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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第六章:光を超えて

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231:消えゆく火(side:ゴウリキマル)

 今、外で何かが起きている。

 先ほどから轟音が鳴り響いていて、この乗り物自体が揺れていた。

 ぐらぐらと横に揺れて、パラパラと天井の埃が落ちて来る。

 少しだけ咳き込みながら、私はもぞもぞと動く。

 

 麻酔か何かで眠らされて、気が付けばこの檻の中に入れられていた。

 目覚めた私が最初に目にしたのは、同じ牢屋に入れられている少女で。

 彼女は何処かの民族衣装を着ていて、私は何度も彼女に話しかけた。

 しかし、彼女は虚ろな目で壁を見つめていて、私が何を話しかけてもピクリとも反応しない。

 恐らくは、この子も奴らに捕まって利用されているに違いない。

 助けてあげたいけど、今の私ではどうする事も……。


 舌を鳴らして、床を見つめる。

 何も出来ない事が歯がゆくて。

 アッサリと敵に捕まった自分に腹が立つ。

 

 悔しいが、今の私は無力だ。

 助けを待つだけの人間であり、どうする事も出来ない。

 せめて外の状況でも分かれば、何かできると思ったが。

 この狭い部屋には窓は存在しない。

 頑丈な鉄格子があるだけで、何も出来ないのだ。


 この間にも、外では何かが起きている。

 私の勘が言っているのだ。

 この揺れは恐らく、マサムネたちが関係しているのではないかと。

 そうでなければ、この異常事態は説明できない。

 いや、説明できなくても奴らが私を放置して何処かに行く可能性は低い。


 鍵を奪われて、もう用は無いだろうが。

 殺しもせずに放置するのは考えられない。

 恐らく、私を使って何かをさせるつもりなのか。

 想像したくはないが、マサムネたちにとってそれは良くない事だろう。

 

 ――何とかして、自分一人の力でこの危機を脱しなければならないな。

 

 私は苛立ちを露わにしながら、両手を縛るロープから手を抜こうとする。

 しかし、きつく縛られたそれから抜け出す事は容易ではない。

 ずっと同じ動作を続けていて。

 あともう少し、あともう少しで取れそうだった。

 昔、何かの本で読んだ知識を生かして、少しずつ手を抜こうとする。

 ゆっくり焦らずに、慎重に手を動かして……痛いな。

 

 ロープに手首が擦れて痛い。

 手首は見えないが恐らくは真っ赤になっているだろう。

 ひりひりと痛みを発していて、血が出ているのではないかと錯覚してしまう。

 それでも私は諦めずに、ロープから手を抜こうとした。


 待っていられない。待っているだけじゃダメだ。

 行動を起こして、マサムネたちの役に立たなければ。

 あの時のように、ショーコに背中を押されて行動するんじゃない。

 自分で考えて、自分の足で前に進むんだ。


 私は徐々に、腕をロープから抜けさせていく。

 そうして、何とかロープから手を抜く事が出来た。

 私はひりひりと痛む手首を抑えながら、その場から立ち上がる。

 ひたひたと裸足で床を踏み進めて、鉄格子に触れて状態を確認した。


「……見かけは古典的だが、材質は優れているな……熱で溶かせれば突破は出来るけど、道具が無い……窓も無いし、出口はこの柵だけか」


 目に見える情報を分析しながら、私はゆっくりと柵から離れる。

 そうして、勢いよく飛び上がって柵を蹴りつけた。

 ガシャンと派手な音を立てて、柵が激しく揺れる。

 しかし、あまりダメージは入っていないようだった……やっぱり、ダメか。


 強引に突破する事も不可能だ。

 なら、どうすればいいか――奇襲するしかない。


 何度も何度も地鳴りのように部屋が揺れているのだ。

 外では相当危険な事が起きているに違いない。

 だったら、遅かれ早かれ誰かが来る筈だ。

 その隙を使って逃げ出すしかない。


 私はロープを掴んでから、縛られているように偽装する。

 後ろに手を結び直してから、ロープをしっかりと掴んでジッと待つ。

 床に座って壁に体を預けながら、敵がやって来るのを待って……誰か来たな。


 ガシガシと何かが動いている音が聞こえた。

 響いている音からして人間の動きではない。

 恐らくは、作業用のロボットの動きで。

 私は目を閉じながら、ロボットが中に入ってくるのを待った。

 

 ジッと待っていれば、ロボットが柵の前に立った気配を感じた。

 そうして、鍵穴に鍵を差し込んでからギギギと扉が開く音が響く。

 ロボットが中に入って来て――今だッ!!


