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053:魔神が降臨する

 接近して長刀を振り下ろしてくる二機のメリウス。

 その攻撃を回避しながら、ライフルの銃口を赤いメリウスに向ける。

 しかし、射線上に二機の内の片割れが割り込んできて、盾で防がれる。

 硬直状態が発生すれば、あの赤いメリウスは空間を歪めて俺を攻撃してきた。


 この二機のメリウスを仕留めれば簡単だろう。

 しかし、今の俺には罪の無い人間を殺す何て真似は出来ない。

 悪意や敵意の無い人間なら尚更であり、戦いの意思を感じなければ弾は撃てない。

 俺は舌を鳴らす。まるで自分が弱くなってしまったような感覚だ。

 だが、これは決して弱くなった訳じゃない。

 人として物事を判断できる力がついたからこそだ。


 戦場で迷う奴は二流だろうさ。

 でも、誰彼構わず殺すようになったらそれは機械と変わらない。

 ペダルを深く踏んで上昇する。

 敵は俺の後を付いてきて、あの赤いメリウスも執拗なまでに俺に攻撃を加えてきた。


《マサムネッ!!》

「オッコッ!! 皆の事を任せたッ!! 俺はこいつらを片付けるッ!!」


 笑みを深めながら、更にペダルを踏みこむ。

 出力を全開にして上へと飛んでいく。

 その間にも、俺の前方の空間が歪む未来が見えた。

 未来視を発動させれば、それを回避するように飛行した。


 じぐざぐに飛んでいき、敵の斬撃を回避する。

 くるりと振り返りながら、ライフルの弾と副砲を全力で放つ。

 バラバラと弾をバラまけば、付き人たちは盾を構えて防ぎに掛かる。


 俺はニヤリと笑う。

 バカでかい盾で前を防げばどうなるか――何も見えねぇよなッ!!


 一気にスラスターを逆噴射させた。

 そうして、二機の間をするりと抜ける。

 驚いたような声が聞こえたが無視して、全ての銃口を赤いメリウスへと向ける。


 

「獲ったッ!!」


 

 大将首を落とせる――俺はそう確信していた。


 

「――ッ!?」


 

 背後から嫌な気配がした。

 俺は咄嗟に回避行動を取ろうとして、がしりと何かに機体を掴まれた。

 俺の両腕を背後からがっしりと掴んで羽交い絞めにする何か。

 後部カメラで確認すれば、撒いたはずの護衛のメリウスの内の一機だった。

 何故、俺の行動を予測できたのか――


《良くやった。試作五号。上出来だ》

《……ありがとうございます。エイト様》

「やめろッ!! 死ぬつもりかッ!?」


 拘束を解こうともがく。

 しかし、相手の出力は俺より上のようであった。

 完全に固定された俺は無駄な抵抗をする事しか出来ない。


 エイトと呼ばれた男はくつくつと笑いながら、両手を俺へと向ける。

 未来視によって俺と俺を拘束している男がぐしゃぐしゃに潰される未来が見えた。

 命乞いではない。このままでは仲間に殺されるのだ。

 俺は必死になって男に声を掛けるが反応は無い。


《貴様は存在してはいけない命だ。故に――消えろ》

「くそ、くそ――ッ!!」


 明確な死が迫る事によって世界がスローモーションに見えた。


 ゆっくりと進んでいく時間の中で、俺の心臓は激しく鼓動している気がした。


 心臓は鳴っているのに芯から体が冷えていく感覚――あぁ、死だ。


 

 これまでかと観念して、俺は歯を食いしばり――何かが勢いよく通り過ぎていく。


 

 赤い閃光のように、凄まじい勢いで通り過ぎていった何か。

 スローモーションの世界で、赤いメリウスの手が半ばから斬り飛ばされたのが見えた。

 くるくると宙を舞うそれを見て、俺を拘束していた男が驚くのが分かった。

 その瞬間に拘束の力が緩んだのを確認して、俺は一気にスラスターを噴かせた。


《――ぅぐぅ!?》


 勢いよく噴かされたスラスターの熱を全身に浴びて、男は溜まらず手を離す。

 俺はその隙を見逃すことなく男の手から逃れた。

 そうして、荒い呼吸を鎮めながら助けてくれた何かへと目を向ける。

 

 俺は大きく目を見開きながら、その場に浮遊する二刀のブレードを持つ――告死天使を見て固まる。


 何故、奴がこの場にいるのか。

 いや、何で俺を助けるような真似をしたのか。

 疑問が湯水のように湧いてくるが、告死天使は何も喋らない。


《姿を見せたか。飼い犬め。そんなにこの男が大事か》

《……》

《……ふっ、まぁいい。お前が姿を見せたという事は……この男はやはり……くく》


 含みのある言い方であり、まるで俺と告死天使が繋がりがあるような言い方だ。

 俺はどういうことなのかと男に尋ねようとして――大きな音が響いた。


 大地が大きく揺れて、上空に大きな雲が出来上がっている。

 

 雷鳴を轟かせながら、一気に今いる場所は嵐に変わる。

 

 気象システムが乱れているのか。いや、そんな筈はない。

 

 仮想現実世界においてエラーなど存在しないのだ。

 

 ならば、こんなにも突然に天気が変わるのは――エイトが大きく笑う。


 

《はははは! 時間だ! お前たちが死ぬ時が来た! これで我々の計画は、大きく前進する!》

「何を、言ってるんだ!」

《言う必要は無い……いや、すぐに分かる。この地に再び――”魔神が降臨する”のだ》

「魔神、だと。それは――ッ!?」


 

 激しい雷鳴が轟きながら、雲が渦を巻く。

 そうして、巨大な渦の中心の空間が鏡のように割れた。

 アレは空間転移であり、アレほどの大きさのものならば――第一世代のメリウスかッ!?


