思い出話
2019/01/8 大幅修正しました。前の方が好きだった人はごめんなさい。
「.....ヴァ、...ルヴァ、ねぇ、アルヴァってば!」
長いこと呼んでいたのか、ちょっとムスッとした顔で叩き起こされた。
「あと5年待ってくれ……」
少し寝ぼけながら答える。
「いい加減にしてよ!何時だと思ってるの!」
俺は視線を横に向けてサイドテーブルにある時計を見る。時計の針は11時17分を示していた。
「もうこんな時間か。今起きるからどいてくれ」
起こしてくれたのはいいのだが、エリィはなぜか俺の上に乗っかっている。起こすだけなら上に乗る必要はないと思うのだが...
髪を整えて居間に行く。
「今日のご飯は少し気合い入れてみたの!アルヴァの好きなリゾットだよ!」
「おぉ!それは楽しみだ。まあ、エリィのご飯は何でも好きだけどな」
「恥ずかしいこと言わないでよ!でも、嬉しい。ありがとう」
エリィが照れながらご飯の準備を手際よくしていく。
「一緒に住み始めてからもう11年か」
「そっか、あれからもう11年も経ったんだ」
「11年前までの俺は一体どんな奴だったんだろうな。なにも覚えていない」
「とても優しくて、強かった。誰よりも優しくて、誰よりも強い心を持ってた」
エリィが昔を懐かしむように言った。
「優しくて強かった、か。でも、前の俺は何もかもが普通だったんだろ?それなのに誰よりも強かったのか?」
「うん。確かに魔力も戦闘も普通だったよ。でもね、心は誰よりも強かったよ」
「心?」
「私ね、昔イジメられてたの」
「え?エリィが?」
今のエリィからは想像もできない話だった。
「うん。いっつも男の子たちに物を取られたり、捨てられたり、ひどい言葉もいっぱい言われた。時には暴力だって振るわれた」
「女の子に暴力を振るう奴なんて最低だな」
「ふふ、やっぱり、変わらないね」
「え?」
「昔のアルヴァも同じこと言ってた。その時、一番強かった子に臆することなく立ち向かってくれた。当然、男の子たちの注目はアルヴァに向いて、ボッコボコにされてた」
「今の俺にはボコボコにされるなんて想像もできないな」
「でも、どれだけボコボコにされてもアルヴァは絶対に逃げなかった。それでね、私その時アルヴァに聞いたの。なんで逃げないの?怖くないの?って」
「俺はなんて言ったんだ?」
「怖いし痛いけど、僕が逃げたら君がまたイジメられちゃう。君は女の子だから体に傷をつけたらダメだよって」
「よくそんな恥ずかしいこと言ったな俺」
「その後も何度も何度も殴られて、だけど何度でも立ち上がって私を守ってくれた。ただ私が女の子ってだけの理由で。その後、男の子たちが逆に怖くなったみたいで逃げていったんだけど、アルヴァが倒れたの。すぐに走って先生を呼びに行ったけど、まだ小さかった私はアルヴァが死んじゃったって思った。それからアルヴァが目覚めるまで泣いたのをよく覚えてる」
俺はその時のエリィを見てなんとなくわかった。俺たちの関係はそこが始まりだったんだと。
「だからアルヴァが目覚めたって聞いた時本当に嬉しかった。あざだらけで動くだけで全身が痛かったけど、無視してアルヴァのとこまで走った。アルヴァ、私を見て最初になんて言ったと思う?」
「なんて言ったんだ?」
「大丈夫だった?って、微笑みながら言ったんだよ。私よりずっとずっと重症だったくせに。その時、私は誓った。アルヴァに一生ついて行こうって、いつかアルヴァが困った時の支えになってあげれるように」
「そして今に至るってことか」
「うん。そうだね。今も昔も変わらずに私はアルヴァが大好き」
「俺もだよエリィ。その時のことは覚えてないけど、例え悪魔や神様を敵に回すとしても、エリィは絶対に守るさ。そういえば、昔の俺も金髪に赤色の瞳だったのか?」
「ううん、昔は髪も瞳も黒色だったよ。アルヴァがあの石を拾ってきて、金髪に赤色の瞳になってた時は驚いたなぁ。私はカッコいいと思ったんだけど、大人の人たちはなんだか大騒ぎしてた。悪魔がなんとかって」
「悪魔?」
俺は何故かその言葉に言いようのない不安を覚えた。
「言い伝えにあった悪魔がアルヴァと同じ姿だったんだって」
「そうか……」
「アルヴァ?」
「いや、なんでもない。それより、明日はエリィの装備を買いに行く日だったな」
「うん!ついに私も迷宮レビューできるんだ!」
「そんなにいい所じゃないけどな」
「アルヴァがいるならどこでもいい所だよ!」
この時、止まっていた歯車が動き出したことは誰も知るはずがなかった。