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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第五章:希望と絶望

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217:目的と警告

 青年が、目を覚ましたらしい。

 バネッサ先生から一人で来て欲しいと頼まれて、俺は指示された通りに一人で医務室に来た。

 扉を潜って中へと入り、強化ガラス越しに青年と視線があった。


 相も変わらず包帯でぐるぐるに巻かれてミイラの様だ。

 彼も自覚はあるようで、くすりと笑みを零す。

 俺も小さく笑いながら、死闘を繰り広げた強者に目を向けていた。


 部屋のマイクは既に起動している。

 彼は咳ばらいをしてから、ゆっくりと言葉を発した。

 

「……入って来ないのか?」

「いや、いい……あまり近くで見られたくないだろ?」

「……まぁ、そうだな……でも、今はいい。来てくれないか」

「……分かった」


 俺は青年の指示通りに部屋の中に入ろうとした。

 扉の前に立ってから、スッと監視カメラへと視線を向ける。

 すると、扉のロックは自動で解除された。


 中へと入れば、何の臭いもしない清潔で真っ白な部屋で。

 こんな所にずっといれば気が狂いそうだとは思った。

 部屋の中を見渡してから、俺は徐に青年の横たわるベッドに近づいた。

 足音を鳴らして近づけば、彼はゆっくりと首を俺に向けて来た。


 彼は小さく笑う。


「……本当に、入って来るんだな」

「まぁな……傷は痛むか」

「……少しな……セブンさん……あの無人機は無事か」

「あぁ大丈夫だ。大人しくお前の帰りを待っているよ」

「……そうか」


 安心する様に吐息を零す。

 そんな青年を見ながら、俺は青年の様子を伺っていた。

 傷は痛むだろう。すぐには動けない筈だ。

 武器を取って襲ってくることは無いとタカを括っていたが……問題はないな。


 まぁ問題があれば、そもそも部屋の中に入れないだろう。

 監視カメラで確認していた時点で、この男の事をバネッサ先生は信用していない。

 要求は呑んでも、安全は最低限確保する……そんな所だろうか。


 簡単に状況を分析してから、俺は何を言うべきかを考えた。

 彼が起きた時に色々と質問しようとは思っていた。

 ショーコさんの事やバネッサ先生の事。

 ゴースト・ラインの本当の目的や告死天使の動向について。

 知っている事全て話してもらおうと思っていたが、本人を前にすると中々口から出ない。

 

 俺は中途半端に口を開け閉めして。

 頬をポリポリと指で掻きながら、困ったような顔をした。

 怪我人に対して。それも、さきほど意識を戻した人間に矢継ぎ早しに質問するのは気が引ける。

 互いに口を閉ざして沈黙し、いたたまれない空気が場を支配する。


 その時に、青年がスッと言葉を発した。


「……セカンドさんは、元気か?」

「……ショーコさんの事だよな。元気だよ」

「……そうか……やっぱり、シナリオの通りだな」


 彼はぼそりと呟く。

 シナリオという言葉に、俺はピクリと眉を動かした。

 そうして、曖昧にされない内にシナリオについて質問した。


 彼はゆっくりと視線をカメラに向ける。

 何かを考えている様子で……聞かれたくないのか?


 話し辛いのならカメラを切ってもらう事も可能だろう。

 俺がバネッサ先生に連絡を繋げようとすれば、彼は此方に視線を向けて来る。

 端末をポケットから出そうとした俺は彼の視線でその動作を止めた。

 彼は無言で掛けるなと言っているようで、俺はそれに従うように端末から手を離した。


 青年はゆっくりと前を向き、ぽつぽつと語り始めた。


「……俺たちゴースト・ラインは元々はただの傭兵だったり、軍人だった……今の組織は、過去を消した俺たちの拠り所だ。帰る場所を失った俺たちの、唯一の家だ……ボスは、そんな俺たちの恩人で……彼には未来視ではない別の力が備わっていた……その力を使って、彼は未来で起きる事を予知して”シナリオ”として脳内に纏めている」

