序列戦1
一日一話継続中
「本当に良いの?お父さんに言えば、もっと武器とか買ってくれると思うけど」
「俺は、武器を使って戦う事が少ないから大丈夫って言ってるだろう?俺を信用出来ないの?」
「信用してるよ」
大会前日だった昨日から、メアの様子がおかしかった。何度も武器について聞いてくるので、何かを知っている様子だが、追及してもはぐらかされてしまう。
「ていうかさあ、もう後数分で大会始まるんだけど」
「仕方ないでしょ!」
今は、抽選があった会場の隣にある、闘技場の控室にいた。開会式は、ただ話を聞いているだけだったので、半分寝てしまった。朝早くに、しょうもない話を聞いて寝ない人の方がおかしいだろう。
「陽聖さん行けますか?」
「はい」
スタッフに呼ばれたので席を立つと、ソワソワしているメアが気になってしょうがない。
「本当に大丈夫?」
「安心していいよ」
「わかった」
最後の確認をしたのか、先に控室から出て行った。もし大丈夫ではないと言っていたら、何かしてくれたのだろうか。そんなことを考えながらスタッフに付いて行くと、段々と陽光が見えてくる。
「さあ、選手入場です!」
男の声に合わせて、スタッフから前に行けと、ハンドサインをされる。一瞬で理解が出来なかったので、言葉で伝えて欲しい、と心から思った。闘技場の中心に行くと、大剣男の大地が、待っていた。
「勝敗予想ですが、なんと!六対四で、陽聖選手がリードしています」
「え?何で?」
「いや、俺に聞くなよ。俺は魔法主体で、戦うからじゃねえか?」
「大剣男の癖に、魔法を使うんだね」
「うるせえわ」
陽聖と大剣男の会話が、マイクに拾われていたので、会場が何故か盛り上がっていた。
「陽聖選手の余裕の表情が良いですねぇ」
「この世界は魔法中心ですから、魔力無効化は強力な武器と言っても良いでしょう」
学生の大会に、実況と解説が居ることに驚きを隠せない陽聖は、大剣男と雑談していた。
「会場広いし、この大会って凄いの?」
「誰しもが、憧れる大会なのは、間違いないと言っても良いんじゃないか」
「本当?なら誰かと代わってこようかな」
「その余裕を、俺は欲しいぜ」
大剣男が、大剣を構えると審判が離れて行った。どうやら上から判断するらしい。
「陽聖、リストバンド何処にやった?」
「え?もしかしているの?」
「何も聞いていなかったのか、予備を用意しておいて良かったぜ」
大剣男はリストバンドを、陽聖に投げた。リストバンドをすると、耐久値が百と表示されている。おそらく、相手の耐久値を零にすれば勝ちだろう。
「大地選手からリストバンドを受け取りましたよ。仲が良いみたいですね」
「そうですね。耐久値はお互い百なので、何か事前にやり取りが有ったのかも知れません
大地は心配性で、予備を持っていないと気が済まない人だった。だが、大半の人には誤解を与えてしまったみたいだ。
「全く、陽聖のペースに吞まれてんじゃねえ」
そう呟く大剣男の声が聞こえたが、聞いていない風に装う。
「では、試合開始!」
審判が声を張り上げると、大剣男は、真っ先に陽聖を大剣で潰そうとするが、何処からか現れた刀に押し負けた。
「おっと!陽聖選手の刀に押されてしまった!」
「何処から現れたんですかね…陽聖選手は『炎属性』と情報が来ていますが…」
大剣男は魔法を使わずに、全力で大剣を振り回すも、陽聖に掠り傷一つも付けられなかった。全て受け流され、逆にカウンターをくらってしまう始末だ。
「化け物かよ…アンドよりも明らかに強い!」
足を思いっきり踏み込んで魔法を使う。魔法は封印されていなかったことが判明したので、若干頬が緩みながらも、陽聖に斬り込んだ。だが、斬った感触は無かった。
