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133:膨大な書物の山

 帝都博物館へと足を踏み入れる。

 開け放たれた扉の先では、綺麗な顔をした受付嬢が数名待機していた。

 アサギリ先生は受付嬢の一人に持っていた端末を見せていた。

 周りを見れば、チケットを購入して入場する客もいるが。

 俺たちは特別な客として入場する為に、金を払ってチケットを買う必要が無い。

 受付嬢はカタカタと手元にあるコンソールを操作して、笑顔で入場を許可した。


「館内での行動は自由ですが、原則此方の入場パスをお持ちください。くれぐれも紛失しないようにお願い致します。それと、案内人が付き添う形となりますが問題ございませんか?」

「えぇ大丈夫ですよ」

「ご協力感謝いたします……それでは、左側のゲートより足元の矢印に沿って移動をお願い致します」


 受付嬢がチラリと後ろを見た。

 すると、先ほど車で此処まで連れてきてくれたマイクが走って来る。

 随分と早い到着であり、俺は急いで走って来たのかと思った。

 しかし、あまり汗を掻いていない。


 俺の視線に気が付いたのかマイクはにこにこと笑いながら端末を見せてきた。


「これを使ったんですよ。これ」

「……簡易転送……これは?」

「此処の職員だけが使える移動ツールです。館内限定で、何処のフロアであろうとも一瞬で移動できるんですよ。便利ですよぉ」

「……まるで、ファストトラベルのようですね」

「ははは、確かにアレに似ていますね。まぁ現世人が使えるんです。我々にも真似は出来ると言う事です……さ、時間ももったいないですから。早速、案内を始めさせて頂きますね」


 マイクは端末を仕舞うとわざとらしくネクタイを締める動作をした。

 そうして、きりりとした顔で案内を始めた。

 俺たち三人はしっかりとした足取りで移動を始めたマイクについていく。




 館内を歩いていく。

 壁に飾られた美しい絵画や古代の生物の化石。

 百年前にいた有名な陶芸家が作った色鮮やかな大皿や歴史的に価値のある古文書など。

 ケースの中に入れられたそれらを見ていれば、案内人のマイクが説明する。

 それを真剣な顔で聞いているアサギリ先生は専門家らしい鋭い質問をしていた。


 チラリとサイトウさんを見れば眠そうに欠伸をしている。

 俺は小さくため息を吐きながら、周囲を伺った。

 監視カメラは勿論、至る所に付けられてある。

 悪い奴らに美術品を破壊されないように見張っているのだろう。

 展示されている物の他に、保管されている貴重な品も存在すると分かっているのだ。

 問題はそこへどうやって行くかだが……これは問題なさそうだ。


 マイクは説明しながら歩いていく。

 そうして、厳重にロックされた扉の前に立つ。

 事前に渡されたパンフレットを確認すれば、立ち入り禁止エリアがあるらしく。

 この扉はそのエリアに通じる扉であると分かる。


「さて、此処からは先生のような方々しか入れない特別なエリアになります。興奮してケースを破壊しないように、お願いしますよ」

「ふふ、分かりました」


 小粋なジョークを挟みながら、マイクは端末を取り出してパネルに翳す。

 パネルから光が出て、端末の画面をスキャンする。

 それからマイクは顔を近づけて、レンズに網膜をスキャンさせていた。


「ID1973、マイク・カッター」

《認証しました。ロックを解除します》


 ピーという機械音と共に扉のロックが解除された。

 専用の端末に網膜、そうして声紋まで取るのか。

 何とも厳重なセキュリティーであり、それほど見せたくない品なのか。


 自慢したいがために建てられた博物館。

 しかし、貴重過ぎて自慢できないものとは一体どんなものなのか。

 盗まれたり破壊されることを恐れて隠しているのだろうが……まぁいいか。


 マイクが扉を開けて入っていく。

 俺たちもその後に続いて中へと入る。

 扉を閉めればカチャリと再びロックが掛った。


 薄暗い部屋であり、マイクはパンパンと手を叩く。

 すると、足元の照明がついていき、広い部屋の全貌が露わになる。


「おぉ、これは」


 アサギリ先生が感嘆の声を漏らす。

 ゆっくりと近づいて一つのケースを見れば、黄金に輝く手があった。

 黄金の手には色鮮やかな宝石が散りばめられていて。

 これだけでもかなりの値打ちものである事は素人の俺でも理解できた。


「ふふ、凄いでしょう? それは光星歴300年頃に作られた品で。最初に生まれた大国ステラの三代目国王リンドル・エル・ステラが腹心であるオルドリンゲに送ったとされる義手です。当時の持てる技術を使って作られた物なので、義手としても使えますが……まぁこんな重いものを老人が付けられる筈も無いですよね。信頼できる部下に保管を命じていたらしく、その末裔がこれを持っていたらしいですよ。状態が良くて、歴史的な価値を抜きにしても時価数十億ラスほどになるらしいです」

