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201:狡猾な企みの全貌

 重い空気が場を支配する。

 誰もが口を閉ざして何も語らない。

 ただ静かに時計の秒針の音だけが聞こえてきて、俺はどうしてこうなったのかと床を見つめる。


 トロイからオッコがサイトウさんに連れ去られた事を聞かされて。

 俺は急いでサイトウさんに通信を試みた。

 しかし、最初の内は、彼女は俺からの通信を無視していた。

 彼女がオッコに対して何をしているのかと気が気じゃなかった。

 もしもオッコの身に何かあれば、そう思っていた。


 だが、結果的にはオッコは無事に発見出来た。

 彼女から送られてきた座標によって拘束されている場所はすぐに分かった。


 問題があったのは、彼女のメッセージと送られた映像だ。

 神薬が使われた疑いがある。そして、証拠となる映像。

 ウィルスをシステムに流し込んだ犯人の顔は紛れも無く――オッコだった。


 俺はすぐにそれはフェイクの類ではないのかと考えた。

 オッコの身柄を確保して、彼をホテルへと連れ帰ってから。

 監視役としてトロイとレノアの二人を部屋の前に配置して。

 俺とゴウリキマルさんはすぐに調べた。

 まだ気分が優れないであろう彼女に助力を乞うのは気が引けた。

 しかし、この状況は彼女の力無しでは解決できない。

 俺はそう判断して、彼女の今の状況を説明して映像の解析を頼んだ。


 彼女は一瞬だけ迷っていた。

 しかし、すぐにやると言ってくれて、持ってきたPCで映像の解析を進めてくれた。

 俺は扉や窓を警戒しながら、彼女の解析が終わるのを待った。

 待って、待って、待って――結果が出た。



 解析の結果は……残念ながら、本物だった。



 フェイクの類ではない。

 あれは紛れも無く本物であり、映っていた人間はオッコだと言う。

 影も、背格好も、顔の輪郭にも違和感はない。

 全てカメラが写し取った真実で……俺はそれを仲間たちに報告した。


 オッコにも勿論、質問した。

 これはお前なのかと聞いた。

 映像を見たオッコは目を細めて「俺じゃない」と言う。

 奴の目からは動揺を感じない。嘘を言っている人間の目じゃなかった。

 しかし、それならばこの映像に映っている人間は誰なのか?



