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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第六章:光を超えて

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224:未来を変える意思

「……で、どうするんだ」

「……どうするって……そんなの……っ」


 バネッサ先生の部屋へと戻り、仲間たちと話し合う。

 空気は重く、これからの事を話すような流れではない。

 ゴウリキマルさんが告死天使に連れていかれて、俺たちはすぐにでも追いかけようとした。

 しかし、サイトウさんから何処へ行くのかと聞かれて、俺は何も答えられなかった。


 闇雲に追いかけても、彼女を取り戻す事は出来ない。

 鍵は持っているが……これを使う事は”出来なかった”。


 告死天使が去って、俺はサイトウさんからの指示を受けて祠からオーバードを回収しようとした。

 それがあれば勝てる筈だと言われて、俺は少し躊躇った。

 彼女たちは知らない。オーバードが呪いを授けるものだと。

 これを起動してしまえば、俺は呪われて怪物とやらになる。

 そうなれば、ゴウリキマルさんを連れ戻しても、俺だと認識できないのではないかと思った。


 だが、そんな迷いも一瞬だけだ。

 すぐに、彼女の命が最優先だと判断して祠へと向かったが……破壊されてしまった。


 一瞬の隙をついて、告死天使が仕掛けたであろう爆弾が起爆した。

 時限式の爆弾であり、俺は嫌な予感がして仲間たちを愛機で守った。

 その結果、誰一人として死ぬ事は無かったが、祠は完全に潰されてしまった。


 瓦礫に埋もれて、扉は消滅し。

 封印する為の機能が完全に消えた事によって、鍵から発せられた光も無くなった。

 これが意味する事は、祠でオーバードを回収する道が絶たれたと言う事だ。

 

 もう、オーバードを使う事は出来ない。

 可能な方法で言えば、海底神殿のオーバードを使うしかないだろう。

 だが、俺は彼女が攫われてから考えた。


 何故、奴は俺が持つ鍵に興味を示さなかったのか。

 奴らの目的はオーバードであり、これさえあればそれを手にする事が出来る。

 その筈なのに、奴は鍵を奪う事もせずに俺を殺そうとした。

 アレは何故なのか。理由は、大体判った。


 オーバードが二つ。

 それなら、オーバードの封印を解くために必要な鍵も――”二つ”あるんじゃないか?


 奴は、その答えを知っていた。

 知っていたからこそ、俺の鍵には興味を示さなかった。

 俺が手にする鍵では無く、奴はゴウリキマルさんが持っているもう一つのカギを欲した。

 その鍵は、十中八九が”アレ”で……俺の失敗だ。


 こうなるのが分かっていれば、彼女を祠に連れて行かなかった。

 もっと早く、鍵が二つある事に気が付いていれば、彼女からアレを貰う事も出来た。

 そうすれば、奴はゴウリキマルさんでは無く俺と交渉を――いや、待て。


「……机にあったものは? サイトウさん、ゴウリキマルさんは荷物を持っていったんですか?」

「……いや、置いていた……一つ減っている。何故?」


 机には彼女の私物が置かれていた。

 今まで気づかなかったが、この状況は可笑しい。

 アレはポーチから出して置いていた。

 普通であれば、態々、アレだけを持っていく筈なんて無い。

 持っていくのなら、ポーチ事持っていく筈だ。


 それなのに……何で、アレが消えているんだ?


