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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第四章:存在の証明

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172:鉄塊(side:ゼロ・スリー)

 目の前に転がるガラクタをゴーグル越しに冷めた目で見る。

 機体の至る所が爆ぜてケーブルが剝き出しで。

 お得意のビット兵器も全て木っ端みじんにしてやった。

 死体になる未来しかない男は、ぼろきれの様になったレールガンしか持っていない。

 ギギギと腕に力を込めているが……ほら、言わんこっちゃねぇ。


 関節部が爆ぜて、ごとりとレールガンが落ちる。

 これで奴の武装は何も無くなった。

 ゴロゴロと雷が鳴り、ピカリと光ったかと思えば山の方に落ちていた。

 ざぁざぁとバケツをひっくり返したみてぇに強い雨が降り続けている。

 機体の外では暴風が吹いて、雨風にされされるガラクタがガラガラと転がっていく。

 黒煙が上がる山をチラリと見てから、俺は辺りを索敵した。


 レーダーには……反応はねぇな。


 死に体のガラクタが一機。

 山岳地帯に隠されていた奴らのアジトの一つを強襲して。

 片っ端から破壊行為を繰り返せば、痺れを切らしてメリウスがわらわらと出てきやがった。

 このガラクタ以外の雑魚共はこいつを逃がそうとしていたが……あぁ何機だ?


 数えるのも面倒で、作業のように全てを墜とした。

 うざったい敵はファイブ・Bに任せて。

 ツー・エイトの奴も騎士を気取って一対一なんか挑んでいたけどよ。

 敵がそんな律儀にタイマンなんてする訳ねぇ事に何時になったら気づくんだろうなぁ?


「馬鹿は死んでも治らねぇかぁ」

《……おい。サンゴ頭。今、私の話をしたか?》

「してねぇよぉ……誰がサンゴ頭だ。これはドレッドだクソ野郎」


 通信を繋いできたキザ野郎の質問をはぐらかす。

 くどくどと文句を言う奴の話を無視しながら、俺はガラクタに照準を定めた。

 他の雑魚よりはマシだったが、こいつが幹部だったのか?


 ゴースト・ラインの幹部を殺すように命令されて。

 あのガキの指示する場所へと俺たちは襲撃を繰り返した。

 アジトと思わしき場所の襲撃に、作戦行動中の奴らへの強襲。

 完全なる邪魔者として行動して、好き放題暴れてやった。

 まぁその結果、数だけの治安部隊や賞金狙いの傭兵たちとも戦闘になったけどよ。

 物の数には入らねぇが、俺の貴重な時間を無駄にしてしまった。

 だからこそ、奴らには見せしめの意味も込めて最寄りの基地を襲撃して。

 傭兵や治安部隊のメリウスは徹底的に破壊してやった。

 それこそ、中に乗っているパイロットの原型が無くなるくらいには……あ、結局は寄り道してるなぁ?

 

