171:悔いる機械たちの墓場
流れる星の下を歩いていく。
キラキラと輝きながら線をなぞるように空を描く星々。
その光を浴びて、溶け切っていない雪が小さく輝く。
舗装された道を進む子供は何も言うことなく、一定の間隔をあけて歩いて行った。
俺たちは白い吐息を零しながら大人しくついていく。
暫く歩けば、何かが見えてきた。
島の中央を目指して歩いて、目に入ってきたのは――門だった。
錆びだらけの鉄製の門であり、その形は歪だ。
左右非対称であり、門の一部は欠けていた。
あっても意味の無いような門だったが、破壊して通れるようには思えない。
壊れかけの門である筈なのに、異様な存在感を放っている。
近づくにつれてその存在感は大きくなっていき、目の前に立つとその大きさに驚いた。
三メートルはあるだろう門。
錆びだらけで今にも壊れそうなそれは、俺を圧倒していた。
頭上を見上げながら、どうやって通過するのかと見ていた。
すると、少年は何も言うことなく門へと進んでいく。
開いてすらない門が見えていないのか。
ずんずんと進んでいって、頭が当たりそうになった時――彼の体が消えた。
「――?」
「……」
門の前に見えない壁でもあるかのように空間が揺れていた。
彼は見えない壁を意図も容易く通過していった。
俺とサイトウさんはその光景を黙って見つめる。
やがてサイトウさんが先に動き出す。
彼女も同じようにその壁を通過しようとして――弾かれた。
バチリと音を立てて、サイトウさんの体が吹っ飛ぶ。
彼女は空中で体を一回転させてから地面に着地した。
手を開け閉めしながら何かの感覚を確かめている。
俺は彼女を一瞥してから、俺も試してみる事にした。
彼女が入れないのなら、俺も入れないかもしれない。
しかし、俺の心は不思議と恐怖を感じていなかった。
拒絶されると微塵も思っていない。
俺自身があの中に入れると確信していて、俺は壁の前に立ってから手を翳した。
そうして、ゆっくりと壁に触れて――そのまま腕は通過していった。
入れる。すんなりと入れた。
俺はサイトウさんに視線を向けてから、スッと手を差し伸べた。
彼女は不思議そうに俺を見ていたが、意図に気づいて手を握ってくれた。
彼女の手をしっかりと握りながら、俺は壁を越えていく。
するりと体が入っていって、彼女の手を優しく引けば、先ほどは拒絶されていた彼女もすんなりと入れた。
壁の中に入った彼女はバリアのようになっているそれを不思議そうに見ていた。
俺はそんな彼女に声を掛けることも無く壁の中へと視線を向ける。
そこには一つの集落があった。
蓑を被った子供や大人が動き回っている。
外よりも少しだけ温かい空間で、それぞれが何かしらの仕事をしている。
作物を育てている者や、柵の中に入れた動物の世話をする者。
小さな子供たちに授業でもするように機械の修理を教えている者。
誰しもが役割を持っていて、きびきびと働いていた。
そんな光景を見つめていれば、くいくいと服を引っ張られる。
視線を下に向ければ、青いセンサーを俺へと向ける案内人が立っていた。
彼は再び案内を始めて、俺たちを先導してくれた。
「……行きましょう」
「……うん」
足を動かしてついていく。
集落の中へと足を踏み入れれば、そこにいる住人たちが視線を向けて来る。
青や黄色、緑色のセンサーが光っていて。
嫌でも彼らが俺たちに注目している事が分かった。
しかし、嫌な視線ではない。彼らは好奇心から俺たちを見ているだけだ。
何故か、敵意の無い視線から俺はそう判断した。
オレンジ色の光が至る所に灯った集落。
鉄の花のようなそれの中心にオレンジ色の光が灯っている。
よく見れば集落に建てられた建物はそのどれもが金属製で。
さび付いた鉄板や銅板など、あり合わせのもので作られている。
不思議なのは、何故、此処にはこれほどの金属類があるのかだ。
俺たちの前にこの島が現れた時。
周りには金属の類は見られなかった。
漂流した金属を集めていたとしても、一つの集落にこれほどの金属が集まる事は無い。
家を建てるだけでもそれなりの数の金属を使っているのだ。
なら、この島で採掘された金属を加工して使っているのか?
