しだけ、時間が経った。

 

 魔神を倒した俺たちは母艦に帰還した。

 仲間たちから喝さいを浴びながら帰って来て、俺たちは生きているのだとその時実感した。

 惜しみない拍手、俺たちに向けられた賞賛の声、そのどれもが心地よかった。


 しかし、喜べる事よりも悲しむことの方が多かった。


 生きて帰ってこられたのは半分もいなかった。

 生きてはいても、心が壊れてしまった人間もいる。

 スタッフの中には死んだ人間と恋仲になっていた人間もいた。

 喜びよりも失った悲しみの方が増さって、スタッフたちは胸を痛めていた。

 子供のように声を上げて皆が泣いて、一緒に戦った仲間を思い出していた。

 

 最初に提案したのは社長だった。

 消えていった戦友の魂を安心させる為に、皆は甲板へと上がる。

 そうして、水平線の彼方を見ながら、感謝と別れをした。

 

 散っていった仲間たちへと皆で黙とうを捧げる。

 俺たちの祈りが届いたのかは分からない。

 しかし、その日の天候は快晴であった。


 長く長く黙とうを捧げて――今は、皆それぞれの時間を満喫していた。


 魔神との戦いで、公国と帝国の争いもまた変化した。

 押されていた公国は息を吹き返して、今では帝国を追い詰める勢いで兵をかき集めている。

 帝国は頼みの綱である無人機を失って、兵士たちの士気も下がっているとヴォルフさんは言っていた。

 恐らくは、二ヶ月もすれば再び公国は前線を押し戻すだろう。

 戦争は続いているが、一般人が大勢死ぬ未来は回避できたかもしれない。


 帝国は力を弱めて、公国の中では派閥が生まれた。

 マクラーゲンさんのように平和的解決を望む穏健派。

 そして、帝国に家族を奪われ憎しみを募らせる強硬派。

 二つの派閥はこれから何度も対面で話し合って、それぞれが納得する道を見つけていく。

 どんなに敵を憎もうとも、彼らには心がある。


 マクラーゲンさんは生きていた。

 彼女は大勢の仲間を生かして、穏健派として戦っていくらしい。

 自らが望む平和を実現させる為に、彼女は前へと進むと俺に言った。

 

 全部の話が、伝令から聞いた話だ。

 結局、俺は彼女と会えていない。

 しかし、それでもいいのだ。彼女が生きていて平和の為に戦っていると知れただけで満足だ。

 

 甲板の上で柵に腕を掛けながら、夜空に上がった月を見る。

 綺麗な満月であり、優しい光が海を照らしていた。

 体全体で潮風を感じながら、海の匂いを嗅いでいた。

 ざあざあと聞こえる波の音が心地よく、俺は静かに笑う。


 

「……何笑ってんだよバカ」

「……バカって何ですか。俺にも名前はあるんですよ?」

「うるせぇ。ほら」


 聞きたくてたまらなかった女性の声が聞こえた。

 ゆっくりと振り返ってみれば、赤いパーカーを来たゴウリキマルさんが立っていた。

 その手には飾り気のないアルミ缶が握られている。

 彼女は二つある内の一つを俺へと投げ渡してきた。

 俺はそれを片手で受け取る。

 ひんやりと冷たいそれを握りながら、ゆっくりとプルタブを開いた。


 カシュッという良い音を響かせたそれを口に当てる。

 そうしてゆっくり飲んでみれば、フルーツの味がする甘い酒であった。

 俺はカクテルのような酒の味に喜んで、何処から持ってきたのかと彼女に聞く。


「さぁな。拾ったから知らねぇよ」

「ひ、拾ったんですか? え、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だろ。お前は死んでないから」

