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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第四章:存在の証明

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167:絶望の演出を

 襲い来る敵を墜としていく。

 スラスターを噴かせながら移動して、照準を定めてボタンを押せば。

 ライフルから閃光が迸って勢いよく弾が飛ぶ。

 逃げようとする敵の背中へと弾が殺到して、爆発を起こしながら堕ちていった。

 木々の中へと突っ込んで、火が燃え移って轟轟と燃え盛る。

 あちらこちらで火の手が上がり、街中が火の海と化していた。

 空気を遮断している筈なのに、センサーから見える映像だけで体が熱くなる。

 

 これで十機目で……まだいるな。


 レーダーを確認すれば、ゾロゾロと敵の群れが現れる。

 至る所で暴れまわっており、仲間が応戦に当たっていた。

 オープンチャンネルは既に切っている。

 最早、悲鳴や怒声しか聞こえなくなったからだ。

 混戦状態の中で、誰もが生き残る為の戦いをしていた。


 ディアブロからの連絡は無い。

 奴が今何処で何をしているのかも分からない。

 計画通りに進んでいるのであれば……っ。

 

 この地獄を見ているアイツは、今、何を思っているのか。

 直感が働いて、スラスターを噴かせてスライド移動をする。

 すると、元居た場所を何かが勢いよく通過して、地面に大きな一撃を与えていた。

 レバーを動かしながら、攻撃を仕掛けてきた敵を見つめる。

 ブレードを振って斬りかかって来た敵をギリギリで避けた。

 そうして、背後から銃口を向ける敵の気配を感じてスラスターを噴射する。

 横へと避ければ、弾丸が脇腹を掠めていった。

 俺は舌を鳴らしながら、背後にて銃口を構えていた敵を撃つ。

 バラバラと弾を放てば、被弾した敵は装甲に風穴を開けながら爆発した。

 倒壊した建物の残骸を避けながら移動。

 ブレードを持つ敵は上空に飛び上がってから、短距離ブーストをして急速に接近してきた。


 仲間の仇を取る為に再び斬りかかって来た敵――馬鹿の一つ覚えかッ!


 避ける事もせずに蹴りを放つ。

 スラスターを器用に動かして奴の頭部の顎を勢いよく蹴り上げた。

 質量の乗った重い一撃であり、奴の頭部は変形して前が見えなくなっていた。

 不格好な姿勢で地面に転がって建物を破壊していく。

 ガラガラと瓦礫に体を半分ほど埋めながら、手足を動かすそいつに銃口を向けた。

 そうして、無感情にボタンを押して弾を放つ。


 勢いよく殺到した弾丸がギャリギャリと敵の装甲を削り取っていった。

 そうして、センサーから光を消して敵の機体が完全に停止した。


 殺しても殺しても、次から次へと敵が現れる。

 空になったマガジンを自動で排出し、予備のマガジンを勢いよく差し込む。

 ボトリと地面に空のマガジンが転がって、ガシュリと新しいマガジンを嵌め込んだ。

 予備のマガジンに交換したが、もうこれで終わりだ。

 いよいよ自分の死が近づいてきたのだと認識する。


 這い寄る冷たい死。

 それを認識はしているが、怯える事は無い。

 死が迫ろうとも、終わりが見えようとも――やる事は変わらない。


 スラスターを噴かせて移動する。

 倒壊した街の中を移動しながら、メイの元に向かった。

 上空を見れば侵入して来た爆撃機が爆弾を投下していた。

 狙っているのは中心部であり、そこにいる幹部たちを殺そうとしているようだった。

 投下された爆弾が爆ぜて地面を大きく揺らした。

 建物の残骸が宙を舞い、中心部からは黒煙が上がっている。

 恐らくは、今の攻撃で中心部の防衛は……意識を戻す。

 

 レーダーで確認すれば、何機かのメリウスがメイの元に向かっていた。

 彼女は今も敵と戦っていて、すぐ近くには味方の反応は無い。

 生き残っている仲間もいるが、徐々にその反応を消していっていた。

 港の兵士は全員やられたのか。それとも逃げ出したのか――ペダルを強く踏む。


 更に加速すればスラスターから強い音が鳴る。

 コックピッド内を揺らしながら、ビリビリと痺れる操縦レバーをしっかりと握った。

 街の中には敵と交戦したであろうセイレーンの残骸などが転がっている。

 敵の残骸も転がっているが、すぐ近くに生きている味方の反応は無い。


 黒く焼け焦げた死体に、瓦礫に押しつぶされた死体。

 至る所に死体が転がっていて、冷や汗が頬を伝っていく。

 ヘルメットをつけた状態で汗を拭う事は出来ない。

 俺は嫌な汗を気にしないようにしながら、メイの元へと急いだ。

 


