041:食堂での一時
作戦の達成報告を済ませて、俺たちは食堂に集まった。
それぞれの情報を共有する為であり、今は少なくても情報が欲しい。
とは言っても、他の作戦域に行ったチームの情報は隠されていて。
俺が知っているのはオッコのチームくらいだった。
オッコを探してから、食堂へと呼んできてくれたトロイ。
その顔を見ればかなり疲れていて。
俺はどうしたのかと奴に尋ねてみた。
すると、オッコの奴が持ち帰った戦利品を自分の部屋に運ぶのを手伝えと言ってきたようで。
それを運ぶのに苦労したとトロイは言っていた。
戦利品は何かと尋ねようとすれば、奴はふらりと食堂の人間に頼んでコーヒーを貰っていた。
俺はマイペースな奴だと思いつつ、俺たちも何か飲もうと話し合って。
オッコと共に職員から飲み物を受け取ってから、奥の方の席に座りなおした。
オッコを見れば、ホットコーヒーの中に砂糖を二杯とミルクを一杯垂らしている。
俺も適当にコーヒーの中にぶち込んでからかき混ぜた。
辺りに目を向ければ俺たち以外に人はおらず。
船内にある娯楽室にでも行ったのだろうと考えた。
職員の人から船内のマップを渡されていて、大体は把握していた。
自室以外で寛ぐのなら、食堂か娯楽室くらいだと思う。
後はシアタールームなんかもあったけど……まぁ兎に角、此処に人がいないのは好都合だ。
「……そういえばオッコ。お前のチームメンバーは何処だ?」
「んあ? アイツ等なら、今頃は医務室だろうさ」
「あ? 医務室って……負傷したのか?」
「いやいや、仮にもプロだぜ。怪我はしてねぇけど……ま、船酔いだな」
「……船酔いって、傭兵なのにですか?」
「傭兵も人間さぁ。酔う事だってあるだろうぉ……あちち」
レノアはジト目でオッコを見つめる。
嘘を言っているとでも思ったのだろうが、オッコは本当の事を言っているだけだろう。
コーヒーの熱さで舌を出しながら、冷ましている男。
何処か抜けてそうな奴だが、あの状況で戦利品も持ち帰ってくるだけの余裕を持っていた。
相当な腕であり、自信もかなり高いと俺は見た。
「オッコ。お前から見て、今回の任務をどう思う。俺はそれが知りたい」
「……ま、ただの破壊工作って訳じゃねぇだろうさ。此処だけの話だけどよ。俺は別の仕事を頼まれてたからな」
「別の仕事……それは戦利品と関係があるのか?」
「そそ……まぁ今は詳しくは言えないけど、俺はこう見えて前職は機械専門の分析官だったから」
にへらと笑いながら、オッコは自分の情報をバラした。
機械専門の分析官であって頼まれた仕事。
トロイに聞けば何を運んでいたか知れるだろうが、オッコがそんなに簡単に教えるとは思えない。
恐らくは、布か何かで覆った状態で運ばせたのだろう。
となると、機械系の何かをあの施設から持ち運んで、オッコはこれから調べるつもりなのか。
船内に潜む内通者の存在に、オッコが施設から持ち帰った何か。
進めば進むほど、俺が知らなければいけない謎が増えていく。
それとあの施設で出会った敵のメリウスは妙に感じた。
あの小型の機械たちは見たことも無く。
それらを統制していたであろうあのメリウスからは生気を感じなかった。
恐らくはあれも無人機なのだろうが……そうなってくると名付きは何処に行ったのか。
ヴォルフさんからの情報では名付きが潜んでいる可能性は十分にあると言っていた。
しかし、いざ行ってみれば無人機だけであり、そこが引っかかった。
俺はオッコに名付きと遭遇したかと尋ねれば、自分たちの方には敵はあまりいなかったと言っていた。
となると、敵の大部分が俺たちに集中していたことになる。
「……いや、そもそも無人機のコアとなっているのはこの世界の……それだけの数をどうやって」
「……なぁ、その、俺たちにはよく分かんねぇんだけどさ。その無人機ってのは大量に作られるんだろ?」
