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117:血塗られた大地で戦うモノ

 刻々と時間が過ぎていく。

 薄暗いコックピッドの中には俺一人しかいない。

 無音の空間に、薄っすらと明かりがついた。

 俺はゆっくりと目を開けて、ディスプレイに映った光景に目を向けた。


 静かに揺れる輸送機の外。

 愛機の中で待機しながら、画面に表示された輸送機の外で起きている光景を眺める。

 高原に自生する木々から火の手が上がって、獣たちが鳴いている。

 鳥たちが黒煙を上げる木々から羽ばたいていって逃げ惑う。

 獣か人間かの判別もつかない死体が無数に転がっていて。

 怒声と銃声が響く戦場を、メリウスや人間たちが駆けていった。

 死屍累々の戦場で戦うのは白い民族衣装を身に纏う浅黒い肌の人間たち。

 対するはカーキ色の塗装が施された第六世代のメリウスだ。

 盾と銃身が短いライフルを持ちながら、ジリジリと距離を詰めている。

 

 洞穴に隠れ潜み活動していた反政府軍の1グループ。

 居場所がリークされて、激しい攻撃を受けていた。

 戦況は反政府軍が不利であり、拠点は半壊状態だった。

 見ている間にも、反政府軍の被害は拡大していって、盾にしていた建物が後方部隊より砲撃されて爆破されていた。

 パラパラと残骸が舞い、隠れ潜んでいる彼らは怯えながらも必死に応戦していた。

 洞穴近くに建てられた自然によってカモフラージュされていただろう建物に隠れながら彼らは敵と戦っている。

 敵味方が激しい銃撃戦を繰り返して、時が進むごとに死体の数が増えていく。


 彼らは仲間の死体を無視して、怒りに染まった顔でライフルを敵へと向ける。

 数名の人間が建物から出てきてメリウスの前に躍り出た。

 雄叫びを上げながら銃弾を浴びせていて、一人が持っていたRPGをメリウスに放つ。

 勢いよく放たれたそれはメリウスの胸部に命中する。

 喜びを露わにしながら、煙に包まれた敵を見つめて――ほぼ無傷のメリウスが現れる。

 

