抽選会
一日一話更新中
ソクタル国は、全ての国と面している。そのため、世界会議はほとんどソクタル国で開催されるし、土地の利便性から、大体の企業の本社は、ソクタル国に在ると言っても過言では無いだろう。
ただ、ソクタル国が一番豊かと言われれば、そうではないと答える人が多いだろう。他の五か国に比べて、雷都は頭一つ抜けていたからだ。雷都は、他の国より技術の進歩が凄まじく、ほとんどの企業が雷都の技術を貸してもらっていたり、設計や開発を任せていた。
だが、それは五年前の話だ。陽聖が雷都に居た頃は、栄えていたという話で、現在の国のバランスなんて興味が無い。
「もう~ジークさんのお話は面白いです~」
「ははっ、俺がトレジア国に行った話もしてやろう!あの時は、王族の護衛を任されたんだがな、魔族の国なだけあって、誰が敵かわからんかった!」
「そうなんですね~!」
陽聖は馬車の操縦をしていて、一応形式上は外に居るのだが、客室の中の声は丸聞こえだった。さっきから、王族の話をしているが、大丈夫なのだろうか。モルテの聞き上手も相まって、護衛の人数とかを喋っているが、もしモルテが敵国のスパイとかだったらどうするつもりだ。と思いつつ、スパイだとしても、この国がどうなろうが関係なかった。
アーリル国は、ソクタル国の南西に位置しており、ソクタル国の首都であるベルアは、学校から真っ直ぐ北に向かえば、到着出来る場所だ。一本道を通れば着けるので、そう時間がかかることは無かった。
「聞いてくれよモルテ!俺はさあ、」
「何ですか~」
客室からの声に頭を抱えていた。陽聖が操縦しないと、モルテと二人っきりになっていたという事実に、鳥肌が立っていた。流石にモルテと話すのは気が引けたので、操縦したいとジークに名乗り出た。幸いにも馬車の操縦は、孤児院でしていたので、困ることは無かったが。
しばらくすると、遠くの方に大きな城が二つ見えてきた。何故二つ城が在るのかと言うと、魔族と人族が平等な立場にたっているというダブルミーニングが有るらしい。小さい頃の陽聖は、しょうもないと聞き流していたが、今はただの地獄という認識だ。
平等にするために、どれだけの犠牲が出たと思っているんだ。そう頭の中で思い浮かんだが、平等にした方が都合の良い者達が居ることを知っているので、その思考は消し去る。
「そろそろ会場に着きますので、馬車は何処に置きましょうか?」
馬の手綱を握りながら客室を覗くと、上半身裸になっていたジークと、ネクタイでジークの首を絞めているモルテの姿があった。昼間から何してんだと思いながら、確認を取る。
「許可を取らずに覗いてすみません、馬車は会場の駐車場に停めてよろしいですか?」
ジークは意識が無いのか返事をしないので、代わりにモルテが返事をした。
「はい。お願いします」
いつもと雰囲気が違うモルテに、違和感を感じながら前を見た。いつもなら「はい~」とか言ってそうだが、イメチェンでもしたのだろうかと、陽聖は考えた。
会場に着くと、角を生やした男に駐車場まで案内してもらった。見た目は、ただの強そうな魔物なのだが、話してみると優しい方だったので、十分ほどで仲良くなってしまった。
「自分で操縦して来た人は、君だけだよ。君達が最後だけどね」
「授業終わってからすぐに来たんですけどね…」
「授業を受けてから来たのか!?何て勤勉な子なんだ。他の奴らに見習って欲しいな…」
顎に手を当てて、考え事をしている様子だ。どうやら誤解されているが、訂正は面倒なので受け入れてしまおう。俺は良い奴だと。
馬車を停めると、ジークは意識が戻っていたようで、服をしっかりと着ていた。モルテを見ると、いつものフワフワした雰囲気に戻っていたので、近寄り難くなってしまった。
結局、角男に会場まで案内してもらった。後ろに居る二人は何のために付いて来たのだろうか。会場には、角男が言った通りに、十二人が壇上の上で集まっていた。待たせるのは悪いと思ったので、転移魔法で壇上に上った。
