迷宮
時系列は1話の罠にかかる前です。主人公の強さを少しだけ知ってもらえるかと思います。
2019/1/6 誤字修正しました。
俺は今世界級迷宮ボルティングの18階層にいる。
「グルゥアアアアアア!!」
人の形をしたトカゲの魔物”リザードマン”が咆哮を上げながらこちらに迫ってくる。
リザードマンの武器は曲刀と円形の盾”ラウンドシールド”だ。
それに対し俺の武器は6連装リボルバー。スイングアウト式で口径は9.1mm、銃身は16cmだ。グリップ部分は白をベースに金の装飾が施されいてとても美しい。俺はこのリボルバーを”キラス”と呼んでいる。エリィがつけてくれた。
リザードマンが曲刀を真っ直ぐに振り下ろしてくるのを銃身で受け流しながら1歩下がる。リザードマンが前にバランスを崩したところを強化した脚で顎を蹴り上げ、跳ね上がってきたリザードマンの頭を鷲掴みにしてゼロ距離からキラスの引き金を引く。魔法により強化された弾丸がリザードマンの心臓を寸分違わずぶち抜いた。
リザードマンの死体から核を取り出す。核は魔物なら必ず持っているもので、人間の心臓みたいな役割だ。核は日用品から軍事武器まであらゆる物を作るときに用いられるが、核を自分で加工できるやつは少ないので、ギルドに売るのが一般的だ。核が大きくて魔素が多いものほど高額で売れる。魔素は魔力の源となる自然エネルギーだ。魔素が生物に吸収されると体内で魔力が生成される。
リザードマンの鱗など、使えそうなものを剥ぎ取った俺は、背後に殺気を感じて手首だけを背後に返して引き金を引いた。
ドパァン
独特な重い銃声が迷宮に響き、俺の横に狼の魔物”ヴォルフ”が落ちてきた。上から不意打ちしようとしたらしい。ヴォルフを見ずに撃った弾丸は素材の傷が最小限で済む場所に当たっていた。
「こいつの核は小さくて大した金にならないな。毛皮だけもらっていくか」
俺は”次元空間”から小さめのダガーを取り出し慎重に毛皮を剥いでいく。
次元空間は空間移動用のゲートを入り口だけ開いて、容量無制限の空間を作り出す俺のオリジナル魔法だ。
ヴォルフから素材を回収した俺は、下層へと続く階段を探すことにした。
* * * * *
特に問題もなく順調に降っていたのだが、30階層から31階層へと繋がる階段の前に先程とまでは魔力量が桁違いの魔物が居座っていた。その魔物は神話に出てくる”ミノタウロス”とよく似ていた。稀に現れる階層ボスだろう。
階層ボスは名前の通り、その階層を守る魔物だ。迷宮に溢れている魔素を異常に吸収することによって誕生し、それ故に強靭な肉体や知恵を持っている。だから、階層ボスの出現が確認されると迷宮は封鎖され、30人×4パーティー、計120人のレイドパーティーが組まれる。パーティーメンバーは軍の先鋭で構成された1パーティーと対物上級魔法以上が使える冒険者3パーティーで構成され、各パーティーには5人ずつ上級回復魔法が使える巫女たちがいる。そんな強者たちで構成されたレイドパーティーでも討伐に3日はかかるほど、階層ボスは桁違いの強さを誇っていた。
俺も何度か気配操作で隠れながらその戦闘を見たことがあったが、目の前にいるこいつは今まで誰にも倒されなかったおかげか、尋常じゃないほどの強さを誇っているらしい。軍の先鋭を100人集めても死者無しに倒すのは無理かもしれない。だが、こいつは遭遇する相手が悪かったな。
俺はキラスの銃口をミノタウロスの頭に向けて引き金を引く。
ドパァン!
響いた銃声は1つ。ミノタウロスは難なく右手に持っていた斧で銃弾を弾いた。そしてブレスを吐こうとして....頭が吹き飛んだ。
ブラインド....先に撃った弾丸とに同軌道上に2発目を撃つことで2発目をカモフラージュすること。つまり、響いた銃声は1つでも放たれた弾丸は2発あったということだ。
「あまり大したことなかった....ん?.......嘘だろ?」
俺は自分が幻惑魔法にかかってないか疑った。ミノタウロスの頭が首から再生していたからだ。
頭を吹き飛ばして生き返ってくる魔物は初めてだ。
シュゥウウウウウウウウウウウウ
肉が焼けるような音と不快な臭いがする。
「頭飛ばして生き返ってくる魔物なんかどうやって殺せば....いや、待てよ?確か昔読んだ絵本に弱点が書いてあったような....」
昔学校の書庫でミノタウロスと勇者の物語を読んだ時にミノタウロスの弱点も書いてあった気がしたのだが、思い出す時間をミノタウロスはくれなかった。
「オォゥォォオオオオオオオオオオオオオオ!!」
でかい図体に反して一瞬で俺との距離を詰めて横薙ぎに斧を振り払う。それをバックステップでギリギリ回避しつつキラスを撃つ。今度は斧で弾かずに右に移動して躱す。残り3発、その全てをそれぞれ違う場所に撃ち隙を作る。
俺は銃を次元空間にしまい、1本のロングソードを出した。特に装飾も何もない、刀身まで真っ黒なロングソード”アフェクシオン”だ。アフェクシオンは俺が核を大量に使用して作り上げた。魔力を注ぐことによって攻撃力を変えることができる魔剣でもある。
「俺にアフェクシオンを使うのはお前が最初だ。喜べよ?」
俺はアフェクシオンに魔力を注ぎ込み地面を蹴ってミノタウロスに肉薄する。そして右斜め下に斬りおろし弾かれた反動を利用して左回転の斬撃を放つ。そこから剣と斧による連続技の応酬だった。
剣で斧の軌道を逸らし、斧で剣を弾き返す。鉄と鉄がぶつかり合い、独特の音と火花を散らす。地面は互いの踏み込みでひび割れている。だが、それは唐突に終わりを告げる。
俺が剣で斧を”弾き返した”からだ。ミノタウロスは驚いたのか目を見開いて動きを止めてしまった。その時間はコンマ何秒かだったが、動きを止めてしまった時点で俺の勝ちだ。アフェクシオンでミノタウロスの足を斬り飛ばし、斧を叩き斬る。そして胸に手を当てて、そのままぶち抜いた。
「頭ぶっ飛ばしても再生するなら、再生できないほどに破壊すればいいだけの話だろ?」
そして俺は大軍上級火炎魔法”ハイス・ヴァルム”をミノタウロスの体内で発動させた。
そしてミノタウロスは中から膨れ上がるように爆砕した。大量の血飛沫が空から降ってくるが、防御結界を張ってるので俺にはかからない。
ハイス・ヴァルムは対軍用に作られた火属性の魔法だ。着弾地点から半径100mを摂氏3000℃の高温で焼き払う凶悪な魔法だ。消費魔力がバカみたいに多いのと、使った後の環境破壊がすごいので一応禁忌魔法に登録されている。だが、温度を摂氏1000℃まで下げて結界を張ってやれば強力な対人・対物魔法になる。1歩間違えれば自分も跡形もなく消える羽目になるが....
ミノタウロスの核や角などいい素材になりそうだったのだが、どこが弱点なのかわからない以上全て燃やし尽くすしかなかった。残念だ。今度会ったらしっかりと貰っておこう。
そして俺は再び迷宮探索を始めた。
その後、34階層で罠に引っかかる羽目になり、それがきっかけで”あの娘”とあんなことになるのはまた別の話。