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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
最終章:世界の中心で

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285:夜間の攻防(side:ツバキ)

 照明の類は、まだ復旧していない。

 もうすぐ復旧するだとうと思うけど、それにしては遅い。

 恐らくは、他のトラブルがあって復旧が遅れているのだろう。

 それが何かは分からないけど、今は気にしていられない。


 嬉しい誤算とだけ思いながら。

 私たちは必死になって足を動かし続けた。

 

 階段を駆け上がる。

 カツカツと靴の音が反響して。

 男女の荒い吐息を音が鮮明に聞こえて来た。

 それを聞く私たちは心臓をバクバクと激しく鼓動させながら走って行った。


 上へ上へと昇る。

 途中、階段を上がるのを止めて扉を開けてフロアに侵入し。

 そこからダストボックスなどを使って上に行った。

 階段ばかりを使っていれば、何れは警備兵に発見されてしまう。

 それを避ける為に、私たちはマザーの割り出した安全なルートを使って進んでいく。

 なるべく、警備兵に見つからないように慎重に進んでいかなければならない。

 マザーのサポートもあり、常に最適なルートを選択出来ていた。

 今のところは問題はない。問題なのはこの先で……。


 此処のスタッフしか知らない非常用の階段を上がっていく。

 そうして、ゆっくりと足を止めてから呼吸を整えた。

 二人を見れば滝のような汗を掻いていて。

 もう少しである事を伝えながら、私はゆっくりとノブに手を掛けた。


 ロックは掛けられていない。

 電子ロックは外れた状態で。

 またしても、私は不気味な違和感を抱いていた。


 此処に来るまでにロックがあるであろう箇所は幾つもあった。

 それなのに、鍵が解除された状態で。

 誰がそんな事をするというのか。


 いや、他にも不審な点は幾つかある……人がいないのだ。


 警備兵は勿論、在中している。

 しかし、此処に勤務している筈の職員がいない。

 此処に来るまでに鉢合わせする可能性は十分にあった。

 それでも、人は誰一人としておらず。

 逃げている人にすら遭遇する事は無かった……それは何故?

 

 此処は国の重要施設であり、建物全体のロックを解除するのならば。

 上級権限を持つ人間しか不可能な筈だった。

 誰か協力者がいたのなら、こういう事も考えなくて済んだ。

 でも、残念ながら私たちが此処に来るまでに時間は無かった。


 協力者を作る事も出来なければ、もっと考えて計画を練る事も出来なかった。

 リスクを承知の上で強引に侵入する事を決意して。

 場合によっては、此処のスタッフを半ば強引に協力者にするつもりだった。

 そんな中で、こうもロックが解除されて人もいないのであれば誰であれ怪しむだろう。


 こんな事が出来るのは誰か。

 此処にいるスタッフたちを意図的に離れさせる事が出来る存在は。

 そう考えれば、一人しか該当する存在はいない……でも、そうなら……。


 あまり考えたくはない。

 もしも、此処のロックを”彼女”が外したのであれば。

 職員たちを”言葉以外”の方法で誘導したのであれば。

 私が付けた制限を彼女は……いや、いい。


 今は、それを考察するだけの余裕はない。

 私は頭を左右に振ってから、気持ちを切り替えてゆっくりと扉を開けた。


 此処が目的の二十八階であり、最も警戒すべきエリアだった。

 音を立てないように扉を開けて、周りの様子を伺う。

 すると、奥の方に数名の武装した警備兵が立っていた。

 人数は三人であり、ライフルで武装した上に特殊装備を纏っていた。

 アレでは鈍器もスタンガンも無力で。

 この中に銃を撃てる人間が一人もいない事も、彼らとの戦力差を明確にさせていた。


 どうする。どうすれば、彼らの気を……何?


 警備兵が誰かと通信を取っている。

 様子を伺っていれば、そこで見張りをしていた彼らは動き始めて。

 エレベーターの方へと駆けていった。


 私たちが此処に来ると考えて待ち伏せに……いや、それならもう済んでいる筈。


 エレベーターを動かした事は既にバレているでしょう。

 そうして、中に誰も入っていないそれがこのフロアに既に到着している。

 誰も乗っていなかったからこそ、最初は不審に思う筈だ。

 しかし、此処に誰も来ていないのであれば、システムが誤作動を起こしたと考えられなくも無い。

 バレないように細心の注意は払っていて、足も付いていない筈だった。


 つまり、彼らはこのエリアから離れて――別の場所に向かった?


 それしか考えられない。

 別の何処かで、何かが起こっている。

 恐らくは、此処よりも危険な状態で。

 残りの警備兵を総動員しなければならないような事になっていて……まさか。


 

 修二君が……?


 

 可能性はある。

 彼は倉庫へと走って行って、何かをしようとしていた。

 陽動となるような派手な行動で。

 彼が何をしようとしているのかは見当もつかない。


 でも、きっと無茶な事を……いいえ、今は。


 気にしていても何も出来ない。

 私は心の中で、修二君の無事を祈りながら誰もいなくなったフロアに侵入した。

 フロアへと入って耳を澄ませば、音が聞こえて来る。

 火薬の爆ぜる音であり、何処か遠くから鳴っているような気がした。

 心なしか床も揺れていて、巨大な何かが動いているような感じだ。


 揺れを注意しながら、奥へと進んでいく。

 端末を確認しながら、進んでいって……これね。


 目標のエリアに入る為の扉を発見した。

 この奥が例の装置へと繋がっている。

 それを確信して、私はゆっくりと扉に触れた。

 すると、やはりロックは解除されている。


 横へと扉がスライドしていって。

 中へと入れば、少しだけ開けた空間に繋がっていた。

 清潔感のあるエリアには、壁には大きなガラスが張られていて。

 観葉植物も適度に配置されていた。

 高級そうな大きな黒いソファーも配置されていて。

 此処は私たちが入って来たフロントのようだと感じた。


 中へと全員が入れば、扉は自動でロックが掛けられる。

 ライアンは悲鳴を上げていたけど……やっぱり、貴方なのね。

 

