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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第四章:存在の証明

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119:心の中に潜む魔物

《間もなく、敵の領域へ侵入します。操縦を手動に切り替えますか?》

「……あぁ」

《かしこまりました》


 ゆっくりと手を伸ばしてレバーを握る。

 短い機械音と共に手動操作に切り替わった。

 その数秒後に敵のレーダーに捕捉された事を告げられる。

 見れば、敵の群れが此方へ飛んできていた。

 補足されてからの動きではない。

 タイミングの良い事に、敵部隊の再編が完了し出撃した直後に遭遇した様だった。


 無線を傍受すれば敵は慌てふためいていた。

 俺はそれを無視して機体を加速させる。

 スラスターから激しい音が鳴り、瞬間的な加速力を得る。

 風を切り裂き鋼鉄の塊が真っすぐに飛んで。

 敵は蜘蛛の子を散らすようにバラけていった。


 青い粒子をまき散らしながら、俺は機体を操作する。

 機体を回転させながら、上へと上昇する。

 姿勢制御システムが働いて機体のバランスは保たれている。

 慌てて追尾してくる敵を補足しながら、情報通りの機体であると確認した。


 モスグリーンのカラーリングをした機体。

 治安部隊の中で幅広い階級の人間に支給される奴らの主力量産モデルのメリウスだ。

 帝国と公国の共同開発によって生まれた量産型にして初の第六世代型。

 ”ナイトシリーズ”の中で、最も安価で幅広い局面にて使用する事が出来る”ナイト・セル”が俺の相手だ。

 無駄を極限まで省いた機体であり、細身の機体には肩部にミサイルポッドを二つ取り付けて。

 ランドセル型の推進ユニットからは二つの小型のノズルが伸びていた。

 足裏にも推進装置を取り付けて、頭部のセンサー部に取り付けられた特殊なゴーグルはスナイパー用のカスタムだろう。


 スナイパー用の遠距離用サーチゴーグル装備のナイト・セルが三機。

 手にはロングレンジに対応した狙撃銃を装備しており、遠距離からの攻撃に特化している事が分かる。

 後は近接戦闘用のショットライフルを二丁装備したナイト・セルが五機。

 計八機編成の部隊であり、この一個小隊で敵の追撃に当たる予定だったのか。


 基本通りに、スナイパー型のナイト・セルは距離を取る。

 残りの五機は果敢に俺へと追随してきた。

 下を見れば、倒壊した建物が密集するゴーストタウンであり、遮蔽物は多い。

 一度身を潜められたら面倒だ。

 俺はペダルを強く踏んで加速した。


 シートに体を押し付けられて、俺は目を細めながらペダルを操作する。

 複雑な操作は脳波コントロールによって制御できる。

 爆発音のようなものが響けば、機体は直角に曲がって。

 それが二度三度続けば、進路は急激に変わる。

 加速する度に機体は大きく揺れて、体がシートに押し付けれた。

 息がし辛くなるものの、システムによってすぐに緩和される。

 体全体で重力を感じながら、俺は目を鋭くさせて敵を見つめた。

 

 敵は驚きながら、何とか進路を妨害しようと必死だった。

 俺はそんな敵をセンサーで捉えながら、ガトリングガンを放つ。

 ドラムが激しく回転して、蓄えられた弾が一気に吐き出されていった。

 激しく火を噴きながら、敵へと弾が殺到する。

 