それも違うような気がした。
何故ならば、彼らの家や使っている施設を建てる為に使われた金属は廃材のようなもので。
捨てられるような物を態々作る奴はいないだろう。
一度何かに使って再利用したのなら、新しい金属類は何処なのか。
こうやって歩きながら周りを見ても、そういうものは一切なかった。
どれもが使い捨てられた廃材であり、新しい物なんて何一つない。
不思議な島に、不思議な空間。
そして、捨てられた金属を使って作られた集落。
異様な空気が流れていて、常人であれば恐怖すら感じるだろう。
しかし、それでも俺の心には”懐かしさ”だけがある。
この空気も、この集落に住む住人も。
何もかもが懐かしい気がした。
気を緩めれば頬が緩みそうになって、警戒心が薄れていきそうだった。
隣に立つサイトウさんを見ればそんな俺の顔をチラリと見て来る。
まるで、俺の反応が妙な事に気が付いている様子だった。
懐かしさを覚える集落を歩いていけば、子供はゆっくりと足を止めた。
そうして、俺たちに道を譲って中に入る様に促す。
見れば、他の建物のように廃材で建てられた小さな家が一つある。
この子供は此処まで俺たちを案内するのが目的だったのか。
「……ありがとう」
「……ゴメ……ナ……イ」
俺が案内してくれた子供に礼を言うと、彼は首を傾げた。
そうして、しわがれたような声で何かを呟いた。
何を思って言った言葉なのかは分からない。
そもそも、感謝の意味を理解していないのか……いや、それでもいい。
俺は彼の横を通って家の扉に触れた。
冷たく黒く煤汚れた大きなネジの形をしたノブ。
それを握ってから、ゆっくりと引いた。
ギギギと音がして扉が開かれて、俺はサイトウさんと共に中へと入った。
錆びた鉄の床を踏めば軋むような音が鳴り、ランタンの光が灯された部屋を見る。
壁には子供が描いたような絵が飾られていて、棚には様々な色をした液体が入った瓶が収納されている。
木の板には文字が刻まれていて、それぞれの薬品の名前が記載されていた。
床を見れば動物の毛で編みこまれたカーペットが敷かれている。
真っ白なカーペットであり、職人の手ではなく素人の手作りのような気がした。
鼻を鳴らせば、花の甘い香りがほのかに漂っている。
見れば窓の近くに鉄製の植木鉢が置かれていて、その中には青紫色の花が咲いていた。
名前は分からないが、水辺で見たような花だ。
それを見ていれば、パタリという音が聞こえた。
本を閉じる音であり、目を向ければ暖炉の近くに誰かがいた。
パチパチと薪を燃やす暖炉の近くに置かれた大きな椅子。
座り心地が悪そうな鉄製の椅子であるが、獣の皮や羽毛で柔らかさを補っている。
椅子に座った誰かは静かに息を吐いた。
聞こえてきた声には聞き覚えがり、俺は自然と笑みを浮かべた。
椅子はキイキイと音を鳴らしながら回る。
そうして、そこに座っている彼女はにこりと微笑んだ。
「……ようこそ。会いたかったよ。マサムネ君」
「……バネッサ先生……無事だったんですね」
感動の再会とまではいかないが、また会う事が出来た。
俺は彼女の無事を喜びながら彼女を見つめていた。
ぼさぼざの紫色の髪を一つに纏めて、眼鏡を掛けた彼女。
温かそうな白いセーターを着ているが、白衣は纏っていなかった。
分厚く古ぼけた本を手に持ちながら、彼女は足を覆うように毛布を掛けていた。
彼女は俺の目を見つめながら、言葉を掛けて来る。
「此処へ来たと言う事は、彼には会ったんだね」
「……ディアブロの事なら、確かに会いました……教えてください。貴方は何故、奴と接触して此処に来たんですか? そして、処罰を逃れて今まで何をしていたんですか?」
「……さぁ何処から話したものか……再会した時に、君に最初に何を教えるべきかを考えていた。どの情報も、君が知りたいものだろうからね……それらの疑問を解消する前に、これを先に教えた方がいいだろうと私は思った」
「待ってください。俺の質問に答えて」
彼女は片手で俺の言葉を静止する。
そうして、人差し指を床に向けて言葉を発した。
「――オーバードがすぐ近くにあると言ってもかな?」
「――ッ!!」
彼女の言葉を聞いて俺は驚いた。
しかし、俺が驚いて体を硬直させたせいで仲間が勝手に動き出す。