 

 メイの身を心の中で案じながら俺は移動を続ける。

 すると、すぐに俺が元いた場所に着く。

 見ればメイが乗っていると思わしき機体が敵と交戦している。

 傍には三機のメリウスがいて、彼女は奴らの攻撃を回避していた。


 俺は目を細めながらターゲットサイトによって三機の内の一機をロックオンする。

 短い機械音が響いて敵のロックオンを手早く済ませて――敵のセンサーが俺に向く。

 

 敵が此方に気づいた。しかし、もう遅い。

 勢いのまま奴へと接近して弾丸を放つ。

 実体弾が治安部隊のメリウスに当たって手足を捥いでいった。

 羽を捥がれた虫のようにスラスターを爆発させながら、倒壊した建物に突っ込んでいった。


 一機がやられたことによって敵が動揺する。

 メイはその隙を見逃す訳も無かった。

 彼女はすぐにブーストして動揺する敵に接近した。

 ガシリと敵の肩を掴みながら、ゼロ距離でコックピッドに弾を発射する。

 ガスガスと音が鳴って、敵の機体はだらりと四肢を投げ出した。

 生き残った敵が逃げようとする。

 しかし、それを見逃す筈も無く。

 背中を見せた敵を狙い――ボタンを押す。


 弾が発射されて、敵のスラスターに命中した。

 スラスターは勢いよく爆ぜて、機体はゴロゴロと地面を転がって海に落ちた。

 バシャバシャと水を弾きながら、手足をばたつかせてもがいている敵。

 それを見つめているメイは銃口をゆっくりと向けて弾を放った。

 ガリガリと装甲を抉って弾が貫通する。

 機体から煙を出しながら、海の中でもがく機体はぶくぶくと泡を出しながらゆっくりと沈んでいった。


 まだ、敵はいる。

 通信を繋いでメイにどうするか聞いた。

 すると、メイは中央に目を向ける。


《まだ、やる事がある。最後の仕事が》

「……行くよ。俺も」

《……当然、でしょ……兄貴も待ってるから》


 彼女がぼそりと呟く。

 カルロからの通信は無い。

 それが意味するのは……俺はレバーを操作する。


 無言でスラスターを噴かせて飛んでいったメイ。

 それを追いかけて、俺も中央を目指した。

 中央には幹部たちがいる。

 ディアブロの首を差し出そうとした二つの派閥――その親玉が。


 奴らを倒す事が出来れば上出来だ。

 奴らの首を差し出せれば、生き残る道も――警報が鳴る。


 敵の接近を知らせる警報であり、俺は銃を構えた。

 四方八方から敵が迫っている。

 生き残った俺たちを殺そうと、敵が躍起になっていた。

 此処まで殲滅に拘る理由は……俺は笑う。


 奴の狙い通りだ。

 奴の思惑通りであり、俺は思わず笑う。

 その結末がどんなにひどいものであるとも、俺はそれに乗っかった。

 だったら、最後まで付き合うしかないだろう。


《やばいね。本当にやばい……死ぬ覚悟は出来た?》

「さぁな……来世でも、会えるかな?」


 俺は何となしにそんな言葉を送った。

 すると、メイはため息を吐きながらも――くすりと笑う。

 

《……知らない……でも会えたなら、声、掛けてよ》

「あぁ、約束だからな」

《……なら、いいよ。最後まで――暴れてやるよォ!!》


 メイはスラスターを勢いよく噴かせて敵に突っ込んでいく。

 俺もその後に続いて敵の群れへと銃口を向けた。

 残った弾丸をバラまけば、敵は散開していった。

 メイは逃げていく敵の内の一機へとブーストして接近する。

 そうして、勢いよく蹴りを放つ。

 べこりと敵のコックピッド部分が凹んで、倒壊した建物に突っ込んでいく。

 砂塵を巻き上げながら突っ込んでいったそれから視線を逸らしながら。

 距離を取って弾丸を放ってくる敵の攻撃を避ける。

 短距離ブーストによって機体を横へとスライドさせて、俺も弾丸を放った。

 強いGによってレバーから手を放しそうになるが堪える。

 こんなのは慣れたものだ。今更どうこういうものじゃないッ!!

