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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第四章:存在の証明

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142:来客から渡された手紙

 ホテルの一室にて端末を操作する。

 オフラインの状態で、厳重なロックを掛けたファイルを使って今までに手に入った手掛かりを記していく。

 オーバードの情報は集まってきたが、その情報を整理できていなかったのだ。

 俺は自分の頭の中を整理するつもりで、文字として書き記していく。

 

 黒き神と白き神、メリウスのような人型の兵器で意思を持っていると目される機械。

 人智を超えた力を持ち、世界の創造すら可能とする古代兵器。

 誰が設計して、何時頃作られたのかも分からない。

 そもそも、扱える人間が限定的過ぎて、その所在すらまだあやふやだ。

 掴めているのは、神殿の様な場所でオーバードの一つは眠っている事で。

 その場所はこの広い海の何処かにある大渦の中だ。


 天子にはその情報を伝え終えている。

 今頃はミネルバも使って場所の特定を急いでいるのだろう。

 天子は告死天使に情報が漏れないように奴を偽の情報で東源国から遠ざけていると言っていた。

 しかし、その偽の情報で奴を引き離していられるのも今の内だ。

 奴等ならば、絶対に本当の情報の匂いを嗅ぎつけてくるだろう。

 

 告死天使と戦えば、誰でもあろうとも命は無い。

 紫電で戦った時から、俺は奴に対して怯えに近い感情を抱いていた。

 戦っても勝てないと思わせるほどのプレッシャー。

 そして、奴の言葉から滲みだす圧倒的なまでの自信。

 強者を超えて無敵とすら思えるほどの力を持った奴の事だ。

 仲間を引き連れてくれば、まず間違いなく此方に勝ち目はない。


 ゼロ・ツーとゼロ・スリーは危険だ。

 ツーは自らに利があると分かれば進んで殺しもする。

 スリーに関しては根っからの悪人であり、卑怯な手も躊躇う事無く使う。

 それぞれ戦闘スタイルは異なるが、敵に回せば厄介な事に変わりはない。


 ツー・エイトに関しては脅威には思っていない。

 奴の弱点は、告死天使を妄信し過ぎるあまりに周りが見えていない事だ。

 告死天使に関する侮辱でも吐けば、奴は怒りに駆られて自ら襲ってくるだろう。

 そこを突けば、奴は簡単に墜とせる筈だ。


 後はファイブ・Bか……奴に関しては特に何もない。


 ファイブ・Bはそもそもが機械で。

 思考パターンや戦闘スタイルは予め設定されているものでしかない。

 サイトウさんが言うには、Sランクの傭兵ほどの技量は持っているらしい。

 何度か一緒に作戦を遂行したが、確かに無駄は無い。

 が、無駄が無ければ次の行動は読みやすい。

 替えのきく消耗品程度の奴ならば、数の内にも入らないだろう。

 告死天使はメンバーの補充をしに行かずに済むから奴を重宝しているのか……まぁ、それは分からない。


 サイトウさんの情報によれば、ゼロ・ツーは告死天使と行動を共にしていて。

 今は北の氷結地帯を調べに行っているらしい。

 天子は告死天使に嘘と真実を混ぜた情報を伝えた。

 その結果、告死天使はそこにいるかも分からない覚醒者を探しに行った。

 天子の部下からの情報で、遥か先の未来を見る事が出来る人間が氷結地帯にて暮らしているらしい。

 奴にとっては全くと言っていいほど信憑性の無い情報で。

 告死天使が信じるかは賭けだったらしいが、奴はそれを鵜呑みにして出かけていったようだ。

 サイトウさんが言うには、告死天使は基本的にあの少女の命令に従っている。

 今回も、天子の情報をあの少女に伝えて、告死天使は何かしらの命令を受けて氷結地帯に向かったと思われるが……奴が何を命令されたかまでは、サイトウさんでも分からない様だった。


 ゼロ・スリーとツー・エイトとファイブ・Bの行動は不明。

 奴らも少女から命令を受けて行動しているらしいが。

 何処へ行って何をしているのかは分からない。

 基本的に性格が合わない奴らが共闘何て出来るのかは甚だ疑問だ。

 スリーは邪魔になると判断すれば、味方でも平気で殺すような男だ。

 ファイブ・Bはよく奴の命令で囮やしんがりにされていて、不憫だと思った事はある。

 エイトは特に何も思ていなかったが、奴自身が利用された時は怒るだろう。

 犬猿の仲とまでは言わないが、金で動く男と妄信する男とでは相性が悪い。

 自滅してくれるのならありがたいが、パイロットしての技術がある分、それは無いだろうと思う。


 告死天使の陣営は二つに分かれて行動している。

 氷結地帯への調査と、行動不明の部隊。

 何方ともオーバードに関する事で動いていたとしたら厄介だ。

 衝突しないことを祈りながら、俺たちもオーバードの情報を集めなければいけない。

 何とかして奴らよりも先に海底神殿の場所を突き止めて、先に動かなければ。


 告死天使の内情は大体掴めた。

 残る不安材料はゴースト・ラインで。

 奴らの行動に関しては基本的には予測できない。

 やっている事は到底理解できるものではなく。

 それが何に繋がるのかも分からない。


 しかし、天子からの情報で、オーバードの為の準備をしていたのだとようやく理解できた。

 魂の再構築に、メリウスに意思を持たせ為の無人機化。

 前者はオーバードを扱える人間を人工的に生み出す為で。

 後者はオーバードを人工的に作り出せるかの実験だったのだろう。

 結果的にはオーバードを複製することは不可能で、あの失敗作が生み出された。

 オーバードを扱える人間を人工的に生み出せるかは分からないが、結果的には魂の再構築は可能とした。

 神薬の開発は成功して、奴らも望む結果を得られたのだろうか……なら、次は何だ?