「……未来を予知? それは未来視じゃないのか?」

「違う……が、それが何かは俺たちにも知らされていない。ボスは俺たちを信頼しているが、万が一を想定している。シナリオについてもその人間に関りのある事しか知らせない……まぁ、所々で綻びは発生するがな」

「……お前の行動も、その綻びの一つか」

「まぁな……ボスを俺は信じている。でも、この感情を抑えておくことは出来なかった……結局、俺にも傭兵の血が流れていたという事だな」


 彼は自嘲的な笑みを浮かべた。

 辛そうな顔で笑いながら、彼はゆっくりと視線を俺に向けて来る。


「ゴースト・ラインの最終的な目的はただ一つ……世界の終焉を防ぐ事だ」

「世界の終焉か……またスケールの大きい話だな」

「……信じられないだろうな。無理も無い。俺も最初はそうだった……でも、ボスと共に行動して気づいた。彼のシナリオは精確で、世界の終焉は着実に進んでいる……防ぐ為には、オーバードが必要だ。強大な力には、同等以上の力で立ち向かう必要がある」

「待て。世界の終焉があるとして、それは誰が引き起こす? お前たちは知っているのか?」

「残念ながら、それは分からない……だが、可能性が高い人間は一人だけ存在する」


 彼の言葉を聞いて、俺はすぐに当たりをつけた。

 この世界で最強の称号を与えられた怪物。

 人間離れした機体の操縦技術に加えて、未来視の力もあるであろう男。


 

 俺はゆっくりとその男の名を呟いた。


 

「――告死天使か」

「……そうだ。あの男が終焉を引き起こす。俺はそう考えている」

「そこまで分かっているなら……何故……」

「言いたいことは分かる……何故、防げなかったのか。それは奴があまりにも規格外だったからだ……どれだけの数を揃えても、どれだけ優れたパイロットを宛がっても、奴を倒せた人間は一人もいない……たった一度の敗北も、奴には存在しない」

「……ファーストでも、勝てないのか?」

「……難しい質問だな。その答えは……俺には分からない。どうなるのかは、答えを……出したくない」


 

 彼は息をゆっくりと吐き出す。

 そんな彼の横顔を見つめながら、俺は告死天使への警戒度を更に跳ね上げた。

 世界の終焉を引き起こす可能性の高い人間。

 それは間違いなく奴であり、未来を知っていても誰も止められなかった。

 どんなに罠を仕掛けようとも、有利な条件で戦いを仕掛けたとしても、奴は勝つ。

 誰もが及ばないその力で、立ち塞がる敵を悉く破壊してきたのか。


 俺自身も奴を恐れていた。

 もしも敵に回せば、俺に勝ち目は無いだろう。

 今でも奴に対して勝てるヴィジョンが浮かばない。

 一対一では確実に殺される。仲間たちと連携して……勝てるかどうかも怪しいだろう。


 恐らくは、奴はゼロ・ツーと行動を共にしている。

 それを考えれば、奴が一人で戦いに来るとも考え辛い。

 推測の範囲ではあるが、自らの戦いを有利に進める為に奴は仲間を利用するだろう。

 足止め。それよりかは、もっと別の使い方をする筈だ。

 三年もの間、奴の傍で奴の戦いを見ていた。

 ほとんどが一瞬でケリはついていたが、ゼロ・ツーなどがいれば使っていた。

 保険代わりに、自らの負担を軽減する為……警戒はしておいた方がいいだろう。


 今現在の状況で言えば、告死天使とその仲間たちは俺の敵で。

 ゼロ・ツー以外にもゼロ・スリーなども控えている。

 奴らが戦闘に加われば厄介であり、なるべく危険は減らしておきたい。

 しかし、俺は奴らの現在地を把握していなかった。

 相手も此方の位置は予測できないだろうが、どこから襲って来るかは分からない。

 