「どういうことだ…」
大地が残像だと気付いた頃には、周りに人影が見当たらない。
「ようやく気付いたか、やっぱり良い紅茶を飲むと、良い魔法が組めるな」
大地は振り向くと、真後ろに札を持った陽聖が居た。
「いつから…」
「実況の声聞こえて無かったでしょ?」
「ちっ!」
陽聖を斬ったはずが、また感触が無い。そして、今度は後ろから何者かに蹴られる。
「一回の蹴りで、耐久値三十しか削れないんだ」
「うるせえ!」
声の方に、大剣を振るも当たらない。大剣男は息を切らして、大剣を捨てて魔法に切り替えるが…
「何で発動しない!」
大剣男が叫ぶと、何故か魔法が使えるようになった。やっとのことで、巨大な岩石を生成すると、背後に投げたが、大剣男に跳ね返って来た。すると、段々と周りの音が聞こえ始める。
「なんと!大地選手を完封しました!百対零で、勝者は陽聖選手!」
観客からの歓声が凄く聞こえるが、うるさいとしか感じなかった。
「どうして俺は負けたんだ?」
「え?俺が二勝するって決めてたからかな?」
「ははっ、完敗だな。十月の大会でお前に勝つよ」
「戦えたらな」
そう言って陽聖は消えて行った。陽聖の後ろ姿は、まるで、あの時に見た魔王の様だった。
「ほら余裕だっただろ?」
「確かに、一方的だった」
控室には、メア、アスフィ、ルダードが居た。おそらく、二人はメアのことが気になっていたのだろう。
「大地は、突然に陽聖のことを見失っていたけど、何かしたの?」
「少しだけ魔法を使っただけだよ。最後の自爆は読めなかったけどね」
実は、大剣男の最後の魔法は、真上に向かって投げていたので自分に当たっていた。認識阻害の魔法は、方向感覚も狂わせることが出来るのかと、陽聖は試合後から考えていた。
「面白かったぞ、陽聖!」
「ありがとう」
一日目の試合は無事に終わった。家に帰るとジークが何故か居たが、すぐに帰ってしまった。
「テーブルの上に料理が置いてある」
「本当だ」
誰かの手作りの様な料理が沢山置いてあった。ジークが作ったと考えるのが普通だが、和食が主だったので、おそらく違うだろう。
「何か手紙があるよ、文花って誰だろう?」
「え?もう一回言ってくれる?」
「文花って誰だろう」
「ああ、知らない。何て書いてあった?」
王族が使用している封筒では無く、一般人が使っている封筒だった。おそらく誰かの罠だろう。
「私は、雷都学校に通っています。三戦目が終わってから家に遊びに行くね。私の護衛さん…陽聖の事?」
「知らないよ…実物が来ないとわからないし」
「それはそうね。えーと、陽光君が好きな食べ物を私が作ってみました。お口に合うと嬉しいです。陽聖の事?」
「うーん…まだ、知らないかな」
「どういうことよ」
それから文花が作った料理を食べたが、美味しかった。メアが『闇属性』の効果で、毒が入っていないか、確認してくれたので大丈夫だろう。
食べ終わった後は、直ぐに寝てしまったので、いつもよりも少しだけ早く起きてしまった。いつもの様に、朝ご飯を作りながら装備の点検をしていると、札が一枚足りないことに気付いた。
「そう言えば、大剣男に感覚麻痺の札を付けたままだったわ」
まあ、会うことは無いだろうし、そのままにしておこうと決めたのだった。
また、ソクタル国の闘技場に、馬車で向かっているが、何回見ても二つの城が目に付く。魔族の城は行ったことが有った。城の外は真っ黒で、城の中は真っ白な地面に、レッドカーペットが敷かれていたことを覚えている。
あの時は、あの後に魔王と戦うと思っていなかった。俺の父親は、魔王と仲が良かったし、雷都とトレジア国は外交も上手くいっていると聞いていたが、どうして…殺された?
