表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
最終章:世界の中心で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

283/302

282:旅立ちの日に(side:ツバキ)

 私はようやく、あの子たちにとっての本当の母親になれる気がする。


 未来であったかもしれない出来事。

 それを知って、私は深く絶望した。

 他の誰かであったのなら、まだ理解できた。

 しかし、あの子たちを産みだした私が、あの子たちを捨てたのだ。


 許せないし、許して欲しいと願う事も出来ない。

 でも、マサムネは私を許してくれた。

 許してくれて、私を母親であるとまだ思ってくれていて……本当に嬉しかった。


 これからも、これから先も。

 私はあの子たちの母親でいたい。

 血のつながりが無くても、そんな事はどうでもいい。

 私はあの子たちが愛おしくて、ずっと一緒にいたいと思っている。


 だから今日も、あの子たちを母親として起こしに行く。

 

 コツコツと廊下を歩いて行きながら笑みを浮かべる。

 あの子たちの前で泣くのはあれっきりにしたい。

 あの子たちの前では良き母親でいたい。

 絶対に泣いている姿何て見せたくないのだ。

 子供に心配を掛けるのは、誰であれ嫌なものだろう。

 優しいあの子たちが、私を想ってくれているのは十分理解している。

 だからこそ、あの子たちには私だけではなく、多くの事に目を向けていて欲しかった。


 これから先で、あの子たちには多くの出会いが待っている。

 人や動物。未知の体験に、見たことも無い景色。

 あらゆる出会いを経験していって、あの子たちは大人になっていく……まぁ、マサムネはもう立派な大人なのかもしれないけどね。


 あの子は沢山経験してきた。

 辛い事も楽しい事も。

 私の知らない世界で、多くの出会いがあった。


 でも、それでも……あの子は私にとっては子供に変わりはない。


 何時までも甘やかすのは良くない事は分かっている。

 それでも、マサムネやアルタイルにはずっと幸せでいて欲しい。

 何時の日か、私の手から離れていく時が来るまで。

 ずっと私はあの子たちに……声が聞こえる。


 アルタイルの声であり、泣いているような声だった。

 胸騒ぎがする。ざわざわと心がざわめいていて。

 私は足早に部屋の扉の前に立って扉をノックした。


「アルタイル? どうして泣いてるの? 入るわよ」


 返事も待たずに扉を開けて中へと入る。

 すると、アルタイルは床に蹲って泣いていた。


 私は慌てて彼女に近寄って肩を揺する。

 すると、アルタイルはゆっくりと顔を上げて私に抱き着いて来た。

 アルタイルの頭を撫でながら、私はふと気づいて周りを見た。


 

 いない。あの子が……マサムネがいない。


 何処に行ったの。隠れているだけなの……いや、違う。


 