 何処を探しても無い。

 仲間たちが俺の言葉を聞いて慌てて探す。

 しかし、それは何処にも無かった……まさか。


 俺はポケットから鍵を出す。

 そうして、それを振り上げて――投げ飛ばした。


「お、おい!」

「……やっぱりだ」


 トロイが慌てていたが、俺がゆっくりと手を開けば――鍵があった。


 遠くへ投げた筈のそれが、手元に戻ってきている。

 何の予兆も前触れも無く、俺の手にすっぽりと収まっていて。

 仲間たちが驚きながら、この現象を不思議そうに見ていた。


 これで分かった。

 奴は鍵を欲していた。

 そして、その欲した鍵は、何処に隠そうとも関係ないのだ。

 所有者が決まれば、勝手にその所有者の手元に戻って来る。

 俺が持っている鍵は、本来であればゴウリキマルさんが所有者だろう。

 しかし、俺が触れたことによって鍵になった。

 つまり、その時点で鍵の所有権が俺に移った事になる。


「……あの鍵の所有者は、間違いなくゴウリキマルさんだ……でも、奴が手にすれば……」


 所有権が移されれば、その時点でゴウリキマルさんは用済みとなる。

 そうなってしまえば、彼女の身が危険だ。

 一刻も早く、彼女を追いかけて救出する必要がある。

 だが、俺は告死天使の居場所を――誰かが入ってきた。


 全員が警戒して振り向けば、ショーコさんの姿をしたロボットが立っていた。

 皆がホッと胸を撫でおろして、俺はこのタイミングで戻って来たのかと見た。

 見たところ体に外傷は無さそうで、ロボットはゆっくりと俺の前に立つ。

 

《――今すぐに虚数空間から出て。繰り返します。今すぐに虚数空間から出て》

「この声は、ショーコさん?」

「え、いや、ショーコだろ……アレ、口が動いてねぇ?」

「……ロボットだよ。外見はホログラムだ」


 トロイに対してオッコが説明する。

 俺はショーコさんの音声記録に従って、バネッサ先生に島を表に出すようにお願いした。

 彼女は頷いてから、端末を指で操作した。

 すると、光の線を描くように画面に何かの文様が描かれた。


 島全体が揺れ始める。

 その揺れを体全体で感じながら待つ。

 暫く待てば、窓から差す光が変わった。

 オレンジ色の灯りでは無く、太陽の光が差していた。


 瞬間、端末が震え始めた。


 俺はゆっくりとポケットからそれを取り出す。

 連絡をしてきた人物を確認してから、俺は通話をオンにした。


《……やっと繋がった。表に出たって事は……やっぱり、そうなるんだね》

「……こうなるって知ってたんですか」

《……厳密には違う。私の知っている”未来”とは違うから……マサムネの命は守れたけど、ゴウリキマルは連れていかれた……他に何か変わった事はある? 手短に教えて》


 俺は彼女に祠が潰された事を伝えた。

 そして、俺を守る為にサイトウさんが負傷したことも伝えた。

 すると、彼女は全てを理解したように重い息を吐きだした。

 辛そうであり、苦しそうな吐息だった。

 何故、そんなにも辛そうなのか……彼女はゆっくりと説明した。


《……私は今から、告死天使の元に行く。勝てないだろうけど、時間を稼ぐ事は出来る》

「時間を稼ぐ……何を言って」

《……鍵は持っているよね? マサムネはすぐに東源国にファストトラベルして。そして、天子から潜水艇を受け取って。多分、もう完成していると思うから。それで、奴よりも早く》

「何を言ってるんですかッ!!」


 俺は思わず声を荒げてしまった。

 彼女が言っている言葉の意味は理解している。

 オーバードを渡さない為に、奴よりも先に海底神殿に行けと言うのだ。

 しかし、そうするという事はゴウリキマルさんはおろか……ショーコさんですら見殺しにするという事だ。


 いや、そもそも潜水艇が完成するまでには四ヶ月は掛ると言っていた。

 それがたった二ヶ月あまりで完成するなんてあり得るのか。

 絶対にあり得ない。あり得るとしたら、それは”最初”から気づいていた以外にあり得ない。


 必要だから、前もって設計して作っていた。

 それこそ可能性が無い筈なのに、ショーコさんは出来ていると言った。

 そもそも、何故、彼女は潜水艇の情報を持っているのか。


 考えられる可能性は幾つもある。

 いや、最初から一つしか存在しない。

 東源国はゴースト・ラインと関りがあった。

 そして、天子は関係を切ったと言っていたが……実際には関係は続いていた。


 だからこそ、海底神殿の事も知っていた。

 いや、違う言い方をするのであれば、技術提供や情報の支援を受けていた。

 だからこそ、四ヶ月は掛る筈の潜水艇の開発が、たった二ヶ月で完了した。

 最初から、俺は奴の掌の上で踊らされていた。

 奴の企みにまんまと嵌められて、今も利用されようとしている。


 何が目的か、何が狙いか……だが、今はそんな事どうでもいい。

 

