勇敢さ
彼女は飛行機に乗り込もうとゲートに立っている。
私たちは電子セキュリティゲート側の幅広いホールの端から彼女の顔を何とか見ようとしていた。彼女はみんなにさよならしようと手を伸ばした。彼らもそれ以上に手を伸ばした。
それは私の鮮明な光景に焼きついていた。この瞬間を、写真のように覚えて、彼らがいつか彼女を思い出すときにお互いに見せ合うのだ。
私はカメラのシャッターを押す音を聞こうとする。しかし聞こえない。周りに音はなく、彼らの呼吸も聞こえない。
彼女が飛行機に繋がる折りたたみ式の通路を歩くために振り向くと、もう彼女だけが飛行機の中にいるのだと気付く。
その時、その瞬間に、彼女が本当に去ってしまうのだと悟った。
彼女の肩越しから、その自信が向けられていた。彼女の髪は黄金のように眩しく、足取りに合わせ揺れていく。再び、私が何か物音を聞いたとすれば、それは彼女のプリーツスカートの衣擦れの音だ。
家に帰る途中、勇敢な友人たちはこう言い張る。
「連絡を受け取るわけにはいかないよね」と言い張る。何かの験担ぎとして、それを誓う。
彼らは全員分のアドレスを彼女に渡していたことを覚えていた。それは忘れようのないことだった。誰かが番号の書いたカードを彼女に渡したとしても、彼らが彼女のことを知る手立てはいくらでもあることを話すものはいない。
みんな、向こうで何が起こったかさえ知っているからだ。
彼らが勇敢かどうかは問題ではない。彼らが思い始めていたことは、真実だと認める他ないのだ。
彼女が去ってから最初の数日、数週間は、彼女が向こうでけっこう忙しくしているから落ち着かないんだと言い合った。彼女は楽しんでいるんだ。
彼らは彼女がサニーストリートの美しい幻想の中を歩く姿や、彫刻仕立ての庭園を備えたカフェで午後を過ごし、洗練され暖かく優雅な食事をする姿を精巧に作り上げる。
彼らは彼女の人生と一緒にいるみんなが好きだった。あらゆる夢は彼らが彼女に与えたものだ。
たとえ彼らのうちの何人かが彼女に嫉妬しても、彼女は彼らが望んだものだと理解している。
でもまあ本当は、私も含め、彼女のことを全く何も聞いていない。