占いで気になる人との相性が最悪だと言われたので抗ったら占い師がブチ切れた
「これが星奈のクラスの出し物か」
高校の文化祭。
俺は幼馴染の星奈に彼女のクラスの出し物に来るようにとキツく言われていた。
面倒だが無視したら後で何をされるか分からないから仕方なくやってきた。
「占いの館ねぇ」
どうせならメイド喫茶が良かったのに。
あまり人気が無いのか、女子が数人待っているだけだった。
と思ったら俺が並んだ直後に沢山来た。
しかも全員女子だ。
ちょっ、通行人にめっちゃ見られてる。
居心地悪いから早く進め!進め!
ふぅ、順番が来てくれたか。
さっさと入ろう。
「へぇ頑張ってるじゃん」
暗幕をふんだんに使ってそれっぽい雰囲気が作られている。
真っ暗な教室内に段ボールか何かで作った個室のようなものがいくつかあり、中からボソボソと声が聞こえてくるが程良い大きさのBGMが流れていて内容までは聞き取れない。
会話が外に漏れないように工夫しているのか、やるな。
「白久君はこっちね」
教室に入ったら女子が案内してくれたけど名前教えたっけ?
まぁいっか。
案内された個室の中にはテーブルと空いている椅子が一つ。
そしてテーブルの向かいには黒一色の服で身を纏った女子が居た。
髪を帽子の中に入れて顔も黒い布が垂らされていて隠されているからぱっと見は性別が分からないけど、胸があるから女子なのは間違いないだろう。
「占いたい内容を教えて下さい」
うお、ビビった。
ボイチェンで声まで変えてるのか。
占いの内容が外れた時に占い師にヘイトが向かないように誰だか分からないようにしているのかな。
学生の占いでそこまでやるか?
「占いたい内容を教えて下さい」
しかしこの子、結構胸が大きいな。
ローブみたいな割とゆったりした服なのにはっきりと膨らみが分かるってことは、かなりの巨乳なのでは。
巨乳はいいぞ。
「占いたい内容を言えって言ってんだろ!」
「ヒエッ」
何この子、怖い。
そんなに怒らなくても良いじゃんかよー
星奈みたいにすぐキレるな。
「んじゃ金運で」
「金運は今日はサービス外です」
なんでやねん。
学生なんだから金運とか気になる奴いるだろ。
用意しとけよ。
「じゃあ健康運で」
「健康運も今日はサービス外です」
おいコラ。
やる気あんのか。
「なんだよ。じゃあ仕事運で」
「仕事運も今日はサービス外です」
俺、一応金払ってるんスけど。
後で星奈に苦情言わねーと。
「おい、じゃあ何を占ってもらえるんだよ」
「……………………恋愛運」
「えー恋愛運かよ。俺、恋愛は運頼みじゃなくて自分の力で切り開きたいタイプだから興味ないなぁ」
成功するかどうかなんて分からないから恋は面白いんだ。
今のところ玉砕しまくりだけど、きっといつかは高嶺の花をゲットしてやるぜ。
「いいから聞け」
なんかこいつ怖えーんだけど。
ちょっと他の人に変えてもらえませんかー
「チェンジ」
「あ゛あ゛?」
「ヒエッ」
怖っ!
まさか星奈以外にもこんな底冷えする声でキレる女子がいるなんて。
ボイチェン越しでも怒りが伝わってくるのマジやべぇ。
というかまさかこいつ星奈か?
いやでも星奈は巨乳じゃないから違うか。
「そ、それじゃあ恋愛運を教えて下さい」
思わず敬語になっちまったぜ。
占い師さんはタロットカードを机の上に並べ始めた。
俺はまったく詳しくないから意味が分からずただ眺めるだけだ。
「あなたの恋愛運は最悪です」
「おい」
占いで最悪とかって言うか?
「誰に告白しても成功せず、友達になるところから始めようとしても友達以上の関係になれず、むしろ友達とすら見てもらえずに距離を置かれるでしょう」
「ぐはっ!」
身に覚えがありすぎる。
なんでみんな俺をブロックするんだよ。
友達になってくれるって言ったじゃん。
やっぱり行間に時々『好き』って書いてサブリミナル効果を狙ったのがアカンかったかな。
「良いところを見せようとアピールしても気持ち悪がられて、対象の彼氏にボコボコにされるでしょう」
「ヒイイ!」
あれは俺悪くないだろ!