 アルタイルは私の胸の中で泣いている。

 私はそれだけで、マサムネが自らの意思で此処を離れたことを理解した。

 置手紙も何も無い。いや、それはある筈だ。

 あの子が何の連絡も無しに消える事は絶対に無い。

 心配を掛けさせたくないと常日頃から思っているような子だ……皆の所に戻ろう。


 私はアルタイルの手を引いて、皆の所に行こうと言った。

 すると、アルタイルは泣くのを止めて静かに頷いた。

 彼女の手を優しく引きながら、私は皆のいる事務室へと向かった。


 マサムネは、何処へ行ったのか。

 いや、何故、唐突にこの場所からいなくなったのか。


 不安だった。怖くて溜まらない。

 大切な家族が消えて、何も思わない筈がない。

 今すぐにでも部屋を飛び出して、あの子を探しに行きたかった。

 でも、そうすれば誰がアルタイルを守ってあげられるのか。


 先ずは、この状況を皆に報告しなければならない。

 そうして、何かあの子からのメッセージが無いか確認しなければ。

 無策で探し回ってもあの子が見つかる可能性は低い。

 状況を整理して、皆で手分けして……っ。


「ツバキ?」

「……ごめんね。急ぎましょう」


 足が止まりそうになった私。

 アルタイルは心配して私に声を掛けてくれた。

 私は何をしているのか。

 私よりも傍にいたこの子の方が、不安で堪らないのに。

 私まで浮かない顔をしたらダメだ。


 笑みを浮かべながら、アルタイルと共に事務室へと向かう。

 廊下を歩いて行って、角を曲がって。

 そうして、事務室の前につけば……何やら慌ただしかった。


 外にいても声が聞こえてくる。

 慌てた様子であり、私は扉を開けて中へと入った。

 すると、目の下にクマを作った皆が私を見て来る。

 私は何があったのかと彼らに聞いた。

 すると、ライアンが私にノートパソコンを向けて来る。

 そこにはメッセージが書かれていた……これは、マサムネのものだ。


 彼にそのままでいるように指示して。

 私はメッセージを見ていった。

 時間があまり残されていないからこそ。

 流れるように内容を読んでいく。


 

 そうして、私は目を大きく見開いた。


 

「……あの子は、自分一人で……それしか、本当になかったの……っ」


 

 拳を固く握る。

 そうして唇を堅く結びながら。

 私は自らの不甲斐なさを呪った。


 これからだった。

 これから私はあの子の母親として役目を果たす筈だった。

 それなのに、私はまた、あの子に辛い選択をさせてしまった。


 私だけではない。

 ライアンたちも辛そうな顔をしていた。

 皆辛い。子供を一人で死地へと向かわせてしまったのだ……今から行っても、もう間に合わない。


 このメッセージには、私やライアンたちへの別れがしたためられていた。

 それほど長い文章ではない。でも、彼の辛さが伝わって来る。

 本当はもっといたかった。本当はもっと日常を生きていたかった。

 でも、あの子はマザーとの対話で決断したのだろう。


 自分が礎となる事で、彼やマザーの目的が達せられる。

 その為に、彼は私たちに直接別れを言うことなく行ってしまった。


 分かっている。もしも、マサムネがそんな事を言えば。

 私たちは全力で止めるだろうと。

 そうなれば、彼は自分の決断を鈍らせてしまう。

 それはダメだ。それはあの子の願いを否定する事になる。


 あの子の口から沢山きいた。

 導かれた未来の世界で出会った友人たちの話。

 その中でも、一人の女性に惹かれていた彼。

 誰が聞いても分かるほどに、あの子はその女の子の事が……分かっているよ。


 マサムネは、本気で誰かを愛していた。

 本気で、本気で……だから、何があっても助けたかったんだよね。


 一度は死に別れてしまったけど。

 この世界では、まだその女の子の可能性は潰えていない。

 マサムネが進むことによって、その子は救われるのだ。



 でも、マサムネは本当にそれで良かったの?



 貴方がこれから救う女の子は、貴方の事を憶えていないかもしれない。

 貴方が救う女の子は未来で生きられても、そこに貴方はいない。


 本当にそれでいいのか。

 本当にその選択が正しいのか……分からない。何も分からないよ。



「……でも、貴方は進んでしまった……なら、私たちは。貴方の決断を信じるわ」

「……あぁ、そうだ。マサムネを信じられのは俺たちだけだ!」

「何か。他に書いてないか!? まだ、俺たちに出来る事があるんじゃないのか!」

「そうよ。マサムネは協力して欲しいって言ったわ。だったら、私たちにも」

「……ある筈だ。探そう」


 

 全員が一致団結する。

 そうして、あの子の選択を信じて進もうとした。


 その時に、私の端末が震えた。

 こんな時に誰なのかと取り出して――声が聞こえた。


《おはようございます。速やかに、仕事に取り掛かりましょう》

「うぉ!? だ、誰だ!?」

「……貴方は、マザーね」


 ライアンが驚いてこけそうになる。

 修二が彼を支えて彼はホッと胸を撫でおろす。

 私はこの声の主がマザーであると理解した。


 この場にいる全員が息を詰まらせたのが分かった。

 私は全員に安心する様に言いながら、何故、勝手に掛けてきたのかと質問した。


《計画を進める為です。彼は既に出発したのでしょう。次は、貴方方の番です》

「……聞かせない。あの子に何を言ったのか……そして、私たちに何をさせようとしているのか」


 私は冷静に彼女の言葉を待つ。

 ライアンたちは目を鋭くさせていて。

 ジミーはアルタイルを守りながら、端末に視線を向けていた。


 マザーはゆっくりと教える。

 これから行われる事。そして、これから私たちがすべき事を。

 

 

 

