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学校へ

茶番は何かに繋がるかも知れません。

この世界は生まれた時から、格差が存在する。それは生まれた時に属性が決まるからだ。火属性や炎属性、水属性、氷属性があったりと。色々な属性が存在するが、大体は、火、水、風、雷、光、闇の六属性の派生だ。


 例えば、火属性だったらキャンプ中に火を熾す物が無くても、魔法を使えば火は使える。光属性の派生である聖属性だったら、薬が無くても大抵の病気や怪我は治るだろう。つまり、魔法は便利で有るに越したことはない。


 ある職業では、指定の属性を持ってないとなれなかったり、なれたとしても活躍は出来ないことが多いと聞く。ただ、属性を持っている人は九割ほど居るので、何かしらの職業に就けると考えられていて、問題にはならない。


 『無属性』として生まれて来てしまった僕は、森の中にある孤児院に居た。孤児院には、沢山の子供が居た。ただ、五歳以下がほとんどで、大体の子供が養子に行く。勿論、属性目当ての大人達がほとんどで、『無属性』の僕は当然売れ残った。


「陽聖君、後で事務室に来てくれるかな?大事なお話をしたいから…」


「わかりました」


 大体の察してはいたが、この孤児院は15歳までしか居られないらしい。二つ上の兄が言っていたことを覚えている。


「ようひにいちゃん!もしかして親が見つかったの!?」


「えー!?まだ遊びたいよ!」


 小さい子供達が大騒ぎしていた。陽聖は、シスターと一緒に子供達の面倒を見ていたので懐かれていたのだ。子供達に心配をかける訳にはいかないので、頷いて話を合わせた。





 事務室に着くと、見たことの無い、黒色のスーツを着た男が座っていた。どうやらシスターと仲良く話していたので知り合いなのだろう。こちらに気付いたのか、二人共手を振ってきた。


「彼が私の推薦する子で、名前は陽聖です」


 男に陽聖を紹介すると、じっくりと見た後に、挨拶をされた。


「君がか…確かに強いね。魔力量も平均を上回っているし、問題無いよ」


「当たり前です。私の推薦ですよ?」


 シスターが少しだけ陽聖が試された事に腹を立てていたが、男は扱い方が分かっているように軽く往なす。


「知っているよ。自己紹介がまだだったね。俺の名前は、ジークだ。君の事はフ…えーとシスターから聞いているよ。シスターに勝った事があるんだよね?」


「シスターが手加減をしていたので勝てただけです」


 いつも同じ土俵で戦ってくれるので、五分五分の試合が出来ていた。勝ちと言えば勝ちだが、そこまで勝敗に拘っていなかった。


「性格も良いじゃないか。是非とも娘と仲良くして欲しいものだ」


 この男は何を言っているんだと感じながら苦笑いをした。男の顔を見ていると、しわが少しだけ見えた。おそらく、五十代辺りなのでシスターと近い年齢だろう。


「はいはい。陽聖君は、春から学校に通ってもらいます。ジークが学長なので心配ですが、この国の義務なので仕方がありません」


 シスターはパンフレットを陽聖に見せた。パンフレットには、新入生大歓迎と書かれていた。黒色の紙に、黄色の文字で書いてあるので、色も相まって怪しかった。中には今年の大会実績の欄があり、昨年に引き続き十三位と書いてあった。


「アーリル魔法学院ですか…僕は色を持っていないので心配ですが、卒業出来るように頑張ります」


 魔法と書いてあるので、若干不安に思いながらも、卒業出来れば良いと考えていた。


「君なら余裕だね。だから安心して代表になって欲しい」


「その話は学校に入ってからしなさい。とりあえず頼みましたよ、ジーク」


「ああ、必ず陽聖を守ることを約束しよう」


 二人にしか分からない会話を聞きながら、パンフレットを眺めていた。黒色の紙に、暗号の様な凹凸が有ったが、僕には関係ないと切り捨てた。






 寒い季節が終わり、春が近づいてきた。この時期の孤児院は、イベントがかなり多いので、時間が早く過ぎ去っていった気がした。この間にも、養子として出ていってしまった子が二人居た。子供の心配をしている自分に、大分孤児院に染められてしまったなと感じながら事務室を出た。


 ジークが馬車で迎えに来てくれるらしいので、孤児院の外でシスターと一緒に待っていた。この間に、孤児院に来た時の話をシスターから聞いていた。どの話も何回も聞いていたので、一定間隔で相槌を打ちながら遠くの方を見ていた。


「それでね…あれはジークの馬車みたいです。近くに行きましょう」


 シスターの切り替えの速さに感心しながら、ジークの馬車に歩いて行く。少し雑談した後に、シスターは孤児院に帰って行った。ジークと二人きりになった所で客室に案内されると、中に一人の少女が居た。ジークと同じ紺色の髪色で、後ろで前髪を結んでいた。


