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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第二章:何を成し、何を手に入れるか

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052:戦場を蹂躙する悪魔たち

 明朝の05:00に作戦の決行が宣言された。

 俺たちは最低限の戦力を残して敵が集結している場所へと向かう。

 既に公国の防衛ラインは突破されており、第三防衛ラインまで後退させられていた。


 ヴォルフさんからの鼓舞を受けて、皆の士気は最高潮に高まっている。

 己が愛機に搭乗して、全員が飛行ユニットに乗っかり船から飛び立っていく。

 最後に見たのは甲板から残ったスタッフたちが俺たちに敬礼する姿で。

 俺たちは絶対に帰ってくると心の中で誓いながら、苛烈な戦場へと飛び立っていった。

 

 刻々と時間が過ぎていき、戦場の全貌が見えてくる。

 その光景を目にして皆が息を詰まらせるのが分かった。

 それもその筈だ、俺たちの眼前には――地獄が広がっていた。

 

 制空権を取られ、敵の陸上ユニットから集中砲火を浴びる公国の陸戦型メリウスたち。

 懸命に戦っている者の疲労が色濃く見て取れ、空で戦う彼らは背後からの敵の奇襲を受けて撃墜される。

 塹壕に隠れた歩兵隊は懸命に相手へと迫撃砲を飛ばすが無意味で。

 無数の死体が散らばる戦場は見ているだけで強い吐き気に襲われた。


 緑の大地は赤黒く塗り替えられて、あちらこちらで黒い煙が上がっている。

 ハッチを開けば、肉を焼いたような臭いやオイルの臭いが混じった悪臭が漂っているのだろう。

 センサーを起動して下を見れば、悲鳴を上げながら敵へと突撃する兵士たちが見えた。

 もう彼らには後に退くという選択肢は存在しない。

 此処を突破されれば、公国の首都は目前であり、彼らが帰るべき場所はなくなってしまうのだ。


 メリウスでも無い歩兵用の”強化外装(パワードスーツ)”を身に纏う彼ら。

 激しく銃身を動かしながら、眼前の敵へと弾丸を飛ばしている。

 悲鳴にも似た雄叫びを上げながら、突貫する彼らの悉くが――無残な肉片へと変わる。


 逆関節重装二脚の両側から延びるマシンガンと腕が一体となったメリウス。

 灰色のそれらの量産型は無慈悲に彼らへと銃弾を浴びせる。

 強化外装でメリウスの攻撃を耐えられるはずもなく。

 無謀な戦士たちは煙と共に消えていった。


 帝国の陸戦型メリウスが地上を支配して。

 空には無数の帝国軍のメリウスと無人機が飛んでいる。

 帝国と公国の兵力の比率は目算で7:3だろう。


 圧倒的なまでに兵力の不足した状況で耐えられているのは奇跡だ。

 間に合って良かったと思う反面、この状況をどうすれば好転させらるかを考える。

 敵の中に潜む名付き、もしくは、それ以上の何かを撃墜すればいいのか?

 

 地上からの砲撃を受け左右の空間で爆発が起きる。

 既に敵の陣地に侵入している。

 考えても仕方がない。やれることをやるまでだ。

 

 皆が皆、故郷を守る為に戦っている。

 崇高な理想も、誰にも負けない才能が無くても、彼らは戦っている。

 俺は目を鋭くさせながら、ゆっくりと息を吸い込む。

 そうして、仲間たちへの通信を繋ぐ。

 

《作戦ポイントに到着しました。ご武運を》

「――行くぞッ!!」

 

 飛行ユニットのAIから無機質な声を聞く。

 地上から飛んでくる砲撃を器用に避けながら、仲間たちが降下していった。

 撃ち落されそうになる味方もいたが、何とか降下していく。

 

 黒煙があちらこちらで上がり、緑豊かだった大地は血で汚されていた。

 悲惨な戦場を見て仲間たちから憎しみの声が上がる。

 俺は彼らを鼓舞しながら、飛行ユニットから飛び降りた。


 空を自由に飛び回る敵から襲われて、味方は迅速に行動する。

 幾ら疲労が溜まっていようとも体が勝手に反応するのだ。

 敵へと攻撃を開始しながら、それぞれが作戦目標へと攻撃を始めた。


 対空砲を減らし、陸上ユニットの迎撃に参加する第一班。

 相手の飛行ユニットを減らし、制空権の奪取を目指す第二班。

 そして、残されたチームはメカニックの乗った輸送機を護衛し彼らと共に破損したメリウスや設備の修理を行う。

 医療スタッフも同乗しており、負傷した兵士の治療にも当たる。

 