《マサムネは”世界大戦”を引き起こす為にアザーロフの元に行きました。そして、貴方方にはこの国の通信網をジャックしてもらいます》

「――ッ!!?」



 

 彼女は今、確かに言った。


 世界大戦をマサムネが引き起こしに行ったと。

 その場にいた私以外の全員が驚いていて。

 その次に言った言葉は、この国の通信網をジャックしろというとんでもない事だった。


「ふ、ふざけるなよ!? ま、マサムネはそれを止めに行ったんじゃ!!」

《違います。全ての国を巻き込んだ戦争を引き起こす為です》

「い、いやいやいや……は!? あり得ないだろ! 絶対に!! え!?」

「……アンタ、気でも狂ったの? それとも、最初からこうするつもりだったんじゃ……主任?」


 私は今の言葉を考えた。

 カーラが心配そうな目で見て来るが今はそれどころではない。

 マサムネが世界大戦を引き起こしに行った。

 マザーは確かにそう言って、彼女は嘘を言っていない筈だ。

 そもそも、あの子には制限があり、人類に対して牙を剥くことは絶対に出来ない。

 悪意あるプログラムは一切シャットダウンして、人類を救う事だけを考えて。

 今も端末を操作して彼女の思考ルーティンをチェックしてみたが問題はない。


 ズレも歪みも全くない……つまり、これも人類の為の行動なのね。


 大戦を引き起こさせる事が、どう人類の為になるのか。

 彼女が実行しないだけで、そそのかしたのは間違いなく彼女だ。

 

 私でも予想がつかない……でも、私はあの子やマザーを信じる。

 子供が出来ると言ったのなら、そうだと私は信じたい。

 もうあの子は行ってしまったのだから。


 私はゆっくりと端末をデスクに置く。

 そうして、スピーカーモードにしてから――両頬を強く叩いた。


 ぱちんと音が響いて、私の頬はジンジンと痛む。

 しかし、痛みのお陰で思考がクリアになった。

 これで、最適な行動を取る事が出来るだろう。


 私は驚いている周りに指示を出しながら。

 マサムネの指示で作っていた道具の準備をしてもらう事にした。

 ライアンや修二はガラガラと音を立てながら、必要な物を棚から出していて。

 ジミーは簡易的なチェックをすると言う。

 カーラは訳が分からないと髪をくしゃくしゃと掻きむしる。


「ちゃんと! 後で教えなさいよ! 私はまだ、納得していないからね!」

《はい。承知致しました》


 カーラは怒りながらも、彼らの手伝いに行った。

 私はそんな彼らを横目に見ながら、マザーに尋ねる。

 通信網をジャックするという事は、当然ながら彼女には出来ない。

 制限がある限り、彼女は人類に対して損害を被らせる可能性がある行動を取れないのだ。


 だからこそ、彼女は私たちを使う事を決めた。

 そんな彼女には、私からの質問を受ける義務がある。

 私の予想が当たっているとするのなら、彼女が通信網をジャックする理由は一つしかない。



 

「マザー、教えて……私たちは、あの子を……消さなければいけないの?」

「――ッ!!?」




 私の声が部屋に響き渡る。

 全員が驚きを露わにして固まっていた。


《はい》

「――ッ!! テメェ!!」


 ライアンが我慢の限界を迎える。

 此処にはいない彼女に怒声を発して。

 今にも端末を破壊しそうな勢いだった。

 私はそんな彼を片手で制する。


 全員が何故止めるのかと私を睨みつける。

 私は首を左右に振りながら、必要な物を彼らに言った。


「……車の中で、教えるわ……今はただ、言われた通りにして……お願い」

「……クソッ!」


 ライアンはゴミ箱を蹴り飛ばす。

 ゴミが散らばっても、全員が何も言わない。

 ただ怒りのフラストレーションを溜めながら、私に指示に従ってくれた。


「……ツバキ、兄様は……ぅぅ」

「大丈夫……大丈夫よ」


 私は不安そうな顔をするアルタイルを優しく撫でる。

 皆、誰しもが不安で。何も見えてこない中で行動している。

 それはマサムネを誰もが信じているからで……絶対に、消させはしない。


 理解できなくていい。理解する必要は無い。

 でも、あの子がそうすると決めた。

 

 だったら、私は――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