「おぉステラのリンドル国王がオルドリンゲに送った品ですか……書物によればステラの腐敗はオルドリンゲにあるとされ、リンドルは傀儡とされ利用されていたと記述されていましたが。この品があるのなら、二人の間には信頼関係があったのでしょうかねぇ」

「いやぁどうですかね。帝国内の先生方の中には、老人であるオルドリンゲを困らせる為に、態々ゴテゴテとした義手を作って送り付けたと言う人もいますから。未だに、二人の間に信頼関係があったかは謎です」

「そうですか……お! あれは!」


 アサギリ先生は夢中になって色々な品を見ていた。

 大海を裂いたとされる英雄が使った聖剣。

 メリウスを最初に作ろうとした人間が作ったとされるコアのようなもの。

 メリウスの原型となった強化外装の最初期のモデル。

 広い空間には歴史的に価値のあるものが無数に置かれている。

 アサギリ先生はメモ帳を取り出して一心不乱に何かを書いていた。

 マイクはけたけたと笑いながら、集中して説明を聞いてくれる先生に気分を良くしていた。


 俺はこの空気でなら質問できるだろうと考えた。

 ゆっくりと手を上げてから、俺はマイクに質問をする。


「……古代に関する書物……それも、神の如き力を宿した兵器に関する書物は置いていますか?」

「神の如き兵器? うーん。そうですね……具体的にはどんなものですか?」

「……大地を創造する事が出来る。魔法の様な兵器です」

「……あったようななかったような……そういう類の書物は山ほどあるので、どうしても記憶が不確かに……書物を管理している倉庫へご案内しましょうか?」

「えぇ是非」


 夢中になっているアサギリ先生の肩を叩く。

 すると、彼はハッとした様子でメモを仕舞う。

 俺たちはマイクの案内の元、別の部屋へと向かう。


 コツコツと靴の音を反響させながら部屋を移動して。

 別の扉に掛けられたロックを同じような方法で解除する。

 ガチャリと扉を開けた先には――遥か上まで続く棚があった。


 首が痛くなるほど見上げれば、マイクは乾いた笑みを零す。


「ははは、毎年毎年、膨大な量の書物が送られてきましてね。解読が間に合っていないものも多いんですよ。此処はそれらの一時的に保管する場所でして……探すのは一苦労だと思いますよ」

「……何かツールはありますか?」

「あるにはありますが……検索を絞り切れますか?」


 マイクは不安そうな顔をしながら、立てかけてあった端末を渡してくる。

 俺はそれを起動してから、バーに適当なワードを入力した。

 検索結果は――1万3278冊。


 とてもではないが、一万の本を調べる時間は無い。

 俺は恐る恐る、マイクにどれだけの書物が保管されているのか聞いた。


「……まぁざっと十万は」

「――考えましょう」


 十万を超えると言おうとしたマイク。

 俺は作戦を変えて、全員で知恵を絞ろうとした。

 マイクは何でそこまでその書物を求めているのか不思議そうにしていた。


「……オーバードと入れてみては?」

「……単体で入れるとゼロですね。別の言い方をしているかもしれません」

「……古代兵器は?」

「……記述があるのは三万ほどですね……複数のワードを入れて絞り込む必要があります……まぁそもそも解読できていなければ意味は無いですけど」

「あ、それは問題ありません。簡単な解読は終わらせているので、重要なワードは載っているかと」

「……考えましょう」


 この館に入られる時間はあまり無い。

 日を改めようとしても、また天子に予定を入れてもらう必要がある。

 何とかして今の内に書物を探し出して見つける必要がある。

 俺たちは頭を突き合わせながら、無い知恵を絞りだし始めた。

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