 牽制目的の射撃であり、敵は思うように接近できずにいた。

 弾丸を大きく避けながら、何とか接近しようとするが既に遅い。

 空中で回避行動を取る敵たち、それを一瞥してから離れようとしたスナイパーに接近する。


 慌てて銃口を此方へと向けて来る。

 俺はそれを静かに見つめて――ペダルとレバーを同時に操作した。


 敵の弾丸が放たれた瞬間に、機体を少しだけ減速させて回転。

 俺の機体の装甲を穿つ事が出来るであろうそれは、軽く装甲を撫でていった。

 回避しながら、ボタンを押して残弾が残り僅かなガトリングガンをパージする。

 ガコリと音がして武器がパージされて、回転の速度が乗った武器が敵へと突っ込んでいく。

 敵は慌てて回避をするが、激しく周るそれが足に当たって体勢を崩した。

 激しく脚部から火花を散らせながら、ナイト・セルが回転する。

 俺は墜ちていくその機体へと愛機を近づけて、敵の武器を掴んだ。


「貰うぞ」


 武器を引っ張り、空いた手で敵の頭部を殴打した。

 腕部が深々と敵の頭部にめり込む。

 オイルが激しく飛び散って、ケーブルなどが露出する。

 ぶちぶちと音がしそうなそれから腕を抜けば、露出したケーブルから火花が散ってオイルに引火した。

 頭部は激しく燃えあがって、敵は手足を動かしながら下へと落ちていった。

 

 出力が低下して戦闘不能状態になった敵からスナイパーライフルを強奪した。

 ハッキングをしてAIにロックを解除させる。

 僅か数秒足らずでロックを解除して、手動でコッキングをしてから空薬莢を排莢する。

 ぷしゅりと音を立ててそれが空中を舞って落ちていく。

 俺は一気に機体を降下させて、下から飛んできた弾丸を回避した。

 胸部目掛けて放たれた敵のそれが装甲を軽く撫でた。

 

 僅かにコックピッド内が揺れたが問題ない。

 俺はスラスターから激しい音を出しながら、ゴーストタウンの中へと侵入する。

 倒壊した建物の間を縫うように移動すれば、風が不気味な音を奏でていた。

 機体が激しい風の抵抗で揺れるが、俺は一切操作を誤らない。

 僅かな隙間に機体を潜らせながら、敵のセンサーをかく乱する。

 