 放心状態の彼らはバラバラと弾をバラまくがメリウスにそんなものが通用する筈も無い。

 頭上から哀れな人間たちを見下ろすメリスウはキラリと赤い双眼センサーを光らせた。

 対メリウス戦用のライフルの銃口を人間に向けて弾を乱射した。

 そんな事をすればどうなるか。結果は無残なミンチが出来上がるだけだ。

 悲鳴を上げながら、戦士たちの命が無慈悲に奪われていく。

 命だったものが辺りに散らばって、大地に人間の血を染み込ませていった。


 何時だって人間は闘争の中で息をする。

 戦う事を強いられている様に、人間たちは互いを傷つけあう。

 思想、理念、意志――理由は、何でも良いのだろう。


 戦うこと自体に意味なんて無い。

 戦わなくても問題は解決できる。

 なら何故戦うのか。それはそれが一番手っ取り早いからだ。

 長い時間を掛けて話し合う事を諦めて、人は武器を持って相手を殺す。


 自分たちの思想に反対する者たち。

 それが一人もいなくなった世界を目指しているのか。

 そんな世界は一度たりとも実現した事は無いのに。

 彼らは仲間や敵の死体を積み上げていって、何時かは自分もその中に埋もれていく。


 無数の死体が散らばって、美しい自然が穢されていく。

 何時も、何時までも見させられた光景だ。

 何年経とうとも変わらない。人間の本質を現した世界。

 それを静かに見つめながら、俺はレバーを握る。


 眼下に広がる光景を見て、俺は眉を顰めた。

 戦争は終わった。しかし、人間たちは醜い争いを続けている。

 国同士の諍いは表面上は消えても、水面下では続いている。

 誰も知らない所で大勢の人間が死んで、今日もまた自らの思想を掲げた人間たちが銃を持つ。

 怒声を上げながら、白いローブを身に纏う浅黒い肌の男たちが攻撃を行う。

 ライフルに迫撃砲に作業用のメリウスを改造したものまで持ち出して。

 戦っている相手は公国と帝国が共同で立ちあげた”治安部隊”だった。


 世界中で起きている大規模な抗争。

 俺が灯した火は激しく燃え上がり、血が流れる抗争へと発展した。


 現世人とこの世界で生きる人間たちの対立。

 マザーによって生み出された人間たちは、現世人を異物だと認識した。

 彼らは声を大にして叫び、現世人全てをこの世界から追い出そうとしていた。

 お前たちは不要だ。お前たちは我々に害しか及ぼさない。


 現世人への恨みや怒りが募っていった。

 そうして、幾つものグループを形成して世界中で暴れまわっていた。

 眼下で戦っているのはその内の一つであり、何もしなければ壊滅させられるだろう。

 元はただの一般人だったであろう彼らは、もう立派なテロリストだ。

 投降しない限り、治安部隊は反逆者たちを殺し続ける。


 ゆっくりと時が進んでいって――短い機械音が鳴る。

 

 仕事の時間だ。

 俺はコンソールをカタカタと叩く。

 すると、輸送機のステルスモードが解除された。


 遥か上空を飛行する輸送機。

 ゆっくりとハッチが開いていって俺は発射台に機体の足を載せた。

 その瞬間に輸送機内の赤色灯が激しく回転した。

 敵のレーダーに発見されたようだ。関係は無い。


 ディスプレイに機体全ての簡易的な情報が表示された。

 不備がない事を確認して、斜め前に置いたコンソールを片手で戻す。

 システムが戦闘モードに移行して、愛機は姿勢を低くする。

 コックピッド内が明るくなり、三百六十度全ての景色が表示された。 

 

《光学迷彩を解除。敵に補足されました》

「……問題ない」


 AIからの言葉を聞き流す。

 そうして、操縦レバーを握りながらゴーサインを待つ。

 ランプは赤く点灯している。

 輸送機の外から爆発音が聞こえて、びりびりと小さく振動した。

 静かにランプを見つめていれば、赤から青へと切り替わる。

 その瞬間に、機体は勢いよく外へと射出された。

 視界が一気に開けて、大空へとダイブする。

 青空をバックに下へと滑空すれば、煤汚れた大地から砲弾が飛んできた。

 射程範囲外のそれは俺へと届く事は無い。

 的外れな射撃を無視しながら空を滑空して、敵の無線を傍受した。


 

《――ッ!! 黒いメリウスッ!? あれはッ!?》


 