 まぁ幹部を焙りだして始末する為だ。仕方ねぇ事には違いねぇ。

 その結果、何度か幹部らしき人間とは交戦できたが、奴らは形勢が不利になればすぐに逃げる。

 チョロチョロチョロチョロと逃げ惑って、ようやく一人を追い詰めた。

 雑魚がどんなに束になって掛かって来ようとも逃げられる筈がねぇのによ。

 悪足掻きするなら、俺じゃなく別の人間に対してすればいい。

 そうすれば、少なくともいたぶって殺すような真似はしない。

 誰だって無駄な事は嫌いだ。俺は無駄な事を極力したくないのだ。

 だからこそ、無駄な問答も抜きでこいつを此処でさっさと殺す。


 操縦用グローブに手を嵌めながら、指を動かす。

 武器の照準は奴のコックピッドに定めている。

 後は指を少しばかり動かして、こいつの命を終わらせるだけだ。

 嵐の中でチカチカと光る奴のセンサーをジッと見つめる。

 そうして、無感情に銃をぶっ放そうとして――笑い声が聞こえた。


 奴がくつくつと笑っている。

 死ぬ直前だというのに、頭が可笑しくなっちまったのか……いや、違うな。


 態々、俺に通信を繋いでまで声を聞かせてきたのだ。

 死ぬ前の遺言とやらを聞くのは……時間の無駄にはならねぇ。


 死ぬ前の人間が何を言うのかは気になる。

 ただの命乞いなら時間の無駄だが、幹部程の人間なら何か得になるような事を言うかもしれねぇ。

 賭けと呼べるようなもんじゃねぇが、個人的な興味があるだけだ。


「あぁ、サードだったか? 何で笑う」

《……お前たちは終わりだ。直に彼が来る》

「あぁ? 彼だ? 何を言って――おい、エセ騎士。敵が来るぜ」

《……何を言っている? 此処に来る人間などいる筈が……なるほど。時間稼ぎか》

《――高熱源反応確認。急速接近中》

「あぁ分かってるよ――ありがとよ。礼に今すぐ殺してやるよ」


 ツー・エイトから情報を聞くよりも早くに俺の方でも確認できていた。

 ガラクタのファイブ・Bは何時も通りのポンコツぶりで。

 俺は意味深に笑うだけの敗北者へと弾をぶち込んだ。

 プラズマライフルから放たれたプラズマ弾が奴のコックピッドを溶解する。

 数発で機体に大穴を開けた奴は、機体をのけ反らせて完全に沈黙した。

 これでようやく幹部の一人を殺せた。

 今接近してきているのも十中八九が幹部で……カモがネギをってやつかッ!


 俺は笑みを深めながら機体を操作する。

 スラスターを下へと向けてから、勢いよくエネルギーを噴射した。

 機体は瞬きの合間に飛翔して、雨粒を弾いて飛んでいく。

 そうして、接近してきている敵へと自分から突っ込んでいく。

 ツー・エイトとファイブ・Bも後ろから追随してきている。

 俺の邪魔だけはするなと思いながら、俺はレーダーから敵の位置情報を割り出す。

 システムを戦闘モードに移行して、俺はライフルを構えた。

 そうして、奴の面を拝んで弾を見舞おうと――ッ!?


 奴の機動がいきなり変わった。

 変則機動じゃねぇ。ほぼ完ぺきに機動を変えた。

 真っすぐに飛んできた機体が下へと飛んで、爆発音が連続して響けば奴の機体は可笑しな機動で飛行した。

 今まで戦った奴の中にも、こんな機動をした奴はいなかった。

 データの無い相手であり、俺は後ろの二人へと指示を飛ばす。


「固まるなッ! ばらけろッ!!」

《分かっているッ!!》

《了解しました》


 ツー・エイトとファイブ・Bが散開する。

 俺はスラスターを動かしながら奴にロックオンされないように立ち回る。

 そっちが変則機動の真似をするのなら、俺も変則機動でかく乱してやるよ。


 スラスターから甲高い音が鳴り響く。

 そうして、カクカクと凄まじい速さで動く敵の機体を追った。

 どんなに奇天烈な動きをしようとも、その行動パターンを予測すればいいだけだ。

 どんな動きにも隠された法則があり、それを突くのが傭兵だ。

 機体のAIが奴の機動の計算を手早く終わらせていく。

 そうして、奴の進路を予測して――此処だッ!!