瞬きをする合間に移動した彼女は手に持ったナイフを彼女の首に当てながら低い声で命令した。
「何処だ。言え」
「……君の新しい仲間は、随分と血の気が多いね」
「……サイトウさん、やめてください。脅す必要はありません。彼女は全て話してくれます」
「……ッチ」
彼女は舌を鳴らしてからナイフを下げる。
そうして、俺の隣に立ちながら彼女を睨みつけていた。
バネッサ先生は首を撫でながら、やれやれと首を左右に振る。
「……私も、君の冒険譚には興味がある。何せ、此処は外の世界とは基本的に隔絶されているからね。人間の生の声は、私自身の好奇心を満たしてくれるだろうさ……だが、それはグッと堪えて。重要な情報を先に君に伝えよう」
バネッサ先生は立ち上がる。
毛布を除けて椅子に掛けてから、彼女は無言で部屋を出ていく。
俺たちは顔を見合わせてから彼女の後を追っていった。
部屋から出て外に出る。
そうして、彼女の背を追いかけながら彼女の話に耳を傾けた。
「先ず初めに、私は間違いなく処罰を受けた。記憶を消去されて、私は二ヶ月ほどはただの一般人として生活していた……切っ掛けがあって、私は再び失った記憶を取り戻したがね」
「切っ掛け? いや、記憶を消されたらもう戻らない筈じゃ……」
「まぁ普通はね。だが、忘れていないかな? 私は――ゴースト・ラインのスパイだ」
「それは……本当、だったんですか」
俺は信じられないと思っていた。
しかし、彼女は俺の言葉を即座に肯定していた。
「私は間違いなく奴らの手先だ。ただ、スパイというよりは取引相手と言うべきかな」
「取引?」
「そう。私は彼らに協力する代わりに、ある実験に参加させて貰った。それが何か分かるかい?」
彼女の試すような言葉に考えてみる。
しかし、何もヒントが無い状態では分からない。
「……分かりません」
「はは、そうだろうね。逆に分かっていたら驚いていたよ……記憶実験というものだ」
「記憶実験?」
「そう。ゴースト・ラインは記憶に関する実験を行っていた。人間が保有する記憶を、別の人間。或いは、クローン体にインプットした時に発生する副作用や結果について。ある程度までは記憶の移植は可能だが、まぁ完全な移植は難しかったね。赤の他人の記憶と自分の持っていた記憶が混ざり合って、それを受け止めきれずに発狂して、自ら命を絶つ者もいた……本当にむごい実験だよ」
「……バネッサ先生は、その実験に加わったんですか」
俺は目を細めながら質問をした。
彼女がもしも肯定したら、俺は彼女の事を信じられなくなる。
ゴースト・ラインと取引をしていたという事実だけでも彼女を疑いそうになっていた。
彼女はゆっくりと首を左右に振る。
「……私はそんな実験に協力してはいない。私が彼らに求めたのは――私自身を”被検体”にする事だよ」
「自分を被検体に? いや、何で……そんな事に意味なんて」
「……私はある程度知っていた。この世界には記憶を消去する技術があると。そして、大きな組織が裏切者を見つけた時に取る手段は、殺すか”浄化する”だけだ……一か八かの賭けだ。理論上では、私の考えは正しい筈だ。だからこそ、私はゴースト・ラインに協力をして自らの記憶を何度も何度も――消去させた」
俺は言葉を詰まらせる。
そんな俺など気にせずに、彼女は説明を続けた。
記憶を何度も消して、記憶を再びインプットして。
それを何度も何度も繰り返していたと。
狂っている。狂気の沙汰であり、常人では耐えられる筈がない。
「……怖いだろ。私も怖かった。真っ白になって、時間が流れて、また元に戻る。自分が誰かも分からなくなって、鏡に映る自分自身が赤の他人のように思えた。喉を掻きむしり髪を引きちぎり、胃の中のものを床にぶちまける……それでも私は実験を続けた。その結果、私は自らの考えが正しかった事を証明した」
「証明って……まさか」
俺はようやく気が付いた。
意図が不明な記憶の消去の実験に自ら志願して。
何度も何度も記憶を消させたことの意味に。
彼女は処罰を逃れていない。
それから逃れる術なんて基本的に無いのだ。
例外なく裏切者は記憶を消されて真っ白になる。
だが、何度も何度も記憶を消し続けて思い出す事を繰り返した人間がいたとすれば?
