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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
最終章:世界の中心で

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274:一蓮托生

 沢渡長官との話し合いで、マザーの中枢への入場券を手に入れた。

 これで心置きなく、研究所の内部へと入れるだろう。

 俺はツバキとアルタイルと合流し、大蔵研究所へと帰って来た。


 アルタイルには先に部屋へと戻ってもらった。

 あそこには彼女の好きな玩具や人形が沢山ある。

 良い子で待っている様に言えば、彼女は元気な返事をして部屋へと走って行った。

 俺は妹を見送ってからツバキと共に、明かりのついた事務所へと入っていく。

 

 扉を開けて中へと入れば、そわそわした様子の皆が待っていてくれていた。

 もう勤務時間は過ぎているのに、皆は家に帰る事無く俺たちの事を待っていてくれたようで。

 扉を開けて中へと入れば、すごい勢いで詰め寄られた。


 俺はそれに驚きながらも、皆に落ち着くように言って。

 それぞれの席へと座ってもらいながら、事の顛末を話した。

 今日はジミーも珍しく起きていて、両手で自分専用の湯呑を持ちながら緑茶を飲んでいた。


 全てを話し終えれば、皆は互いに顔を見合わせていた。

 そうして、恐る恐るカーラが手を挙げる。


「えっと、つまりよ……マサムネは私たちよりも偉くなったてこと?」

「え、そこ?」

「いや、そこでしょ……はぁまさか、息子が親よりも偉くなるなんて……誇らしいわ」

「あぁ全くだぜ! 初任給は焼肉だな!」


 ニカリと笑いながら親指を立てるライアン。

 カーラはそんなライアンの頭に拳骨を落としていた。

 ごすりと鈍い音が響いて、ライアンは自らのたん瘤を両手で押さえていた。


「ま、馬鹿は放っておいて……アンタはそれでいいの?」

「……うん、良いよ。俺が望んでいた事だから」


 俺は皆に悟られない様に平気な顔で言う。

 こういう時にロボットである事は便利で。

 声の調子さえ合わせていれば、表情で嘘がバレる事は無い。

 ツバキ以外には話せない。

 この先の未来で俺が世界を破滅させる事も……一度は皆に拒絶されたことも。


 それでいい。それでいいのだ。

 未来も大事だ。しかし、今だって掛け替えのない時間だ。

 妙な事を言って皆を心配させたくない。

 ただでさえ未来から来たなんて言って、皆を混乱させてしまったのだ。

 これ以上は何も――ジミーが咳ばらいをする。


 彼は鋭い目で俺を見つめて来る。

 俺は首を傾げながら彼を見つめた。

 

「……マサムネ、儂らに隠しておる事があるんじゃろ。話して見なさい」

「……ちょっとジミーさん。行き成りそんな」

「行き成りも何も無い。マサムネは儂らに気を遣っておるのだ……子供に気を遣わせるなど大人として許せんわ」

「……ジミー、何も無いよ。本当に俺は、皆なの役に立ちたくてさ。それで」

「――儂らは頼りないか?」


 ジミーは俺に質問する。

 自分たちは頼りないか。自分たちは信用できないか。

 その質問を受けて、過去の記憶がフラッシュバックする。

 

 あの時もそうだ。俺の戦友は本気で怒っていた。

 目の前にいる存在がそんなに弱いのかと。

 足手まといと思っているのかと俺に伝えて来た。

 そんな事は無い。誰よりも頼りになり、心の底から信じられる仲間たちだ。


 今の状況もそれに似ている。

 ジミーは最初から気づいていた。

 俺が気を遣っていた事も、事件に巻き込むまいと思っていた事も。

 俺はそれを優しさだと勘違いしていたのかもしれない。

 でも、ジミーたちにとっては侮辱以外の何ものでも無い。

 他の誰だって良い。でも、家族だけは信じなきゃいけない。

 ツバキは最期まで俺を信じてくれていた。

 死ぬその時まで俺を愛してくれて……俺は最低だ。


 現状を考えろ。

 今は状況が違う。

 あの時の俺は失敗をしたんだろう。

 間違った方向に自らの力を使ったからこそ、彼らは俺たちを信じられなくなった。

 愛する子供を信じられなくなるなんて考えられない。

 でも、あの時はそれが起きていた。


 

 答えは分かっていた……”心”を理解できていなかったのだ。


 

 間違いを指摘するだけが正しいとは限らない。

 何もかもが出来るからと言って、解いてはいけない問題だって存在する。

 俺は彼らを一方的に信じて、土足で彼らの領域に入っていた。

 何も理解できずに、彼らが築き上げてきた自信を踏み砕いていったのだ。


 