 ゴロゴロと音を立てながら、雷を纏って姿を現す何か。

 黒光りする巨大な何かが徐々に姿を現していく。

 それを見た仲間たちは驚きの声を上げて、アレは何かと仲間に聞いていた。


 脚らしきものが大地を踏みしめて、地上に大きな亀裂が走る。

 二対の手を動かしながら、頭部らしきものに取り付けられた赤い単眼センサーが妖しく光る。

 漆黒の巨大な機体はエイトという男が言った通り――正しく魔神であった。


 地上に降臨した魔神は獣のような咆哮を上げた。

 空間が振動しており、ピリピリと空気が痛い。

 攻撃的な見た目に加えて、空気を振るわせる声は――全員の心に恐怖を植え付けた。


 混乱の中で何とか正気に戻る。

 すると、エイトと呼ばれた敵は既に戦場を離脱していた。

 俺が殺すことが目的ではなく。俺の足止めをするのが目的だったのか。

 奴を追いかけようにも、戦場に現れた謎のメリウスを放置する訳にもいかない。

 俺は舌を強く鳴らしてから、ディスプレイに映る黒いメリウスを睨みつけた。


 未だに頭は混乱しているが、俺は魔神と呼ばれたメリウスを見る。

 何をするのかと見ていれば、奴は二対の手を前方へと向けて――マズいッ!!


「――逃げろッ!!!!!」


 射線にいる人間に逃げるように指示する。

 しかし、急な俺の声に反応できる人間なんていない。

 奴の手の平から放たれたのは全てを焼き尽くすような高出力のレーザーで。

 極太のレーザーに触れた機体は一瞬で蒸発して、陸にいるメリウスたちも一瞬で消えてなくなった。


 遥か彼方の山を吹き飛ばし、地上の人間たちは姿を消す。

 悲鳴すら上げることを許されず。

 魔神から放たれた一撃は、大地に深々と大きな傷跡を残した。


 迸るような閃光と共に一瞬で全てを焼き払った巨大なメリウス。

 大地は赤く赤熱していて、真っすぐに大きな焼け跡が続いていた。

 その攻撃の後を見た瞬間に怖気が走り、俺は強く歯を食いしばる。

 味方から悲鳴が上がり、アレは何なんだと全員が狼狽えた。


 そんな中で、巨大なメリウスは前進を始める。

 重く太い足が持ち上がって、ゆっくりと大地を踏みしめた。

 ズシズシと音を立てながら、真っすぐに公国の首都を目指すそれ。

 巨人の一歩は大地を揺らし、その足音が味方に恐怖を植え付ける。

 奴が通った後には大きなクレーターが出来上がっていて、一歩ごとに大地が悲鳴を上げていた。

 

 これは危険だ。

 

 あのレーザーの威力は本物で、あんなのを首都で使えばどうなるか。

 俺は命の危機を感じながらも、味方へと指示を飛ばす。

 アレをこれ以上のさばらせていれば危険だ。

 首都を目指すのであれば、アレが到着する前に破壊するッ!!


「ありったけの火力で、アイツを潰すぞッ!!」

《了解ッ!!》


 仲間たちの声を聞きながら、俺はスラスターを噴かせて突撃した。

 その赤い単眼センサーはじろりと俺を見て、その腕を大きく振るう。

 巨大な質量兵器を前にしても、俺は笑みを崩さない。


 スラスターを全力で蒸かして上昇する。

 体が大きく凹んでいくような感覚を覚えながら、何とか上昇した。


 警報がけたたましく鳴り響き、奴の腕がすぐそこまで迫る。

 ぐんぐんとスピード上げて迫るそれに冷や汗を掻きながら、操縦桿を強く引っ張った。

 視界がスローモーションとなり、奴の腕のシルエットが大きくなっていく。

 それを笑みを浮かべながら見つめて――抜けた。


 奴の大きな腕が当たる寸での所で回避が間に合う。

 激しい突風が吹き、機体内の警報が激しく鳴り響く。

 機体の姿勢制御システムが働いて、何とか体勢を立て直した。

 頬から大粒の汗を掻きながらも、その腕の一撃を何とか回避して、奴の弱点を探る。


 腕の一振りが通り過ぎれば突風が巻き起こる。

 アレを喰らえば、一撃で機体はバラバラにされてしまうだろう。

 敵への恐怖を抱きながらも、全力で弾をバラまいてみるが、ダメージを与えている気はしない。


 分厚い装甲であり、精々が掠り傷程度だろう。

 俺一人の火力では足りない。

 仲間たちと協力しても、奴の装甲に穴を空けられるかどうかだ。

 

「考えろ、考えろ、考えろ――ッ!!」


 俺が考えようとする間に、敵の装甲が開き大きな機銃が姿を現わす。

 通常のメリウス対策の機銃だろうか。

 二つの砲塔を持つそれらが動き出して、交互に弾が放たれる。

 機銃というよりは連射能力のあるキャノン砲に近いか。

 俺は舌を鳴らして、それから放たれる弾を全力で回避した。


 突然に戦場に現れた魔神。

 そして、俺を助けてくれた告死天使。

 ちらりと奴を見れば、俺をジッと見つめるだけで動こうとしない。

 奴の狙いは何かと考えながらも、俺は目の前の巨人に果敢に戦いを挑んだ。

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