 ちょこまかと動く敵の先を読む。

 そうして、そこにしこたまプラズマ弾を撃ち込む。

 バチバチと閃光が迸って、俺の弾丸が殺到する。

 奴の灰色の機影が見えて、確実に弾が当たると認識した。

 これで終わりだ――そう、思っていた。


 奴の機体の腕が動いた。

 一瞬で動いた腕の掌を空中へと向けて、掌から何かが放たれた。

 高密度のエネルギー弾であり、それを放った瞬間に奴の機体は更に加速した。

 瞬間的な加速により、俺の弾は全て避けられて。

 奴の機体を見失ったかと思えば、強い怖気が走った。

 俺はすぐに機体を下へと下降させた。

 急速に下降させたことによって体全体に強い負荷が掛かる。

 俺はレバーを離さないように握りながら、ディスプレイに表示された映像を見た。

 そこには俺が先ほどまでいた場所に突っ込んでいる敵がいて。

 奴は大振りの一撃を空振りさせて――そのまま機体を回転させながら、エネルギー弾を空中に撃つ。


 放たれたそれによって奴の機体は本来であればあり得ない機動で飛行する。

 俺の方へと奴の機体が突っ込んできて、目の前に奴の拳が攻まって来た。

 数分にも満たない攻防で、俺はこの敵との力量差を認識した。

 明確なまでの差がある。戦闘スタイルに対応するまでに時間が掛かる。

 いや、対応できたとしてもこの男には勝てない。

 何度も何度も戦ってきたから嫌でも分かる――この男は強いッ!