「……毒味させられたのかよ……はぁぁ、相変わらずですね」

「はは、殴るぞ?」


 相変わらずの鬼畜ぶりを讃えれば、彼女は空いている手で拳を握った。

 俺は苦笑いをしながら、冗談だと言っておいた。

 すると、彼女は「お前も変わらねぇな」と言ってくる。


 俺は柵に背を預けながら、彼女の言葉を喜んだ。

 彼女と離れている間に、俺は多くの事を経験した。

 戦って戦って、辛い事も嬉しい事も沢山経験したのだ。

 本当であれば少しくらいは変化している筈で。

 それでも、彼女の目には俺はいつも通りのマサムネに映っているようだった。


 変わったと言ってもらいたかった残念な気持ち。

 変わらずに俺を見てくれる彼女の言葉を喜ぶ気持ち。

 相反する二つの気持ちを抱えながら、俺はにへらと笑って酒を飲んだ。


 そんな俺を見つめるゴウリキマルさんはくすりと笑う。


「顔に出やすいんだよバカ」

「……ゴウリキマルさんには嘘がつけないんですよ」


 相棒の目は誤魔化せやしない。

 思えば、彼女との最初の出会いはあまり良いものでは無かったな。


 金さえ払えば何でも作ると言った彼女。

 彼女も速い機体なら何でも良いと言った俺の言葉に呆れていて。

 互いに不信感を抱きながらも、彼女は俺が住んでいた場所へとやって来た。


 彼女のアドバイスを聞いて、彼女に叱られて。

 彼女の護衛をして、彼女の悩みを聞いて。

 彼女の笑顔を見て、彼女から心配されて――俺自身の記憶には彼女との思い出が沢山あった。


 苦難を乗り越えて、少しづつ絆を深めていった。

 俺は彼女に信用されていないかもしれないと思っていたが。

 それは間違いであったと気が付いた。

 優しい彼女は最後まで俺の事を思っていてくれた。

 自らの事情に巻き込んで、戦争に関わるような事態へと発展して。

 彼女は俺を守る為に、紫電や雷切を与えてくれた。


 今なら分かる。

 彼女は、俺の事を心から信じてくれている。

 信じているからこそ、彼女は俺に機体を託してくれた。


 波の音だけが聞こえる。

 互いに何も喋ることなく黙っていた。

 居心地が悪い訳じゃない。この時間はとても心地が良い。

 何も言わなくても、傍に相棒がいるだけで心が安らぐ。


 チラリと彼女を見れば、頬が少しだけ高揚している。

 酒を飲んだからか。分からないものの、苦しそうには見えない。

 嬉しそうに笑っている彼女を見ているだけで俺は満たされた。


 俺はゆっくりと深呼吸をした。

 空気を吸って吐いてを繰り返す。

 こういう時がまた来た時に、俺は彼女に頼もうと思っていたことがあった。

 いざ頼もうとすれば妙に緊張する。

 俺は頬が熱を持つのを感じながら、彼女の方に体を向けた。


 真剣な顔で彼女を見れば、彼女は何かを考え始めた。

 暫く考えてから、彼女はハッとしたような顔になる。

 何故だかは分からないが、彼女も表情を強張らせていた。

 口をパクパクとさせながら、もにょもにょと何かを言っている。


「あ、あの、ですね」

「な、何だよ……ぅぅ」


 俺は姿勢を正しながら、彼女を見つめる。

 彼女は腕を摩りながら、上目遣いで俺を見つめてきた。

 俺は緊張しつつも、ゆっくりと手を差し出して頼みごとを言った。



「あ、握手してください!!」

「…………ぁ?」



 緊張しながらも、俺がしたかった事を言う事が出来た。

 俺は笑みを浮かべながら顔を上げる。

 すると、氷のように冷たい目でゴウリキマルさんが俺を見下ろしていた。

 俺は口を歪ませながら、何で怒っているのかと彼女に恐怖した。


「な、何で怒ってるんですか? な、何か俺悪い事いいました?」

「……っち」

「し、舌打ち!? 何で!?」


 苛立ちを露わにする彼女。

 俺は何でこうなるのかと慌てふためく。

 何とか彼女の機嫌を直そうと必死になって、缶を持ちながら両手を忙しなく動かした。


 そんな俺を見つめるゴウリキマルさんは――ぷっと吹き出す。


「ははは! 何で、そんなに焦ってるんだよ! あはは!」

「えぇぇ!? いや、ゴウリキマルさんがぁ!!」

「あぁ悪かったよ。悪かったから――ほら」


 彼女は目元を拭ってから、ゆっくりと手を差し出してきた。

 俺はそれをジッと見つめて、正気に戻ってから慌てて手を服で拭う。

 そうして、差し出された彼女の小さな手を握りしめた。


 ゴツゴツとしている訳じゃない。

 しかし、柔らかいというほどでもなかった。

 でも、彼女と握った手は温かくて――


「……顔に出てるぞ」

「……いいんですよ。これは」 


 隠す事じゃない。

 彼女と握った手は温かくて、俺の心は熱を持つ。

 心臓はどくどくと鼓動して、ずっとこのままでいたいと思えた。

 そんな俺の顔を見ながら、彼女は柔和な笑みを浮かべていた。


 

 優しくて柔らかい――彼女らしい笑みだ。


 

「ゴウリキマルさん。もう一ついいですか?」

「……言ってみな」


 