 一分一秒も余裕はない。

 全員が生きて船へと帰る為に最善の行動を心がけていた。

 俺は笑みを深めながら、銃口を向けて敵を討つ。


 両手にした突撃砲から火が上がり、猛然と弾が敵に襲い掛かる。

 相手のスラスターを潰し、メインカメラを破壊して無力化する。

 肩にジョイントさせた副砲も操作して、四方八方から襲い掛かる敵へと戦いを挑んだ。


 トロイは敵へと凄まじいスピードで突っ込み突破口を開く。

 彼の機体は頑丈であり、生半可な攻撃では怯まない。

 大口径のガトリングガンを乱射しながら、ガリガリと敵の装甲を削っていった。

 レノアも出力を弱めて範囲を広げたプラズマ砲で敵の動きを一時的に止めている。

 俺とオッコは二人で動きが鈍った敵を落としていった。


 弾が切れるまで、切れてもすぐに補給する。

 異空間に弾薬パックをは詰めてきた。

 二十四時間であろうとも戦い続けてやる。


 歯を食いしばりながら操縦桿を握りしめる。

 ガタガタとコックピッド内が揺れた。

 風を切り裂き、黒煙の中を突っ切って、仲間たちと共に戦った。


「ああああぁぁぁ!!!」


 意識が研ぎ澄まされていく。

 敵を落としていくごとに最善の一手が自然と出来ていた。

 切りかかってくる敵の攻撃を横へと弾き、弾丸を腹部に浴びせる。

 後ろから狙撃ししようとしてきた敵の動きを察知して、横へと回避した。

 そうして、振り返りざまに奴が移動しようとした方向を予測して撃つ。


 黒煙に包まれて落ちていく鉄くずたち。

 俺は休むことなく敵へと突っ込んでいった。


『――凄い』


 レノアの声が聞こえた。

 しかし、その声を無視して俺は引き金を引く。


 仲間への攻撃を未然に防ぎ、予知した敵を落とす。

 上空を通り過ぎようとした敵へと上昇して突っ込みライフルを乱射した。

 ガリガリと敵の装甲を削り、上からオイルが飛び散った。

 それを機体全体で受け止めてから、落ちてきた機体を弾き飛ばす。

 向かってきた敵はそれを避けようとして、単調な動きになったそれを俺は遠慮せず狙う。


 頭部がはじけ飛び、中心の装甲が弾けてコアが露出する。

 引き金を引き続けてコアを完全に砕けば、脳内に子供の悲鳴が響き渡った。


「……っ」


 俺は何と戦っているんだ。

 軍人でも無い、傭兵でも無い。

 相手は子供のデータを使った無人機だ。

 心何て無い筈の子供の悲鳴が、俺の心を激しく揺さぶった。


 そんな俺の一瞬の油断を見計らったかのように敵が突っ込んでくる。

 俺はハッとして銃口を向けようとして――オッコが敵をハチの巣にした。


 穴だらけになったそれがゆっくりと落ちていく。

 オッコは両手のショットライフルを二方向に構えながら俺の機体に背を向けた。


『どうしたよ。考え事は後だぜぇ』

「……すまん」

『貸しイチだな』


 オッコの冗談に笑みを浮かべる。

 そうして、再び乱戦状態へと突入した。

 落としても落としても、敵の数は減る事は無い。

 地上からの砲撃も警戒しながら、俺たちは無限にも思える敵と戦い続けた。


 バラバラと弾が飛んでいき、空薬莢が落ちていく。

 敵の残骸が飛び散って、仲間や敵の悲鳴が入り乱れる。

 大地を穢し、死体や鉄くずの山で自然が汚されていった。


 美しかった景色何て存在しない。

 何処までも続いた緑豊かな大地は、既に屍の山を築いていた。


 こんな景色何て見たくなかった。

 仮想現実で人が死んで誰かが不幸になるなんて想像していなかった。

 それはそうだ、俺はこの世界で生まれた命じゃない。

 現実に生きて存在しているかも怪しい存在だ。


 手足を捥がれて悲鳴を上げる兵士たち。

 泥と灰に塗れて呼吸をしなくなった死体。

 陸上ユニットの足に体を潰されて――



 もう、ウンザリだッ!!