彼氏がいるならいるってちゃんと言ってくれよ。
それなら俺だって休日に毎日彼女の家の付近でウロウロして出かける度に荷物持とうか、なんて声かけなかったのに。
「男らしさをアピールしようとして壁ドンしたらガチ泣きされるでしょう」
「トラウマがああああ!」
あれは心が痛かった。
街中で小柄で可愛い女の子がいたから男を見せてやるぜって壁ドンしてナンパしようと思っただけなんだよ。
そしたらまさか小学生だなんて思わないだろ!
あの子の成長が早すぎただけなんだって、俺は悪くねぇ!
あれ、成功してたらそれはそれでやべぇことになってたんだよな。
女ってマジ怖ぇ。
でもそこが面白い。
「それじゃあ三組の尾根さんとの相性は!?」
「最悪です。もしあなたが彼女に告白したら彼女はあまりの気持ち悪さに命を絶つでしょう」
そこまで言うか!?
あなたの写真を天井に張りつけて寝る時にいつも眺めたくなるくらい好きですって最高の告白をするつもりだったのに。
「それなら一年の水泳部の琴美ちゃんは?」
「最悪です。もしあなたが彼女に告白したら彼女はあまりの気持ち悪さに即通報するでしょう」
なんで通報!?
あなたの泳ぐ姿が美しくて見ていて惚れ惚れするからいつも部活を外から眺めてますって素敵な告白をするつもりだったのに。
あの胸であの水着は本当にお世話になりました。
「三年の美術部の白鳥先輩なら大丈夫でしょ」
「最悪です。もしあなたが彼女に告白したら彼女は貴方に貢がせまくった上で指一本触れさせずに消えるでしょう」
先輩はそんなことしないもん!
これ先輩が以前から欲しがってたものですってプレゼントすると胸を寄せて強調してくれる、俺のことを考えてくれる人だもん。
最近小遣いがすぐ無くなるけど、胸のためならバイト頑張れる。
くそぅ、俺が気になる人との相性が全部最悪だって?
そんな馬鹿な。
「ですが安心してください。一人だけあなたを受け入れてくれる女性がいます」
「なん……だと……」
この占い師さんはまるで見て来たかのように俺の恋愛事情を正確に当てて見せた。
となると、まさか本当に俺のパートナーとなり得る女性がいるっていうのか!
「その人はあなたのとても身近に居る女性です。優しくて気立てがよくてあなたの行いに内心ブチ切れながらもあなたを想ってくれるあなたには勿体ないくらいの素敵な女性です。あなたがそろそろ逮捕されるのではと心配しているので、その女性を後夜祭に誘って告白して安心させてあげなさい」
全く心当たりがないぞ。
俺の身近にそんな女神様のような人がいるならばとっくに告白しているのに。
う~ん、やっぱり所詮占いってことかな。
「その人以外はダメってことなんですよね」
「はい」
「分かりました。それじゃあ後夜祭に誘ってみます」
「っ!?はい、待ってます」
何を待ってるんだろう。
変な占い師さん。
これで占いは終わりという事なので、俺は占いの館の外に出た。
占いなんて興味無いと思っていたけど、結構面白かったな。
それにやる気が出た。
よ~し、後夜祭に誘うぞ!
「白鳥先輩!俺と一緒に後夜祭に行きませんか!」
「白久君も諦めないわねぇ」
「当然です。俺は白鳥先輩のことを愛していますから!」
「君が愛しているのは私じゃなくてコレじゃないかしら」
そう言って先輩は大きな胸を両手でぐいっと持ち上げて見せつけてくれた。
うっひょー!
思わず前かがみになっちまうぜ。
「そんなことはありませんが、後夜祭の後に人気の少ない場所へ行きたいです」
「クスクス、正直なのね。そういうの嫌いじゃないわよ」
「そ、それじゃあ!」
白鳥先輩は妖艶な笑みを浮かべて少しだけスカートを持ち上げる。
いつもこうやって揶揄ってくれてとてもエロい。
だけれども決して誰にも手を出させない事でも有名だ。
今日は俺が彼女に触れまくる最初の一人になるんだ!