 オッコの顔をした別人とでも言うのか……いや、可能性はある。



 俺たちはトロイとレノアを監視役として置いて。

 残った人間でホテルの一室に集まって、互いに沈黙を貫いていた。

 カーテンを閉め切った部屋で、ショーコさんは椅子にベッドに腰かけていて、ゴウリキマルさんはパソコンをジッと見つめていた。

 二人共が何も喋らずに、視線を躱すことも無く自分の世界に入っている。

 彼女たちの間には、壁のような物が存在していた。

 いや、俺自身の中にも、ショーコさんに対して決定的な疑念が出来た。

 それを解消するまでは以前のような関係に戻る事は出来ないかもしれない。


 俺はチラリとショーコさんを見た。

 すると、彼女も俺へと視線を向けてきてニコリと笑う。

 俺は乾いた笑みを零しながら、彼女に対して質問した。

 それは至極単純な質問であり、彼女がどう答えるのかが気になった。


「……ショーコさんは、オッコが犯人だと思いますか?」


 こんな質問をされるのは仲間としては嫌だろう。

 しかし、彼女の心の内を聞いておきたいと思ってしまった。

 俺が嫌な質問をすれば、彼女は眉一つ動かすことなく「違うと思う」と答えた。


「……オッコはそんな事しないよ。おじさんだって知ってるでしょ?」

「……じゃ、お前はアレが誰に見えたんだよ」

「……ゴウリキマルさん」


 ショーコさんの言葉に対して、ゴウリキマルさんはきつい言葉を送った。

 それに対して、彼女は背を向けるゴウリキマルさんを見ながらそれでも笑う。


「オッコだよ……でも、アレは私たちの知っているオッコじゃない」

「――二人いるとでも言うのか? 同じ顔をした人間が二人も? 根拠があるのか?」

「……ある。でも、それは私の例には当てはまらない……オッコの顔をした犯人はもっと単純な方法で見つかると思う」

「あぁ? 何を言って――おい!」


 ショーコさんが行き成り立ち上がる。

 そうして、背を向けるゴウリキマルさんおすぐ近くに立ってパソコンを操作し始めた。

 ゴウリキマルさんは戸惑いながらも、ショーコさんを引き剥がす事はしなかった。

 彼女はカタカタとパネルを叩きながら、何かを調べてた。

 黙って見ていたゴウリキマルさんは、それを見て何かを理解した様子だった。


 暫く様子を見ていれば、彼女は「ビンゴ!」という。


 何を確かめたのかと聞けば、彼女は此方に来るように手招きしてきた。

 彼女の元へと近づいて、パソコンに映る映像を見る。

 すると、元の映像から切り替わっていて、サーマルによる視覚情報に変わっていた。 

 ブリッジにいるスタッフたちは同じような体温をしている。

 俺はまさかと思って暫く見つめいてれば、スタッフたちが去っていって。

 現れたのはオッコの姿をした犯人で――完全に理解した。


「……体温が、人間と違う?」

「うん。そう……これは人間の体温じゃない。もっと単純な作りの……“ロボット”かな」

「――ッ! じゃ、これはオッコの顔をしたロボットなのか? でも、どうやって」


 サーマルによって体温の違いが明らかとなった。

 それによって、この犯人が人間では無くロボットである事が分かった。

 ゴウリキマルさんは疑問を口にしているが、俺はその答えを聞くよりも早くトロイに連絡を繋いだ。


 すぐに連絡は繋がって、俺はトロイに端末のサーマルモードでオッコをスキャンする様に指示をした。

 トロイは何を言っているのかと最初は疑問を口にしようとした。

 しかし、俺の真剣そうな声を聞いてすぐに作業に取り掛かってくれた。

 部屋の中へと入り、カメラモードに切り替わる。

 そうして、ベッドの縁に腰かけるオッコにレンズが向いた。

 オッコは何をしているのかと聞くが、トロイは静かにするように言う。

 サーマルに切り替わって、オッコの体温を見れば――正常であった。


「……トロイ。オッコの……疑いが晴れたかもしれない」

《本当かッ!? でも、何で》

「詳しい説明をする。今すぐに、皆を連れて七〇三号室に来てくれ」

《……分かった。すぐ行く》


 通信を切り、俺はショーコさんを見つめる。

 そうして、何故、サーマルについてすぐに気づいたのかと質問した。

 すると、彼女は口と鼻を指してから「呼吸をしていない気がしたから」と言う。


「……こんな状況なのにさ。動きに無駄がない上に、呼吸をしているような動きも感じない……それって可笑しくない? だから、人間じゃないんじゃないかなぁっと思ってさ」

「……そうですか……でも、どうやってオッコの顔を?」

「それは多分――うん、皆にも説明しないとね」


 部屋の扉がノックされる。

 俺は扉へと近寄ってから覗き穴から外の様子を確認した。

 外にいるのはトロイたちで、俺はロックを解除してから彼らを招き入れた。

 ぞろぞろと部屋の中にトロイやレノア。そしてオッコが入って来る。

 彼らは適当の場所に座ってから、俺へと視線を向けてくる。

 俺は扉をロックしてから、ショーコさんに説明をお願いした。


 彼女は先ほどまでに調べた事。

 そして、それによってオッコの顔をした犯人がロボットである事を突き止めた事を話した。

 すると、真っ先にオッコが「どうやって顔のコピーをした」と聞く。


「……思い出して。おじさんは最初、姿を変えていたよね? アレは今、何処にある?」

「……U・Mの保有する島で没収されて……まさか、アレを使って?」

「……それは断言できないよ? でも、この世界に存在するなら作れない事は無い筈……同じものをゴースト・ラインが使ってオッコがしたように見せかけたかもしれない……今みたいに、私たちが疑心暗鬼に陥るように」

「――ッ!!」


 ショーコさんの説明を聞いて、ゴウリキマルさんは大きく目を見開く。

 彼女はその話しを聞いて、例の件を思い出したのかもしれない。

 俺自身もその可能性を考えていたが……やっぱり、彼女の立場を危うくする為に?