「娘のメアだ。『闇属性』で、短剣をスカートに隠している。相手の…」


「ちょっと!何で私のことを詳しく教えるの!」


「お前の相棒になるからな。お互い事は知っておいて損はない」


「自分で出来るから!早く馬車を出して!」


 メアはこちらの視線に気が付いて焦るようにジークを追い出した。ジークはニコニコしながら馬車の前の方に行ったので、多分懲りていないだろう。


「じゃあ、お邪魔します。これからよろしくお願いします、メアさん」


 シスターから教わった作法を使うために、メアの手を優しく握る。そして、跪いて手にキスをした。これで大丈夫だろうと思いながら、馬車の端っこの席に座る。


「ちょっと良いかも…」


 メアが頬を染めていることに気付かずに、陽聖は窓から外を眺めていた。三十分ほど経った時に、馬車が一度止まった。街の入り口に止まった様だ。


 客室をジークが開けると、つまらなさそうにこちらを見ている陽聖と、ニヤニヤしながら遠くの方を見ていたメアの姿があった。


「え…と、とりあえず陽聖の武器を買うために武器屋に行こう」


 何故か戸惑っているジークに疑問を感じたが、武器を買ってくれるようなので、馬車から降りた。メアの方を見ると、手をこちらに差し出していたので、手を優しく握りながらエスコートする。


「な…仲良くなったんだな…それは良かった」


「ええ、陽聖様は素敵な方です」


 ジークは先ほどとは違うメアの態度に困惑しながら、街に向かって歩いていた。陽聖の方を見ると、メアの隣でエスコートしているみたいだ。


 少し歩いただろうか、街も段々と活気に溢れていた。両隣からいい匂いが充満し、人混みが出来ていた。初めてこの様な場所に来たので若干迷子になりそうだったが、しっかりとジークに付いて行った。


「ここが武器屋だ。メアは…一回来たことがあるよな」


 メアと陽聖が手をつないでいたので言葉に詰まった。ここまで早く手懐けた陽聖に、尊敬の眼差しを送るほどだった。


「はい。お父様」


「じゃあ、二人で見てくると良い…俺は用事が有るから少し遅くなる」


 そう言って足早に去って行ったジークの姿を、目で追いながら武器屋に入って行く。武器屋と言っても剣が主流らしく、店内のほとんどが剣だった。


「陽聖様はどの様な武器がよろしいのでしょうか」


 お嬢様の様に振る舞うメアに若干イライラしてきた。シスターからの教えでは女性に合わせないといけないと習ったが、ジークと話している時のメアの方が良いと感じていた。


「剣だと重いから、刀が見たいかな」


「それなら奥の方にあった気がする!」


 元に戻ったメアに感動してしまう。おそらく僕の意図に気が付いたのだろう。そう思ってメアの顔を見ていると逸らされてしまった。


 刀は三本しか無い様で、若干残念な気持ちになったが、一つの刀に目が行く。


「この刀にするよ。鍔の無い刀は落ち着く」


「なるほど、お父さんが言っていた事は本当みたいね」


 メアは吹っ切れたのか、元の口調に戻ったみたいだ。そして、やっぱりジークから僕の情報は聞いているらしい。


「何て言っていたの?」


「生粋のアタッカーって言ってたわ」


「それはどうも」


 陽聖などの『無属性』は、身体強化や転移などの属性に囚われない魔法を使えることが利点だ。なので、自然と攻撃に寄っていた。


「武器を選んだか?そろそろここを出ないと今日中に着きそうにないからな」


「はい、選びました」


 刀を見せると、ジークは納得した表情をした後に、陽聖の頭に手を置いた。嬉しかったのだろうか、少しだけ笑っていた気がした。


 お会計を済ませた後に、何やらジークと店員が話していたが、メアが先に店を出て行ってしまったので聞けなかった。


 馬車に戻って出発してから三時間程経つと、学校の敷地に入ったみたいだ。大きい闘技場を囲むように校舎が作られているみたいで、森の中と比べると近未来的な建物だと感じた。