 俺は強く歯を食いしばってペダルを強く踏み機体を急速に加速させた。

 一瞬の判断によって、機体は一気に限界を超えた。

 奴の硬く大きな拳は俺の機体を掠めて――機体が大きく揺れた。


 掠めただけだ。それなのに、まるで対艦ライフルをぶち込まれたような衝撃で。

 機体からけたたましい警告音が響いて、掠めた胸部装甲は大きく抉れていた。

 俺の機体は装甲を薄くしているとはいえ、掠めただけでこれほどのダメージは負わない。

 奴の機体は近接格闘タイプであり、その一撃はパイルバンカーと同じかそれ以上だろう。


 激しく揺れるコックピッドの中で奴から距離を離す。

 体全体から悲鳴が上がって、あばらが軋んで鈍い痛みを発した。

 口内に鉄錆の味が広がって、俺は汗を流しながら機体を停止させた。

 幹部クラス、それも上位の人間か。

 奴は真っすぐに俺へと向かってきて――ニヤリと笑う。


 俺へと拳を振ろうとした瞬間。

 奴の下にいたファイブ・Bが両手のマシンガンを乱射する。

 武器と一体化したあのガキのお手製のマシンガンであり、その威力は強力無比だ。

 灰色の機体は動きを変えて、進路を急に変更して回り込もうとする。

 しかし、そこにはツー・エイトが雨に紛れて姿を隠していた。

 奴は手に持ったプラズマランスを勢いよく突き出して奴の装甲を貫こうとする。


《当たれッ!!》


 ツー・エイトの言葉と共にプラズマランスから激しい閃光が起こる。

 そうして、奴の装甲を貫いたかと感じて――俺は奴に声を荒げて逃げるように命令した。


 奴はプラズマランスを片手で受け止めている。

 掴める部分をしっかりと握りながら、プラズマに肩を焼かれて。

 装甲が厚いと思っていたが、予想以上の耐久力だ。

 ツー・エイトは槍を抜こうとしているが、出力の差は明白だった。

 奴は拳を固めてから、重い一撃をツー・エイトに放つ。

 腕の関節部よりエネルギーが勢いよく噴射されて更に加速した一撃は強力で――残骸が舞う。


 パラパラと”プラズマシールド”の残骸が舞った。

 どんな攻撃でも防げる筈のそれが、たった一発のパンチで完全に破壊された。

 ツー・エイトはその一撃の衝撃で吹き飛ばされる。

 激しい雨の中に身を溶け込ませながら、奴は冷静に距離を取って隙を伺っていた。


「それでいい。それしかないがな……クソッたれ」


 空中で静止している敵の機体。

 真っ赤に輝く単眼センサーは不気味であり、ジッと俺を見つめていた。

 黒ずんだ灰色の機体には薄く金の塗装が施されている。

 20メートル以上はあるだろう大きな機体で、特徴的なのはあの大きな腕か。

 拳を打ち込んだ時のインパクトだけでパイルバンカー並みの威力を持っている。

 関節部分からの噴射で更に威力を上げる事も可能で、機動力もかなり高い。

 逆関節の機体であり、背中の二つの円筒形のブースターが二つに腰部の二つ……いや、違うな。


 あくまであのブースターはおまけだ。

 あの可笑しな機動を可能にしたのは別の機能だろう。

 一瞬だけ見えたのは、奴が空中を足場のようにして蹴り上げているところで。

 恐らくは、自分の足元の空気を圧縮する事が出来る筈だ。

 圧縮した空気をあの逆関節の脚力で蹴り上げれば、一瞬で高機動型のように速く飛行できる。

 脳筋、そう言えるほどの馬鹿げた力で……厄介以外の何ものでもねぇぞ。


 静止している敵へとプラズマライフルの銃口を向けて放つ。

 装甲が厚い上に高機動の奴の機体を睨みつけながら弾を放って。

 奴は空気を蹴りつけて上へと飛んだ。

 砲弾のように上へと勢いよく進んでいった。

 肉眼では認識できないほどの瞬間加速力であり、あんなものが人間に扱えるのか?


 何度も何度も爆発音のようなものが雨風の音に紛れて小さく聞こえる。

 俺はそれを感じ取りながら、奴の接近を警戒する。


 その時、敵から通信を受け取った。

 強制的に通信を繋がされて、奴の声が聞こえた。


 

《やぁ襲撃者の諸君。はじめまして》

「あぁ? 初めましてだァ!? テメェ何を言って」


 

 奴が笑ったのが分かった。

 そして、底冷えするような低い声で言葉を発した。



 

《――そして、さようなら》




 奴はそれだけ言って通信を切断する。

 すると、何かが破壊される音が聞こえた。

 レーダーを確認すればファイブ・Bに奴が接近していて――反応がロストした。


 強い雨の中で爆炎が一瞬だけ見えた。

 信頼なんかしていねぇ。だが、奴はそれなりの力を持っていた。

 そんな奴を今の一瞬で破壊したのかよ……クソが。


 形勢が不利であると一瞬で判断した。

 このまま戦えば確実に俺たちは死ぬ。

 ブーストを繰り返しながら、敵の様子を伺う。

 一瞬だけツー・エイトの機体が見えた。

 奴は予備のランスを持ち、それで敵と戦おうとしている。

 大方、ここでもう一人敵の幹部を始末して告死天使に褒められたとでも思っているのか……妄信のし過ぎだってんだよ。


 俺は奴がツー・エイトに注意を向けている間に移動を始めた。

 戦線からの離脱を開始して、一気に戦場を離れていく。

 幹部の始末は俺たちの任務だが、任務の為に死ぬのは御免だ。

 これ以上、働けって言うのなら追加の報酬が無い限りは引き受けねぇ。

 俺は勝つのが好きだ。負け戦なんざ性に合わねぇ。


《おい! 何処に行くッ!? 戻れッ!!》

「あぁ? 後は好きにしてくれや。俺はさっさと帰るぜ。”騙し討ち”が得意なナイトさんよ」

《――クソッ!!!》


 ツー・エイトが追い込まれているのが分かる。

 奴は数分の内に殺されるだろう。

 俺は機体を更に加速させて安全圏へと向かう。

 音声システムによってゲートを開かせながら、不可侵領域へ逃れようとする。

 目の前にゲートが開かれて、すぐに突入しようとして――機体を横に動かす。


 一瞬の判断で緊急回避を取った。

 しかし、完全には避けきれずに機体が激しく揺れた。

 警報が鳴り響き、コックピッド内に火花が散った。

 俺は空中で機体を安定させながら、ディスプレイを見て――薄く笑う。


 目の前に敵の拳が迫っている。

 確実に俺は死ぬ。それを悟って俺はぼそりと言葉を発した。


「――化け物がぁ」


 一つ目の巨人が赤く瞳を輝かせる。

 血に飢えた獣のように、機体から鳴き声を発して。

 その巨大な拳を握りしめて、衝動のままに振り下ろす。

 風を切り裂き、瞬きもする間もなく接触した拳。

 機体全体に掛る衝撃。スローモーションに感じる世界の中で俺は指を動かした。

 そうして、変形していくコックピッドの中で体を覆うように一瞬でピンク色の液体が広がっていく

 重く強烈な一撃によってコックピッド内は圧縮されていく中で、俺は心の中で化け物への警戒度を跳ね上げた。

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