 私は小さく笑いながら、ゆっくりと一点に視線を向ける。

 ただフロントと違いがあるとすれば一つだけだ。

 それは、目の前に巨大な金庫のような扉が設置されている事だ。


 巨大な鋼鉄の扉であり、何か重要な物を守る為にそれがあると私たちに知らしめている。

 この奥に、アレが眠っているのだ。

 それを確信して、私は扉の前に立つ。

 しかし、反応は無い……流石に、これは自分でやれって事ね。


 恐らくは、此処のシステムからは切り離されている。

 外部からのハッキングも不可能であり、此処に侵入して直接コードを繋げなければハッキングは出来ない。

 面倒だけど、侵入者に対する防壁としては頼りになる。

 現に此処まですんなり入れた私たちの足を止める事が出来ているから。


「カーラ。荷物を持っていて……多分、時間が掛かると思うわ」

「分かりました……ライアン! その間に、バリケードを作るわよ!」

「お、おう!」


 リュックからパソコンを取り出す。

 そうして、後の荷物を彼女に渡して。

 ライアンとカーラがバリケードを作っている間に、私は作業に取り掛かる。


 ポケットに入れた工具セットを取り出して。

 扉の横に設置されたパネルを強引に開く。

 そうして、中の配線をいじりながら繋げられるコネクターを取り出した。

 そうして、そこにパソコンから伸ばしたコードを接続する。


 パソコンは自動的に電源が入り、すぐに仕事に取り掛かり始めた。

 先ずは、セキュリティの解析からで……思ったより、骨が折れそうだ。


 セキュリティの壁は分厚い。

 何重にも設置されたウォール一つ一つが厄介で。

 時間を掛けていれば、自動的にアクセスを遮断されてしまう機能まである。

 一つのミスも許されず、時間制限まであるとんでも仕様で。

 国の本気度が伺えるようなシステムに、私は笑う事しか出来なかった。


「……ごめん。二十分はかかりそう」

「……何とかしてくださいよ」


 カーラの言葉を聞きながら、努力する事は伝えた。

 二十分は掛け過ぎであり、最短でも十五分で終わらせるつもりだ。


 システムの解析が完了して。

 私は肩を回してから、両手をキーボードに置く。

 そうして、流れ込んでくる膨大な情報の波を頭の中で整理する。

 最適解を常にシステムに提示しながら、私は慣れた手つきでキーボードを叩いていった。


 カチャカチャとキーボードの音が鳴り響く中で。

 私は周りの音が大きくなっていくのを感じた。

 段々と此方に近づいているような音で。

 揺れも大きくなっており、恐怖心が刺激される様だった。

 私は暗視ゴーグルを解除してから、それを脱ぎ捨てるように放り投げた。

 パソコンだけの灯りを見ながら、カタカタと入力していく。

 すると、次第に音は強くなっていって――強い光が発せられた。


 バラバラと音が鳴り響き、窓の外から放たれるサーチライト。

 二人が悲鳴を上げていて、それだけで何が来たのか見ずとも理解した――ヘリだ。


 近くの軍事施設からの緊急出動だろう。

 軍事用のヘリという事は、勿論、銃火器の類も装備している。

 狙いをつけられている事を意識しながらも。

 私はパソコンだけを見つめて情報を入力していった。


 

「主任!」

「あああわわわわ!」


 

 

 まだ、まだだ、まだなのに――っ!


 

 

 敵に完全にマークされている中で。

 

 私は心臓の鼓動を早めていった。

 

 殺される。撃たれる。

 

 此処まで大きな事件を起こしたのだ。

 

 撃たれたとしても文句は言えない。

 

 

 

 此処までなのか。そう思って――何かを弾く音が聞こえた。


 

 

 窓から聞こえた音で。

 一瞬だけ、ヘリの装甲から火花が散ったような光が見えた。

 私は何が起きたのかと二人に聞く。

 すると、カーラが「誰かが下からヘリに攻撃を!」と言う。


 ヘリは私たちをマークするのを中断した。

 そうして、下へと降下していってしまった。

 強い光が消えて、私の鼓動も少しだけ収まっていった。

 

 

 しかし、まだ安心は出来ない。

 恐らく、ヘリに攻撃を仕掛けたのは……修二君ね。


 

 彼が今している事は理解した。

 強化外装に乗って戦っているのだろう。

 彼が強化外装に乗れるなんて知らなかったけど……無事に帰れたら聞かせてもらいましょう。


 彼の過去がどんなものであれ。

 教えてくれる気があるのなら知りたい。

 彼のバックストーリーを知れる事を楽しみに思いながら。

 私は必死になってパソコンを使ってのロックの解除に挑む。


「ライアン! カーラ! 多分だけど、出ていった警備兵たちも此処に来るよ! 備えて!」

「分かりました」

「えぇぇ!! そ、そんなぁ!」


 覚悟を決めたカーラと震えるライアン。

 そうして、喧嘩をしている二人を感じながら。

 私は緊張感を少しだけ和らげる。


 待ってて、マサムネ……お母さんも頑張るよ。

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