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250:嵐のような戦場で(side:銀狼)

 革張りのグローブを手に嵌め込み感触を確かめる。

 ギュッと手を握りしめれば、程よく手が圧迫されて気分がいい。

 新調したパイロットスーツも着心地が良く、機体のセンサーとバイザーをシンクロさせれば映像が鮮明に見えた。


 オート操縦によって機体を射出装置へと移動させる。

 ズシズシと愛機である”グリーン・マイル”がゆっくりと進む。

 バイザーに映っている光景には、他の傭兵のメリウスが戦場へ向かって羽ばたいていく姿が映っている。

 先ほどから聞こえる爆発音。そして、小刻みに揺れている船体。

 戦場はすぐそこであり、死神が俺のすぐそばまで来ていると感じた。

 かつてないほどの危機感であり、これ以上ないほどに死臭が濃厚で。

 本来であれば、こんな危険な依頼など受けたくも無い。


 

 が、何故か。俺の心はこれを受けろと叫んでいた。


 

 何故かは分からない。

 しかし、俺は何時だって心に従ってきた。

 どんなに危なくとも、心が行けと言うのなら行く。

 考えるのは俺の頭脳であり、命令するのは何時だって心だ。

 何とかなるとは思えないが、来てしまったのならベストを尽くすだけだ。

 

 久々の大仕事を前に、システムのチェックを済ませていく。

 ディスプレイに流れていく情報を眼で見て確かめていけば、問題は無いようで。

 指でスイッチを上げていき、音声コマンドによって戦闘システムを起動させる。

 バイザーに青いラインが走って行って、戦闘用のパラメーターが表示された。

 コアが鼓動を早めて、機体全体にエネルギーを供給していく。

 確かな熱をコックピッドの中から感じながら、俺はゆっくりと手をコントローラーに置く。

  

 操縦用のジョイスティックをしっかりと握り、カチャカチャと動かした。

 スラスターの感度を確かめて、コアの出力も問題ない。

 左手のハンドガンと右手のレーザーブレードの接続も異常はなかった。

 準備は万全であり、後は他の奴らがどれだけ戦えるかだろう。


 同じSランクの傭兵も参戦しているとは聞いていた。

 コマンダーの女はチーム分けをして生存率を高めようとしているようだが。

 俺たちSランクの傭兵にとっては不要だ。

 もしも、素人と組ませるのであれば文句を言おうかとも思ったが……理解していたようで安心した。


 俺だけかは分からない。

 チーム分けにおいて、俺は独立していて。

 単機で任務にあたっても良いとお墨付きを貰った。

 これで気兼ねなく戦う事が出来る。

 邪魔をする者はおらず。俺は俺自身の為に、戦場を翔ける事が出来るだろう。


 船から出て、展開された滑走路を進む。

 他のメリウスと共に進み、ゆっくりと射出台の上に立つ。

 そうして、脚部を固定しながら俺は機体の姿勢を低くした。

 周りを見れば、見た事のあるようなメリウスがいて射出台の上に立っている。

 同じような姿勢で待っていれば、滑走路が上の方を向いた。

 体をシートに預けながら、俺は目を細めながら前を見る。

 聞こえる。戦場の音が、此処まで鳴り響いている。


 静かに、それでいて強く心臓を鼓動させた。

 そうして、俺はゆっくりとその時を待つ。


 カウントダウンが開始されて。

 俺はスラスターへとエネルギーを回しながらチャージを始める。

 スラスターから音が響いて、今か今かと待っていた。

 射出台から飛ばされれば、そのまま一気に戦場へと向かう。

 此処からでも見えている。黒煙が辺り一帯に広がって激しい閃光が迸っているのだ。

 無数の命があそこで戦って、枯葉のように散っていく。

 その様を見つめながら、俺はスティックを強く握る。


 

 そうして、カウントダウンが――ゼロとなる。


 

「――っ!」


 