「そうねぇ、その子の許可が貰えたら考えてあげても良いわよ」
「その子?」
先輩の視線は俺の背後にある。
嫌な予感がして振り返ると、そこには驚くべき人物が立っていた。
「占い師さん?どうしてここに?」
昨日の占い師さんと同じ人かは分からないけれど、占い師衣装を着た女子がいた。
その人は俺の方にドシドシという擬音が似合いそうな迫力のある歩き方で迫って来る。
怒った時の星奈みたいだ。
「何やっとんじゃワレェ!」
「ヒエッ」
それ女子が出して良い声じゃないでしょ。
しかも俺の首根っこを掴んで引き摺りだした。
力強すぎんだろ。
服が喉に食い込んで息がああああ!
「グエッ、は、はなじで!」
おかしいな。
星奈に連れてかれる時と全く同じ感じだ。
こんな乱暴な女子がこの世に二人もいるなんて世も末だ。
「で?」
「で?とは?」
占いの館に連れ込まれた俺は、何故か占い師さんに詰問されていた。
「別人を後夜祭に誘っている理由に決まってるだろうが!」
「そんなに大声出したら他の個室まで聞こえちゃいますって」
「誰のせいだと思ってんだよ!」
「ヒエッ」
この子、タロットカードを握りつぶしたんですけど。
怖すぎんだろ。
「別人も何も占い師さんの占いに出た身近な人に心当たりが無くて」
「……」
ぐぅ、なんというプレッシャー
無言なのに体が勝手に震え出すぜ。
「それに恋は障害がある方が燃えるって言うじゃないですか。だから占い師さんが相性悪いって言った彼女達全員を後夜祭に誘ってみようかなって」
「……」
占い師さんが頭を抱えちゃった。
自分の占い結果に抗ってますなんて言われたらそうなってもおかしくはないか。
だが俺は他人の敷いたレールなんか強引に捻じ曲げてやるぜ。
その先が崖になっていることが多いけれど気にしない。
それが恋する男の生き様ってものだろう。
「あなたは本当に身近な女性に心当たりが無いのですか?」
これまでの激烈な雰囲気とは打って変わって、落ち着いた声色になったな。
少し不安げな感じがする。
「身近な女性は一人いるけど、優しくも気立てが良くも無いからなぁ。むしろ怖い」
「あ゛あ゛?」
そう、そんな感じ。
あいついつも俺を睨んでくるし、女の子を口説いているとどこからかやってきて首根っこ掴んで引っ張ったりチョークスリーパー極めてくるんだよな。
「それじゃああなたはどうしてもその子じゃ嫌なんですね!」
だからなんで占い師さんが怒るんだよ。
それになんか勘違いしてるな。
「いや、そんなことは無いですよ」
「え?」
誰も嫌だなんて一言も言ってないだろ。
「口うるさいし乱暴だけど可愛いし、一緒に居て退屈しないし、何より気を使わなくて良くて楽ですから」
「じゃあ!」
彼女としては十分にありだと思う。
付き合えば暴力的なところは収まるかもしれないし。
「でも俺は冒険したいんだ」
「だから失敗するって言ってんだろ!安定を選べよ!」
「火遊びってワクワクするよね」
「おまえのは火遊びじゃなくて放火だ!」
「女性の心に燃え盛る恋の炎を投げ込むような放火魔に俺はなりたい」
「刑務所行き確定だよ!」
「恋の刑務所。良い響きだ」
「リアルのだ!」
う~む、この占い師さん結構ノリ良いな。
星奈と話している気がしてついボケてしまった。
「どうして選んでくれないのよぅ」
どうしてって言われてもな。
ああ、そうだ。
「あいつを選ばない理由はもう一つあった」
「……」
「俺、巨乳派なんだ」
「よし、表出ろ」
「え、ちょっ、ギブ!ギブ!」
首が、首がああああ!
綺麗に極まってますから占い師さん!
これじゃあまるで星奈みたいじゃないか!
「今日と言う今日は絶対に許さない!」
「なんで占い師さんがキレるんだよおおおお!」
でも占い師さんは巨乳だから背中に柔らかい物が当たって気持ち良……くないな。
あれ、あんなところにボール落ちてたっけ。
そんなことを考えながら俺の意識は闇に落ちていった。
結局、俺は後夜祭に星奈と参加することになった。
もちろん強制的にだ。
誰からもOK貰えなかったから良いけどさ。
でもなんであいつあんなにブチ切れてんだろ。
占い師の中の人って誰だったんだろうなぁ