第14幕
ミューキプン市は東西南北の四域に区分され、それぞれに衛兵所が設けられている。
レラたちは南地区在住。職人や労働者が住む下町で、外れにはスラムもあった。
今回のゴミ掃除の対象は、その南地区の衛兵所長だった。お定まりの賄賂や汚職にまみれた輩だが、十年前の現王即位の際に功があり、今の要職にまで出世したらしい。
「…………」
何かが引っ掛かった。相手が相手だけに緊張しているのだろうか。
軽い頭痛。
「ん……」
何か忘れている気がする。つい最近、この衛兵所長に関する何かを見聞きしたような。
「なになにー、暗い顔しちゃって。もしかして自信ないの? あっ、暗い顔は元からか」
デイジアが挑発的な笑みを浮かべながら、レラの顔を覗き込んできた。
「いえ、そういう訳では……」
「嫌なら来なくて結構よ。足手まといはお断りだわ」
冷たく言い放ったのはシンシアだ。
「やだもー、お姉ちゃん、こわーい」
「デイジア……あんたはもっと緊張感を持ちなさい」
「二人とも、おしゃべりはそのくらいに」
リヨネッタが溜め息混じりに、姉妹を制した。
「段取りは頭に入っているのでしょうね?」
「はい、母様」
「もっちろん。ばっちり入ってるよ」
「……はい」
「今回、わたくしは出向きません。いつも以上に気を引き締めるように」
リヨネッタの言葉に頷くと、シンシアとデイジアは意気揚々と出立した。
レラも義姉たちの跡を追って出ようとすると、珍しくリヨネッタに引き止められた。
「事を終えたら、速やかに戻ってきなさい。くれぐれも寄り道などしないように」
「判りました……?」
なぜ今回に限って、わざわざ釘を刺すようなことを言うのか。
寄り道などしたことがあっただろうか。リヨネッタの言いつけは、忠実に守ってきたつもりなのだが。
「う……」
また軽い頭痛。
記憶に靄がかかったような、心許ない感覚にレラは戸惑った。