 ノイズ交じりの音声を聞いて、俺は目を細めた。

 俺の機体を見つめながら、敵が恐怖に染まった声を上げる。

 それを聞きながら、俺は無表情でペダルを踏む。

 背面のスラスターが点火されて、エネルギーが噴出する。

 機体は加速していってぐんぐんと地上へと近づいて行った。


 俺に気が付いた治安部隊は、上空への砲撃を更に激しくする。

 俺は機体を回転させながら、全ての砲弾を避けた。

 周りで弾が爆発して機体がびりびりと振動する。

 そうして、アラートが鳴り響く中で俺は肩にマウントさせたキャノン砲の照準を定める。

 短く連続する機械音が鳴る中で、しっかりとターゲットをロックオンして――トリガーを引く。


 轟音を立ててキャノン砲から弾が発射された。

 勢いよく地面へと飛来した砲弾。

 それが着弾すると同時に、激しい閃光と共に大地を盛り上げて大爆発が起こった。

 周りにいた治安部隊のメリウスたちは悲鳴を上げながら消し炭となる。

 運よく生き残った者たちも、手足を捥がれて虫のように地面を這っていた。

 拠点から離れた場所にて砲撃をしていたメリウスを叩いた。

 これで地上から空への脅威は無くなった。

 碌な仕事も無く待機していただろうそれらは、あっさりと死んでくれた。


《痛い! 痛い! 痛いぃぃ!》

《目が、目が! 何も見えない!!》

《反応がロスト!? 何が起きたんだ!! おい、おい!!》


 大きなクレーターを作って残骸が散らばっている。

 後方からの支援部隊は機能を停止させて、生き残りが虫のようにもがいている。

 機体を上昇させながら、レーダーで敵の位置を確認した。

 邪魔する者がいなくなった事で、余裕をもって敵の位置が特定できた。

 マップに敵の位置情報を刻んでいく中で、隠れていた反政府軍が動く。

 

 俺が発射したキャノン砲によって後方部隊が壊滅した。

 前衛にて戦っていた敵メリウスは、動揺を露わにして動きを大きく乱していた。

 その混乱に乗じて、隠れていた奴らは立ち上がって雄叫びを上げた。

 作業用のメリウスたちが建物から飛び出して、勢いよく突撃していく。

 錆だらけのキャタピラ式のそれは二本の作業用アームで急ごしらえの盾を持っていた。

 一早く状況を飲み込んだ敵が接近した作業用のメリウスに銃口を向けて発砲した。

 急ごしらえの盾は数発の弾丸で穴が開けられて破壊され、ガリガリと本体の装甲が削られた大破した。

 爆炎に包まれて鉄くずとなった作業用メリウスたち。

 しかし、敵の弾幕を突破した数機が呆気にとられる敵に体当たりをして――大きく爆ぜた。


 激しい爆発と共に、ゼロ距離で攻撃を受けた敵は木っ端みじんに吹っ飛ぶ。

 カラカラと敵の頭部が転がって、他の敵の足元に落ちていた。

 狂気に飲まれた反政府軍は、味方の自爆特攻に喝さいを上げていた。

 そうして、死んでいった仲間に続くように他の作業用のメリウスも砂埃を上げて突撃していた。

 

 機体中に地雷を巻き付けた機体。

 当たれば最期であり、敵も味方も関係なく死んでいく。

 自らの命も顧みずに特攻するパイロットたち。

 戦力差があるからこそ、あんな方法に頼らざるを得ない。


 人間の命も、この戦場では価値がない。

 敵へと攻撃する為のパーツであり、その死は尊いものとされるのか。

 狂っている。どいつもこいつも狂っている。

 以前であれば吐き気を催すような戦場だ。

 しかし、俺はそれを冷めた目で見ながらレバーを操作した。


 俺は片手に装備したガトリングガンを地上にいる前衛部隊に向ける。

 そうして、呼吸の乱れた敵へ空中から集中砲火を浴びせた。

 ガリガリと弾丸が敵の装甲を削って、瞬く間にガラクタになっていく。

 穴だらけになった機体が生み出されていく中で、俺は目を細めながら死んでいく敵を見つめていた。


 もう何も思う事は無い。

 もう何も考える必要は無い。

 俺はただ引き金を引いて、敵を殲滅していくだけだ。


 傍受した通信から敵の叫びを聞く。

 煩わしく感じるそれをAIに切るように命令した。

 すると、途端に静かになって――目が留まる。


 倒壊した建物の中に生体反応をキャッチした。

 サーマルに切り替えて見れば、大人が一人と子供が一人いる。

 俺は何も言う事なく地上へと降下する。

 敵の射程圏内に躍り出て、敵のヘイトを此方に向ける。

 怒り狂った敵は俺を狙って攻撃を始めた。


 突撃砲が火を噴いて、俺の装甲を破壊しようと殺到する。

 地上を滑るように移動した。激しく土煙が舞って、敵は俺が通った場所に攻撃を当てていた。

 混乱と焦りから狙いが定まっていない。

 新兵と思える敵の攻撃を掻い潜って、建物から遠ざける。

 ご丁寧に俺を追ってくる敵たち。

 狙い通りに敵を引き付けて、俺はペダルとレバーを操作する。

 そうして、手頃な場所でスラスターの向きを変えた。

 