 校舎から二、三キロだけ離れた場所に住宅街が出来ていた。そこで、ジークから一軒家に案内されると、とんでもないことを言われる。


「今日から二人で過ごしなさい。俺は学校にずっと居るから、何かあったら言うように」


 そう言ってジークは全速力で逃げて行った。メアの方を見ると、どうやら知っていた様で、平気な顔をしていた。


「さあ、部屋を案内するから付いて来て」


「わかったよ」


 ずっと一人暮らしを夢見ていたのに、二人暮らしなんて期待を裏切られた気持ちだ。いつも子供達と居ると、自分の時間が出来ないので一人になりたかったのだ。


 案内された部屋はシンプルで、ベッドしか無かったので寝る専用の部屋だった。せっかくだから、自分の部屋に名前を付けようと考えると、ネルセンに決まった。


「荷物を運ぶの手伝おうと思ったけど、服しか無いじゃん」


「まあ、欲しい物も特に無かったからね。プレゼントは大体小さい子に渡してたし」


「そう」


 ベッドの上に服を置いてから、メアに付いて行くと大きいキッチンの前で止まった。メアは紙を取り出して家事の分担を決めようとしているのか、曜日を書いていた。


「家事は、一日ずつ交代で良い?いつもは一人だったから適当だったんだけど…」


「家事は僕がやるよ。逆にやらないと気が済まない」


「私も綺麗好きだから、気が済まないけど…」


「じゃあ一緒にやろうか」


 お互いの家事の仕方などを確認してから、明日の準備をした。学校というものに通ったことは無いので、若干不安だったが、メアが居るので大丈夫だと思えてきた。


 そして、ベッドに横たわって初めて重大な事に気付いた。


「静か過ぎて眠れない…」


 色々な策を練ったが、結局はメアと一緒に寝ることになった。メアは覚悟を決めて、陽聖と一緒に寝たが、何もなかったのは言うまでもない。







 まだ、太陽の光が見えない時間に起きてしまった陽聖は、いつも通りに朝ご飯を作っていた。習慣というものは、簡単に治せないらしい。コーヒーを飲みながら装備の確認をしていた。


「おはよう…朝早いね」


「いつもこの時間に起きていたからね、おはよう」


 朝ご飯を食べ終わると、玄関に用意されていた制服に着替えた。動き辛いので、早く脱ぎたいと思いながらメアと一緒に家を出た。家を出ると、既に学生がチラホラ居たので、この時間に出て行くと良いみたいだ。


「そう言えば、朝見てた札は何に使うの?」


「相手を無力化するために使うことが多いね。ほとんどその場で効果を決めるから、自分でもわからないかな」


 その場に応じて使えるように、既に魔法陣は組み込んである。魔法陣は一日で消えてしまうので、朝ご飯を作っている時に、魔法陣を組み込むことが多い。


「凄い便利だね、私も使えたらな~」


「便利だと思うけど、相手にこの札を付けないと効果が発動されないから、人に寄るかな」


「一気に不便だと感じたわ」


「あはは、僕もそう思った時期があったよ」


 小さい頃から札を使うことが多かったので、結構な時間をかけて訓練したことを思い出す。八歳ぐらいの時に、転移魔法の理論を理解してから便利だと感じた気がする。


 家は学校から近いので、少し雑談をするだけ学校に着いた。学生数は多い方らしいが、時間が早いので、そこまで混雑はしていない。メアに教室を案内されると、数人居る程度だった。


「席は自由だけど、どこが良い?いつも前の方に座っていることが多いのだけど…」


「メアに合わせるよ」


「じゃあ前の方に座りましょう」


 しばらくメアと雑談していると、教室の中に人が増えてきた。大体の人が後ろの方の席に座っているが、何かあるのだろうか。ベルが数回鳴ると、若い女性が一人入ってきた。


「はーい!みんな居るね~」


 少し辺りを見渡しただけで、確認が済んだみたいだ。大きめの眼鏡をかけているので、何回か掛け直している仕草に疑問を感じるが、後ろの方の席からは歓声が飛んでいる。おそらく人気な先生なのだろう。


「みんな中等部から上がっているから、自己紹介は要らないよね~」


 どうやら陽聖のことを認識していないらしい。自己紹介など必要無いので、黙って話を聞いていよう。


「今月末に序列戦が有るから頑張ってね~それでは授業に間に合うように急いでね~」


 ベルが鳴ると、先生が教室から出て行った。先生の話はフワフワしていていたので、話が頭に入って来なかった。


「モルテ先生は抜けている所があるのよ。とりあえず闘技場に向かいましょうか」


「ああ、話を聞いただけでわかったよ」


 モルテは一度もこちらを見ていなかった。目線はこちらに向いているが、魔力の流れは手元の本に向かって流れていたので、視覚を手の方に移したのだろう。


「年に一度の魔法テストだから楽しみだわ」


 メアは廊下で歩きながら自然と言ったが、陽聖はテストがあることを知らなかった。


「テストってどんな感じなの?」


「魔力や魔法の威力を測ったり、的当てとか」


 テストと聞いて不安になりながらも、闘技場に向かうのだった。

 陽聖は強いですが、過去に何かがあった様で、実力を出すことに躊躇っています。


 是非良かったらいいねをしていただけると励みになります!では次話でお会いしましょう。

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