表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第四章:存在の証明

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/302

126:修羅と化す

 至近距離からの射撃。

 出力を押さえての攻撃で、ファイアボルトを撃つ。

 バチバチと迸るようにエネルギー弾が着弾して爆ぜる。

 ファイアボルトはセンサーを光らせながら、飛んできた弾を腕を振るって弾く。

 この程度の攻撃では奴の頑丈な装甲を傷つける事は出来ない。

 背中の大きなブースターを噴かせれば、奴の機体が迫って来る。

 逃げるように飛行する俺を追いかけて、トロイは両手のガトリングガンの銃口を俺へと向ける。

 勢いよく弾が発射されて、銃口から激しく火を噴きながら弾が殺到する。

 一発一発が脅威であり、俺は強い警戒心を持ちながらスラスターを噴かしてブーストした。

 

 奴の弾がガリガリと壁を削り取っていく。

 パラパラと残骸が降り注ぐ中で飛行する。

 硬い岩盤であろうとも何発も喰らっていてはもたない筈だ。

 二度三度ブーストして、トロイの攻撃を何とか躱す。

 すると、控えていたオッコが俺の進路を予測して狙撃をしてくる。

 

 だが、その攻撃は予測していた。


 半身をズラして回避すれば、胸部装甲を弾が掠めていく。

 俺は片手のショットライフルを上へと向ける。

 出力を上げた状態で天井を射撃すれば、トロイが傷つけて脆くなった岩盤が削れて瓦礫が降ってきた。

 二人は何をしているのか驚いている。

 しかし、俺は動揺している二人の隙を利用して機体を動かした。


 強くペダルを踏んでレバーを操作。

 脳波コントロールによって機体を細かく調整する。

 そうして、降り注ぐ瓦礫を紙一重で避けながらオッコへと接近した。

 瓦礫に紛れて接近したことによってオッコは気づくのが遅れていた。

 ライフルを向けるか逃げるかの判断の迷い。

 それによって生まれた隙を使って、俺はショットライフルの銃口を脚部に向ける。

 これで戦闘不能に――考えが甘かった。


「――ッ!」


 オッコは判断を誤った訳では無かった。

 そう見せかけて、視線を自分へと向けるのが狙いだった。

 それに気が付いたのは、機体全体に強い衝撃を受けてからで。

 大きく機体が揺れかと思えば、硬直していた筈のファイアボルトが白狼に体当たりをしていた。


 まさか、瓦礫を突破して――間に合わないッ!!


 奴の頑丈な装甲による強行突破。

 その可能性を忘れていたことによって機体の自由を奪われた。

 ぐんぐんと壁に機体が接近して、今にも押しつぶされそうだった。

 俺は咄嗟にショットライフルからバッテリーを排出する。

 手に握ったショットライフルを落として、エネルギーが溜まった状態のそれを掴む。

 そうして、ファイアボルトの頭部にそれを叩きつけた。


 瞬間、激しい閃光とと共に爆発が起きた。


 強い電流が辺りに流れていく。

 感電したファイアボルトは、回路に異常をきたして俺の拘束を緩める。

 俺はそれを確認して、ファイアボルトを蹴りつけて拘束から抜け出した。

 装甲は軽く煤汚れたが、エネルギーによる攻撃には白狼は強い。

 だからこそ、ダメージは無く。戦闘続行にも問題は無かった。


 拘束から抜け出してひらひらと落ちていたショットライフルを回収。

 予備のバッテリーを差し込んでおく。

 互いに損傷は軽微の状態で睨みあう。

 逃げる事が出来るのならどれほど良かったか。

 仲間と戦う気は無く、出来る事なら退いて欲しい。

 しかし、此方から通信を繋ぐことは不可能だ。


 どうすれば、二人と話せるか……試してみるか。


 俺はレバーを強く握りながら、一か八かの賭けに出る。

 機体に掛かっているセーフティを音声コマンドによって外す。

 そうして、ペダルを強く踏んで加速した。


 連続ブースト、それも短距離での使用。

 機体は一気に雷切以上の速度に到達する。

 ファイアボルトが弾丸を放ってくるが俺の姿を捉えられていない。

 シートに体が押し付けられて、体からミシミシという嫌な音が聞こえた。

 口の中が渇いて、鉄錆の様な味が広がる。

 機体の中はサウナのように熱く、俺はヘルメットの中でだらだらと汗を流す。


 加速、加速、加速――狭い洞窟の中で機体を限界まで加速させる。


 器用に障害物を避けて、壁ギリギリで進路を変更。

 急な進路変更によって体には急激な圧が加わる。

 今にも骨が折れそうだったが、俺はそれを我慢して二人に銃口を向けた。


 縦横無尽に飛行しながら、ショットライフルの弾丸を放つ。

 威力を弱めたそれを喰らっても、大してダメージにはならない。

 しかし、回避不能な上に何度も何度も食らい続けるのだ。

 たとえ、回避しようとしても次弾は既に発射している。

 嵐のように洞窟内を駆け巡って、すれ違いざまに攻撃を当て続けた。

 