 背面のスラスターを右へと向けて加速――すぐさまスラスターを後ろへ向けて加速。


 敵の背後へ回り込み、姿勢制御用の噴射口で姿勢を変える。

 敵の背後にセンサーを向けながら、対象をロックオンした。

 短距離ブーストによって敵は背後に回られた事に気づくも反応が鈍い。

 背を向ける敵にガトリングガンの照準を向ける。

 そうして、躊躇うことも無くトリガーを引いて敵をハチの巣にした。

 ガリガリと治安部隊のメリウスは装甲を削られて、慌てて銃口を向けてきた他の敵にも弾を見舞う。

 敵が狼狽えているのが手に取るように分かる。

 攻撃をしながら移動して、敵の射線に他の敵が被る様に動く。

 ゴツゴツとした岩や木々が邪魔をする高原の戦闘で、敵は周りに気を配りながら戦闘をしていた。

 

 空中に逃れる事も出来ただろう。

 しかし、俺を見た瞬間にそれは悪手だと判断したのか。

 あの日の光景を見た人間か……別にどうでもいい。

 

 俺はスラスターの向きを変えて、地面を勢いよく巻き上げた。

 砂埃が舞って視界が不良になって、敵はやぶれかぶれの射撃を披露していた。

 敵の弾丸が砂に混じった石に当たってパチパチと音が鳴る。

 恐慌状態の敵はその音ですら、俺からの攻撃だと認識している様子だ。

 派手な音を立てて、煙の中で光が何度も上がった。


 狙いもつけていない弾丸が当たる筈がない。

 味方への誤射もお構いなしであり、俺は上空へと飛び上がってからガトリングガンの照準を定めた。

 敵の行動パターンの計算は終わらせている。

 予測できる移動場所へとロックオンして――引き金を引く。

 