 それは最早、子供とは呼べない――化け物だ。


 

 もう一度、考えろ。

 今は違うだろう。あの時の俺は心が理解できていなかった。

 しかし、今の俺は心というものを理解できている筈だ。


 痛み、苦しみ。怒りに悲しみ。喜びと愛情。

 理解できなかったものを何年もの時間を掛けて理解していった。

 あの世界で、仮想現実と呼ばれた第二の世界で俺は学んだ。


 今は違う。

 もう二度と失敗はしない。

 彼らは俺が失敗した世界の人間じゃない――今を生きているんだ。


 俺はゆっくりと自分の手を見つめる。

 見れば少しだけ震えているような気がした。

 きっと気のせいだろう。しかし、この鉄の体に宿る心が”恐怖”を呼び起こしているのだ。


 大切なものを失う恐怖。

 家族に見放され拒絶される恐怖。

 恐怖に慣れた事なんて一度たりとも無い。


 怖いよ。怖いさ……でも、もう一度信じたい。


 ジミーに顔を向ける。

 彼は真剣な顔で俺を見つめていた。

 しかし、俺の恐怖を察したのかその顔をくしゃりと歪める。

 しわくちゃな顔だ……でも、ひどく心が安らぐ。


 カーラを見て、ライアンを見て、修二を見る。

 誰一人として冷たい目をしていない。

 皆が皆、俺を安心させるような笑みを浮かべていた。

 急かす訳でもなく、苛立つわけでもない。

 ただ笑みを浮かべて俺の言葉を待っていてくれていた。



 

 信じよう。もう一度だけ、信じたい――皆は俺の家族だから。




「……俺は未来から来たって言ったよね。その経緯は曖昧に話していたけど、ちゃんとした理由があるんだ……聞いてくれるか?」

「あぁ、勿論!」

「……ありがとう。実は――」


 俺は話した。

 彼らに隠していた真実を。

 化け物だと拒絶され、その弱みに付け込まれてアザーロフに連れていかれて。

 世界を混沌に染め上げて、灰の降る世界で人類は必死に生き延びていた。

 仮想現実世界が彼らにとっての唯一の希望となり。

 俺はマザーたちの手によって百年以上の時を超えた世界で人間として生まれ変わった。

 そこで多くの戦いを経験し、大切な仲間を失いながらも戦って。

 俺は自らの罪を受け入れて、奇跡にも等しい力を手に入れて過去へと戻って来た。


 全て話す。

 ゆっくりと、それでいて伝わる様に。

 彼らは驚いていた。いや、それだけじゃない。

 修二は少しだけ震えていた。それは恐怖からなのか。

 でも、もう止まる事は出来ない。

 全てを話すと決めたから。

 俺は心にため込んだ記憶を吐き出していく。

 時刻は既に夕刻であり、街はゆっくりと暗くなっていっていた――




「……これが、全部だよ……どうかな。皆は――っ」


 ライアンたちが立ち上がる。

 そうして俺の前に立った。

 自分よりも大きな人間が目の前に立ったことで俺は陰に隠れてしまう。

 彼らの表情は暗く、怒りに染まっていた。


 間違ったのか。俺はまた、失敗したのか。


 不安に駆られて、俺は今にも逃げ出しそうだった。

 しかし、それよりも早くに彼らが動き出す。

 彼らは両手を広げて――俺を強く抱きしめた。


「……ぇ?」


 彼らは確かに怒っていた。

 しかし、それは俺に対してではない。


 鼻を啜る音、ぽちゃぽちゃと肩に水が垂れる音が小さく聞こえる。

 ライアンもカーラも、ずっと謝っていた。

 修二もジミーも同じで、彼らは俺を抱きしめながら泣いていた。


「ごめん、ごめんな……俺を殴ってもいい。好きなだけ罵ってもいい……最低だ。本当に、俺は。俺は……」

「辛かったよね。苦しかったよね……でも、私はマサムネを拒まない……絶対に」

「俺は、俺は! クズだ。ゴミだ! 子供に、こんなに素直なお前に……くそ、くそ!」

「……許してくれとは言わない……怒ってくれ。お前の気が晴れるまで、傍にいさせて欲しい」


 ライアンも、カーラも。

 修二も、ジミーも……俺の為に泣いてくれていた。


 

 

 彼らは違う。

 

 あの世界の彼らではない。

 

 俺を化け物だと認識して冷たくしていた大人たちではない。

 

 ただ目の前の子供に愛を注ぐ親で――胸がギュッと痛みを発する。


 