「ん。あぁ前線に配備される予定らしい。それがどうした?」
「いやさ。もしも前線に大量の無人機が配備されてさ。それを使った国が優勢になるとしようぜ。そしたらさ、自然と敵対関係にある国も無人機を欲しがる筈だろ。ゴースト・ラインって組織の狙いは分かんねぇんだけどさ。そんなことして何か得があるのか?」
「……単純な利益を欲しているのなら、彼らは戦争を長引かせたいんでしょうけど……あ、敵対組織の事や新人類に関してはヴォルフさんから聞いているので! わ、私は内通者じゃないですよ!」
「わ、分かってるよ……でも、そうだよな。一つの国家に肩入れするつもりなのか、何方の国にも無人機を与えて利益を得たいのか……新人類を目指す事と無人機を大量に前線に投入することは関係あるのかな」
考えてみれば可笑しな話だ。
新人類になる方法を模索していて、無人機を作って戦争に関わろうとしている。
不死教の思想は俺たち現世人のように死んでも復活できるような存在になろうとすることで。
新人類へ到達することが不死教の思想と合致しているのであれば、無人機を作って前線に送り込む必要はない。
単純な研究費用を賄う為であるのなら、ゴースト・ラインには強力な後ろ盾が存在する筈だ。
だからこそ、金銭面で困っているという可能性は真っ先に潰れる。
そもそも、そんなに大量の無人機を作る金があるのなら研究費に回せばいいだけで。
奴らは単純な利益ではなく、別の何かを得る為に戦争に参加しようとしている。
恐らくそれは、俺があの施設で見たイレギュラーのファイルに関係があるのだろう。
イレギュラーという存在が何かは未だに分からないが、重要な項目であることは確かで。
社長には既に事情は説明していて調べてもらっているが……未だに連絡が無いのはまだ分かっていないからか。
今後はU・Mの一員としてこの世界の為に戦うとは誓った。
それは、この世界で起きる事を一番近くで見られるからで。
俺たちが知りたがっている謎も分かるだろうと思ったからだ。
命の危険だってある。また捕まって拷問されるかもしれない。
しかし、それだけの危険を冒してでも俺は全てを知りたいと思ってしまった。
謎を謎のまま置いておくことは出来ない。
俺の心が全てを知れと告げている気がした。
そうすれば、俺の正体も分かる気がする。
俺が何者で、何の為に仮想現実世界にやって来て――こうして戦っているのか。
敵の正体は不明。敵の計画も分からない。
俺たちはまだスタートラインにすら立てていない。
ヴォルフさんやマイルス社長だって頑張っている。
だから、俺も少しでも真実に近づけるように努力しなければならない。
少しだけ冷えたコーヒーに口を付ける。
そうして、一気に飲み干してから俺は笑う。
「俺たちは仲間だ。何も分からねぇけどさ。仲間は信じても良い気がする。一緒に戦って、一緒に全てを知ろうぜ。全てが片付いた時には……そうだな……俺がお前たちにたらふく飯を奢ってやるよ!」
「お! 言ったなぁ! じゃ意地でも生きててやるよ」
「……俺は死ぬほど食うからよ。覚悟しておけよ、マサムネちゃん」
「た、食べ放題。甘いものが、口いっぱい……うへへ」
三者三様の反応であり、俺はまずったかと思ってしまう。
しかし、一度言ってしまった事を無しには出来ない。
俺は椅子から立ち上がりながら腕を捲って、俺に任せろと胸を叩く。
すると、トロイは両腕を頭上に掲げて喜んでいた。
レノアは目をキラキラと輝かせながら手を叩いていて。
オッコは頬杖をつきながら、にへらと笑っている。
このメンバーは信用できる。俺の心がそう言っている。
またこのメンバーで集まって情報を共有しよう。
他愛の無い会話でも構わない。何かしていなければ落ち着かないのだ。
俺は全てが終わって一緒に酒を飲んでいる仲間たちの姿を想像して――