 彼女の言葉を受けて、俺は彼女の瞳を見つめる。

 そうして、彼女に改めてお願いをした。


「俺とバディーを組んでくれませんか?」

「……もうとっくに」

「――違います。今の俺と。本当の俺と、バディーを組んでくれませんか?」


 偽りの自分じゃない。

 この世界で生きている俺としてバディーを組んで欲しい。


 最後に彼女と話した時、彼女は俺が誰なのかと聞いてきた。

 今でも、自分が誰なのかは分からない。

 しかし、誰なのか分からなくても俺は俺だ。

 この世界で生きて、この世界で戦う俺は――本物だ。


 俺は彼女の瞳をジッと見つめた。

 彼女も俺の瞳をジッと見つめ返してきて。

 彼女はゆっくりと手を離してから、自らの手を動かした。


 

 彼女が行ったのはバディーの解消である。


 

 俺は彼女の行動を見つめていた。

 何をしようとも俺は彼女を否定しない。

 俺は彼女を信じているから――ゴウリキマルさんは笑う。


「……何でかな。現実であったお前のそっくりさん。不思議なんだけどさ。口を利く前から、心の何処かでお前じゃない気がしたんだ」

「……」

「顔が似ていても、お前とアイツは違う。アイツに無いものをお前は持ってる。きっとさ。私はお前が持つ何かに惹かれて――お前の傍にいたいと思ったんだろうな」


 彼女から送られてきたもの、それはバディーの申し込みであった。

 俺は大きく目を見開きながら、震える手でそれを承認しようとした。

 しかし、押したいのに押せない。手が震えて固まっていた。


 そんな俺を見ながら、彼女はぼりぼりと頭を描いた。

 大きくため息を吐きながら、彼女はぼそりと呟いた。


「……言葉で言っても通じないなら――これで伝わるか?」


 ゆっくりと彼女が近づいてきた。

 そうして、俺の体を抱きしめる。

 全身で彼女の温もりを感じる。

 彼女の甘い匂いが鼻に届いて、彼女の手の平の熱が背中に移る。


 彼女の行動に驚いた――しかし、手の強張りが抜けていく。


 震えていた指が止まって、今なら押せる気がした。

 俺はゆっくりと承認のボタンに触れる。

 すると、あの時のようにアッサリとバディーが成立した。


 俺は彼女と再びバディーを組むことが出来た。

 それが溜まらなく嬉しくて、俺は涙が出そうになった。


「ほら、泣くなよ。泣いたら、私にも移っちまうだろ」

「……そうですね。嬉しいから、笑う方が良いですよね」


 俺は笑った。

 心の底から笑いながら、そっと彼女の背に手を置いた。

 互いに体の熱を交換しながら、俺たちは黙った。

 刻々と時間だけが流れていく中で、俺たちは幸せに包まれていた。


 最高の贈り物、最高の時間――分かち合える喜び。


 時間が止まれば良いと思った。

 彼女もそう思っているのかと考えながら、俺は視線を前に向けた。


 

「――ぁ、やべ」

「……」


 

 視線を前に向ければ、建物の陰に隠れているアホが四人いた。

 団子のように顔を並べながら、俺たちの事を見ていた阿呆ども。

 トロイという阿保が最初に気が付いて逃げようとした。

 しかし、あんなに体が密着していれば逃げれる筈も無い。


 トロイが足を滑らせて、オッコとレノアとショーコさんが倒れる。

 静かだった甲板に悲鳴が響く。

 その瞬間に、幸せの中にいたゴウリキマルさんは現実へと戻ってきた。

 ゆっくりと背後へと視線を向けて――四人から悲鳴が聞こえた。


「……マサムネ、これ、持ってろ」

「……あの、何を」

「何をって? ふふふ、知りたいか?」

「……いえ、いいです。はい」


 ゆっくりと腰のポーチからスパナを取り出すゴウリキマルさん。

 彼女はニコニコと笑いながら、もがいている四人に近づいて行った。

 四人は俺に助けを求めてくるが、俺は両手で合掌して目を閉じた。


 数秒してから、四人の悲鳴が聞こえてきた。

 俺はそれをシャットダウンしてから、ゆっくりと海の向こうを見る。

 障害物の無い海は、何処までも続いていて――マクラーゲンさんも同じ景色を見ているのだろうか。


「……戦争は終わる。何時かは分からない。でも、何にでも終わりはあるから。平和な世界で、また話がしたいな」


 何処かにいる彼女へと誓う。

 平和を望んだ彼女の為に――俺はまだ、戦い続ける。

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