 敵も必死に追いつこうとするが、あの程度の速度では追いつける筈がない。

 俺は機体を建物の中へと潜り込ませて、機体を停止させた。

 最小限のシステムへのエネルギーを供給をさせて、スラスターを完全に停止させる。

 ゆっくりと腕部を動かして、半壊した建物の中から銃口を空に向けた。

 建物の中からスナイパーライフルを構えて、飛行している敵を狙う。


 ゆっくりと息を吸う。

 そうして、動いている敵へのロックオンを始める。

 機械音が鳴り響いて、完全にロックオンが完了した。

 呼吸を止めた。敵は俺を見失って索敵する為に一時的に機体を空中で静止させて――トリガーを引く。


 引き金を引けば弾丸が勢いよく発射される。

 真っすぐに弾丸が飛んでいって、敵のコックピッドを破壊した。

 残骸が辺りに舞って、敵はセンサーから光を失ってゆっくりと墜ちていった。

 仲間がやられた事に動揺する敵たち。

 それを見ながら手早くコッキングを済ませて、次弾を発射した。

 周りにセンサーを向けていた間抜けのコックピッドを再び射抜く。

 瞬く間に二機を戦闘不能にした。敵は弾道を計算して此方へと向かってくる。

 俺はスラスターを再点火して、場所を移動した。


 腰に取り付けたグレネードを一つ取る。

 時限式に切り替えてから、それを半壊状態の建物の中に転がす。

 パチパチと赤く点滅するそれを見ることなく建物から飛び出す。

 遅れて爆弾が起爆して後ろから煙が噴き出した。

 半壊状態のビルがバラバラと崩れていって、中へと侵入した敵は押しつぶされる。

 遠くから見れば、一機だけが無事に抜け出している。

 俺は奴へと接近しながら、ライフルの銃口を向ける。

 無事に出られた事で安心しきった敵のコックピッドを――穿つ。


 無慈悲な銃声と共に、敵のコックピッドにはぽっかりと穴が空く。

 センサーから光を消して墜ちていく敵。

 俺は武器を手放してから、そいつの手から零れ落ちたショットライフルを空中で奪う。

 両手にショットライフルを装備して、俺は空高く飛ぶ。

 上へ上へとゆるやかに飛んで――レバーを一気に引く。


 敵の殺気を感じ取って機体を急停止させる。

 頭部すれすれを飛んでいった弾丸。

 今ので敵の弾道の計算を終わらせて、AIが敵の居場所をマップに刻む。

 俺は一気にスラスターを噴かせて接近する。

 建物の残骸の陰から狙ってきた敵は移動を始めていた。

 しかし、俺の急な接近に気づいて銃口を向ける。


 何もかもが遅い。

 銃口を向けた頃には俺は弾を発射していた。

 スラッグ弾が飛んでいき、敵の装甲を大きく傷つける。

 バチバチと敵の装甲に弾が当たって、軽く穴を空けていた。

 敵は遅れて弾を発射するが、スラッグ弾の影響で狙いは大きく逸れていく。

 俺は地面に着地しながら、ショットライフルの銃口を敵のコクピッドに向ける。


《ま――……》

 

 待てとでも言いたかったのか。

 最後まで言い終わる前に弾を発射して。

 敵の装甲を貫いて、背中からパーツやオイルが飛び散る。

 膝から崩れ落ちた敵から視線を逸らす。

 そうして、最後の一機の場所に目を向ければ戦線を離脱していた。


 向かっている場所は駐屯地の方向ではない。

 反政府軍のアジトの方向でも無かった。

 無線を傍受すれば、パイロットは過呼吸になっている。

 恐慌状態に陥って、訳も分からずに逃げているだけだった。


《殺される、殺される、殺される、殺される、殺される――》

 

 俺はゆっくりと機体を上昇させる。

 そうして、ビルよりも高く機体を上昇させて――加速した。


 逃げていく敵を追う。

 敵は追ってくる俺に目を向ける事無く真っすぐ進んでいる。

 そんな敵へと距離を詰めていって――重い蹴りを放った。


 薄い装甲に脚部が深々とめり込んで、バキバキと音を立てて破壊される。

 半ばから破壊されたナイト・セルは周囲に残骸を飛び散らせて。

 パラパラと舞うそれを静かに見つめながら、俺は興味を失くしたように駐屯地の方向に目を向けた。


「……面倒だ」


 敵の相手をするのも面倒で。

 駐屯地を叩く任務何て受けたくない。

 仕方ないとは言え、何時まで経っても殺しには慣れない。

 出来る事なら殺し何てしたくはない。

 しかし、殺さなければ俺が殺される。


 今しがた殺した相手も、逃げて情報が漏らされるのが嫌だったから殺した。

 理由を付ければ正当化できる訳ではない。

 だが、理由をつけなければやってられないのだ。

 誰だって好き好んで命を奪いたいとは思わないから。


 ゆっくりと息を吐いて、機体を動かした。

 両手にショットライフルを装備しながら、駐屯地へ向かう。

 また俺は誰かを殺しに行くのか。

 本物の人間を目指した人間は、それから遠のいていく。

 自分自身も分からないまま、俺は歩みばかり進めている。


 このままでいいのか?


 ゴースト・ラインと戦う為に情報を求めて。

 天子や告死天使の言うとおりに従って誰かを殺す。

 自らの心を保つ為に、俺は理由をつけて自らを正当化しようとしていた。

 そんな俺が本物の人間である筈がない。

 俺は失敗を繰り返している。

 その時は最善の選択だったかもしれない。

 でも、時が経てば最悪の未来ばかりが訪れる。


 時折、自分が自分でないような感覚を覚える。

 まるで、息を吸うように敵の命を奪っている時があった。

 それはまるで、己の中に別の誰かがいるようで。

 得体の知れない不気味さを感じながら、俺は今日も理由を付けて名前も知らない人間たちを殺した。


 もう何が正しいのかも分からない。

 今している行為も、意味があるのかも定かではない。

 それでも、俺はあの人に誓った。

 何があっても進み続けると。

 足を止める事無く、選択した道を歩き続けると誓った。

 

 何かが変わるのか、何かが終わるのか――それは俺には分からなかった。

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