 

 スライドして移動しながら弾丸を放った。

 しかし、狙いは一切外れていない。

 狙い通りに敵の胸部に命中して、奴の装甲の亀裂から火が噴き出す。

 爆炎を上げながら機体は四散して、残骸がパラパラと舞う。


 だが、まだ安心は出来ない。

 

 敵の機体が迫って来た。

 風を切り裂きブーストして突っ込んできた敵。

 蹴りを放ってきただろう敵を回転によって避ける。

 ビリビリと震えて、ディスプレイに映る映像も乱れた。

 俺は笑みを深めながら、回転によって遠心力の乗った蹴りを敵に見舞った。

 間抜けな敵は背中を見せていて、背部のスラスターに俺の蹴りがめり込む。

 ベキベキと音を立ててめり込んで、勢いのまま瓦礫に機体を突っ込ませた。

 スパークを起こしながら立ち上がろうとしている敵に銃口を向けた。

 そうして、冷静に弾を放って息の根を止める。


 動かなくなった敵から目を逸らす。

 そうして、メイも今しがた敵を一機墜とした事を確認した。

 残骸が空中で待って、風で残骸の一部が此方に飛んできた。

 カツカツと装甲に当たり小さな音を響かせながら、俺はスラスターを動かして再び移動を開始する。


 どれだけ敵を墜とそうとも、どれだけの戦果を挙げようとも――俺たちの結末は変わらない。


 結末が変わらないのなら、最後まで足掻くだけだ。

 俺は笑みを深めながらペダルを強く踏んで加速した。

 心なしかセンサーの光が強まったような気さえする。

 風を切り裂き、音を立てながら飛行して火の手を上げる街を疾走する。


 そうして、俺たちは中央へと立ち――驚愕する。


 視線を向けた先には倒壊した建物が一つ。

 幹部たちが集まっている筈のそこは完全に破壊されていた。

 爆撃されようとも形を保っていると言われたそれが破壊されている。

 扉の近くには瓦礫に潰された死体が転がっていて……生体反応も無い。


 建物の中にいた幹部は全員死亡したのか。

 それは二つの派閥の幹部たちも死亡したと言う事か……いや、違う。


 アイツ等は逃げ延びている。

 不自然な動きは俺も認識していた。

 敵を招き入れていたのは一目瞭然で。

 協力していたのなら、事前に攻撃を受ける時間も知っていた筈だ。


 これも、奴は予想していたのか……?


 味方も、敵も、全てを利用した結果か……?


 狂っている。狂っているが、奴は正しい。

 奴が頭の中で思い描いていた通りだ。

 寸分の狂いも無く、今起こっている事象も――俺は薄く笑う。

 

 すぐに表情を戻して、姑息な真似をする敵に舌を打つ。

 メイは無言で倒壊した建物を見つめていた。

 しかし、すぐに戻って来てマガジンを交換していた。


《……次のフェーズだ》

「あぁ」


 レーダーによって周りが敵に囲まれたことを悟る。

 敵は俺たちに狙いを定めながら距離を取っていた。

 俺たちは周りを警戒しながら、背中を預け合って――誰だ?


 通信を繋いで来ようとする人間がいた。

 俺は不審に思いながらも通信に出た。

 すると、声の主は男で自らを治安部隊の総督だと言った。


《大罪人マサムネ。お前は完全に包囲されている。大人しく投降しろ。もしくは、そこにいる仲間を撃ち殺して抵抗する意思が無い事を示せ。そうすれば、温情を与えなくも無い》

「……何?」

《繰り変えす。大人しく投降しろ……ディアブロは死亡した。最早、この戦いに意味は無い。お前の仲間の身柄も我々が抑えた》


 映像が送られた。

 そこには血を流して倒れているディアブロと唾を垂らしながら虚ろな目で拘束されるサイトウさんがいた。

 ディアブロは死亡し、サイトウさんは鎖に繋がれている。

 どう見ても俺たちにとっては詰みで、これ以上の戦いに意味は無い。

 

 意味は無い、が――終わらせる理由も無いッ!!


