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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第四章:存在の証明

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134:白き神と黒き神

「……これも駄目だ」


 何度も何度も検索ワードを変える。

 しかし、中々絞り込むことが出来ない。

 探している書物は一つだけの筈なのに、何故、出てこないのか?


 何かが足りない。

 決定的な何かが欠けているからこそ。

 望んでいる書物が出てこないのだ。

 全員で知恵を絞りだしているが、中々出てこなかった。


 どうすれば、オーバードに関する書物を発見できるのか……マイクが手を上げる。


「あ、あの。皆さんは何故、そこまでしてそれを? もしかして、今回当博物館を訪れたのは……」

「えぇ、詳しくは言えませんが我が国ではある古代の遺物の調査をしています。それに関する古文書がこの博物館にあるという情報を得たので……隠していたようですみませんでした」


 アサギリ先生が頭を下げる。

 マイクは慌てて両手を振って頭を上げるように言ってきた。


「いえ、別に謝る事では……そうですか。先生ほどの方が探しているものであれば、かなり歴史的に価値のある文献なのでしょうね……考えてみたんですが。古代の物で、大地を創造する力? というものを有しているものであれば……その、それ自体を神として崇めているのではないでしょうか?」

「古代の遺物が神に?」

「え、えぇ。私の推測ですが、古代人は神秘的な物や自然現象を神として認識する傾向がありました。理解不能なものを不思議な何かと考えて……それほどの力があるものなら、神に等しいのではなく。神として崇め奉っていたのでは?」


 マイクの言葉を聞いて、俺は考えた。

 確かに古代の人間であれば、理解できないものを神として考える可能性はある。

 古代兵器であるオーバード……そもそも、そんな物が古代人に作れる可能性はかぎりなく低い。


 メリウスが初めて実戦に投入されたのは光星歴756年。

 タイタンの名を付けられた第一世代型メリウスが記録されている。

 強化外装ですら光星歴519年に三大国家の共同開発によって生まれたのだ。

 それ以前の歴史で、強大な力を持つような兵器の開発は行われていない。

 記録に載っていないのであれば、それよりも更に大昔の話か。

 強化外装ですら作られていない時代で、オーバードを作り出す事なんて出来ない。

 十中八九が、この世界の住人ではない誰かが作り出したのだろう……例えば、マザーを作り出した人間たちか。


 不可能を可能にした人間たちであれば、もう一度奇跡を起こすことも出来るかもしれない。

 可能性は低いかもしれないが、決してゼロではない。

 だったら、外の世界の人間がオーバードを作り出して、この世界の人間が偶然使えたと考えるべきか。

 いや、意志を持っているのであれば兵器自らが己の力を自分の意思で使ったのか?


 仮想現実世界の歴史も謎が多い。

 この世界がマザーが構成して生み出した世界なのは理解している。

 しかし、現実で五百年も経過していれば大変な事になるだろう。

 この世界の歴史で、現世人が関りを持っているのは光星歴900年からだ。

 それ以前の歴史に関しては現世人は関わっていない。

 マザーが文明を与えて時を加速させて、その結果今の年月まで時が経っている。

 彼らは自然な流れで文明が築き上げられて、今までの歴史があると認識している。

 それに間違いは無く、彼らにとってはそれが正しい。

 ただ俺たちは途中から参加した人間であり、彼らの歴史を書物などを読むことでしか理解できない。

 

 マザーは完璧であり、俺たち現世人が違和感なくこの世界に入れるようにした。

 恐らくは、この世界の住人の常識を改変したのか。

 オーバードも凄いが、マザー自身はもっと凄い。


 

 いや、待てよ。

 マザーが創造主なら……オーバードを作ったのは……。


 

 まだ、分からない。

 その可能性が高いだけで、決定的な証拠は無い。

 決めつけるのは早く、決めつけたところでどうという事は無い。

 今はそれを考えるのは置いておいて、マイクの意見について考えよう。

 

