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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第四章:存在の証明

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161:静かなる水中戦

 コックピッドの中で外の景色を眺める。

 ハッチは開いた状態で、シートに背中を預けながらボケっと眺めていた。

 水平線の彼方には大きな船が浮かんでいて、此方に光信号を送って来る。

 チカチカとライトを点滅させながら、返事の無い此方に苛立ちを募らせている様子だった。


 メリウス一機が何とか積める中型船。

 見かけはただのオンボロ船であり、メリウスを隠す為のコンテナが載せられている。

 自動操縦によってモーランバレスから離れて暫く。

 目的の治安部隊の船を視認しながら、俺は秘匿回線を使って仲間に連絡を繋ぐ。

 時刻は既に夜であり、星々の中で輝く月と敵の放つ強烈な光だけが周りを照らしている。

 近くには俺と同じようにメリウスを積んだ船がぷかぷかと浮いている。

 敵は威嚇射撃をして来て、俺たちに対して強い警告をしていた。

 俺はそれを無視しながら、通信相手に問いかける。


「あれか?」

《そ。アレを派手に潰せばいいから……半端な事はやめてよ》

「分かっている」


 半端な事とは、乗組員を生かしておくなと言う事だろう。

 一度戦うと決めたのなら、きちんと約束は守る。

 例え何が起きようとも、受けた依頼は完遂して見せる。

 偽装コンテナの隙間から見える敵船を眺めて、俺はゆっくりと機体を操作した。

 コンソールを叩いてハッチを閉じさせる。

 上下に開いていたハッチは完全に閉まり、外からの空気を完全に遮断した。

 酸素を作り出す機能が作動して、コックピッド内で酸素が自動的に生成される。

 生暖かい空気であり、あまり長く此処にいたいとは思えない。

 ほのかに灯った光を頼りに、コンソールを操作していく。


 搭乗している機体の情報を再度読み込む。

 MPT―25WG、機体名セイレーン。

 ”東源国”で作られた量産型の第五世代型メリウス。 

 水中戦をメインに設計された特殊なメリウスで、深海での作戦行動を可能にする為に装甲も厚くされている。

 背中に背負った大型のバックパックからはスラスターが伸びており、これは水中でも陸上でも運用が可能なものらしい。

 頭部の口と腰部に巻き付くように空気の交換と空気圧の調整をする為のパイプが付けられている。

 ヴァルターと違うのは、パイプにはちゃんとした装甲が施されていて。

 損傷を受けたとしても、装甲内部に内蔵されている保護液が広がり一時的に穴を塞ぐようだ。

 メイから説明を受けたが、あまりこれは過信しない方が良いようだ。

 応急的な処置であり、その部分は当然のことながら脆い。


 全体的に丸みを帯びたシルエットで、水中での戦闘であれば名付きの専用機にも劣らない。

 ただし、水中での移動時には大量のエネルギーを消費する。

 高機動状態での戦闘は保って一時間ほどであり、もしもエネルギーが尽きればそのまま海の藻屑のようだ。


 短期決戦型のモデルであり、隠密タイプのメリウスだと聞いている。

 装備しているのは弾丸が銛のようになったハープーンガンと脚部のマルチポッドに装備された小型魚雷。

 両手の腕部に収納されているレーザーガンが二門だ。

 ハープーンガンの威力は強力だが、装弾数は十発と心もとない。

 魚雷も両足のポッドを合わせても六発であり、これは船を轟沈させる為に使用する。

 二つの武器が使用不可になれば、自動的にレーザーガンを使う事になるが……不安だな。


 あまり連射はするなと事前にメイから忠告された。

 連発をすればすぐに回路が焼き切れて使い物にならなくなるらしい。

 最低でも数秒の時間をおいて使用しなければならない。

 そうすれば、カートリッジのエネルギーが尽きるまでは使える。


「……水中戦か……まぁ、やるしかないか」

《そろそろ行くよ。準備して》

「了解」


 メイからの声は聞こえる。

 しかし、カルロの声は全く聞こえなかった。

 メイが突然大きな声を出せば、カルロは驚いた声を出した。

 どうやら寝ていたようで……こいつは大物だな。


 今から一戦交えるというのに眠っていたのだ。

 俺は笑みを浮かべながら、流石は名付きだと思って。

 ゆっくりと機体が下へと下がっていき、水へと浸かっていく。

 開かれた底の下は海であり、その中へと機体が沈んで自動的に機体内の空気圧を調整する。

 バックパックのスラスターも調整されて、水中戦のモードに切り替わる。

 青いライン状のラインを光らせながら、俺はしっかりとハープーンガンを握った。


 機体が完全に海の中に沈んで。

 遅れて船から爆発音が聞こえた。

 敵が威嚇を止めて攻撃してきたようで、今にも船が沈みそうだった。

 俺は音声によって機体を掴むアームのロックを解除した。

 ガシャリと音がしてアームが外される。

 俺は操縦レバーを握りながら、二人に声を掛けた。


「作戦を開始する」

《了解》

《おぅ》


 スラスターから高出力のエネルギーが噴出する。

 勢いよく機体が海中を進んでいって。

 レーダーに敵の船の位置が表示される。

 スラスターを起動させたことによって、敵は俺たちの存在に気が付いた筈だ。

 俺たちはそんな事も気にせずに奴らへと急速に接近する。

 シートに体を押し付けながら、生暖かい空気を吸い込んで笑みを浮かべた。

 