 合図をすることも無く俺とメイは動き出す。

 敵へと発砲しながら、最後の足掻きをした。

 バラバラと弾をバラまいて敵を牽制し、接近してきた敵を蹴る。

 撃っても撃っても、敵は恐れる事無く突っ込んでくる。

 メイの機体は敵の弾丸に被弾して煙りを出していた。

 俺はすぐにメイの元に行って、攻撃をする敵を撃つ。

 被弾した敵はスパークを起こしながら瓦礫に突っ込んで――強い衝撃を感じた。


 横腹を叩かれたような衝撃で。

 俺はスラスターを噴かせて何とか衝撃を逃がした。

 ガラガラと瓦礫を弾きながら地面を滑る。

 すると、敵の内の一体が長刀を振っていた。

 斬られる事は無かったが、機体の損壊度が跳ね上がった。

 電気系統が少しイカれた様であり、マニュピレーターの感度が下がっている。

 俺は冷や汗を流しながら、攻撃を続ける敵を見つめた。


 敵の攻撃を回避していれば、総督の声が聞こえてきた。

 奴は余裕のある声で、俺に語りかけてくる。


《大罪人マサムネ。お前には最早、逃げ道など一つも無い。ファストトラベルも封じた。死亡して復活しようとも、此処で死亡した反逆者たちは収容所へと強制的に転移される手筈になっている。貴様は現世人であるのかこの世界の住人であるのかも定かではないが……まぁ、そんなものは関係ない。貴様が何者でも幸福な結末は訪れない。お前も、お前の仲間も――終わりなんだよ》


 くつくつと笑いながら、奴は俺が詰みであると教えて来る。

 俺は強く歯を食いしばりながら、操縦レバーを操作した。

 加速によって機体が軋んで、装甲が今にも外れそうだった。

 少なくない被弾の数に、エネルギー残量も見る見る内に激減していく。

 エネルギーが漏れ出ており、これ以上の戦いは不可能に近いだろう。


 しかし、それでも俺は戦い続けた。

 ライフルを銃身が赤く赤熱するまで弾を乱射する。

 ガリガリと敵の装甲を削って撃ち落す。

 しかし、仲間ですら囮に使うような奴らだ。


 俺が硬直している瞬間を見計らって攻撃を仕掛けて来る。

 プラズマ砲を構えた敵から放たれたプラズマ弾。

 それが目の前で勢いよく爆ぜて、被弾した俺の機体は動きを止めた。

 装甲は黒く焼け焦げて、機体のセンサーから一瞬だけ光が消える。

 映像が一瞬だけ途切れた中で、すぐさまコンソールを出して操作した。

 その瞬間に敵が接近してくる気配を感じた。

 長刀を大きく振り上げたのか風の音が聞こえる。

 機能が回復してレバーを握り回避行動をすぐさま取る。

 だが、間に合わず――ッ!!

 

 肩部に深々と長刀がめり込む。

 残骸がパラパラと舞って、片腕が破壊されてしまった。

 その場で体勢を崩すような動きをして、そのまま回転して隙だらけの敵の胴体部を蹴りつける。

 コックピッド内をお返しとばかりに攻撃して、激しくシェイクしてやった。

 たたらを踏みながら、敵の機体が仰向けに倒れた。

 俺も蹴りを放って後ろへと下がるが、バランスを崩して片膝をつく。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くっ」

 

 呼吸が大きく乱れる。

 蒸し暑く不快な臭いが漂うコックピッド内で。

 大粒の汗が流れていった。

 シールドを開きながら、俺は乱れている映像を睨みつけた。

 総統は焦っている俺の顔を見てニヤリと笑う。

 

 片腕を失って、機体全体がスパークしている。

 装甲は焼け焦げて、所々が剥がれて内部が剥き出しになっているのだろう。

 エネルギー残量も僅かであり、残りの戦闘可能時間は……保って十分か。


 体の中から水分がなくなっていく。

 俺は意識を朦朧とさせながら、操縦レバーを掴んで――ずるりと滑る。


「しま――ッ!!」


 一瞬の隙、敵がそれを見逃す筈も無い。

 背後から敵の殺気を感じる。

 バックカメラを確認すれば、敵が銃口を俺へと向けている。

 

 

 確実に死ぬ。この瞬間に俺は死ぬ。

 

 死ねばどうなる。死ねば、何も無い。


 生きていても死んだも同然だ。


 終わる。終わるのか――っ?


