039:生産工場の機械蜘蛛
広域マップを展開しながら慎重に進んでいく。
作戦開始時刻までには間に合いそうであり、他のチームも配置についている頃だろう。
反対から攻めるオッコのチームと俺のチームで同時に攻撃を開始する段取りで。
荒野を進んでいけば、巨大な工場を確認できた。
無数の煙突から煙を上げながら、あそこで大量の無人機が作られていると思うとゾッとする。
岩陰に隠れながら、俺は索敵を開始して、目に見える範囲では敵がいないことを確認する。
随伴してきたトロイとレノアを見た。
トロイのファイアボルトは一度見たことがある。
しかし、レノアの機体を見るのはこれが初めてで。
濃い紫色の機体カラーに、足回りは太く手には大きなランチャーを装備している。
ランドセル型のツインブースターに加えて、膝にも小型のブースターを付けていて。
頭部は前面が青いセンサーであり、酸素マスクのようなものを口に装着していた。
レノアの話では水中でも作戦行動が可能らしく。
プラズマランチャーのバッテリーを腰に装着していた。
俺の武装は対艦プラズマブラスターから変更して、二丁のショットライフルに変更した。
自動装填式のショットライフルであり、装弾数は合計で60発であり、二丁で120発となる。
予備のマガジンを加えれば360発になるだろう。
ワッズ型の弾であり、射程距離が長く装甲の貫通性能も高い。
施設内などの狭い空間において最大威力を発揮することが可能な武器であり、この作戦にはこれだと思った。
時限爆弾はレノアに持たせており、俺とトロイは彼女を守らなければならない。
さて、そろそろ時間だが……もうネタバラシをしても良いだろう。
俺は二人に秘匿回線を繋いで言葉を発した。
「二人とも聞いてくれ。俺たちが今から侵入する経路は別にある」
「あ、あ? な、何だって」
「ヴォルフさんからシールドを一時的に無効化させる装置を貰った。俺たちはシールドの裂け目から侵入して、本来のポイントに爆弾を仕掛ける」
「え、え、え? な、何でそんな事に?」
「言っただろ。俺たちの中に内通者がいるかもしれないと。もしも作戦内容がバレていたら、敵は守りをもっと強固にするだろうさ。そうなったら、ただでさえ低い成功率が限りなくゼロになっちまう。だからこそ、ブラフの作戦をあの場で伝えて、本来の作戦内容は隊長役にだけ伝えたんだ。あっちのチームではオッコに伝えている筈だ」
「……急な作戦変更かよ。はぁ無茶苦茶だなぁ」
「全員、施設内のマップは頭に叩き込んでいるだろう。もしも迷うようなら、トロイは後からついてきてもいいぞ」
「いや、それは大丈夫だ。レノアを守るのは、俺が一番適任だからな」
「……でも、もしも私かトロイさん。もしくは、マサムネさん自体が内通者だったらどうしていたんですか」
「俺が内通者である可能性は低いだろうさ。敵と交戦して死にかけたからな。ヴォルフさんは演技ではないと判断して俺を隊長に命じた。オッコはオッコで、通信履歴を洗っても何も出てこなかった。いや、そもそも奴はこの島に来て外部と連絡を取ていなかったからな。だから俺たちは白で。可能性としたら、お前たちが此処で裏切るかもしれなかったけど……まぁ、そうなったら犠牲は俺たちだけで済む話だろ」
黙って聞いていたトロイは、大きくため息を吐く。
まるで人柱にされたような感覚でも覚えたのだろう。
しかし、俺は二人の事を何となく大丈夫だと思っていたので特段何も思わない。
念の為に、司令部との通信を切ってから二人には話しかけたが……まぁ、怪しいのは他にもいる。
疑心暗鬼とまでは言わないが、怪しい動きをしていた人間は何人かいた。
そいつらを警戒しつつ、俺とオッコは互いに黙っていて。
こうして無事に作戦エリアに入ってから、ようやく本来の仕事に取り掛かれるという事だ。
時刻を見れば始まりであり、俺は最後にトロイとレノアに本来のルートを表示させた。