 何度も、何度も、何度も、何度も――限界を超えた飛行を見せる。


 動揺が、驚きが伝わる。

 機体の動きが鈍くなっていた。

 これほどの機動を見せていて、殺しに掛からない俺に何かを感じている。

 俺のメッセージが伝わるかは分からない。

 しかし、ずっと一緒に戦ってきた仲間なら、動きを見れば分かる筈だ。


 俺はレバーを操作して機体を回転させる。

 そうして、二人が振り向く瞬間に脇を通り抜ける。

 風を切り裂き地面へと機体を近づけた。

 地面を滑空してから、ギャリギャリと地面を削る。

 そうして、機体が半回転しながらゆっくりと停止した。

 足元から煙を発しながら、センサーを二人に向ける。

 限界を超えた機動を見せて、これで嫌でも俺を思い出せた筈だ。


 すると、二人が通信を繋げようとしていると表示された。

 俺は通信を繋いで、二人の言葉を待つ。


《……お前、マサムネか?》

「……久しぶりだな。トロイ」

《――ッ!! やっぱりだ! おいオッコ。マサムネだぜ! なぁ!》

《聞こえてるよぉ……はぁ、やっぱりアレはダミーね。可笑しいと思ったよ。マサムネちゃんの情報が欲しいのなら、此処に来る敵を倒せだなんて……一応、拿捕しようとは思ったけど。そりゃ捕まえられない訳だ》


 二人は笑みでも浮かべながら話しかけてくる。

 俺も少しだけ笑みを浮かべながら、二人に対して手短に説明しようとした。

 しかし、それを遮るように洞窟の出口から何かが現れる。


 見れば、見たことも無いメリウスが五機。

 兜の様な頭部から見えるのは赤いライン状のセンサーで

 手には近接戦闘用のチェーンブレードとハンドキャノンらしきものが一つ。

 深い青色の装甲をした武骨な機体であり、背部から伸びるスタスタ―が三つと膝裏の二つ。

 何処となく白狼に似たデザインであり、恐らくは東源国の……クロウ・ハシマの差し金だろう。


 敵となる筈の二人と通信を繋いで、俺が逃げるように言おうとしたのだ。

 奴は伏兵を起動して、俺を襲いに掛かって来た。

 デモンストレーションはまだ続いている。奴はまだ、俺にこの機体に乗って戦えと言いたいのだろう。

 その証拠に遠隔操作による機体の完全停止はされていない。


「……時間がない。お前たちは此処から逃げろ」

《はぁ!? 何言って――おい! どうした!?》


 逃げろと言ってから、俺は伏兵と戦おうとした。

 しかし、ドクリと心臓が大きく鼓動した。

 俺が胸を押さえようとすれば、手足は拘束された。

 出現した鉄のグローブと足に金属が纏わりつく。

 頭には半円が降りてきて、俺は最後の力を振り絞って二人に離れるように指示した。

 その瞬間に、頭に激痛が走って、俺の意識を何かが乗っ取ろうとする。


「ああああああぁぁぁぁ!!!!!」


 絶叫。心からの叫び。

 頭が割れるように痛くなる。

 抵抗すればするほどに痛みは増して。

 ずるずると俺の意識は闇の中へと引きずり込まれていく。


 機体の装甲が展開されて、赤黒いエネルギーが機体に流れる。

 熱く殺意に塗れたそれが、この身を染めていく。

 センサーの光は赤色に染まって、血に飢えた獣のように相手を見つめる。

 ギギギと音を立てながら、抵抗する俺を無視する様にライフルの出力を高めていく。

 機体の操作が出来ない。俺の意思に関係なく、敵を殺そうとしている。

 

 視界はクリアになり、機体と心がリンクした。

 しかし、リンクしようとしているのは俺ではない。

 闇から這い上がってくる何かで。

 心が激しく掻き回されるような感覚を覚えた。


 俺は動揺している二人に目を向けながら、掠れる声で願う。


「に、げ……ろ……」


 もう、体の感覚が無い。

 心の底から不気味な笑い声が響いてきて。

 スラスターから勢いよくエネルギーが放出される。

 独りでに機体が動き出して、相手との戦闘を始めた。

 敵は散開して攻撃を始めるが、こいつは全く意に介さない。

 楽しそうに笑いながら、その全てをひらりと回避して遊んでいた。

 まるで、玩具を与えられた子供のように遊んでいて――恐ろしく、強かった。


 自身に満ちて、戦う事を喜びだと認識している。

 俺は最後まで抵抗した。

 それはこの何かが、アレらを片付けた後に二人を狙おうとしているのが伝わって来たから。

 痛みによって意識が薄れる中で、何かが俺に視線を向ける。

 そうして、三日月のように笑みを浮かべながら底冷えする様な声で言葉を発した。



『寝てろ。後は俺がやる』



 奴の言葉を引き金に意識は急速に沈む。

 そうして、泥のようなものに飲み込まれて。

 ずぶずぶと意識が沈んでいく中で何とかもがく。

 必死になって抵抗するが、泥が纏わりついてきて離れない。

 体は重くなり、顔まで泥が覆っていき――完全に俺の意識は闇に呑まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