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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第六章:光を超えて

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232:鉄の王

 潰す。潰す潰す潰す潰す潰す潰す――潰してやる。


 完膚なきまでに、原型を留めさせず。

 理不尽なまでの力で、目の前の敵を破壊する。

 己が心から湧き上がる破壊衝動を抑える事無く。

 溢れ出る黒い感情を放出させながら、飛び回る蠅を追う。


 スラスターから聞こえる甘美な音。

 人間たちの叫び声のようなそれを聞きながら、俺は銃弾を放つ。

 勢いよく放たれたそれらが出鱈目な軌道を描いて奴を追う。

 奴は高機動戦闘状態でありながら、器用に機体を回転させて。

 俺が放った全ての弾丸をエネルギーを纏わせたブレードで打ち払う。

 俺はケラケラと笑いながら、愉快な玩具を執拗に狙う。


 視界を塞ごうとする雲を、特大級のエネルギーの塊をぶつけて爆散させる。

 一気に雲が消えてなくなり、これで視界を塞ぐものは無くなった。

 俺は機体をブーストさせながら、逃げ惑う敵に向けて蹴りを放つ。

 一瞬にして音速を超えた俺の機体の蹴りであり、受け止めた奴のブレードに罅が入る。

 パキリと音が聞こえた確かな手応えを感じた。

 奴は俺の力を何とか受け流しながら、攻撃を仕掛けて来た。

 俺はその攻撃をエネルギーの障壁で受け止めた。


 

 面白い。面白いなぁ……やはり、戦いは良いぃ。

 

 

 無残に転がり眠っていた魂無き機械たちを呼び覚ます。

 俺の声に反応し、俺の意思を反映したそれらが立ち上がり。

 壊れかけのスラスターを起動して、空へと飛翔した。

 そうして、その瞳を真っ赤に光らせながら、再び高機動状態で逃げる敵を執拗に追う。

 ただ殺す為に、ただ破壊する為に、己が手にした武器を振るう。


 俺は空中で静止しながら、両手をだらりと下ろした。

 心地よい破壊衝動に身を任せながら、溢れ出る力を機体で練り上げる。

 溢れ出る黒いエネルギーが無尽蔵に湧きあがり、コアから発せられる熱を機体外へと排出する。

 装甲の割れ目から、空間を歪めるほどの熱が排出されて。

 俺は大きく笑みを浮かべながら、この機体のAIの声を聞いた。


《制御不能。制御、不能――危険、です。ただちに、退避を――……》

「危険だ。危険だとも……危険なほどに、こいつは怒っている。奴を殺せと言っているんだ」


 久方ぶりに表に出られたと思えば、アレを殺せと命令してくる。

 何も知らない筈の男が、本能で過去の自分を顕現させた。

 その力の一端を解放させて、俺に殺せと叫んでいるのだ。

 だったら、従う他ない。元より、俺はこれ以外を知らないからな。

 

 溢れ出る黒い感情に歓喜する。

 自由だ。何者にも縛られずに、破壊だけを楽しめる。

 楽しい、楽しいさ。この瞬間が、何よりも――幸福だ。


 弱者をいたぶるのも、強者をぐちゃぐちゃにするのも。

 全て同じだ。力があるものだけの特権で。

 頂点に立つ物が許される行為だ。

 俺にとっては全てが等しくゴミであり、戦闘するにも値しないカスだ。


 

 ――だが、こいつは中々に粘るな。


 

