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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第五章:希望と絶望

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213:真夜中の秘め事

 皆が寝静まった夜の刻。

 ベッドに横になりながら、俺はジッと天井を見つめていた。

 カチカチとい時計の秒針の音が響く、真っ暗な部屋の中で俺は眠りにつこうとしている。

 空調を切り、少しだけ暑さを感じる部屋の中。

 ふと横に目を向ければ、扉は開けっ放しで。

 誰でも侵入可能な部屋で寝ている俺はさぞ間抜けに見えるだろう。


「……来るかな?」


 俺がもしもスパイだったら。

 標的が寝静まった時を見計らって部屋に侵入する。

 大体、深夜の二時や三時で……今は、まだ一時過ぎくらいか。


 怖いと言えば怖い。

 何時来るかも分からない敵を想像すれば今にも震えそうだ。

 本当に襲ってきたとしたら、俺は瞬く間に殺されるだろう。

 いや、殺されるだけならまだいい。もっと恐ろしいのは……あぁダメだ。


「眠れねぇよなぁ……いや、逆に良い気もするけど……」


 起きていれば襲われる心配も無い。

 だけど、人間は眠らなければいけない生き物だ。

 元はロボットであったとしても、今はただの人間で。

 俺だって何時かは眠りにつく。それも疲れれば疲れるほどに、深い眠りについてしまうだろう。

 そうなれば、敵の侵入にも気づかないまま殺される……無限ループぅ。


 嫌な考えが次々に浮かんでくる。

 消しても消しても倍になって増殖する。

 嫌な想像の無限ループで……吐きそうだ。


 格好つけたのはいいけど。

 これじゃただの馬鹿だ。

 どうぞ殺してくださいと言っているようなもので。

 俺は自らの頬が熱くなっていくのを感じながら、シーツをすっぽりと被った。


 恥ずかしい。恥ずかしくて死にそうだ。

 俺はどうして、こうも無鉄砲なのか。

 そんなんだから、ゴウリキマルさんの優しさに甘えてしまう。

 彼女は俺に呆れたり叱ったりするけど、決して見放したりはしない。

 最後まで見守ってくれて、今回だって彼女は何も異論を挟まなかった。


 ゆっくりとシーツから顔を出す。

 そうして、空いている扉の先を見つめた。

 暗闇の中で、ほのかに明かりが灯っている。

 廊下を照らす足元のライトが等間隔で灯っているのだろう。


「……皆、眠れたのかな……不安だよな」


 ガスの事は伝えられた。

 俺の言った事を守ってくれたのなら、取りあえずは安全で。

 いるかも分からない敵も、空調を切り隙間を閉じれば攻撃は出来ないだろう。

 作業用ロボットに関しても、システムをアップデートして防壁を作ってみたとゴウリキマルさんから聞いた。

 容易には使えなくなっただろうし……あ、そう言えば二人は何かをしに行ったのよな?


 俺が今回の行動を話した後に、二人は何処かへ行ってしまった。

 ゴウリキマルさんが手伝って欲しいと言っていたが。

 もしかして、センサーの類を作りに行ってくれたのか?


 センサーに関しては、冷静に考えてそこまでする必要は無いと俺が勝手に判断した。

 ガスによる攻撃が出来ないのであれば、部屋の中にいる人間に攻撃する事は出来ない。

 無理やりにセキュリティーを突破してくる事も考えたが。

 この船のセキュリティーをそう簡単に突破する事は出来ない。

 ゴウリキマルさんが見てくれたから分かるが、そこそこ強力な防壁だと言っていた気がする。

 今までの行動でも、船のシステムが破られた形跡は無い。

 ハッキングが出来ないからこそ、敵はブリッジへと行き直接ウィルスを仕込ませなければいけなかった。

 それは敵に船のシステムに侵入するだけのハッキング能力が無かったからだ。


「……いや、可能だったかもしれない……本当に、訳が分かんねぇな」


 ガシガシと頭を掻く。

 頭を働かせて考えるのは苦手だ。

 今も昔も……いや、”昔は”そうでもなかった気がする。

 