 

 クローン技術に記憶のインプット。

 奴らの研究施設で盗み見た記録によれば、イレギュラーの存在も認知している。

 天子自身もイレギュラーは覚醒者の事であると言っていた。

 未来視と呼ばれる力は俺自身も発現しているからこそ、そういう人間が存在する事は分かる。

 新人類を作り出す計画は、その未来視の力を発現させる事も含まれているのか?


 

 魂の再構築に、未来視の発現……まさか、俺が知らないオーバードを扱う為の条件が存在するのか?


 

 奴らの研究にイレギュラーが含まれているのであれば、関係していないという事は無いだろう。

 いや、待て。そもそも、奴らはどの段階でイレギュラーの存在に気付いた?


 奴らのボスが、イレギュラーを初期の段階で知っていたとする。

 そして、現段階でイレギュラーの発生条件を理解していたとしよう……それは危険だ。


 未来視と呼ばれるものは強力な力だ。

 数秒先であろうとも、自らの死を回避する術を持つ事になる。

 メリウスのパイロットであれば、たったの数秒で相手を殺す事は可能だ。

 自らの死を回避するだけではなく、相手の動きを予測する事も出来る。

 そんなゲームでいうチートに近い力を持った敵がゴロゴロと出てくれば……死闘は免れないな。


 勝者が現れるかも分からない戦い。

 それが一度や二度では無く永続的に続くのだ。

 奴らはクローン技術によって不死身に近い兵士を大量に作れる。

 しかし、俺は死んだらどうなるかも分からないのだ。

 サイトウさんは現世人でないから、死んだら終わりだろう。


 ……いや、でも、それに関しては問題ない筈だ。


 もしも、奴らがイレギュラーの発生条件を理解したら。

 それこそ、俺の想像通り無敵の軍団が出来あがる。

 帝国と公国の戦争で無人機を使ったのも、その後の戦いでただのクローンを使ったのも。

 全てはイレギュラーの発生条件を認識していなかったからだろう。

 誰であろうとも楽な戦いがしたい。

 それが出来ないのなら、奴らは理解していなかったと言う事だ。


 楽観的な考えかもしれないが、そう思うしかない。

 違うのであれば、その発生条件が困難であるかだろう。

 何方にせよ、容易く量産できないものと言う事だ。


 ゴースト・ラインに関しては全てが未知数だ。

 あれ以来、ファーストを含める幹部からの接触は無い。

 恐らくは、あの会合はただの偶然で。

 本来の目的を果たしたファーストは、何処かへと去っていったのだろう。


 何が目的で帝都を訪れていたのか……考えても分からない事か。


 端末に記す事を終えて、ゆっくりと端末の電源を落とす。

 そうして、ゆっくりとポケットに仕舞う。

 静かに息を吐きながら、天井を見つめる。

 肌色の様な色味の天井で、ボケっと見つめて――音が鳴る。


「……」


 ホテルに設置された固定電話が鳴る。

 フロントからだろうが、一体何の用なのか。

 俺は訝しむような目を向けながら、ゆっくりと受話器を持つ。

 そうして、耳にあてながら何の用かと聞いた。


《……その、先ほど怪しい人物が当ホテルを訪れまして……あの、一方的に手紙を渡されたのですが……》

「……俺宛にか?」

《は、はい……あ、怪しい人間は女性で。桃色の頭髪をしていました。年齢的には若く、二十代前半……いや十代かもしれません》

「……やたらに明るい女か?」

《あ、はい! 元気はつらつと言った感じで……どう、しましょうか?》


 俺は大きくため息を吐く。

 手紙を押し付けた人間の見当はついた。

 しかし、何故、この帝都に彼女がいるのかは分からない。


 どうやってホテルの居場所を特定したのか。

 何故、変装をして顔や姿を変えている俺が誰であるのか理解できたのか。

 

 それを知る為にも、手紙を受け取らなければいけないだろう。

 俺はフロントに手紙を受け取りに行くことを伝えた。

 彼は安心したように胸を撫でおろしていた。

 受話器を戻してから、俺は椅子から腰を上げる。


 罠である可能性もある。

 彼女の姿を真似た別人かもしれない。

 しかし、態々変装もせずに手紙を直接届けに来るのは彼女くらいだろう。

 考えなし、無鉄砲……俺は笑みを浮かべる。


「……最強、だったな」


 昔を懐かしんで微笑む。

 そうして、俺は彼女の顔を思い浮かべながら部屋から出ていった。

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