 私は勢いよく立ち上がってから、ロープを垂らしてロボットの横を通り過ぎる。

 そうして、私を捕まえようとしたロボットの足にロープを引っかけた。

 奴はバランスを崩して前に倒れ込む。

 そんな間抜けを見ながら、私は開いていた扉を潜って勢いよく扉を閉めた。


「一丁上がりだ……ごめん」

「……」


 少女へと謝罪をする。

 しかし、少女は心を失ったかのように何も反応しない。

 私は唇を噛みしめて拳を硬く握る。

 奴らを許す事は出来ない。

 奴らのやっている事は悪であり、この少女も奴らの計画に巻き込まれたのだろう。


 怒りがふつふつとこみ上げてくる。

 だが、此処で怒っても何の解決にもならない。

 私は足を進めて走って行った。

 扉を開けて牢屋があった部屋から脱出し、私は長い廊下を進んでいった。

 恐らくは、この乗り物は輸送機であり、形状からして出口は……こっちだ!


 メカニックとしての知識がこんな所で役に立った。

 私は長い廊下を進んでいって、適当な扉を開けていった。

 そうして、下へと続く階段を発見してひたひたと音を鳴らしながら下へと降りて行った。


 鉄の扉を開けて、私は周囲の様子を探る。

 作業用のロボットが徘徊しているが、奴らは此方を認識していない。

 警備用のロボットでは無いからか、あまりにも無頓着だ。

 だが、今はそれが好都合だ。


 私は勢いよく扉を開けてから、風のように走り去っていく。

 作業用のロボットたちの合間を潜り抜けて進み。

 廊下の先を曲がって、右へと進んで――腹部に強い衝撃を受けた。


「ぐぅ!!」


 腹を押さえながら、私はゴロゴロと床を転がった。

 激しくせき込みながら、唾を吐き出して。

 カツカツと音を鳴らして近づいてくる敵を見つめた。


 眼鏡の男であり、その手には銃のような形状をした注射器が握られている。

 透明のシリンダーの中には赤い液体が入っていて。

 私はそれを一目見ただけで、強い危機感を抱いた。

 奴は冷めた目で私を見下ろしながら、乱暴に私の髪を掴んで強制的に上を向かせた。

 私はうめき声を上げながら、霞む視界の中で奴を睨みつけた。


「……お前のお仲間が来た。面倒だが、今は告死天使が相手をしている」

「ま、さか。マサムネが……?」

「そうだ。そして、お前はこれから役に立ってもらう……奴の”心を完全に折る”為にな」


 奴が不敵に笑う。

 そうして、注射器を掲げて――私は拳を放った。


 力が出せないように装った事で。

 奴は咄嗟に反応する事が出来ずに、私の一撃を顎に喰らった。

 がくりと奴の頭が揺れて、奴は後ろに腰をつけた。

 舌を鳴らして立ち上がろうとするが、奴は上手く力が入らない様子だった。

 私はそんな奴の隙をついて、その場から逃げ出した。


 ふらつく体を動かしながら、何とか走って行って――ッ!!