 何度追い詰めようとも、何度殺しにかかっても。

 容易くは死なない頑丈な玩具で。

 俺はそれに歓喜しながら、戦闘を楽しんでいた。


 縦横無尽に空を駆けながら。

 逃げ惑いながらも、隙を伺って攻撃を仕掛けて来る敵。

 たった二振りのブレードだけで、この俺に戦いを挑んできた男。

 勇敢な奴であり、愚かにもほどがあるだろう。

 肉眼では捉えきれないほどの速さで飛行し、進路を変えて此方に接近してくる。

 瞬きの合間に、奴は俺の懐へと侵入を果たす。

 そうして、前方からの攻撃を仕掛けようとして――瞬時に背後へと移動した。


 面白い仕掛けであり、初見であれば騙されていたかもしれない。

 だが種さえ分かれば、どうという事も無いだろう。

 エネルギーを周囲に放てば、奴は攻撃を中断させて一気に距離を取る。

 奴へと襲い掛かるそれはまるで波の様で、奴はそれから逃れて再び亡者共に追われた。

 どんなに機転を利かせようとも、どんなに隙を捉えようとも。

 この俺にとっては無力であり、児戯に等しい。

 人間は愚かで弱く、機械たちは俺の力で支配される。

 

 が、あの敵からは妙な気配を感じる。

 纏う空気に加えて、放たれる殺気は名刀の如き鋭さで。

 あの紅の機体は知らん。しかし、奴から感じるプレシャーからは懐かしすら感じた。


 この感覚は知っている。

 少し違うが、大本は同じだろう。

 粗悪品という訳では無い。

 感情は希薄だが、事戦闘においては遜色はない。

 天才的なセンスに加えて、合理的な思考。

 一瞬の判断も迷うことなく、危険な賭けに打って出る度胸もある。


 同じだ。笑えて来るほどに――俺と同じだ。


「そうか。そうか。お前は、俺を模して造られた――贋作か」

《贋作、か……それがお前の眠っていた本性か。鉄の王よ》

「ははは、愉快だ。愉快ではあるが――醜悪だな」


 勝手に俺の独り言を盗み聞きした愚か者。

 鉄の王とは、また懐かしい呼び名だ。

 俺が壊した世界で、俺の仕出かした大罪を伝説のように語る狂人共。

 世界の終焉を望むバカたちが、呼んだ呼び名だ。

 

 この男は、己を見ているようで腹立たしい。

 否、己ではない。俺はこんなにも弱くはない。

 戦いの為だけに生み出されて、純粋な暴力で世界を混沌に染め上げた。

 支配者たるこの俺が、このような醜悪なものである筈がない。


 

 不快だ。目障りだからこそ――此処で、殺そう。


 

 思念を飛ばして、機械たちに命令を下す。

 奴らは徒党を組んで敵に襲い掛かる。

 四方八方から、亡霊たちが敵へと殺到する。

 イナゴの群れのように、視界を覆いつくすほどの量で。

 数の暴力で奴を圧倒し、至近距離に迫ればその身自体を武器へと変える。


 二体のガラクタが奴の前に躍り出た。

 そうして、機体内のエネルギーを膨張させて――爆ぜた。


 勢いよく爆ぜた事によって、花火のように残骸が舞う。

 あの男は器用にも直前で機体をブーストさせて難を逃れていた。

 頭が回るようであり、俺はニタリと笑って残りの機体を向かわせる。

 この地に眠る戦士の亡霊共が、お前の敵だと心得ろ。

 お前の命を終わらせる為だけに、この世に戻って来た奴らで。

 どんなに突出している傭兵だろうとも――限界は存在するのだろう?


