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129:遺恨を晴らす為の道具(side:サイトウ)

 輸送機で待機しながら、ディスプレイに映る光景を見ていた。

 マサムネが新型に乗って戦って、何でも無い相手を圧倒していた。

 何時もと違うのは、戦いというよりは遊ぶように機体を操作していて。

 流れるような操縦は見ていて面白かったけど、殺し損ねたのは不甲斐ないと思った。


 何時でも殺せる状況で、楽しみを優先してはお終いだ。

 これは仕事で、遊びたいのなら別の時間ですればいい。

 私はマサムネの後始末をする為に呼ばれた。

 ゆっくりと操縦レバーを握りながら、開いていくハッチを見つめる。

 

 マサムネの機体が完全に沈黙した。

 圧倒的有利な状況で、アイツが負けた事が信じられない。

 遊び過ぎたのか。いや、ならば何故、途中で意識が途切れた?


 その気になれば殺せていた。

 あんな雑魚に負けるような戦い方は教えていない。

 何度も何度も戦わせて、何度も何度も教え込んだ。

 どうすれば敵が殺せるかを、どすれば手早く戦いが終わるかを。

 アイツはまだ私の教えを完璧に理解できていなかったようだ。


 私は残念な気持ちを抱きながらも、輸送機から飛び立つ。

 そうして、マサムネを回収しようとしている敵に照準を定めた。

 肩にマウントさせていた多連装ミサイルポッドを展開して地上に放つ。

 音を立てて全てのミサイルが地上へと飛来する。

 敵は慌てふためていて身を潜めようと動いていた。

 機体から降りていた状況下で出来る事といえば障害物に身を潜める事だけだ。

 ギリギリで岩陰に隠れたようだが、乗って来た機体はミサイルが命中して破壊できた。

 地上に黒煙が広がっていって、炎の海の中へと私は降り立った。


 ゆっくりと、膝をついて項垂れる白狼を見る。

 負けたことは許せない。しかし、このまま放置する訳にもいかない。

 マサムネは私にとって必要な存在で。

 こんな奴らに渡せるほど安い人間ではない。

 まだまだ、この男には利用価値がある。


 肩につけたミサイルポッドをパージする。

 音を立てて転がったそれを見る事無く、片手で新型の頭部を掴んで持ち上げる。

 そうして、ゆっくりとマサムネのコックピッドに手をつけた。

 ギチギチと力を込めていって、コックピッド事引き抜く。

 ぶちぶちとケーブルが抜けていって、抜け殻となった機体から手を外した。

 ズシリと音を立てて胸の部分に穴が空いた機体が転がって、私は腰に装着した爆弾を中に捨てた。

 タイマーをセットしてから投げ捨てたそれが点滅している。

 私はマサムネが眠るコックピッドを手に持ちながら上昇する。

 チラリと下を見れば、生き残っていた虫けらたちが私を見ていた。

 怒りの籠った眼差しであり、私は興味を失くして目を逸らした。


「……帰ったら。また仕込みなおそう」


 教える事は山ほどある。

 何時かこの男には私よりも強くなってもらわないといけない。

 強くなって、強くなって――アイツを殺して貰う。


 背後から閃光が上がる。

 そうして、炸裂音が響いて機体がびりびりと振動した。

 

 私は笑みを浮かべながら、大切にマサムネを抱いていた。

 私の手の中で眠るマサムネは何も知らない。

 知らないまま成長していけばいい。

 熟した時こそ、その恩返しをしてもらう。

 私はその日が来るのを、心から楽しみにしていた。


 

 §§§


 

 新型のデモンストレーションは終わった。

 結果から言えば、改善点はあったが満足のいくものだったようで。

 あの白狼と呼ばれる機体は正式に東源国の機体として登録され製造されるらしい。

 私は特に興味は無かったが、マサムネは複雑そうな顔をしていた。


 何が嫌なのか?


 優れた道具を使えるのならそれに越した事は無い。

 どんなに優秀なパイロットであっても、ガラクタでは戦えない。

 優れた乗り手は優れた機体に乗らなければ意味が無い。

 十二分に扱える機体を手にしてこそ、己の力が発揮できる。

 その事をマサムネに伝えれば、彼は何とも言えない表情で私を見ていた。


 その顔は何?