 

 何かが俺の背後を覆う。

 横合いから現れた何かが、俺と敵の射線に割り込んで。

 その数秒後に敵が引き金を引いて弾を放った。

 ガリガリという音と共に、それは黒煙を上げながら機能を完全に停止させる。

 

 

 ごろりと転がったそれはセイレーンで――メイだった。


 

 俺は目を見開きながら彼女を見つめた。

 そうして、敵の攻撃を予測してその場から離れる。

 敵の弾丸が地面を削り、俺は地を滑りながら敵の攻撃を逃れた。

 半壊した建物を盾にして弾丸を避けてスライドしていく。


 

 メイの反応は――ロストしている。


 

 戦死したメイ。

 彼女の機体が無残に地面に横たわっていて。

 通信を繋げようとしても、彼女の声は聞こえてこないだろう。

 彼女は復活できる。しかし、反逆者は皆、収容されてしまう。

 自由を奪われて冷たく暗い牢獄の中へと誘われるのだ。

 俺は目を細めながら、操縦レバーを血が滲むほど強く握った。

 強く強く歯を噛めば、口内に血の味が広がっていく。

 

 悲しみはこみ上げてくる。

 しかし、止まっている暇は無い。

 彼女は任務を果たした。

 次は俺の番であり、覚悟を決めなければいけない。


 唇を噛みしめながら敵を見つめる。

 通信を再び繋いできた総督はくつくつと笑っていた。


《……死にゆく君に、一つ、教えてやろう》

「何、だ?」


 俺は呼吸を乱しながら聞けば、奴がにやりと笑ったのが分かった。




《――君の情報を渡したのはディアブロだ。君は、最初から味方に裏切られていたのだよ》

「な、ん……だと?」




 動揺したような声で喋る。

 すると、総督は笑みを深めながら哀れな男である俺を嘲った。

 俺は口をわなわなと動かして恐慌状態に陥ったように叫び声を発した。

 そうして、全てを失った男のように壊れかけのメリスウで敵に突撃する。

 すると、冷静さを欠いたような俺の動きを見て。

 敵は陣形の取れた動きで攻撃を浴びせてきた。


 四方八方から放たれた弾丸。

 全てを片腕を失った状態で避けられる筈も無い。

 装甲に無数の穴が空き、小枝を折る様に手足を捥がれた。

 残骸が宙を舞い、コックピッド内は激しくスパークした。

 大きく機体が揺さぶられて、頭を強く打ち付けた事によって鈍い痛みを感じる。

 計器がイカれて小さな爆発を起こして、映像も乱れに乱れていた。


 四肢を捥がれて、機体が地面を滑っていく。

 ギャリギャリと火花を散らしながら滑って、敵の内の一機に足で止められた。

 頭部を踏みつけられながら、バックモニターで銃口を向けられている事を悟る。

 敵から喜びの感情が伝わって来る。

 自分の手で俺という名付きを殺せるのだ。

 それがどれほどの名誉なのかは分からないが、好きなだけ喜ぶといい。

 俺は焦ったように両手で顔を隠しながら、命乞いの様な言葉を吐いた。

 

 助けてくれ、命だけは、もう抵抗しない……こんなところか?

 

 涙と鼻水を出しながら、俺は哀れな男になりきる。

 すると、総督は大きくため息を吐きながら冷たい目で俺を見て来た。

 そうして、ゆっくりと俺の死刑を宣告した。

 

 

《かつての英雄も無様なものだな……死んで、私の星となれ》

「い、いやだぁ! いやだぁぁぁぁ!!!!?」


 

 手足をバタバタと動かす。

 そうして、涙を流しながら指を動かした。

 スーツの裏に仕込んだ装置を起動して、あるコマンドを入力して体に変化が起きる。

 

 

 間に合うか、ギリギリか――っ。


 

 敵は銃口を定めて引き金を引いて、弾が発射された。

 大きな弾丸が迫ってコックピッドを撃ち抜く。

 ディスプレイを突き破って来るそれを感じる。

 視界を覆い隠すような激しい閃光が起こり、俺は大きく目を見開いて――ニヤリと笑った。

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