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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第四章:存在の証明

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175:対機兵装備の意味

 ブリッジへと着くと、スタッフたちが俺に視線を送る。

 モニターには何も映っておらず、ジジジという音だけが聞こえる。

 敵の信号をキャッチして繋ごうとしていたようだが、俺が来るまで待ってくれていたようだ。

 サイトウさんは壁に背を預けながら静かに目を閉じていた。

 彼女の性格からして交渉などは任せられないだろう。

 彼女自身もそれを理解して黙って待ってくれていた。


 現在の彼女の顔は別人で、変装を既に終えていると理解した。

 俺も胸ポケットの装置を起動してすぐに顔を変える。

 これで相手は俺をマサムネであると認識できない筈だ。

 正体を明かした方が話が早く済むだろうが、出来る事なら俺の生存は限られた人間にだけ知って欲しい。

 

 俺はブリッジの中心に立つ。

 そうして、マイクをスタッフから受け取り声を発した。


「……俺がこの船の責任者だ。訳あって名は明かせない……貴方たちはこの先の島の人間か?」

《……誰が質問をしていいと言った?》


 声を変えている。

 変声機を使って女か男かも分からない。

 高圧的な態度であり、明らかに此方に対して警戒心を持っている。

 俺は声の主に謝罪をしながら、島への立ち入りの許可を求めた。


《ダメだ。島では現在、環境調査を行っている。人体に有害なガスが発生して、部外者の立ち入りを全面的に禁止している。これは国からの仕事であり、もしも警告を無視して侵入しようとすれば、即時、攻撃を開始する》


