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斥候の男は拘束を緩めると懐から出した煙玉で視界を奪うと一目散に逃げ出した。
まぁ、俺と仙の命力感知にはバレバレだったけどね。
それに俺は見ていた。
本人は気づいてないかもしれないが仙が踏みつける力を緩めると残念そうな顔をしていたのをな。
やはり俺の感は正しかった。
アイツは間違いなくMだ。
だから仙の女王様スキルを使えば情報が引き出せると思ってた。違う結果になったが問題ない。
『つまりあの人族は旦那の仲間っすね。』
違う!俺の仲間ではない!そして俺は決してMではない。
種族名に(M気質)と入っているがそれはあくまで種族名だ。
それにM気質であってMではない!
「ご主人様、あの男をそのまま逃がして良かったブ?」
斥候の男が仙のことを獣人族と勘違いしたうえに獣牙連合ゴランが不可侵条約を侵して攻めてきたと思ったのだ。俺はそれをそのまま利用しようと考えたんだが上手くいけば御の字ってところだな。
「良いんだよ。アイツがきっと間違った情報を流してくれるからな。そうなったら俺達にとって利があるんだ。」
「そうだったかブ。私はあの男がアンデットのまま仲間に合流したらこっちの場所がバレて困ると思ったブ。それ以上に偽情報を流すことに意味があったんですねブ。」
ん?
アンデット状態の人族がやって来たら普通は危険を感じて倒すよな。
『たぶん大丈夫っすよ。旦那のスキルでアンデット化したら全くアンデットに見えないっすから。高位の神官とかじゃないとアンデットって分からないと思うっす。』
危うくあのアンデットにした男が敵と認識されたて俺の構想がご破算になってしまうところだった。
国同士の条約だ、あの男の情報だけでは一蹴されてしまう可能性があるからもうひと押ししておくべきかな。
「これからあの男を追いかけるぞ。」
今我々は森の中に逃げたと言われる鬼人族の娘を探している。
もう50年以上昔に滅びたと言われる鬼人族をミンスで見たという冒険者の証言を領主が信じて今回の捜索隊が組まれた。
恐らく冒険者が報奨金ほしさについた嘘の可能性が非常に高い。
だがもし本当の話ならば何としても鬼人族を見つけなければ。そしてその功をもって私は王都へ戻るのだ。
そもそも次期王都第一騎士団団長だった私がこんな辺境のミンスにいることが間違いなのだ。
それもこれもあの色欲公爵に目を着けられたの不運の始まりだった。
あのブヨブヨに弛んだ体に濁った瞳。ウウ、思い出しただけでも気持ち悪い。
だが鬼人族の捕縛という功績があれば色欲公爵を退け次期王都第一騎士団長に返り咲きことも夢ではない。
もしかしたそのまま騎士団長になることも十分あり得る。
鉄の戦乙女と言われる私の力を持っていすれば強力は肉体を持つと言われる鬼人族を捕縛することも不可能ではない。
「ミレイ隊長!斥候が戻ってきました。」
「よし、すぐに報告に来させろ!」
今回連れてきた斥候の男は戦闘力と言う意味ではからっきしだが、ミンスでは一番の斥候技術を持つと言われた男だ。何かしら成果を持って帰って来ただろう。
「冒険者ギルド所属、先見のギル戻りました。」
「よし入れ!」
「失礼します。」
身体中に木の葉や枝、泥などを顔も含めた全身につけた姿の男が入ってきた。
「貴様!そんな姿で入ってくるとは非常識な冒険者とは言え許さんぞ!」
「止めろ!私がすぐに報告に来るように言ったのだ。」
斥候任務にでた姿のまま入ってきたギルに私の副官が咎めるのを止める。
私がすぐ報告に来させたのだから斥候に適した服装のままなのは分かっていたことだ。
今の副官能力は平凡なくせに頭の固い。
辺境の騎士団に高い能力を求めるのは酷なのだろうか。
副官は私の言葉に一瞬不満そうな顔をする。
副官たるもの自分の感情くらいコントロール出来ないでどうするんだ。
腹の中で何を思っていても顔に出したらダメなのだ。
この任務が終わったら王都に戻る私には関係ないかもしれないが今後のミンスが些か不安になる。
副官の問題を今取り上げてもすぐどうこうできるものではない。
今は鬼人族捕縛に全力を傾けるべきだな。
「それでは斥候で得た情報を報告してもらおう。」
ギルの姿を見て私は少し関心した。
冒険者と言うものは粗野で荒っぽく感情に任せた行動をするものだと思っていたがこの男は少し違うようだ。
平凡な副官の理不尽な激昂を受けても不快な表情をしておらず佇まいも背筋が伸びキリっとしている。
これではどちらが副官なのか分からんな。
「それでは報告させて頂きます。私は現在情報の少ないここより先の森の状況を調査するため部隊より先行しました。魔物は今までと変化はなくオークやゴブリンがほとんどでした。ただあるところから全く魔物に遭遇しなくなり原因を調査していると何者かに襲われ意識を失ったのです。」
「何!襲われただと!ならばどうして貴様はここに無事に帰ってこれた!まさか裏切ったのか!」
「落ち着け!まだギルの報告途中だぞ。それに裏切っていたのならすでに我らは敵の襲撃を受けているはずだ。ギル続きを頼む。」
この副官を報告に同席させたのは失敗だったな。
今更ここから追い出すことも出来ない。
「はい。私は気が付くと獣牙連合ゴランの兵士と思われる獣人族に押さえつけられていました。また周りには獣人族が従えるオークに囲まれていました。」
「獣牙連合だと!不可侵条約を結んでいるのだぞ。それに我々は鬼人族を探していたのにどうしてそこに獣人族が出てくる!」
コイツはさっき話を遮るなと言ったのを忘れたのか。
こいつの記憶力はどうなっているんだ。
いや、気持ちは分かる。
もし副官が声を上げなかったら私が声を上げていたかもしれないくらい私も驚いている。
「気持ちは分かるが落ち着け、それを考えるのは報告を聞き終わってからだ。」
「も、申し訳ありません。」
「ギル続きを頼む。」
「はい。千に満たない部隊のようでしたが統率の取れた部隊でした。私は僅かな隙を見つけ非常用の煙玉で使用して逃げ出して報告に戻ってきました。」
小数で発見を遅らせ王都から援軍が来る前に精鋭部隊でいっきにミンスを落とす作戦なのだろうが運は私に味方しているようだ。
こちらから奇襲をかければ十分対応できる。
ミンスへの報告は副官にやらせよう。煩わしい副官がいなくなって一石二鳥だ。
鬼人族の捕縛の功績をもって王都に戻るつもりだったが獣牙連合の侵略阻止はそれ以上の功績だ。
騎士団長への道は決まったようなものだな。
私は気が付いていなかった。ここで撤退するしか道がないことを。
ミンス一の斥候技術を持つ男に気付かれもせず気絶させられる部隊から簡単に逃げられるわけがないのだ。
既にこの場所は包囲されていた。