「やっぱり最下位の学校は、遅れた時のマナーもなっていない様だね」
「本当に呆れるわ」
どうやら二人の人間に嫌味を言われてしまったみたいだ。俺は悪くないと思いながら、無視をしていると、嫌味を言ってきた男が目の前にやって来た。
「やっぱり馬鹿にはお仕置きが必要だよな!」
そう言って、剣を振り下ろす前に右隣に居た男が、大剣で防いでくれた。
「これだからソクタルの王族は嫌いなんだよ」
「私も」
「同感」
どうやら右隣に居た三人は面識が有る様で、大剣男が言っていた事を共感していた。
「雷都の分際で!俺を止めるつもりか?」
今度は魔法陣を展開して、大剣男に向かって魔法を使おうとしたので、今度は陽聖が、札を王子の背中に貼って止める。
「遅れて来て済まなかったよ。ただ、これ以上長引かせると大事なお茶会に参加出来なくなるだろ!ふざけんな!」
徐々に、何故自分が謝らなければいけないんだと思ってしまったので、語気が段々と荒くなってしまった。札には、口封じの効果を付与しておいたので、ソクタル国の王子は喋ることが出来なかった。もごもごしている様子に大剣男が笑っていると陽聖は思っていたが、陽聖に笑っていることは言うまでもない。
王子は、絶対に喋ることが出来ないと感じたのか、元の場所に戻って行った。王子が元の場所に戻った瞬間に司会の人間が喋りだした。
「さあ今回の対校選は、強者揃いの大接戦になるでしょう…」
司会が喋りだしてから、陽聖はカメラがあることに気付いたが、どうでも良いと感じていた。司会が話を終わると、目の前に壺が置かれた。壺の中に紙が入っているらしく、左から一人ずつ取っていった。
陽聖は一と書かれた紙を引いたが、二勝したら終わるつもりなので、数字には興味が無かった。それよりも、お茶会に間に合うかどうかの事しか考えていなかった。
十二人が紙を引き終わり、カメラに向かって見せる中で、自己紹介をする流れになっていた。自己紹介することを聞いていなかったので、全く考えて来ていなかった。そもそも陽聖は偽名であることから、真名を名乗った方が良いのかすら考えてなかった。
「フーリ魔法学校からお願いします」
「私はアイカと言います。フーリ国の魔術師も勤めています。属性は炎なので、属性を活かした戦い方をしたいと思っています」
最初は左から順番にフーリ国から挨拶をしていくらしい。陽聖は左から十番目なので、少しだけ時間が有った。途中で静かになったので、自分の順番かと思ったけど、誰もこちらを見ていなかったので、違ったみたいだ。九番目が終わり、陽聖に順番が回って来た。
「次はアーリル魔法学院です」
「俺は陽聖と言います。冒険者ランクはAです。相手の魔法を無力化する術を持っているので、魔法は効かないと思っていてください。よろしくお願いします」
何とか普通の自己紹介は出来ただろう。マイクを大剣男に渡すと、自分の出番が終わった。敵について興味が無かったし、自分の自己紹介を考えていたので、雷都の三人の自己紹介しか聞いていなかった。だが、三人とも知らない人だったので、聞き流す程度だった。
自己紹介が終わると、集合写真を撮るようだ。魔法陣を手に乗せながら撮るようで、黒色の魔法陣は隠しておいた方が良いと判断した。なので、札で赤色の魔法陣を作って偽造した。これほど親から教わっておいて良かったと思った事はない。
「これにて対校選の抽選会を終わらせて頂きます」
司会がそう言った後に、みんなが動き始めた。陽聖も早く帰りたかったので、壇上から降りようとすると、大剣男に肩を掴まれてしまった。
「陽聖、お前何か忘れてないか?」
大剣男は少し笑いながら陽聖に言ったが、当然陽聖は気付かない。すると雷都の女性二人がこちらに来て教えてくれた。
「陽聖君。多分だけど…エルダイト王子の封印を解いてないんじゃない?」
「あっ」
「喋ろうとしてたけど、くくっ、あいつ何も話さずに終わったぞ」
三人とも何処か嬉しそうに話しているが、とんでもないことをしてしまった。確かに誰も喋らない時間が有った気がする。さっき王子が居た場所を見たが、誰も居なかった。