 オッコやショーコさんを使って疑心暗鬼に陥らせる。

 狡猾な手段であり、本来であれば騙されていた所だ。

 しかし、ショーコさんが機転を利かせて敵の罠を見破ってくれた。

 俺はショーコさんが嵌められていたのだと考えて――オッコが再び質問する。


「……それじゃ、そのロボットに心当たりは?」

「……多分、船に配備されている作業用ロボットを使ったんじゃないかな。非常用に、単純作業なら可能な二足歩行型のロボットが幾つかあるらしいから」

「――随分と詳しいな」

「……え?」


 オッコの質問の答えれば、彼は鋭い言葉を彼女に浴びせた。

 思わず、ショーコさんは言葉を止めて彼を見る。

 すると、オッコは頬杖を突きながら「何時、そんな事を知った」と質問した。


 彼女たちは元々、U・Mの保有する島にいた。

 俺たちが乗って来た船に後から乗船したことになる。

 それはつまり、敵の襲撃から今に至るまでの時間で、船を調べたのかと言う事だ。

 何時敵の攻撃が来るかも分からない状況で、そんな余裕はない筈だ。

 機体のメンテナンスなら兎も角、使うかも分からない船に収容されている作業用ロボットの存在何て……俺でも知らなかった。


 彼女が口を閉ざして――ゴウリキマルさんが代わりに発言をした。


「ショーコは知っていたよ。私と一緒に船を点検したからな……ヴォルフのおっさんからの指示で、この船に危険な物が無いか調べていたんだ。ショーコは一時的に私の護衛と補助で一緒にいた。その時に、偶々それを見つけたんだ……整備班の奴らに聞けば、知っていると思うぜ」

「……そっか。なら、正しいな……悪いな。職業柄、相手を疑ってかかっちまう。許してくれ」

「……ううん。当然だよ。今は皆が危険だからね」


 オッコが謝罪をすれば、ショーコさんはそれを笑って許した。

 これで、オッコが犯人ではない事が分かった。

 後は、その作業用のロボットを見つけ出して解析するだけだ。

 もしかしたら、敵の痕跡が残っているかもしれない。

 あの映像では、敵は一人では無かった。

 ブリッジから人を連れ出す係と、ウィルスを流し込んだロボットが一体。

 確実に、もう一人がいる。それも、そいつは紛れも無く人間だ。


 声に出して発言しなければ、彼らがついて行く筈がない。

 見覚えのある人間でなければ、無警戒のままついて行く筈がないのだ。

 つまり、この計画を立てて実行した人間がまだ船の中にいる。



 その時に、端末が震えた。

 俺はゆっくりと端末を手に取って誰からなのかを確認した。

 すると、連絡を寄越してきたのはサイトウさんであった。

 俺は不安を覚えながらも、連絡を繋ぐ。


《そっちはどう》

「……オッコが犯人ではないと分かりました。ウィルスを流し込んだのは船の作業用ロボットです。だから」

《分かった。それと――実行犯を見つけた》

「え、今何と」


 彼女はあっさりと俺の言葉を受け入れた。

 そうして、驚愕の事実を告げた。

 俺は耳を疑ってもう一度彼女に質問した。

 すると、彼女は簡潔に。それでいて、先ほどよりも――重い事実を話した。




《実行犯を見つけた――もう、死んだけど》

「……船に戻ります。詳しい説明は、その時に」

《分かった》


 彼女はそれだけ言って連絡を切る。

 俺は端末をポケットに仕舞ってから、ゴウリキマルさんに視線を向ける。

 すると、彼女も誰かと連絡をしていた。

 メッセージでやり取りであり、彼女はそれを終えて俺に視線を向けて来る。


「……積み荷は揃った。明日、それを船に運び込む……お前は、先に戻っていろ」

「……すみません」


 俺は彼女の気遣いに感謝した。

 そうして、全員が俺へと視線を向けてくる中で俺は部屋から出る。

 実行犯を見つけた。そして、そいつは死んだ。

 この言葉が表す意味は、もう危険が無いと言う事で……本当に、そうなのか。


 俺は焦りを覚える心を宥めながら。

 舩を目指して走っていった。

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