 マイクの意見は大いに納得できるものだ。

 オーバードを見た古代人がそれを神として崇めるのは自然な流れだろう。

 碌な技術も確立されていないような時代で、そのようなものがあれば誰であれ受け入れがたい。

 不可思議な力を使う何かを、理解できないからこそ神と認識する。

 太古の時代がどれだけ遠い過去なのかも分からないのであれば、そう考えるのが自然か。


 マイクの何気ない発言で、俺はカタカタとパネルを叩く。

 そうして、検索ワードを限定的なものに変えて――結果が出た。


「……一件。これか」

「おぉ! やりましたね!」


 アサギリ先生は喜んでいる。

 まさか、神に等しい力ではなく。

 神として崇めている存在であると変えただけで絞れるとは。

 この世界では神という言葉は想像以上に重いものなのか。

 まだこの世界を完璧に知れている訳ではないが、何となくこの世界の宗教の深みを知れた気がした。


 安易に言葉に出来ないワード。

 今回はそれのお陰で、オーバードが記された古文書を割り出せた。

 いや、まだ中身を見ていないから分からないが……まぁ見てみよう。


 検索結果から保管されている棚を割り出す。

 コツコツと靴の音を反響させながら歩いていく。

 そうして、保管されている棚の前に立ってから上を見上げた。


「……上の方ですね」

「あぁ、私が取ってきますよ! どれどれ……あぁ、あれか」


 マイクが俺の端末を見て納得する。

 そうして、手に白い手袋をはめてからいそいそと梯子を動かした。

 長い梯子をガラガラと動かして、止めたかと思えばするすると昇っていく。

 そうして、真ん中等辺の棚で止まってから、ガサゴソと漁る。

 慎重に本を分けていて、あっと声がしたかと思えばするすると梯子を下りてきた。


 その手には所々か破けた古めかしい本が握られている。

 焼け焦げたその本を大切そうに持ちながら、マイクはアサギリ先生に渡す。

 先生も白い手袋を付けてから、その本をゆっくりと受け取った。


「あちらに机と明かりがありますので。そちらで読みましょうか」

「……そうですね。お二人も行きましょう」

「はい」

「……ん」


 アサギリ先生と共に机のある方に行く。

 

 暫く歩けば作業台のようなものが見えた。

 アサギリ先生は椅子に座ってからライトをつけて、本をゆっくりと置いた。


「それはつい最近送られてきたもので。内容はまだ分かりませんが、神に関する書物だったと思います」

「どれ…………なるほど」


 アサギリ先生はページを開いて読み始めた。

 俺たちは先生の横から見てみたが、全く分からなかった。

 文字が読めず、何と書いているのかまるで分からない。

 天子が先生の護衛を任せた意味を、此処にきて完璧に理解できた。


 先生は黙々と読んでいく。

 そのペースは速く、ごく短時間で解読を済ませているのか。

 頭の回転は他の人間よりも速いようで。

 俺はアサギリ先生を凄い人だと思いながら、彼の時間を邪魔しないように黙っていた。




 解読は進んで最後のページを読み終える。

 分厚い訳ではなかったが、薄い訳でも無かった。

 良く分からない文字を解読しながら理解するのは至難の業だろう。

 先生は大きく息を吐きながら、額から流れる汗をハンカチで拭う。


「……何と書いていましたか?」

「……オーバードですね。それもマイクさんの言った通り、古代人はそれを神として崇めていました」


 アサギリ先生はゆっくりと説明を始めた。

 先ずオーバードと呼ばれるものは人型の機械で。

 メリウスほどの大きさの機械であり、そんなものは古代人の技術では到底作れないと。

 大地を創造し、無から命を生み出したその機体を、人々は神として崇めて神殿にて奉っていた。


「……問題なのは、この機体がした事ですね」

「何をしたんですか?」

「……世界の終焉を望む人間に手を貸したんです。此処には白き神が矛を持ち全てを浄化しようとしたと書かれています」

「結果は? 世界は浄化されたんですか?」

「いえ、黒き神がそれを阻止した書かれています……文献によれば、黒き神が白き神を鎮め、二柱はいずこへと去っていったと……神に見放されたと書かれていますが、それは定かではありませんね」


 神に見放された。

 そのワードを聞いて古い記憶が蘇ってくる。

 それはU・Mが保有する島にて読んだ本だ。

 あれにも同じような事が書かれていて……いや、待て。


 何故、あの島に古文書に書かれた内容が載った本が置いてあった?