 凄まじい力が体に加わって、俺は歯を食いしばる。

 そうして、それに耐えながら宙へと放り出されて。

 俺はスラスターを一気に点火した。

 爆発音のようなものが響いて、浮遊していただけの機体が前へと加速する。

 ピリピリと機体が振動する中で、俺は周りの傭兵を抜いていった。

 そうして、愛機は持ち前の機動力をフルで活かして他のメリウスを置き去りにして嵐の中に向かう。


 黒煙に硝煙。破壊されたメリウスの残骸が舞う。

 無数のメリウスが戦っていて、視界に入る情報は嵐そのものだった。

 爆発に閃光。風に乗って飲んできた鉄粉がパラパラと機体に当たる。

 生き残りを懸けた戦いであり、俺たちはあの嵐の中で敵のメリウスを全て撃ち落さなければならない。


 ……いや、少し違うな。


 他の傭兵は殲滅戦の依頼で間違いない。

 あの無数にいる敵のメリウスを、一機残らず墜とさなければならない。

 しかし、俺へと後で送られてきた依頼によれば……あそこを襲撃しなければならない様だ。


 嵐の先にある鋼鉄の城。

 そこにある大きなテラスで待っている何か。

 それを破壊する事が俺の任務であり、アレ等はその前の障害でしかない。

 振り切る事が出来たのならそれで良かったが、流石の俺でもあの数に背を向けて突っ込むのは危険すぎる。

 ある程度の数を減らした上で、他の傭兵たちに陽動を任せる他ない。


「……頼むぞ。ハゲタカ共」


 嵐の中へと侵入を果たす。

 その瞬間に、数体のメリスウが俺へとセンサーを向けて襲い掛って来た。

 俺はそれを確認して、手に持ったハンドガンを敵に向ける。

 そうして、冷静に一番損傷が激しい敵に狙いをつけて弾を放つ。


 そのメリウスは俺の弾を避けようとしたが。

 囮の数発を避けただけで、本命の一発が奴の胴体部に命中する。

 深々と食い込んだ俺の弾丸は――破裂して強い放電を開始した。


 特注のスタン弾であり、並のメリウスであれば一分は動けなくなる。

 掠めただけでも機能を阻害する効果があり、これで足を止めた獲物を――狩るッ!!


 敵へとブーストによって接近し、チャージしたブレードを振るう。

 青いエネルギーが刃の形となり、バチバチとエネルギーが音を奏でる。

 激しい熱を伴ったそれが、敵の装甲を溶かし斬る。

 ズクズクに溶けて切断面が赤熱しながら、自らが破壊されたことも理解できないメリスウがバラバラになって落下していった。

 

 そんな仲間の無残な姿には目も暮れずに。

 散開した他のメリウスが俺に弾丸を放ってきた。

 特殊な形状をした大型のライフルであり、連射力はかなりのものだ。

 背後から迫って来た敵の攻撃を上昇して回避して。

 突き抜けていった二体のメリウスを追う。

 ドッグファイトの開始であり、ターゲットをロックオンしながらハンドガンを向ける。

 照準を定めながら、俺は舌を軽く舐めた。


 敵を倒せば倒すほど、追加の報酬が出る。

 撃墜報告はシステムが勝手にしてくれるのだ。

 俺たちはただ目の前に躍り出る獲物を仕留めていけばいい。


 機体を回転させて、俺の狙いを乱そうとしてくる敵。

 それを見ながら、俺は機体をブーストさせて敵の真下に移動する。

 そうして、ほぼゼロ距離になった敵の胴体部に数発の弾丸を撃ち込んだ。

 二体のメリウスは俺の弾を避けきれずに被弾して。

 全身をスパークさせながら、制御不能となった機体を落下させていく。

 俺はそれに簡単に追いついて、ニヤリと笑いブレードのチャージを完了させた。


「お疲れさん」


 長く伸びたブレードが一気に二体のメリウスを溶断する。

 胴体と下半身が別たれたそれは、空中で爆発四散して消えていく。

 これで三体目で……キリがない。


 移動をしながら、センサーを動かして周りを索敵する。

 赤いマーカーがついているのは敵であり、それが無数に存在する。

 かつての公国と帝国の戦争でも、これほど大規模な乱戦を見た事は無い。

 初めての経験ではあるが、恐れるほどの事では無かった。

 何もこの数を一人で相手取る訳じゃない。

 青いマーカーは味方であり、同じくらい存在している。

 手練れの傭兵であれば、一人で何十機も墜とす奴だっているのだ。


「……まぁ、どれだけやれるかは分からないけどな……チッ、鬱陶しいな」


 思考する暇も無い。

 敵は次から次へと襲い掛って来る。

 それをレーダーで捉えながら、俺はハンドガンを敵へと向かて乱射する。

 器用に俺の弾丸を避けている敵の姿を見て、俺はふと疑問に思った。


 さっきの奴らは、少しの被弾くらいはって感じだったが……こいつらは知っている?