 

 これは苦しいから出る痛みじゃない。

 悲しいから発するものでもない。

 ただ嬉しかった。拒まれれる事無く、愛してくれた事実が溜まらなく嬉しかった。


 温かい。とても温かかった。

 彼らの温もりを体全体で感じる。

 俺はそれを受け入れらながら、ゆっくりと視線をツバキに向けた。


 彼女は壁に背中を預けながら、優しい目で俺を見ていた。

 分かっていた。彼女は最初からこうなると分かっていたのだろう。

 それでも、何も言うことなく俺が決断する時を待っていた。

 俺は彼女の心を感じて、ゆっくりと頷いた。


「皆、ありがとう……俺はもう二度と、皆を不幸にしない。その為に、俺は未来から来たんだ」

「……そうか……うん、そうだよな。マサムネは、ほんっっっっっとうに、優しいからな!」


 ライアンは俺から離れて涙と鼻水塗れの顔で笑う。

 そうして、隣の修二の白衣で盛大に顔を拭いていた。

 修二も同じような顔で、ライアンの白衣で顔を拭う。

 二人は笑みを浮かべながら、無言で喧嘩を始めた。


 カーラはため息を零しながらも、俺の頭をそっと撫でてくれた。


「安心して、なんて言えないかもしれないけど……マサムネもアルタイルも。私たちは絶対に拒絶しないわ」

「うん、分かってる……俺にはやる事があるんだ。奴が俺の元に来るまでにやる事がある。皆にも協力して欲しいんだ」

「あぁ、いいぜ。やってやろうぜ! そのイカれたジジイをぶん殴ればいいんだな!」

「スコップならあるぞ! アレで脳天をぐさーっと!」

「……いや、気持ちは分かるけど。それ犯罪だから……死刑じゃすまないかも」

「……いや、だって!」


 ラインと修二がスコップで襲撃する計画を話して。

 カーラは冷静にそれを諫めていた。

 確かに、アザーロフが死ねば絶望の未来は消えるかもしれない。

 しかし、それでは襲撃をした俺たちが罪に問われてしまう。

 それはダメであり、俺の目指す所ではない。


 

 恐らく、マザーもそんな単純な結末は望んでいないだろう。


 

 アザーロフの死による解決では、幸福な未来は訪れない。

 千年先をも見通せるマザーは、俺に何かの役割を任せようとしている。

 それを彼女の口から聞くまでは、具体的な作戦を立案する事は出来ない。

 だけど、聞くまでに準備しておいた方がいいものは勿論ある。


 俺は椅子から立ち上がってから、首のコードを伸ばして修二のパソコンに繋ぐ。

 そうして、必要なものが書かれた設計図をパソコンの中に送っておいた。

 修二たちは「これは?」と俺に聞いてくる。


「多分、必要になると思うもの……皆には、これを作って欲しいんだ」

「……見たことも無い技術だな、こりゃ……だが、まぁやってみせるさ。なぁ!」

「……あぁ、他でも無いマサムネの頼みだからな……カーラ、うぅんと濃いコーヒーをいれてくれ! 今夜から大仕事だ!」

「はいはい……私も暫くは研究所に泊まり込むわ。主任も勿論、許可してくれますよね」

「……ふふ、勿論……私も時間が空いたら手伝います。先ずは……マサムネの行きたいところへ行きましょう」


 ライアンたちは腕を捲って早速作業に取り掛かり始めた。

 カタカタとパソコンを叩いて、修二が設計図のコピーを皆のパソコンに送る。

 受け取った彼らは、それを見つめながら紙に書いたりパソコンに情報を入力していった。

 ジミーは部屋から出て行って、研究所内にある作業用のアームなどの調整に行ってしまう。

 カーラは彼らの要望通りにコーヒーを淹れ始めて。

 ツバキはそんな彼らを頼もしく思いながら、部屋から出て行こうとした。

 

「……アルタイルは眠ったかな……見に行こう」


 ツバキと共に、部屋から出ようとした。

 すると、扉が少しだけ開いていた事に気づく。

 俺たちが出れば、奥の方に何かが走って行くのが見えた。

 それは人間ではなく、ガシガシと音を鳴らしていて……聞いていたのか。


 先ほどの話をアルタイルが聞いていた可能性が高い。

 だとすれば、今のアルタイルは……急ごう。


 ツバキを見れば、彼女は頷いていた。

 俺たちは小さな明かりが灯る廊下を走って行く。

 妹を不安にさせたくない。彼女が心配で……逸る気持ちを抑えて、俺たちは駆けて行った。

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