 ロボットの時は計算も考察も得意だったかもしれない。

 まぁ機械だから、それはそうだろうけど。

 でも、人間の俺はまるでそういう事が出来ない。

 まるで、最初からそういう機能が無かったみたいに……まぁ思い過ごしだろうけど。


 何故、この世界で人間になれたのかは分からない。

 何故、俺は過去の記憶を封じていたのかも分からない。


 分からない事だらけであり、分かっている事の方が少ない気がする。

 この世界は好きだが、謎が多過ぎる。

 俺自身の過去が分かっても、これでは何の意味も無い。

 進んで、進んで、自分自身が何処を進んでいるのかも分からないようなものだ。

 我武者羅に進んでいても、謎は深まるばかりで……でも、これでいい。


 確実に俺は真実に迫っている。

 何故だかは分からないが、俺の心がそう言っている気がした。

 俺は両手を頭の下に置きながら、ニヤリと笑う。


「……何時かは分かる……たぶん」


 思わせぶりな独り言も、今は誰にも聞かれない。

 俺は言いたいことを言って、考えるだけ考えた。

 そうすれば少しだけ疲れてきて、心も落ち着いて来たような気がする。

 今なら眠れそうであり、俺はゆっくりと瞼を閉じ……いや、無理だな。


 

 誰かが来ている。

 コツコツという靴の音が聞こえてきていた。

 誰かが真っすぐに此方に向かってきている。

 隠す気も無いようであり、俺は目を細めながら扉の先を見つめた。


 

 誰だ。誰が来ている?


 

 落ち着いて来た心がざわめく。

 心臓の鼓動が静かに早まっていった。

 眠ったふりをするか。いや、すぐにバレるだろう。

 だったら、此方から迎え撃つ。


 俺はベッドから起き上がる。

 そうして、ひたひたと裸足で床を歩いて行った。

 扉の近くに立って、息を殺す。

 接近してくる人の気配を感じながら、俺は片手を握りしめる。

 硬く拳を握りながら、俺はゆっくりとその時を待った。


 一人、二人……アレ、何か多くないか?


 可笑しい。妙だ。

 いや、でも、此処まで来たのなら――今だッ!!


 一瞬で隠れていた場所から飛び出す。

 そうして拳を振りかぶって、声も発する事無く飛び掛かった。

 すると、立っていた何かは”ナニカ”を盾にした。

 ぼふんと効果音がつきそうな感触で、綿のように柔らかくて……は?