真っ白な紙に絵を描いて消せば、最初は綺麗に消せるだろう。
しかし、何度も何度も消しては描いてを繰り返せばどうなるか。
真っ白な紙は黒くなり、描いてあった絵が微かに残るだろう。
その微かに残った絵を見ながら、もう一度同じものを描けば――ほぼ元通りになる。
彼女は最初から処罰される事を想定していた。
だからこそ、それの対策の為に手を打っていた。
その結果、彼女はきっかけによって記憶を自分の力で復元させた。
「……でも、どうしてそんな事を? 処罰されるのが分かっていたのなら、奴らに協力する意味なんて」
「……する必要はあった。私はどうしても、知りたかったから……私が現実世界で犯罪者であった事は知っているね?」
「……はい」
彼女は昔を思い出しながら語る。
反政府組織と名乗っていたが、自分たちが行ってきたことは武力によるテロ行為で。
暴力によって全てを解決しようとしていた過激派たちに嫌気が差していたと。
そんな時に、彼女のアジトが強襲されてリーダーの男からある物を託された。
組織の誰も信用できない中で、リーダーだけは確かな信念を持っていた。
「……リーダーは言った。この世界を変えられる存在が仮想世界に現れると。重要施設を襲撃した時に、彼はとある記録を見たと言っていた。その施設には、マザーから盗み取った記録データが保存されていた……その記録には、マザーが何かを守っていると書かれていた。誰も侵入できない場所で、マザーは何かを育てている。破損したデータを修復して、それを仮想世界に放とうとしていると……確証なんて無かったさ。その記録が本物かも分からない……でも、私は託されてしまった。無我夢中で逃げて、情報電子変換装置を起動して仮想世界へ逃れて、私はリーダーの想いを成し遂げる為に行動した」
「……もしかして、ディアブロの元に行ったのは……」
「うん、そうだね……まぁ互いに持ちつ持たれつの関係だった。彼らは此処で、私たちはリアルで……あまり良い縁では無いが、私は使えるものは何でも使った……その結果、ゴースト・ラインとも接触出来て。私は多くの情報を手に入れた……変革を起こす為に必要なモノ。それは、オーバードとそれを扱える選ばれし者だ」
ゆっくりと集落の中を歩いていけば、開けた場所に出る。
何も無い場所で……いや、一つだけある。
祠のような建造物で。
石造りのそれは、この集落の中では間違いなく異物であった。
バネッサ先生はその前に止まり、ゆっくりと指をそれに向けた。
「――オーバードはこの中にある」
「……この、中に?」
俺は目を開きながらジッとその祠を見つめた。
扉らしきものは何一つない。
何処からも入れない祠であり、どうすれば中に入れるというのか?