 遠くで見ていた訳じゃない。

 こんな嵐の中でよそ見をする時間は無い。

 それに、そんな奴がいれば他の傭兵が真っ先に潰しに行っている筈だ。


 つまりだ。こいつらは……情報がリンクしている可能性がある。


 無数のメリウスが存在する中で。

 様々な傭兵が戦っているこの戦場で、奴らは情報を収集している。

 学習していると言ってもいい。奴らは撃墜された仲間の情報を糧に――成長している。


 生体反応が無い所を見るに、こいつらは無人機で。

 噂に聞いていた無人機と戦えるのは光栄だが……少々面倒だな。


 一定の距離を保ちながら、攻撃を仕掛けて来る敵。

 その弾丸を加速によって回避して、追って来る敵に照準を合わせる。

 すると、奴らはハッキリと分かるほどに強い警戒を示す。

 その姿に笑みを零しながら、俺は弾丸を発砲した。


 一気に三発の弾丸を発射して――宙を舞う残骸に当たる。


 スローモーションに感じる世界で。

 敵が驚いてそちらにセンサーを向けたような気がした。

 何故、そこなのか。外したのか……違うぜ。


 スタン弾が激しく放電を起こす。

 すると、三つの弾丸は互いに干渉しあって――激しい電流が空気に伝わった。


 まるで、ネットのように広がったそれ。

 その中に入っていた三機のメリウスは一気に感電する。

 そうして、センサー部を激しく点滅させながら機能を停止させた。

 俺は一気に距離を縮めながら、ブレードを短く展開する。


「あばよ。ガラクタ」


 勢いのままに、ブレードを敵の胴体部に突っ込ませる。

 残骸が宙を舞って、オイルが飛び散った。

 背中まで貫通したそれを引き抜いて。

 横に浮遊するガラクタへと再び突き刺した。

 飛び散ったオイルにエネルギーが触れて、死んだ機体を激しく燃えあがらせた。

 そうして、最後の一体に目を向ければ、機能を復活させて銃口を此方に向けていた。

 俺は目を細めながら、ブーストによってギリギリで回避しようとして――奴の機体を何かが削り取っていった。


「は?」


 高速回転する円盤が四つ飛んできて。

 奴の武器を持った腕を一瞬で斬り飛ばした。

 そうして、奴の腕がくるくると回っている間に。

 残りの回転刃が、奴の機体をズタズタに引き裂いていった。

 目の前で獲物を横取りされた上に、汚いオイルを浴びせられた。

 俺は不満を露わにしながら、円盤が戻っていく方向を見た。


 そこには黒いカラーリングの細身のメリウスが浮遊している。

 背中には特殊なランドセルを背負っていて、奴の周りを円盤が浮遊していた。

 奴は青いライン状のセンサーを発光させながら、手で自らの首を掻っ切るジェスチャーをしてきた。

 最高にムカつく奴であり、戦場であれば喜んで殺したくなる手合いだ。

 俺はそんな奴へ銃口を向けて弾を一気に放つ。


 勢いよく飛んでいった弾丸は――奴にブーストして迫っていた敵に命中する。


 許容限界を超えた電流を浴びて。

 機体全体から黒煙を上げてショートしたそれが奴の機体を通り過ぎて落下していった。

 俺はくつくつと笑いながら、右手で敬礼をしてやった。


 互いに互いを挑発して、俺たちは無言で飛び立っていく。

 お互いに分かった筈だ。アレは同じSランクの傭兵で……最高にムカつく相手だと。


 アイツよりも多くの敵を墜とす。

 そうして、本丸も潰して俺はこの依頼を成し遂げて見せる。

 もしもアイツが死んだのなら、酒の席の笑い話にしやろう。

 そんな愉快な事を考えながら、俺は激しい嵐の中を進んでいった。

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