 眉間に皺を寄せながら考える。

 奴は何れ俺たちの元に来るだろう。

 その時に戦う事も出来ずに殺される可能性だって十分にあるのだ。

 奴はトップクラスに危険であり、油断ならない相手だ。

 そんな事を考えいれば、青年はゆっくりと言葉を発した。


「……ボスは、鍵を回収する様に俺に命令した……だが、俺はその命令を果たせなかった」

「……任務に失敗したらどうなるんだ?」

「……さぁな。どうだろう……俺はもう帰るつもりはない。その覚悟はしてきた……お前に頼みがある」


 彼は静かに俺を見つめる。

 頼みがあると言われれば、嫌でも緊張してしまう。

 俺は無言で彼を見つめて、頼み事について聞く姿勢を作った。


「……オーバードを回収出来たら……お前がそれを」

「――待った!」


 彼の言わんとしたことが分かった。

 だからこそ、俺は彼の願いを遮って待ったを掛けた。

 彼は不満がありそうな顔で俺を見つめる。

 そんな彼を見ながら、俺は気まずそうに言葉を発した。


「あぁ、そういう頼みは利けないんだ……悪いけど、相棒がさ。破壊しろって言うんだよ」

「…………まぁ、それでもいい……出来るかどうかは知らないが……兎に角、奴の手に渡らなければそれでいい……お前は、欲しくないのか?」

「ん? あぁ無い無い。そんな物騒なものに興味なんて無いよ……何だか、呪われそうだし」

「……ふっ、そうか……変わった奴だな。お前」

「……自分でもそう思うよ。はは」


 乾いた笑みを零しながら、俺は彼を見つめる。

 頼み事は利けないが、言わんとしたことは伝わった。

 兎に角、奴にオーバードを渡さなければいい。

 ゴウリキマルさんを守りながら、鍵を見つけて死守する。

 二つの事を同時にしなければならないが、やってみせるさ。


 大船に乗ったつもりでいろと彼に言う。

 すると、彼は「期待している」とだけ言った。


「……ところで、この船はどこを目指しているんだ?」

「ん? あぁ……まぁ安全な場所だ。告死天使も簡単には入れないだろうさ」

「…………そんな場所は…………いや、いい」


 彼は一瞬何かを考えていた。

 しかし、首を左右に振って気にするなと言う。

 俺はそんな彼の一瞬の思考を不思議に思った。


 不思議には思ったが、深くは考えない。

 取り敢えずは、これだけ聞けたら今は良い。

 ショーコさんはやはりゴースト・ラインの幹部だった。

 彼らは根っからの悪党では無く、崇高な目的とやらがあったのも理解できた。


 俺は手を叩いて、今日は帰ると伝える。

 すると、彼も少し話疲れたと言って瞼を閉じた。

 眠りにつこうとしている彼に別れを告げて、俺は部屋から出て行こうとした。


「……一つ、言っておきたい事がある」

「ん? 何だ」


 突然、彼は言葉を発した。

 何が言いたいのかと聞けば、彼はゆっくりと警告のような言葉を俺に伝えて来た。

 



「――怒りに呑まれるな。恨みによる行動は、破滅を齎すから」

「…………良く分からないけど……まぁ、肝に銘じておくよ」




 彼はもう何も言わない。

 俺は挙げた手を引っ込めてからポケットに突っ込む。

 そうして、部屋から出て扉がロックされたのを確認した。


 強化ガラス越しに見える彼の表情は穏やかで……あの言葉の意味は何だ?

 自分のようにはなるなと言いたいのか?

 

 分からないが、これ以上深く考えるのはよした方が良いだろう。

 医務室の扉の前に立てば扉が自動でスライドして開かれた。

 俺はそれを潜って外に出て、閉じられた扉に顔を向ける。

 バツの悪そうな顔をしながら、俺は髪をぼりぼりと掻いた。


「……不吉だな……何も無ければいいけどな」


 これ以上、大切な仲間を失いたくはない。

 その為ならば、命だって懸けられる。

 彼の不吉な忠告が頭にこびついて離れない。

 俺は大きくため息を吐きながら、とぼとぼと長い廊下を歩いて行った。

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