「大丈夫?顔色が悪いけど」
「うん?大丈夫だよ」
隣にメアが座っていることを忘れていた。心配をかける訳にはいかないので、笑って誤魔化した。
客室に誰も居ないので、ルダードとアスフィを家に連れて行こうと考えたが、ベルア付近に別荘を持っているらしく、断られてしまった。ジークは、ソクタル国をあまり良く思っていないと、メアから聞いているので、別荘が無いのも頷ける。
「アンドとの試合大丈夫?」
「俺は負けないから、安心してくれ」
「まあ大丈夫そうね」
メアの性格からして、ここまで心配する理由が見当たらないのだが、本当に何を隠しているんだろうか。そう思いながら、会場の駐車場に着くと、角男がまた案内をしてくれた。
「昨日の戦いは凄かった!圧巻だったね」
「ありがとうございます」
「今日はどう戦うんだ?」
「相手の事を調べて無いので、即興で決めています」
「それは凄いね。それじゃあ頑張ってくれ。応援しているよ」
角男は、本当に応援してくれているみたいだ。どうやらリデビル国の魔族なのだろう。トレジア国の者で、敵を応援する者は、なかなか居ないと陽聖は考えていた。
リデビル国は、力では無く、技術で世界一を目指している魔人族の国だ。隣に雷都が在るので、よく競い合っており、技術力はソクタル国と並ぶと評価されている。リデビル国は、認めた国としか貿易をしないと決めている、フーリ国と同じ考えの国だった。その二か国は、雷都としか貿易をしていない。
つまり、雷都は技術が必然的に集まるようになっていた。その様に、何百年と外交を続けてきた、一つの企業が有ったのだが、五年前に消えてしまった。今のリデビル国とは、どの様な外交がされているのだろうかと、陽聖少しだけ考えたが、すぐに思考は閉ざされる。
「陽聖さん準備出来ていますか?」
スタッフが変わったのだろうか、昨日の渋い声から可愛らしい声に変わった。恐る恐る振り返ると、見覚えのある面影が、控室の扉の前に立っていた。
「久しぶりだね、宵姫」
宵姫は、リデビル国のとある企業の箱入り娘だった。宵姫は、吸血鬼と呼ばれている種族らしい。なので、お土産に血が五パーセントほど入ったジュースを貰ったことが何回か有る。何の血かわからなかったので、父親にあげた気がする。
当時は、外の事をほとんど知らない宵姫に、色々教えた覚えがある。その代わりに、リデビル国の国家機密である転移魔法の理論書を持って来てもらった。
「覚えていてくれたんだ!少し嬉しいかも」
「よくお父さんに外に出してもらえたね」
「そうそう、無理言って雷都第二学校に通ってるんだ。やっぱり、陽聖が外の事を教えてくれたからだよ」
照れながら言う宵姫に、懐かしさを感じた。雷都第二学校は、雷都とリデビル国の境界付近に校舎が在るので、ほぼリデビル国と言っても良いだろう。
「じゃあ案内するね」
「よろしく」
どうやら大会のスタッフは、各学校から数人集めてやっているらしい。スタッフは時給が高いらしく、宵姫からお金のためにやっていると聞いて、少しだけ不安になった陽聖だった。
「応援しているよ」
「ありがとう」
徐々に陽光が見えてくると、音も騒がしくなってくる。集中している陽聖にとっては、邪魔な雑音でしか無かった。だが、観客を第一優先と考えている陽聖は、静かに闘技場に向かって歩くのだった。
闘技場の中心に立つと、アンドが後からやって来た。アンデッドらしく、全身鎧のアンドに少しだけ笑ってしまった。
特に話すことは無く、そもそもアンドが話せるかもわからなかったので、審判の方を見て待っていた。
「なんと、勝敗予想は五対五ですよ!大地選手を圧倒していた陽聖選手でも、アンド選手に勝つことは難しいと考えているようですね」
「ただ、陽聖選手は魔法を封じる事が可能ですから、アンド選手に相性が良い思いますけどね」
「ですが、大地選手は魔法を使えていたので、時間制限が有るのかもしれません。」
二人が黙ると、審判が離れて行く。そして、試合の合図が始まる。
「では、試合開始!」
審判のコールに合わせて、アンドが動いた。陽聖も様子見で、刀でアンドの杖を受けると、刀が腐敗していく。
「やばいな」
陽聖は、アンドの魔法を封印しようと、札を取り出そうとするが、内ポケットに入っていない。ここで、陽聖はとあることに気付いた。それは、普段使っている札を控室に置き忘れてきたことだ。
アンドの猛攻は止まらず、刀で受けていた。刀の刃は、あと数センチで折れそうになっていた。このままでは押し負ける。
「アンド選手に物理攻撃で挑んでいますよ」
「陽聖選手は大丈夫でしょうか」
「悪いな」
アンドが笑った気がする。そして、ついに刀が折れた。咄嗟に転移魔法で後ろに引くが、アンドは付いて来る。