《――》


 奴の機体が纏う赤黒いエネルギー。

 それを全てスラスターに回して、奴は更なる機動力を得た。

 空を自由に駆けて、襲い来る亡者を躱していく。

 奴のスラスラたーから放出されたエネルギーの残滓が宙を舞い。

 それが道となって、亡者共を導いていった。

 俺が与えたエネルギーによって、亡者たちは機体が空中分解する危険も恐れずに向かって行った。


 奴の描いた軌跡をなぞる様に、亡者の大群が襲い掛かる。

 銃弾を放ちながら、接近したメリウスが爆ぜて。

 何度も何度も爆発を起こしながら、俺の心を大いに楽しませてくれた。

 奴はそんな攻撃をも華麗に回避して、着実に敵の数を減らしていく。

 合理的な戦い方だ。諦めを知らず、ただ勝つ為に機体を駆っている。


 美しい。惚れ惚れするほどの光景だ。

 まるで、天の川を見ている様に、空中に命の輝きが咲き誇っていた。


 機体から出れば、硝煙の香りが広がっているのか。

 オイルの焦げた臭いに、火薬が爆ぜた臭い。

 鉄の香りが漂い、戦士たちの亡骸が無残に地面に転がる。


 あの世界で傀儡を通して見ていた光景。

 己を上位者として君臨していた人間どもを蹂躙し。

 恐怖に染まった顔を眺めながら、その華奢な肉体をぐちゃぐちゃにした。

 あの時の光景とそっくりであり、俺の心は満たされていく。


 

 綺麗だ。美しくて、思わず――もっと、ぶち壊したくなるッ!!


 

 機体のスラスターを噴かせて一気に加速した。

 強力なGが加わって、骨が強く軋んで何本かが折れた。

 肺に刺さったそれによって、口から血が出た。

 片手間でヘルメットを外してから、見えやすくなった視界で敵を見る。

 一気に距離を縮めた事によって、奴の背後に回ってやった。

 銃口を向けながら、俺はけらけらと笑って弾丸を放つ。


 貫通力を高めた銃弾であり、何発かは奴のエネルギーに阻まれた。

 奴の反応できないほどのスピードで虚をつい筈だったが。

 しかし、それを掻い潜って数発が奴の装甲に当たる。

 足に命中したそれが、奴の機体の支配権を奪おうと侵食し――奴がブレードで脚部を切断する。


 両足を半ばから切断すれば、飛んできた残骸が目の前で爆ぜた。

 エネルギーの障壁を張った事で此方のダメージはほぼない。

 やはり、贋作ではあるがしぶといな。


 もしも、此方を完璧に模倣していたらと思うと笑みが零れそうだった。

 だが、もう終いだろう。

 奴は空中を飛びながら、器用に片手だけのブレードで敵を斬り払う。

 碌な武装も無く、たった一本の武器だけで無数の敵と戦っている。


 認めよう。奴は強い。

 この世界で一番強い存在だろう――だからこそ、潰し甲斐があるッ!!


 弱者をいたぶるのはいい。

 だが、圧倒的な強者を潰すのはもっと心地が良い。

 それが自分を模して造られたものであるのなら、尚の事、気分は良いだろう。


「はははははは!! やはり、戦いは楽しいなァ!!」

《……》


 反応もしなくなったか……つまらんな。


 俺は機体をその場に静止させながら。

 後は亡者共に任せる事にした。

 どうせ、あの男は数分で死ぬだろう。

 俺が手を下す必要は無く、これが終われば俺はまた戻されるだろう。


 体の支配権を奪う事が出来れば、どれほど良かったか。

 何故、機械の体では無く不自由な人間の体なのか。

 疑問は残るが、この体であろうとも力を使う事は出来る。


 何れは支配権を奪い取ってやろう。

 表に出ている俺が、心を曇らせればするほどに、俺は表に浮上する。

 大切な人間が死ぬ度に、信頼する人間に裏切られる度に。

 マサムネは心を傷つけて、闇へと染まっていく。

 完全に闇に染まり、過去の自分へと戻った瞬間に――俺がこの体を支配する。


 遠くない未来を想い描きながら。

 俺は死にかけの戦士をただ眺めて――何だ?


 障壁に阻まれて、何かが勢いよく爆ぜた。

 パラパラと残骸が舞い、煙が俺の視界を塞ぐ。

 それを片手で払いながら、俺は静かに目を細めた。

 