 誰かが死んで不幸になる姿何て見たくない。

 無数の死体が転がり穢された大地何て見たくない。


 戦いは好きだ。でも、誰かを悲しませる戦いはもうたくさんだ。

 俺は好きなように生きて好きなように戦う。

 この世に存在する理不尽全てを俺が背負ってもいい。

 誰かを殺さなければいけないのなら、俺がその罪も背負ってやる。


 だから、だから――仲間たちを苦しませる戦いは、俺が終わらせるッ!!


 カッと目を見開けば、無数の青い線が目に見えた。

 その線をなぞるように移動して、赤い線を避けていく。

 そうして、白い線をなぞるように弾丸を撃ち込んだ。


 すると、俺が放った弾丸は敵へと吸い込まれていく。


 命を刈り取る中で、俺は確実に成長している。

 理不尽なまでの力を振るって、仲間たちに活路を開く。

 これが俺の力の正しい使い方なんだ。

 誰かを殺す為じゃない。誰かを活かす為に、俺は力を――ッ!!


 数秒後に自分の機体が爆発する未来が見えた。

 俺は方向転換して左へとスラスターを噴かせた。

 すると、俺がいた筈の空間がぐにゃりと歪む。

 まるで空気を圧縮しているような現象であり――俺は弾丸を右へと放つ。


 すると、黒煙から何かが飛び出した。

 ゆっくりと俺の前に姿を現した三機のメリウス。


 ワインレッドを基調とし黒いラインの入った機体。

 鋭角なフォルムの機体からは強い殺気を感じる。

 腕には無数の黄金のリングが付けられていて、ジャラジャラと音を立てている。


 左右で長刀と大盾を構える濃い緑色をしたメリウス。

 騎士の甲冑のような見た目のメリウスが中心の赤いメリウスを守っている。

 謎の赤い機体は青い十字のセンサーを光らせながら、ゆっくりと片手を俺へと向けてくる。


『――潰れろ』

「――ッ!?」


 緊急回避を実行して後ろへと後退する。

 すると、またしても目の前の空間がぐにゃりと歪む。

 本能でアレは危険だと判断した。

 当たれば即死であり、その場に留まるのは危険だ。


 赤い機体に乗る男は二機に指示を出す。

 彼らは命令を受けて動き出して、俺をその場に留めようとする。

 俺は戸惑った。何故、彼らは俺の足止めをしようとするのか。

 だってそうだろ。こんなにも接近して俺の足を止めれば――お前たちも巻き添えを喰らうぞッ!?


「おい! やめろ! 仲間を殺すのか!?」

『大義の為に、散るだけだ』

「大義だと――そんなものに仲間を巻き込むのかッ!!」

『問答に付き合う気はない。失せろ』


 挟み込むように飛行しながら、二機のメリウスは決死の覚悟で戦いを挑む。

 リミッターが外されているのか。その飛行の仕方も常軌を逸している。

 長刀で切りかかり、大盾で逃げ道を塞ぐ。

 

 あの赤いメリウスの強力な空間湾曲能力はほぼディレイが存在しない。

 隙を見せればすぐに発動する。

 オッコは俺から二機を引き剝がそうとするが、無人機が彼に襲い掛かる。

 チャンスがあっても、あの赤いメリウスがそれを邪魔するのだ。


 仲間たちからの援護は期待できない。

 レノアは敵の動きを封じていて、トロイは多くの敵を引き付けている。

 オッコも自分自身に向かってくる敵への対処で手一杯だ。


 俺がやるしかない。俺がこの三機を――撃つしかない。


 赤いメリウスなら討てる。

 だが、この二機からは敵意や悪意を感じない。

 無人機でも無い筈なのだ。

 声は聞こえないが、彼らが生きている人間だと直感で分かる。


 できるのか、俺に……悪意の無い人間を殺せるのか……っ。


 引き金を引く為のトリガーが重く感じる。

 前は簡単に出来たことを出来なくなっている。

 やると覚悟を決めた筈なのに、いざという時に迷いが生まれる。


 その迷いに付けこむように敵は襲い来る。

 俺は舌を鳴らしながら回避に専念した。

 ミスを犯さないように、判断を謝らないように――俺は頭を動かし続けた。

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