 可笑しい。明らかに変だ。

 遥か昔の記録だ。

 今の時代に残っていることすら奇跡だ。

 そんなものが新しいつくりの本に書かれていた。


 

 何故、何故、何故、何故何故何故何故何故何故――声を掛けられる。


 

 ハッとして見れば、アサギリ先生が心配そうな目を向けていた。

 どうやら考え込んでいたようだ。

 俺は問題ない事を伝えて続きについて聞いた。

 あの船にあった本の出所は気になる。

 しかし、今は目の前の古文書に集中しよう。


 アサギリ先生は咳ばらいをしてから、説明を続ける。


「……この古文書には、力を貸した機体とそれに選ばれた人間の特徴が書かれています」

「選ばれた人間の特徴……つまり、オーバードの力が使える人間の条件ですね」

「えぇ恐らくは……此処には白き神は穢れ無き魂を持つ人間を好むと。そして、黒き神は大罪を受け入れし者の前に現れると……どちらも抽象的で分かり辛いですが、これが条件の様ですね」

「穢れ無き魂……それと、大罪を受け入れし者……相反する者でしょうか」

「まぁそうなりますね……ですが変です。白き神が穢れ無き魂を好むのであれば、破滅を望む人間に手を貸す筈がありません」

「……そうですね……もしかしたら、我々は何か勘違いしているのかもしれません。選ばれた人間に関して、他に記載は?」

「……白き神を使った人間は、どうやら神官であったようです。人に対して平等に接して、悪を裁く……黒き神を使った人間は……これはひどいですね」

「……何と書かれているんですか?」

「……醜悪な者。存在が悪だと書かれています。恐らくは、差別されるような人種の人間だったのかと」


 白き神が力を貸したのは公明正大な神官。

 黒き神は存在自体を否定されるような人間に。

 これだけ見れば、白き神が正義で黒き神が悪だと認識してしまいそうだ。

 しかし、実際には白き神が世界を終わらせようとして、黒き神がそれを止めたとされる。

 まるで正反対であり、真逆の立場だと言えた。


 穢れなき魂を持つ人間が悪で、大罪人が正義……どういう事だ?


 まるで、理解が出来ない。

 白き神と黒き神の力が使える人間の条件は分かった。

 しかし、それだけでは先には進めない。


 条件が分かったところで、その人間を用意できないのだから当然だ。

 まさか、それを理解した上でゴースト・ラインは適性のある人間を生み出そうとしたのか?


 いや、それは考え過ぎだろう。

 幾らなんでも、こんな遥か昔の情報を得られる筈がない。

 その時代で生きていた人間であるのなら分かるが。

 ゴースト・ラインであろうとも、不老不死の人間はいない。


 だったら、何故、奴らは……肩を叩かれる。


 視線を向ければ、マイクが困ったような顔をしていた。


「あのぉ。申し訳ないのですが、あまり同じ場所に長く留まるのはちょっと……」

「……何かあるんですか?」

「あ、いえ、その……実は皆さんが首に下げているパスには発信機が取り付けられていまして。同じ場所にずっといると、警備員が駆けつけてくるんですよ……ほら、私の端末が震えているでしょ。呼び出しをくらっているんです」

「……あぁなるほど……先生、他に分かる事はありましたか?」

「……いえ、他にめぼしい情報はありませんね……これを天子様に」

「そうですね……マイクさん、別の場所の案内を」

「あぁ! はい! では、行きましょうか! あ、本は別の人間に戻させますので机の上に」


 アサギリ先生はゆっくりと本を机に置く。

 そうして、マイクは端末を取って何処かへと連絡を飛ばした。

 二三報告した後に、マイクは満面の笑みで歩き出した。

 俺たちはその後をついて行って――ゆっくりと振り返る。


 明かりに照らされている古文書から何かを感じる。

 まるで、あれ自体に不思議な魔力でも宿っているようで――視線を戻す。


 考えても仕方のない事だ。

 知りたい情報は知る事が出来た。

 後は天子に報告して、次に進むだけだ。

 俺は前だけを見ながら足を動かして、神と呼ばれた古代の兵器について一人考えた。

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