『止まれ』
とりあえずアンドを停止させたが、長くは持たないだろう。陽聖は、アンドの目の前で、白色のブレザーを脱いだ。そして、シャツの第一ボタンを開けると、黒色の三日月が付いているペンダントを取り出した。
「最悪だ」
ペンダントを右手で握ろうとすると、アンドの封印が解けてしまった。急いでペンダントの中から、五枚の札を取ると、陽聖はさらに機嫌が悪くなる。ペンダントの中には、イメージしただけで取り出せる機能が付いているが、札は鍵をかけているのでイメージだけでは取り出せない。
「もらった」
そう言って、アンドが杖を縦に振ると、陽聖は透明なクナイで防ぐ。相手にクナイであることを悟らせないように、透明化をさせた。なので、剣を持つようにクナイを持っていた。
「な、何をした!」
いつの間にか足が凍っていることに気づいたアンドは、陽聖を見ると、右手だけで打ち合っていることに気付いた。アンドは、剣のリーチが分かっていないので、感触を掴むために陽聖の剣の方に集中していた。
陽聖は転移魔法で後ろに下がると、いつも透明化して見えなくしている札を左手に持って、三枚だけ可視化させた。一枚は使いたくない札だったので、シャツの胸ポケットにしまった。
「まあ仕方ないから、俺の本気を見せてやりますか」
あの時に、魅せられた戦いを脳内で再現する。自分が初めて見た戦いは、まさに圧巻だった。お互いの魔法がぶつかり合って、振動が観客席まで来ていた。だが、その戦い。いや、御前試合の観客席に居たのは二人しか居ない。
陽聖は、右手の人差し指と中指で一枚の札を持つと、途端に空が暗くなると、稲妻が鳴り響く。その稲妻は、全てアンドに向かって方向を変える。逃げ回るアンドは、当たらないように避けているが、一発だけ当たると、耐久値が七十五に減る。
「追尾させたのに一発しか当たらないなんてね。やっぱり改良が必要だね」
そう言って、札を手から離すと、三枚とも空中で燃えてしまった。一枚は『雷属性』で当たりだったが、残りの二枚は、追尾と威力増幅の効果の札だった。
陽聖は、胸ポケットに入れてある札を見て溜息を付いた。『雷属性』はありふれた属性なので良いとして、この属性の持ち主は、もうこの世には居ないと考えられる。札は効果に寄って、使う魔法陣の色が違う。人によっては、魔法陣の半分で色が違うなどがあるのだ。
ただ、この魔法陣の持ち主は、観客を優先するだろう。あの王は、自分よりも民を優先するぐらいだ。心なしか、札も輝きを放っているようにも見えた。
「品切れだろ?強かったぜ!」
そう言って、杖を天に掲げて詠唱を始めたアンドは、白色の魔法陣を展開する。それを見た陽聖は、覚悟を決めた。白色の魔法陣は、『死属性』と呼ばれていて、陽聖の父親もそうだった。そして、あの時も…
「終焉の墓!」
「蒼白の聖火」
二人の詠唱が重なり合った結果、観客席からは二人の姿は確認出来ず、見えるのは、蒼白い炎と灰色の光だった。
ただ、闘技場にあるモニターには、耐久値が百と表示された陽聖と、零と表示されたアンドの視認できた最後の姿が映し出されていた。
「霧が晴れるまで、わかりません。それにしても、お互いに凄い魔法でした」
「陽聖選手の最後の魔法は見覚えが有りますね。三十年程前までは、大会に出ていたんですけどね」
「存じ上げませんが、誰でしょうか?」
「ジェネレーションギャップというやつですかね。この魔法は、雷都の元国王である蒼聖様の魔法に似ていますね」
「あの大会無敗と言われている方ですよね?」
「そうですよ。大会に出ている時代はカメラが有りませんでしたからね。映像で見ることが出来ないのが残念ですね」
二人が雑談していると、魔法が解けた様だ。闘技場のアンドが居た方向の壁に、アンドがもたれていた。実は、陽聖はアンドがアンデッドということを忘れて浄化してしまったのだ。本当は魔法は消えていく時間なのだが、急いで闘技場の中を視認できないように、魔法で蓋をしたのだ。
幸い魔法で蓋をしたおかげで、記憶が少し欠けたぐらいに、被害を抑えることが出来た。
「全くどんな威力してんだよ」
「属性から計算すると、丁度二倍ぐらいだからね」
「今回は負けだな。だが、次は負けねえ」
「戦えたらな」
最後は握手をして、控室に戻って行った。控室に戻って札を確認したが、特に触られた形跡は無かったので、安心してメアと一緒に帰った。
アーリル国の王族は、技術発展を良く思っていません。幾つか理由がありますが、とある伝統を保護するためとも、巷では言われているようです。
稀に、二属性が使える人が居るようです。二年に一人程度ですね。
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