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深夜二時の月

作者: 赤紫

 臥待月を知っているだろうか。ある男は月を待っていた。立って待っても出てこず、座って待っていても出てこない。やがて臥したくなる気持ちをぐっとこらえ直して彼はまだ月を待っていた。


「月の出る頃だって約束したのにな……」


 そう、彼は女と待ち合わせをした。女は、月の出る頃会いましょうと言った。だからこの男は月を今か今かと待っていたのである。


 ……それにしても律儀な男である。臥し待ち月が夜空に現れるのは丑の刻、深夜2時である。彼は月を待ってそろそろ8時間が経過しようとしていた。ここまで来れば美人局か婉曲表現を素直に解釈して無駄に待っているかなのであろう。


「月はまだかな……。せや、水面に月を映してみるか!」


 彼がしたいのは湖面の月、の再現である。まず彼はお気に入りの鏡を持ってきた。なんとこの時代において銅鏡ではなく、玻璃製の鏡である。ここから、彼が言い寄られた、または言い包められた原因の幾許かが推察できよう。


 さてはともあれ、彼は水面に鏡を(あて)がった。しかし、月の光も無いのに湖面に反射する物などあるはずもない。


「あれ、自慢の鏡だのに」


 君よ、いくら自慢の鏡であっても、無いものは映せないぞ。しかし彼は鏡についてとんと無知であった。それに、睡眠を求め、朦朧としている頭である。鏡がどうやって光を反射させるのかなど考え付きもしないだろう。


 その時であった。


「化け物がおる……ッ!」


 彼は刀を薙いだ。玻璃製の鏡を持てる程、顔が広い高給取り。うまり彼は武士であった。どんな阿呆でも武士ならば刀は振れるのだ。


 そして鏡を二寸程勢いよく切りつけたところ、鏡は罅が入り、砕けてしまった。


「あやつは誰だったのか……」


 全くもって彼の勘違いである。鏡にぼんやりと映ったのは彼自身の姿見であった。しかし月光もない暗い中、彼に見えたのは薄白く薄影がかった、顔のない人間であった。


 そうして彼は月を待つ。して今日はいつ終わるのだろうか。時は旧暦長月。彼の夜はまだ長い。

寝不足って怖いですね。丑三つ時、て寝不足の賜物だったり……なんてね。

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