 仲間を見捨てるなんてダメだ。

 二人を見す見す見殺しにする事は出来ない。

 俺にとって二人は何よりも大切な存在で、絶対に守らなければいけない存在だ。

 俺は告死天使の場所を教えるようにショーコさんに言った。


 しかし、彼女は何も言わない。

 ただ無言で、俺の言葉を聞いている……この音は何だ?


 風切り音が聞こえる。

 凄まじい速度で移動しているのか。

 彼女は恐らく空の上であり、メリウスか輸送機に乗っているのか。

 何処へ向かっているのかと俺は考えた。


 だが、その時間は無かった。


《……何を言っても無駄だよ。決められた未来は変えられない。私の運命は、もう、決まっているから》

「ダメだ。ダメだダメだダメだッ! 切らないでくださいッ!! 俺も一緒に」

《――さようなら》


 ぶつりと通信が切断された。

 俺は端末を降ろして、顔を片手で覆う。

 今の声が聞こえていた仲間たちは、俺に視線を向けてくる。


「マサムネ、東源国に行け」

「……嫌です」

「行け。何もかも、手遅れになるぞ」

「……それでも、俺は……ッ!」


 サイトウさんが俺の胸倉を掴む。

 そうして、鋭い目で俺を睨みつけて来た。


「お前には何も出来ない。力が無いお前には、何も救えない」

「……そんな事、分かっている。分かっているさ……それでもッ! 俺は彼女たちを救いたいッ!」


 ゴウリキマルさんやショーコさんの笑顔を思い出す。

 二人で笑みを浮かべて、何時も楽しそうにしていた。

 あの笑顔は本物で、俺にとって大切な存在は間違いなく彼女らだ。


 サイトウさんの手を振りほどく。

 そうして、俺はずきりと頭から発せられる痛みを感じた。

 

 見捨てるなんて選択肢はない。

 オーバード何てどうでもいい。

 俺にとって最も大事なのは”世界”なんかよりも――”心から愛する人”たちだけだッ!


 俺の強い願い。

 二人を守りたい心。

 それに触発されるように、鍵から光が発せられた。

 そうして、俺の頭の中に――鮮明な光景が浮かび上がった。


 

 

 銀色の塔、無数のメリウスの残骸。


 第一世代型のメリウスと思わしき巨大なそれが、膝をついている。

 

 草花が生えて、自然に覆われた残骸たち。

 

 それらの墓標のように、巨大な銀色の塔が立っている。

 

 そこには深紅のメリウスがブレードを持って立っていた。


 彼女の前には、全身をスパークさせる青藍のメリスウが膝をついていて――それが一刀のもとに斬り伏せられた。


 

 

『――さよう、なら』




 鮮明に見えた光景。

 最後に聞こえた声はショーコさんの声で……これは、未来の……。


「……オッコ。今すぐに調べて欲しい事がある」

「……いいぜ。何でも言ってくれ」

「おい、時間の無駄だ」

「はぁ? 知らねぇよ。アンタよりも俺はこいつを信じてるんだ。行きたいなら、一人で行くこったな」

「……チッ」

「……すみません」


 これは俺の我が儘だ。

 ショーコさんの言った通り、本来であれば東源国に行くべきだろう。

 だけど、俺はもう二度と仲間を失う訳にはいかない。


 オッコに俺が見た光景を伝える。

 なるべく詳細に、なるべく分かり易く。

 オッコは端末を操作しながら、該当する場所を調べてくれた。

 そんなオッコを見ながら、俺はショーコさんたちの無事を祈った。


 絶対に助ける。

 絶対に死なせはしない。


 強く、強く願いながら――俺は”未来を変えたい”と強く願った。

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