「――ぅぁ!?」

 

 乾いた銃声が静かに響く。

 足に強烈な痛みを感じて、私はゴロゴロと床を転がる。

 右足を見れば、太ももの辺りから出血していた。

 必死に傷口を抑えながら、奴を見る。

 すると、手には黒光りする拳銃を握っていて、その銃口からは煙が出ていた。

 奴は不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと立ち上がった。

 拳銃を放り捨てて、此方に近づいてくる。


 逃げなければ、逃げなければまずい。

 私はずるずると体を引きづって、前に進む。

 必死に、必死に、もう少しで届きそうな扉に向けて手を伸ばした。

 この先に、マサムネがいる。

 私を助ける為に、アイツは戦っているのだ。

 行かなければ、行って安心させなければ。

 独りにはさせない。お前を孤独にはさせない。


 後少し、後少しで、仲間の元に――ッ!!!


「――あああああぁぁぁぁ!!!!」


 銃弾を受けた足が強い痛みを発した。

 上から足で押さえつけられて、ドクドクと血が流れていった。

 

 痛い。痛い痛い痛いッ!!

 熱せられた鉄の棒を押し付けられているようだ。

 傷口が熱くて、悲鳴が口から勝手に出ていた。 

 

 奴はぐりぐりと足で私の傷口を踏みつけてから、ゆっくりと私の横に膝をつけた。

 意識が朦朧としていて、視界は完全にぼやけていた。

 奴の顔も分からないほどで。力が抜けていく……。

 

「逃げるなよ。お前がいなきゃ話にならない」

「はぁ、はぁ、はぁ……お前、女にモテないだろ?」

「……あ?」

「はっ、図星かよ……だっせぇな」


 最期の抵抗。精一杯の虚勢だった。


 私は強がりで奴を侮辱する。

 恐らく、私はもう逃げられない。

 これ以上は進むことは出来ない。

 だけど、抵抗せずに死ぬ訳にはいかない。

 どうせ死ぬのなら、最期の最期まで抗ってやる。


 奴はくつくつと笑いながら、注射器を勢いよく私の首に差し込んだ。

 ずきりと首が痛みを発して、何かが勢いよく体の中に流れ込んでいく。

 くぐもった声を上げながら、私はバタバタと手足を動かした。

 奴は片手で私を抑え込みながら、最後まで不敵に笑みを浮かべていた。


「可愛げのない奴だ。何でお前なんかを好きになるのか……本当に、理解できないよ」

「……言ってろ。クソ根暗」

「……存分に苦しめ。苦しんでいく様を、あの男に見せつけろ。それがお前の役割だ」

 

 薬剤を流し込まれて、体中に広がっていく。

 その瞬間に体に異変が起き始めて。

 体中が痛みを発して、地獄の大釜のように熱くなっていく。

 全身の骨が砕けたように痛みであり、私は声にならない悲鳴を上げた。

 もがけばもがくほどに、体中が強い痛みを発する。

 意識が朦朧とするが、痛みで強制的に戻される。


 痛い、痛い、苦しい、痛い、苦しい痛い痛い痛い痛痛苦痛苦痛痛――ッ!!


 激痛が全身を駆け巡る。

 息が出来ないほどに苦しくて。

 次第に体から力が抜けていく。

 血が沸騰したかのように強い熱を感じて。

 強烈な痛みと共に倦怠感と吐き気を覚えた。

 

 地獄のような苦しみで、死を懇願するほどの痛みだ。

 それを受けながら、私はゆっくりと視界がボヤけていく感覚を覚えた。

 

 力が、ゆっくりと、抜けていく……。


 そんな私を奴は乱暴に背負って運んでいく。

 何をしようとしているのか。

 クソ野郎の考えは何となく分かる。

 マサムネの心を完全に折ると言ったのだ、そういう事だろう。


 

 ――だけど、そうはさせない。


 

 私はアイツの相棒だ。

 そして、私にとってアイツは何よりも大切な存在だ。

 そんな人間の心を折れさせはしない。

 最後まで私は抗う。最期まで私は戦う。


 例え、命が終わるとしても。

 私は、私として、奴の心を守って見せる。

 どんなに苦しくても、どんなに痛くても――私がアイツに勇気を与えるッ!!

 

 アイツを悲しませない為に、アイツを苦しませない為に。

 最期の力を振り絞る覚悟で――私は小さく笑みを浮かべた。

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