「あああぁぁぁぁ!!!?」

「うあぁぁぁぁ!!!?」


 目の前に掲げられたのは嫌にリアルな顔をした巨大なデブ猫。

 その迫力に声を出せば、それを盾にした本人も野太い悲鳴を上げた。

 互いに叫びながら、互いに視線を交わして……いや、おい。


 ゆっくりと声のボリュームを落としながら、俺は人差し指を向ける。

 ほのかに灯る明かりのお陰で暗闇にも目が慣れていた。

 巨大なデブ猫のぬいぐるみを持った男は小麦色に焼けた肌の髭面で。

 顔に似合わない水玉のパジャマに青いナイトキャップを被った――トロイだった。


「え、お前。え、おま……何その格好?」

「え、そこ? 今そこじゃないだろ? 何で来たのかって……え、違う?」


 トロイが目を丸くしながら後ろにいるレノアに聞く。

 すると、彼女は重く深く頷きながら「そこです」と言う。

 ショーコさんやゴウリキマルさん。オッコまでもが俺の疑問に共感してくれていた。

 すると、トロイは自分の姿を見ながら「そんなに変かなぁ?」と言う。


 いや、まぁ、それは置いておこう……すごく気にはなるけど。


 俺はゆっくりと集まってくれた仲間に目を向ける。

 どうして此処に来たのか。どうして、来てしまったのか。

 その理由を聞くのは無粋だろう。

 俺は小さく笑みを浮かべながら、親指で部屋を指す。


「……布団出すよ。手伝ってくれないか」

「――おぅ!」


 トロイの元気な声を聞きながら。

 俺は皆を部屋に招く。

 彼らは皆一様に笑みを浮かべていて。

 学生の旅行のようにはしゃいでいた。

 微塵も不安なんて抱いていない。

 欠片も隣の仲間を疑っていない。

 俺はそんな仲間たちを見ながら、小さく笑い布団を出しに行った。


 §§§


 瞼を閉じながら、仲間たちの吐息を聞く。

 穏やかに寝息を立てていて……約一名、いびきを掻いているが。


 トロイは相変わらずであり、本当に愉快な奴だ。

 俺は笑みを浮かべながら、温かな空間で規則正しく呼吸をした。

 まるで眠っている様に、穏やかな夢を見ている様に。

 そんな俺の顔を伺うように誰かが立った。

 ジッと俺の顔を見ながら、傍で立っている。

 敵意も殺意も無く、ただ観察しているだけの視線。

 それを黙って受けながら、俺は眠ったふりをしていた。


 

「……起きてるよね」

「……」

「……甲板で待ってる」


 

 それだけ言って、彼女は去っていく。

 皆が寝静まった時間に、彼女は一人で甲板に向かった。

 俺はゆっくりと目を開けてから、体を起き上がらせる。

 覚悟はしていた。この瞬間が来ることも予想していた。


 俺は近くに置いた端末を手に取って……いや、いい。


 端末を戻してから、俺は靴を履いて歩いていく。

 音を立てないように歩いて、仲間たちを起こさないように移動した。

 そうして、廊下に立ってから仲間たちを見る。

 穏やかな寝顔であり、彼らは幸せな夢でも見ているのだろう。

 このまま時が止まればいい。幸せな時間の中で生きていたい。


 

 ――でも、それは人生じゃない。


 

 幸せがあれば、不幸だってある。

 その繰り返しであり、何方も経験しなければ人生じゃない。

 辛くても悲しくても、人は必死になって生きる。

 彼らはそんな人生の中で巡り合えた貴重な友人だ。

 仲間は一生の宝であり……失う訳にはいかない。


 ゴウリキマルさんを見れば、彼女は確かに眠っている。

 規則正しく呼吸していて、瞼もしっかりと閉じられていた。

 彼女も薄々は気づいていた。気づいていながら、俺がしたいようにしてくれた。

 それはきっと俺を信じてくれていたから。

 この先を進み、甲板で待つ彼女に会えば、俺は嫌が応にも選択を迫られる。

 拒むことも逃げる事も出来ない。

 間違えればただでは済まないだろう……それでも、俺は進む。


 その為に、こんな行動に出た。

 全ては、彼女と面と向かって対話する為で。

 お互いの心を曝け出して、全てを話す時間が必要だった。


「……行ってきます」

「……」


 返事は返って来ない。

 だけど、それでいい。

 俺はしっかりと頷いてから、足を動かした。

 真夜中の船内を歩きながら、俺は確かな信念を胸に抱く。

 決して迷わない。決して後悔しない。


 

 これは俺が決めた道だ――誰も、失わせはしない。


 

 一歩一歩、踏みしめて歩いていく。

 近づいてくる真実に目を背けないように。

 俺は前だけを見て、暗闇の中を歩いて行った。

 静かに俺の靴の音だけが響く船内で、俺を待っている彼女を想像する。

 どんな気持ちか、どんな顔をしているのか。

 分からないが。きっと、これで変わる。


 良い方向に変わるのか。

 それとも事態は更に悪化するのか。


 信じて託されたのだ。

 成し遂げて見せる。

 俺が必ず。この流れを――断ち切る。


 確かな想いを抱いて、俺は彼女の元へとゆっくりと向かう。

 何があっても後悔しない。何があろうとも、俺は拒まない。

 自分の心にそう言い聞かせながら、俺は暗闇の先を見つめていた。

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