迷えばそれに従うように指示して、俺は秘匿回線を切断した。
そうして、本来の回線を繋ぎながら俺たちはスラスターを噴かして突入する。
ショットライフルを一つ肩にマウントさせて。
異空間からシールドジャマ―を取り出して空中に投げる。
すると、シールドに触れたそれから濃い霧が発生した。
俺は無言でその中に突っ込んで――シールドを抜けた。
二人も付いてきているようであり、俺はショットライフルを掴んでからシステムを索敵に切り替えた。
此処からはぶっつけ本番であり、慎重に進んでいかなければならない。
ショットライフルを連射して、比較的薄い壁に穴を開けた。
そこから三人で施設内に侵入して、マップのガイドを見ながら進んでいった。
スラスターを噴かせながら、センサーに引っかからないように進んでいく。
施設内部に侵入すれば、周りでガシャガシャと音が聞こえてきて。
ロボットアームが忙しなく動きながら、部品の検品や組み立てを行っていた。
生産体制が整っており、ゴースト・ラインには強力な後ろ盾が存在するのだろう。
資金面で援助をしている人間は誰なのか……進んでいこう。
狭い通路を進みながら、俺たちは障害物を避けていく。
案内通りに進んでいけば、ポイントへは無事に到着した。
少しだけ広くなった空間には大きな支柱が建てられていて。
俺はそこに爆弾を設置する様にレノアに指示した。
レノアは返事をしながら腕を動かして爆弾を設置し始めた。
後はもう一つのポイントに爆弾を設置して。
ほぼ同時に作動させれば、この巨大な生産工場は機能を完全に停止させられる。
通信を繋ぎながら、俺はオッコのチームからの連絡を待つ。
地面に着地しながら、周りを警戒して――来た。
設置完了の暗号通信が流れて。
俺はすぐさまレノアに指示をした。
レノアは爆弾を起動して、タイマーが動き出す。
俺たちは速やかにこの場を離れなければならない。
薄暗い施設内を見渡しながら、スラスターを噴かせて――何かを感じた。
トロイに指示をしようとすれば、アイツも何かを感じ取って機体を動かしていた。
レノアの前に立ち防御の姿勢を取れば、通路の奥から何かが飛んできた。
赤熱する砲弾を受けて、ファイアボルトは激しくスパークしていた。
俺は大丈夫かと奴に聞けば、見かけよりも損害は軽微だと伝えられた。
《――侵入者を発見。排除します》
蜘蛛のような見た目をした六脚の機体が現れる。
小さなそれらがカサカサと動きながら接近してきて。
奥の方からぬるりと、四脚の20メートル級のメリウスが現れた。
そいつが指を此方に向けてくれば、蜘蛛たちから延びる砲身が俺たちに向けられて――一斉に砲弾が放たれた。
「回避――ッ!!」
スラスターを動かして建物の陰に隠れる。
そうして攻撃をやり過ごして、二人にすぐに此処を離れろと伝えた。
お前はどうするのかと言われて――ニヤリと笑う。
「決まってるだろ――戦うんだよッ!!」
小型の蜘蛛たちを操る親玉。
ダメージを負った状態のトロイの機体では最大まで出力を出せない。
蜘蛛たちに追いつかれれば最期であり、俺は二人が安全圏まで逃れるまで時間を稼ごうとした。
トロイは無茶だと言うが、これしか方法は無い。
異空間からシールドジャマ―を取り出して、それをレノアに投げる。
受け取ったレノアは無言で踵を返して移動を始めた。
俺はショットライフルで飛び掛かってくる蜘蛛を撃ち落しながら、トロイたちとは別の道を進んだ。
《クソッ!! 必ず帰って来いよッ!!》
「あぁ!!」
囮になった俺を追いかけてくる敵たち。
簡単な任務である筈もなく。恐怖の鬼ごっこが始まった。
捕まれば物量で動きを封じられるだろう。
狭い通路で障害物を避けながら、何とか外へと出なければならない。
タイムリミットも存在して、心臓がかつてないほど鼓動している。
俺はギリギリの緊張感の中で笑って、勢いよくショットライフルの弾を放った。




