二人のシスター
シスター・マヤは、自分の両親を知らない女の子である。
生まれて数日と経過していない赤ん坊だった彼女は、産着を着せられてベビーバスケットの中に入れられた状態で、ある病院の前に置かれていた。いや、捨てられていたといった方が正しいだろう。
その女の子は「真矢」と名づけられ、乳児院そして児童養護施設で育てられる。
真矢が十歳になったとき、教団はこの施設から数人の孤児をあずかりにくる。
マザー・アミコは、この少女をはじめて見たときに思った。
──この子は使える
ピンと、くるものがあった。真矢の瞳は、己の悲しい境遇を訴えてはいない。まるで、いかなる運命をも受けいれ、自分に降りかかる不幸のすべてを洗い流し、それを優しさに変えてしまうのではないかと感じさせる。
そんな真矢の瞳に、マザー・アミコは魅せられる。
一方的に愛情を求める年頃といってよい真矢は、この年齢ですでに愛情を与える側に立っているような、そういう雰囲気が伝わってくる。
──この子は、運命の申し子だ
教団も、いつかは危機に陥るときがくると思うマザー・アミコは、いつか訪れるかもしれない教団の危機を救う救世主を、真矢のなかに感じるのだった。
真矢が「シスター・マヤ」として修道院で暮らすようになり、二年の歳月が過ぎたころ、修道院はその運営が軌道に乗ったといえる状態になっていた。
ある日の朝、修道院のみんなが目覚めてバタバタとにぎやかになり、警備員たちもパトロールを終えて帰社したときに、まるでその隙を突くように修道院のエレガントゲートの前に赤ん坊が捨てられていた。
それをマザーの一人が発見する。真矢の場合と同じように、赤ん坊はベビーバスケットの中で眠っていた。
のちに、メグと呼ばれる赤ん坊である。
修道院のマザーは、すぐさまマザー・アミコに連絡して、彼女の指示を仰いだ。まずは警察に届け出て、同時に救急車を呼んで赤ん坊を病院へ運ぶ。
そしてマザー・アミコは、福祉関連において権力のある信者に相談をもちかける。
以前から、教団の創始者であるマザー・アミコたち五人は「もう一人ぐらい、孤児を養育しても良いのではないか」と話し合いはしていた。メグがあらわれたのは、それを実行に移せということなのだろう。
教団を悪に導く運命は、そのように告げている。
しかし、捨て子を育てたいと思っても、自由にできるわけではない。孤児と呼ばれる子どもたちにおいては、行政機関の判断と決定に、その行く末が委ねられるのだ。
救急車で送られた赤ん坊は、しばらく病院に入院した後、乳児院で育てられることになる。
その後は修道院に移されて、他のシスターたちと生活するように、教団の信者がその権力でもって、関係機関に話を進めたのであった。
のちに「メグ」と名付けられた女の子は、いつもシスター・マヤにくっついて、彼女からはなれようとはしなかった。シスター・マヤも、そんなメグを疎ましく思うことは全然なかった。
そうして何事もなく、平和に時が過ぎて行った。だが、修道院で健やかに育つ彼女たちを待っていたのは、教団に利用される運命だった。
ある日、修道院の食堂で、おやつの時間を楽しんでいたシスター・マヤとメグは、修道院のマザーとはちがうマザーに名前を呼ばれる。
そのマザーをメグは全然知らないが、シスター・マヤには見覚えがある。
──まえに、会ったことがあるような……
実に六年ぶりとなる、マザー・アミコとの再会である。
シスター・マヤとメグの二人は、教団の危機を救う計画のなかに、なにも知らないまま組み込まれてゆくのだった。