 敵が魚雷を発射しようとしている――が、遅い。


 既に此方の射程範囲内で。

 この距離であれば回避する事は出来ない。

 俺は奴らの船をロックオンしながら、ミサイルポッドを展開する。

 勢いよく魚雷が発射されて、真っすぐに船へと突っ込んでいく。

 俺は旋回して奴らから距離を取る。

 スピードを上げながら距離を離して――閃光が迸った。


 一瞬の激しい閃光。

 それと同時に海の中で揺れが起こった。

 鈍く低い地鳴りのような音が響いた。

 それがほぼ同時に三回であり、レーダーから敵の船の反応がロストする。

 確実に轟沈させたようで……いや、違うな。


 一隻だけ反応が残っている。

 それはメイが補足した船で……あぁなるほど。

 

 奴らにとっては奇跡。

 俺たちにとっては最悪の展開。

 奴らは破れかぶれの攻撃を仕掛けた。

 その攻撃がメイの放った魚雷に当たって、数発の魚雷が船に当たる前に爆発した。

 それによって船は轟沈を免れたのか。


 センサーから見える魚雷の残骸。

 そして、メイが狙っていた船の損壊度。

 それを計算して、恐らくはそうなったのだろうと考えた。

 メイは舌を鳴らして怒っていて、俺はすぐに敵が出てくることを伝えた。

 メイは手に持ったハープーンガンを構えながら、堕とし損ねた船に接近した。


 レーダーに反応が――機影は四。


 生き残った船から四つの熱源反応をキャッチした。

 空の上を飛んでいて――俺はペダルを強く踏んだ。


 勘が働いて、メイの元へと向かう。

 俺は機体を反転させて、海面に機体を向かせた。

 海の中を移動しながら、ハープーンガンを上に構える。

 レーダーの位置を確認し、海面から見える光を見ていた。

 射光の角度に、敵の行動パターンを予測して――弾を放つ。


 ハープーンガンが勢いよく射出されて、海面から飛び出す。

 揺れる水面を見つめていれば、バチリと火花が散った。

 まるで花火の様で……軽いな。


 思っていた反応ではない。

 敵を掠めただけで――回避行動を取る。


 海面を突き破って弾が殺到する。

 水の柱を作りながら、無数の弾丸が迫って来た。

 俺はそれを右へ左へと機体を操作して避けていく。

 敵の携行している武器は実体弾のライフルであり、海戦用の武器ではない。

 それならやりようはあり、俺はハープーンガンを再び構える。

 すぐ近くを敵の弾丸が通っていき、機体内で警報が鳴り響く。

 俺はゆっくりと空気を吸い込んで意識を集中させた。

 敵の弾道から今いる位置を予測。

 移動しながら弾を撃っているのなら――此処か。


 ハープーンガンから弾が発射された。

 気泡を発しながら弾が放たれて。

 凄まじい勢いで海面を再び突き破っていく。

 そうして、俺の放った弾は――強い閃光を発した。


 弱弱しい光ではない。

 強い光であり、何かが此方に向かってくる。

 落下してきた物体は、機体から炎を巻き上げていて。

 激しい気泡を発しながら、ガラクタとなったメリウスが沈んでいく。

 その心臓部には深々と俺が放った弾が刺さっていた……これで一機。


 残りは三機で――反応が二つ消えた。


 見れば、カルロが機体を激しく動かしている。

 荒々しい操縦だが、敵の攻撃を避けていて。

 激しく気泡を出している事から、一度海上に上がったのだと理解した。

 敵から狙い撃ちされる危険があるにも関わらずに浮上した。

 そうして、見事に敵の内の一機を打ち取って見せた。

 ならば、残りの一機は誰がやったのか――鼻を鳴らす音が聞こえた。


 ハープーンガンを構えながら、メイが海中から敵を狙撃した。

 思い出せば、彼女が使っていた武器はスナイパーライフルで。

 遠くからの、それも視界が不良の中での狙撃なら彼女が上手かもしれない。

 メイは冷静に敵の機動を読みながら、落ち着いた様子で弾を放つ。

 すると、最後の一機からも激しい閃光が上がった。


 勢いよく落下してきた金属の塊。

 それがセンサーから光を消しながら沈んでいく。

 船を一瞬にして轟沈させる任務であったが、図らずもメリウスとの戦闘になった。

 しかし、敵は水中戦など経験していなかったのか。


 運の悪い事に、俺の監視役は水中戦になれた名付きだった。

 俺が出る幕何て無く、四機の内の三機は二人が片付けてくれた。


《これでチャラ……ボスには言うなよ》

「……何も見ていない」

《あぁ? ドジった事を隠せってかぁ? ははは! だっせぇなメイぃ》

《――後で殺す。絶対に殺す》

《おぉこえぇこえぇ……何だ?》


 二人が楽し気に会話をしていれば、レーダーに反応があった。

 高速接近中の熱源反応があり――俺は緊急回避を試みた。

 

 ペダルを踏んで横へと移動する。

 すると、一瞬遅れて脇を何かが掠めていった。

 甲高い音を発しながら凄まじい勢いで通過していった何かは――激しい閃光を迸らせた。


 背後で強い衝撃を感じながら、機体を操作する。

 今の衝撃は魚雷のそれで――あれはッ!


 高速接近してきた機体の姿を捕らえた。

 平べったいフォルムをした黒い機体で。

 背後に二つのスクリューを付けたそれは水中の中を縦横無尽に泳ぐ。

 赤い単眼のセンサーで、上部には魚雷用のポッドを付けて。

 下部からは長い砲塔が伸びていた。

 メリウスのような人型ではない。

 魚の様なフォルムであり、水中での移動スピードは同等のレベルか。


 全部で三機の謎の敵機体。

 恐らくは、治安部隊のメリウスで……やるしかないか。


 二人も応戦状態に入って戦っている。

 俺も高速移動しながら、背後から迫る敵を見つめた。

 ガタガタと揺れるコックピッド内。

 海中に響く鈍い音を耳で聞きながら――俺は静かに銃口を敵へと向けた。

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