 ドラムが激しく回転して火を噴いた。

 そうして、弾の着弾した場所から爆発が起きる。

 線でもなぞる様にガトリングガンで煙の中を掻きまわす。

 そうして、弾を出し終えてから煙が晴れれば、無残なガラクタが転がっていた。


 ゆっくりとセンサーを残りの敵に向ける。

 敵は一歩後退して――一逃げていった。


 通信を傍受すれば悲鳴でも聞こえてくるのだろうか。

 聞きたくも無いから繋がないが、こんなものだろう。

 逃げていく敵を追うことなく。

 俺はさきほど反応があった建物に目を向けた。

 すると、中からローブを纏った母親らしき人間と子供が出てくる。

 近くにいた仲間に守られながら避難していって、俺は興味を失くして視線をマップに向けた。


「……敵の野営地を叩く。サイトウさんに通信を繋げられるか?」

《可能です……通信を繋げますか?》

「あぁ、頼む」

《かしこまりました》


 サイトウさんへと通信を試みる。

 すると、通信がすぐに繋がってディスプレイに白髪で瞳が濁った女性が現れる。

 彼女は無感情に「何」とだけ言う。

 俺は強襲してきた敵部隊を追い払った事を伝えた。


《こっちも問題ない。予備部隊は二分で始末する》

「分かりました。では予定通りに」

《ん。無理しないで》


 彼女の心の籠っていない気づかいの言葉。

 それを最後に通信を切って、俺はゆっくりと上昇していった。

 高原地帯に拠点を置いている反政府軍。

 奴らのバックには東源国がついており、これは公国も帝国も知らない事だろう。

 武器やメリスウなどを支給して、場合によっては俺たちのような人間も派遣する。

 東源国は自ら進んで戦争を起こす気はない。

 奴らの狙いは戦争によって生まれる利益を独占する事だった。


 告死天使は何故か、東源国の上浦白狼=天子に従っている。

 いや、主従関係を結んでいる訳ではない。

 厳密にいえば、両者の利害が一致して協力関係を結んでいるだけだ。

 その利が何かは奴は話さないが……どうでもいいことだ。


 奴の仲間に加わって三年か……ゴースト・ラインは闇に身を潜めた。


 この三年、奴らの動向を探っていたが。

 奴らは目立った活動をしていない。

 帝国からも手を引いて、無人機の工場も全て破棄していた。

 帝国や公国はハッキリとゴースト・ラインを敵であると公言していた。

 裏で何かをしている可能性もあるが、それならば俺たちがすぐに察知できる。


 奴らは生きている。

 計画へと着実に駒を進めている筈だ。

 俺という人間を世界の敵にするという目的も達成しているのだ。

 奴らが未来を見ているかのように、俺は奴らの手で踊らされた。


 しかし、これからは違う。

 奴らの計画を阻止する為に、先手を打つ。

 この戦いを乗り切れば、新たな情報が得られる。

 この三年間、俺はただ告死天使や天子の命令に従うばかりではなかった。

 あらゆる情報網を使って奴らの尻尾を掴もうとして……一つ分かった事がある。

 

 ゴースト・ラインは元々は東源国を拠点に活動していた。

 それは分かっていた事だが、その企業の活動を天子たちは黙認していた。

 それは何故か――奴らも一枚かんでいたのだ。


 ゴースト・ラインの研究。

 奴らのパトロンとなり、場所と金を提供していた人物は他ならない天子自身で。

 奴は自らの地位や権力を使って、ゴースト・ラインの研究を裏で手伝っていた。

 今も奴らと関わっている可能性は高い。

 しかし、それならばゴースト・ラインと敵対する俺を近くに置くわけがない。


 恐らくは、手はもう切っているのだろう。

 だが、確実に奴らとの関りは深い。

 俺の知り得ない情報も天子ならば持っているだろう。

 それを知る為に、敢えて、奴に協力している。

 全ては奴の信用を勝ち取り、ゴースト・ラインの情報を得る為だ。


 機体はゆっくりと進んでいって。

 敵の野営地が視認できた。

 破損したメリウスなどの修理をしているが間に合わないだろう。

 木々などでカモフラージュをしているが、収容可能数を超えるメリウスを抱えては意味が無い。

 俺は一気に上へと機体を上昇させていく。

 野営地からは半壊状態のメリウスが飛び立って、俺を迎撃しに来た。

 それを無視してぐんぐんと上へと機体を加速させる。


 雲を抜けて空の青みが増していく。

 機体全体で風を感じながら、ゆっくりと息を吸う。

 そうして、AIに命令を下した。


「次弾装填」

《完了しました》


 キャノン砲からガシャリと音がする。

 そうして、次弾の装填が完了したことが分かった。


 俺は機体を停止させてから、センサーを地上に向ける。

 そうして、スラスターを全て点火して地上へと進んでいった。

 重力に従うように、機体は速度を加速させて地上へと降下していく。


 ぐんぐんと機体は加速していった。

 半壊したメリウスたちは慌てて逃げる。

 それを無視して突っ切って、照準を定めた。

 機械音が鳴り響いて、ロックオンの完了を告げて――目に留まる。

 

 

「――っ」


 

 野営地に子供がいた。

 スパナを持った少年が俺を見ている。

 スローモーションの中で、彼を俺は見つめていた。

 引き金に当てた指を――強く引く。


 凄まじい勢いで砲弾が飛ぶ。

 そうして地面を抉って着弾して、大爆発を起こした。

 少年も、大人たちも関係なく殺した。

 土と共にメリウスの残骸や肉片が飛び散って、残された敵は散り散りになって逃げていく。


 俺はクレーターが出来た野営地跡を見つめる。

 ただただ眺めながら、レバーを強く握りしめた。


「……くそったれ」


 吐き捨てるように言葉を発した。

 そうして俺は、クレーターから目を背けて去っていく。

 

 三年で何が変わった……俺は……俺は……。

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