 分からない。彼が何故、不満そうなのか。

 そして、私の言葉のどこが気に入らなかったのか。

 考えてみたが、全く分からなかった。


 このまま放置は出来ない。

 少しでも、彼が私に対して不信感を抱くような行動はしたくない。

 彼の印象を悪くして、これからの成長の妨げになる事だけは避けたい。

 もっともっと彼には強くなってもらわないといけない。

 それだけの素質があるからこそ、私は彼に気を遣っていた。

 もしもただの有象無象なら、ここまで気に掛けることはしない。

 彼が特別で、アルフォンスが気に入っているから……まぁ、それは関係ない。


 アイツのお気に入りであろうとなかろうと。

 私が自分の目で見て、彼のポテンシャルの高さを評価した。

 戦闘に関する勘の鋭さに、戦闘時の学習能力の高さ。

 天性の才能であり、私ならもっと彼を強く出来る。


 だからこそ、私は自分の知る知識を彼に教えた。


 機体の複雑な操縦方法。

 スラスターを巧みに使った変則機動による高機動戦。

 地上戦においての地形の使い方や気候変動による即応。

 武器の強みや弱みに、相手を生かしたまま捕らえる方法。

 銃器やナイフの扱い方に、効率的な拷問の方法。

 知りたいとか知りたくないと関係なく。

 私は彼に対して色々と見せてあげた。


 最初の頃は嫌悪感を抱いていて、戸惑っていた気がする。

 しかし、何度も何度も根気よく教えてあげれば学んでくれた。

 苦痛に歪んだ敵の表情にも慣れて、命乞いをする敵の言葉も聞かないようにしてくれた。

 一度慣れてしまえば簡単だった。

 彼は私が教えたことを忠実に再現してくれる。

 自分で考えて、自分に合った方法で再現してくれた。


 思えば、この三年間で色々な戦闘を経験した。

 地上世界での拠点としていた使っていた場所での戦闘。

 激しい戦闘であり、此方の協力者から多くの犠牲者が出た。

 アルフォンスは使えなくなった拠点を捨てて、私たちは次の拠点に移って。

 治安部隊のゴミ共が攻めてきた時は何度もあったが、見せしめにパイロットを生け捕りにして縛り付けてやれば……あ、これはダメか。


 マサムネは残酷な話は嫌いだった。

 理由があれば殺すけど、意味のない殺戮は好まない。

 この話をしようとすれば、彼は口元を押さえて苦しそうにする。

 そんな姿には何も思わないけど、嫌ならしない方がいいと思っていた。

 嫌われないように、依存させるように。

 私は考えながら行動をして、今、彼の部屋の前に立った。


 東源国にある小さな島。

 地図には載っていない島であり、今の私たちの地上での活動拠点は此処だった。

 今、此処にいるのは私とマサムネだけで。

 アルフォンスたちは”あの女”の命令に従って動いている。

 あの女は”オーバード”を見つける事に躍起になっていた。

 天子と呼ばれるあのガキは何か知っているみたいだけど。

 アルフォンスが何も言わないのであれば、まだ確たる情報は掴めていないのだろう。


 私は骨董品には興味は無い。

 たとえどんなに力を持っていたとして、手元にないのであれば意味が無い。

 そもそも、そんなものが本当に存在しているのかも怪しい。

 ただの空想の中の産物で、影も形も無いものを追いかけている……滑稽で、愉快だ。


 あのすかした女とアルフォンスが頭を抱えている姿を想像すれば笑えて来る。

 まぁ、実際にそうなった事は一度も無いけど。

 今までもこれからも、あの女やアルフォンスが考えている通りに物事は進んでいくのか。

 気に食わない。邪魔してやりたくなる……そんな事をしたら殺されるけど。


 逆らえないからこそ従う。

 どんなに腸が煮えくり返りそうでも、涼しい顔で命令を受ける。

 犬になりきれば、多少の事はアイツ等は気にしない。

 同じ仲間であっても、それぞれが考えている事は別だ。

 信頼はしていない。だからこそ、私たちはお互いを番号で呼ぶ。


 私がゼロ・ワンで、次がゼロ・ツー。

 ゼロ・スリーにツー・エイト……ファイブ・Bはどうでもいい。


 私は告死天使をアルフォンスと呼ぶ。

 それは単なる嫌がらせであり、親しいからとかではない。

 マサムネには番号は付けられていないから、全員、彼の名前を知っている。

 私が彼に名前を教えたのは、その方が情を抱いてくれると思っただけだ。

 他の人間には教えるつもりはないし、呼んで欲しいとも思わない。


「……マサムネ。入る」


 ドアをノックもせずに声だけを出した。

 しかし、彼からの返事は返って来ない。

 私は彼の返事も待たずに部屋の中に入ろうとした。

 壁に設置されたパネルを触れば、自動的に扉が開く。

 私が中へと足を入れれば、彼はベッドで横になっていた。

 静かに寝息を立てていて、此方を警戒する事も無く寝ている。

 今ここで私が殺気を放てば飛んで起き上がるだろう。

 しかし、私はそれをせずに音も立てる事も無く近づいた。


 スゥスゥと穏やかに眠る彼。

 その寝顔を見つめて――チラリと棚の上を見る。


 幾つかの本が置かれた小さな棚。

 その上には木で出来た人形が置かれている。

 不格好な人形であり、少しだけ赤黒く変色していた。

 人間ではなくマサムネの雷切に似せて作った……確か、彼がそう言っていた。


 彼が作ったわけではない。

 子供から貰ったものであり、彼は大切に飾っている。

 何故、あんなものを飾っているのか。

 あんな小汚いものを飾っていても意味なんて無い。

 あの変色している部分は血であり……汚らしい。


 私は目を逸らしてから、もう一度マサムネを見た。

 私の手にはサンドイッチが握られている。

 東源国の研究者から、彼の部屋にいたロボットの記録映像を入手した。

 それを見てみれば、彼は温かな食事を嬉しそうに頬張っていた。

 それを見て、何か食事を作ってやれば喜ぶのではないかと思った。


 料理なんて子供の頃以来だった。

 だからこそ、パンに挟むだけのサンドイッチにした。

 これで喜ぶかは分からないが……どうでもいいか。


 嫌われる事が無いならそれでいい。

 チームから離れないように縛り付けておく。

 私という存在が彼を縛る鎖になるように……そんな願いを込めて、私はサンドイッチの載った皿を置く。


 寝ているのなら起こす必要は無い。

 私もこれからやるべき事がある。

 殺風景な部屋を一瞥してから、私は部屋から出ていった。

 ゆっくりと扉が閉じられていく。

 私は寝ているマサムネを見つめながら――小さく笑った。

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