 遠くから狙撃された。

 未来視によって攻撃を防ぐ事は出来た。

 エネルギーに触れた弾丸が火花を散らせながら四散して。

 俺は攻撃を当てて来た敵を睨みつけた。


 塔の上から狙撃したようだ。

 俺はデカブツに命令を下して、塔へと攻撃をさせた。

 巨大な砲塔を奴へと向けて、圧縮されたエネルギー弾を放つ。

 周囲の空間を歪ませるほどの熱量であり、敵は慌てて回避をしていた。

 放たれたそれが塔を削り取り、半ばから塔が消えて無くなる。

 塔が倒壊して、ガラガラと音を立てて残骸が落下していった。

 何とか難を逃れた敵は、上空で機体を停止させる。

 空中へと逃れて、敵は俺の機体に通信を繋いできた。


《マサムネッ!! こいつが欲しいだろッ!! 取って見ろッ!!》

「……チッ」


 男の声が聞こえて来た。

 鬼気迫る声で奴が意味不明な言葉を発して。

 奴のコックピッドが開き、中から何かが滑り落ちていった。

 それを確認した瞬間に、今まで強く響いていた殺意が消えていく。

 体の力が徐々に失われていって、自由だったはずの体が重い。

 俺は舌を鳴らしながら、余計な事をしたカスを睨む。


 残された力で奴を始末しようとした。

 しかし、敵の狙いは戦う事ではないようだ。

 デカブツの巨大な腕が振るわれて、奴に襲い掛かる。

 しかし、奴は機体をブーストさせてその場から逃げ出した。

 運の良い事に、放り出されたアレも難を逃れて無事だ。

 

 死に体のあの紅の機体へと一気に近づいて、奴は装備していた爆弾をベルト事取り外す。

 そうして、迫りくる亡者共へと投擲して――凄まじい爆発が起きた。


 視界を潰すほどの光量で。

 俺が目を細めながら、見ていれば。

 奴らは海の方へと飛んでいき、浮いている船に乗り込んでいった。

 開かれたハッチの中へと機体を滑り込ませて。

 ゆっくりとハッチを閉じて、それは海の中へと沈んでいく。

 まんまと逃げられた上に、あの船は海へと潜航して行っている。

 海中へと行くには、この機体は不向きで……はぁ。


 体の傷を残されたエネルギーを使用して治癒する。

 そうして、俺は空を舞う人間を見つめた。

 体の主導権は、もうほとんど奪われていた。

 俺の意思に反して、体は勝手に機体を操作して自由落下する女を救いに行った。


「……馬鹿が……」


 女なんて放っておけばいい。

 あのまま戦っていれば、確実にあの贋作は殺せた筈だった。

 目の前の敵を放置して、女を救いに行くなど……本当に愚かだ。


 何故、こんな奴が俺のオリジナルなのか。

 これほどの腑抜けが、アレだけの虐殺を起こしたというのか。

 いや、違う。こいつではない。

 俺自身があの虐殺を引き起こした。

 そうでなければ、俺が此処にいることの理由がつかない。


 相反する意思。

 見える事の無い二つの魂。

 一つの体に共存しているのだ。

 表にはこいつがいて、裏では俺が眠っている。


 あの世界のような地獄を再現できるだけの力があるのだ。

 それなのに、この男は拒絶する。

 俺を悪だと認識して、決して表に出そうとしない。

 実に不愉快であり、叶う事ならこの手で殺してやりたかった。


 ――が、それは出来ない。


 表の俺も、似てはいないが俺である事に違いない。

 絶妙なバランスで、俺たちは生きている。

 何方か片方が死ねば、もう一方も自然と消滅する。

 この体は不安定であり、魔法でもない限りは分離する事は出来ない。


 しかし、必ず方法は存在するだろう。


 それを見つけ出すまでは大人しくしているつもりだ。

 それまでは、精々、不自由に生きていればいい。

 大切な人間とやらに縛られて、肩まで泥の中に浸かればいい。


 武器を放り捨てて、機体の手をゆっくりと女の下に置く。

 俺はくつくつと笑いながら、女を機体の手で受け止める。

 そうして、意識が遠のいていく中で、マサムネの強い焦りを感じた。


 焦れ、苦しめ。

 お前が傷つく度に、俺は表に出る機会を得られる。

 そうして、完全に闇へと染まった時に――俺が、この世を地獄に変えてやろう。

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