「あいつは真っ先に会場から出て行ったぞ。俺としてはスッキリしたぜ」
そう言ってもらえたことが不幸中の幸いだった。笑ってくれる人が居ると安心出来る。
「さっきは助かったよ、大剣男」
「くくっ」
「おいおい、俺の名前を聞いてなかったのか?まあ、良い。俺は大地だ」
「俺は陽聖だ。よろしく」
手を差し出されたので、握手をして壇上を降りた。悪くないと思いながら、ジーク達と急いで帰った。帰りのジークは一言も発さずに客室で過ごしていたので、何かあったのだろうかと道中考えていたが、変なことに巻き込まれたくないので、思考を放棄した。
「お帰りなさい」
「おう!やっと来たか」
ジークとモルテを、学校に置いてからすぐに家に帰った。家にはアルフィとルダードが居る様なので間に合ったのだろう。
「中継を見てたわ。まさか冒険者ランクを持っているとは思わなかった」
陽聖用の紅茶を、メアが淹れながら雑談する。テレビには、対校選の特集がやっていたみたいだ。
「陽聖君の相手は…強そうね」
「一回戦が、前回二位の雷都学校の大地。二回戦が、前回一位のトレジア魔族学校のアンドか」
どうやら魔族の一人が紙を引いていなかったのは、シード権が確定していたからだったようだ。
「陽聖なら勝てるでしょ?」
「勝てるけど、二勝で終わるからね」
陽聖は序列戦に興味が無く、美味しい紅茶のことしか考えていなかった。この紅茶の香りは中々のもので、今までで飲んできた飲み物の中で一番美味しい。二番目に美味しかったのは、フーリの葡萄ジュースだ。
「余裕そうね」
「ああ、こいつは気に食わないが、やってくれそうだぜ」
「何事も無いと良いけど…」
三人の雑談を聞いていない陽聖は、紅茶を飲みながら、脳内に魔法陣を浮かべていたのだった。
「アンドと戦うのは最後が良かったな」
ここは雷都学校の生徒会室だ。四人の生徒が、机を並べて雑談をしていた。その中に、大剣男の姿もあった。
「第二回戦で敗退となると、いい順位とは言えませんね」
「全く申し訳ない」
三人は初戦は勝てると考えていたが、一人の少女は違った。
「いえ、多分ですが、初戦で負けますよ」
「姫様、それはいくらなんでも言い過ぎでは?」
自分が陽聖よりも下に見られたことに、少しだけ不服の大地だったが、姫様と呼ばれた女性は手に魔法陣を展開しながら目を閉じた。
『彼は陽光ですか?』
すると、魔法陣から文字が溢れてくると、空気中に文を作った。
「陽聖は陽光である。ですか…」
「簡単な事ですよ、陽聖は王族からの称号です。私も氷聖と名乗っていますが、真名は違いますから」
氷聖は嬉しそうに、陽聖の事を思い出す。氷聖は基本的に笑わないので、周りの三人は固まっていた。
「それが本当なら初戦敗退じゃないですか?全く笑えませんよ、姫様」
大剣男は責任の重さに潰されそうだった。何せ自分よりも遥かに強い氷聖が、大会に出ることが出来ないからだ。
「良いじゃないですか。次は私も大会に出ますよ」
「何を言っているんですか!?危険です!」
氷聖の隣に座っていた女性が叫ぶと、頭を押さえて首を横に振る。
「私が生きているのは、彼が護衛をしてくれたおかげです。主である私が隠れていて、どうするのですか?」
「まさか、陽聖はあの場所に居たのか?」
「ええ、私や光聖兄様を守るために【魔王】と互角に戦ってましたよ」
氷聖以外の三人が言葉を失った。この三人は聞いたことが有る話だったので、尚更真実だと知っている。
「若き勇者が彼だったなんて…」
三人の雰囲気を気にしないで、ただ、陽聖を見つけたことにホッとしていた氷聖だった。
気付いた方も居ると思いますが、アーリル国は、技術が一番遅れている国です。雷都では既に車が走っています。
雷都では王様が死んだことによって、王族は助かっています。ただ、王が居ない状態が五年続いています。
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