いや、そもそも此処にオーバードがあると何故分かった。
俺はバネッサ先生に目を向ける。
すると、彼女はゆっくりと祠に近づいてそれを知った経緯を語ってくれた。
「オーバードは神殿にて選べれし者を待つ。一つは深い深い海の底で、もう一つは罪人の近くにあると私は古文書にて知った……此処が、罪人たちが集う場所だ」
「罪人が集う場所って、彼らは犯罪者なんですか」
「……正確には人ではない。彼らは――機械だ」
「……は?」
機械と言われて口を開けて固まった。
此処に住む住人達全てが機械と言うのか?
俺が目で訴えかければ彼女は静かに頷く。
「遥か昔より存在する場所だ。此処には破壊された兵器などが流れつく墓場。かつて現実世界で多くの人間たちの命を奪ったバトロイドたちの思念が集う場所……此処は彼らの流刑地であり、死後の世界ということだ」
「バトロイドの、思念……待ってください。機械に魂なんて……」
「……あるさ。命令を受けて動いた彼らは”後悔の念”を感じている……人間のように働いているのも、奪った命への償いだ……君たちを案内した彼も、だ」
バネッサ先生の言葉を聞いて思い出す。
あの小さなバトロイドが呟いていた言葉。
思い返してみれば、何を言おうとしていたのかはすぐに理解できた。
彼が俺に対して言った言葉は――”ごめんなさい”だ。
機械が、人間に対して謝罪をした。
後悔の念を感じて、謝ったのだ。
感謝の言葉も理解できない機械が……後悔という感情だけを知っている。
俺は何故か、胸が締め付けられるような気がした。
悲しみがこみ上げてきて、自然と手をギュッと握りしめた。
ただの機械だ、俺とは関係の無い存在たちだ……それなのに、俺は悲しかった。
「……君は優しいね」
「――ぇ?」
バネッサ先生が微笑みながら俺に近づく。
そうして、そっと手を差し出して俺の頬を伝う雫を拭う。
俺は濡れた頬に触れて激しく困惑した。
何故、何で、俺は涙なんか流した?
分からない。何も分からない。
だけど、懐かしさを覚えたこの場所で出会った彼らに――俺は、悲しみを抱いた。
「……祠には誰も入れない……此処に入るには、鍵が必要だ……君は、鍵の在り処を知っているね」
「……はい。俺はバネッサ先生にU・Mが向かった島の情報を教えてもらいに来ました」
「……鍵は、君の知人が持っているのかな?」
俺は首を左右に振る。
そうして、笑みを浮かべながらしっかりと答えた。
「――大切な人が持っています」
「……そうか。なら、すぐに行こう……君が憶えている範囲で良い。U・Mの船を最後に見た場所は?」
「……帝都の港です」
「……そうか。なら、大体の予測はつく……今から向かえば間に合うだろう……ところで、一つ聞いてもいいかな?」
バネッサ先生は眼鏡を取ってからポケットに入れた紙で拭く。
レンズを拭きながら、彼女は質問の内容を口にした。
「……私もオーバードを求めている。そんな私を、信じて良いのかい?」
試すような口ぶりで、彼女は眼鏡を再びつける。
そうして、彼女は指で眼鏡を上げながらジッと俺を見つめてきた。
俺は笑みを浮かべながら、彼女にハッキリと言う。
「貴方は俺を信じて待っていた。なら、今度は俺が貴方を信じる番だ」
「……甘いね……だけど、嫌いじゃない……さぁ行こう」
彼女は目を細めて笑う。
そうして、集落の出口を目指して歩き出した。
俺もその後を追ってついていき――後ろを振り返る。
サイトウさんはジッと祠を見つめている。
表情は見えず。彼女は黙ったまま祠を見ていた。
俺が声を掛ければ、彼女はゆっくりと俺に視線を向けて来た。
その表情は何時も通りの真顔で……気のせいか?
何かを彼女から感じた。
しかし、彼女は足を動かして俺たちを追ってきた。
俺の横を通り過ぎてバネッサ先生についていく。
俺は彼女の背中を見つめて――彼女たちの後を追っていった。