 淡々と嘘を言う人間。

 俺はマイクを持ちながら、その人間に対して静かに言葉を発した。


「その島には何も無いと聞いている。有毒ガスが発生するような環境でも無ければ、国が率先して無人の島を調べさせる事なんてあり得ない」

《島を調べるべきかどうかを判断するのは貴様ではない。国が優先順位を決めた上で、我々にこの島の調査を依頼した。それとも、我々が何かを隠しているとでも?》


 せせら笑うように言う人間。

 俺はそれを静かに聞きながら、奴らに対してハッキリと言った。


「腹の探り合いをする時間は無い。お前はU・Mの職員だろう。俺はゴウリキマルさんに会いに来た。入港させてくれ」

《……何?》


 初めて相手が動揺したのが分かった。

 顔も見えない相手はカタカタと何かを操作している。

 暫くの間、相手からの返事を待っていた。


 すると、船のスタッフが危険を知らせて来る。

 けたたましい警告音が響いて、レーダーを見ていた人間が接近してくる影がある事を報告した。

 島の方角から何かが急速に接近していると。

 濃い霧の先を見つめていれば、鉄の巨人が現れる。

 銃火器を所持したメリウスたちが俺たちの周りを包囲した。


《誤魔化しきれないな……島へは入れてやる。しかし、身柄は拘束させてもらう。拒否権は無い》

「……それで構わない……皆も協力してくれ」

「は、はい」


 スタッフたちの力の無い返事。

 それを聞きながら、浮遊するメリウスの一機甲板に降りた。

 そうして、箱状になった背中がガコリと勢いよく開いて、武装した兵士がぞろぞろと出てきた。

 完全防備の上に、敵は”対機兵”装備をしている。

 アレでは抵抗しても無駄であり、此方の銃火器は通用しない。

 抵抗する気は無いが、何故、アレほどの重装備でやって来たのか。


 場所が知られていた事を警戒してか。

 確かに、海上に浮かぶ障害物を避けてここまでやって来たのだ。

 ただの偶然では無く、相手の情報も持っている事を伝えた。

 警戒するのは当たり前だ……だが、それでも腑に落ちない。


 対人装備では無く対機兵装備で。

 アレ等の装備は基本的に人間以上メリウスより下の敵の相手を想定している。

 強化外装などのパワードスーツを装備した人間や小型ロボット等だ。

 彼らは俺たちを人間と認識していないのか。

 いや、人間としては見ているが……警戒心の強さが異常だ。


 まるで、俺たちではない別の何かを警戒しているようで――扉がけ破られる。


 入ってきたのは全身を黒い強化プロテクトで守っている人間たちで。

 ゴツゴツとした格好に加えて、外部の空気を完全に遮断する為にスコープと一体化したマスクを付けている。

 空気の供給用パイプをマスクから背中へと伸ばしていた。

 彼らはスコープをギュイギュイと動かしながら、その大きなライフルを俺たちに向けて来る。

 マスクから漏れ出す呼吸音が響いて、奴らは俺たちに対して静かに警告を発した。

 頭に両手をつけて床に伏せるように命令された。

 俺たちはその指示に従って、床に伏せた。


 何名かが俺たちに銃口を向けて、一人が俺の手を拘束する。

 顔には袋を被せられて、何故か耳も塞がれた。

 島へと入る時の情報を少しでも遮断しようと言うのか。

 徹底されており、残りの人間が船を調べているのが何となく分かった。


 何とか島には入れそうだ。

 しかし、どうやって説明すればいいのか。

 恐らく、身体検査の時に変装用の機械は押収されてしまうだろう。

 その瞬間に俺の変装は解かれてしまう。

 もしも、その時に顔を確認されてしまえばまずい。

 せめて、俺の顔を確認する人間がヴォルフさんであったのならまだ救いはある。


 ゆっくりと再び動き出した船。

 冷たい床に仰向けになりながら、俺は静かに考えを巡らせていた。





 船が止まった。

 どうやら島へと入れたようで、兵士が俺の耳を塞いでいたものを取って立つように命令してきた。

 腕を引っ張られて強制的に立ち上がり、俺や他のスタッフは歩いていく。

 カツカツと靴の音を響かせながら船の廊下を歩いて行った。

 そうして、船から降りてゆっくりとスロープを下っていく。


 金属を叩く音、人が歩く音。

 小さな話し声が聞こえてくる。

 鼻を鳴らせば、オイルの臭いや火薬の臭いがする。

 明らかに自然あふれる島の匂いではない。

 やはり、バネッサ先生の情報通り、この島は完全に機械化された島だったようだ。

 

 一番下につけば、兵士は俺の体を調べ始めた。

 怪しい物が無いかを念入りに調べて、端末と変装用の機械を押収された。

 その瞬間に袋の下の俺の顔が元に戻る。

 この状態で袋を取られれば危ない。

 幸いにも、変装が解かれたことに気づいた人間はいないようだ。


 兵士は俺の背中を押して歩くように命令する。

 ゆっくり、ゆっくりと歩いて行って――止まるように命令された。


「……この者たちが侵入者か」

「はい。これが押収した物になります」

「……分かった。牢屋に入れておけ」

「はっ!」


 今の声は、確かにヴォルフさんだった。

 俺は背中を押されて進まされそうになった。

 しかし、それを耐えてその場に留まる。

 そうして、彼の名前を言った。

 兵士は俺の膝をついて強制的に座らせて、銃口を俺に押し当てて来る。

 たった一言しか言えなかった。しかし、彼には伝わった筈だ。

 俺は心の中で祈りながら汗をたらりと流して――銃口が除けられる。


「……この男の身柄は私が預かる。他は任せた……いや、この者たちの袋は取らなくていい」

「は、はっ!」


 他のスタッフやサイトウさんが連れていかれる。

 足音が遠ざかっていくのを聞きながら、俺は彼の手でゆっくりと立ち上がらされる。

 ヴォルフさんは俺の耳元に口を近づけて、そっと呟いた。


「……また会えたこと。嬉しいぞ、マサムネ」

「ヴォルフさん……」


 やはり彼には伝わっていた。

 俺は彼に連れられて、移動していく。

 彼は小声で生きているとは思っていたと俺に言う。

 死を偽装して自由を手に入れた俺に配慮して、彼は今から部屋で話をしようと言った。


 俺は袋を被りながら、彼にだけ聞こえる声量で疑問を投げかけた。


「……何かを警戒していませんか? 何があったんですか」

「……詳しくは部屋で話そう……ゴウリキマルの身が危険だ」

「――ッ!」


 ヴォルフさんの言葉にどきりとする。

 ゴウリキマルさんの身が危険なのは知っている。

 しかし、ヴォルフさんたちはどうやってそれを知ったのか。

 既に敵からの襲撃を受けた後なのか。

 そして、ゴウリキマルさんはまさか怪我でも負ったのか……恐怖で心が冷たくなる。


 俺はギュッと拳を握りながら、恐怖に耐えた。

 すると、ヴォルフさんは優しく俺の背中を撫でる。


「ゴウリキマルは無事だ。怪我もしていない。安心しろ」

「……ありがとうございます」


 無事であると知って少し安心した。

 しかし、まだ敵の狙いに気が付いた理由を知らない。

 果たして、ヴォルフさんは何がきっかけで敵の狙いを知ったのか。


 それを知る為にも、彼とは話をしなければならない。

 互いの情報を交換して、現状について理解しなければ。

 そして、速やかにゴウリキマルさんを敵の手が及ばない安全な場所へ移動させる必要がある。


 時間は限られており、今も敵の魔の手が迫ってきているだろう。

 此処が知られるのも時間の問題であり、何一つとして安心できる事は無い。


 しかし、今は彼女が無事だった事を喜ぼう。


 彼女が無事ならばそれで十分だ。

 今まで彼女を守ってくれたU・Mのスタッフには感謝している。

 今度は俺がその役目を引き継がなければならない。

 絶対に、もう二度と、大切な人を死なせはしない。


 何があっても守って見せる――例え、俺自身が死んだとしても。

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