表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
使者の黙示録  作者: 左門正利
第一章 ユリアナ教団
5/44

二人のシスター

 シスター・マヤは、自分の両親を知らない女の子である。


 生まれて数日と経過していない赤ん坊だった彼女は、産着を着せられてベビーバスケットの中に入れられた状態で、ある病院の前に置かれていた。いや、捨てられていたといった方が正しいだろう。

 その女の子は「真矢」と名づけられ、乳児院そして児童養護施設で育てられる。


 真矢が十歳になったとき、教団はこの施設から数人の孤児をあずかりにくる。

 マザー・アミコは、この少女をはじめて見たときに思った。


 ──この子は使える


 ピンと、くるものがあった。真矢の瞳は、己の悲しい境遇を訴えてはいない。まるで、いかなる運命をも受けいれ、自分に降りかかる不幸のすべてを洗い流し、それを優しさに変えてしまうのではないかと感じさせる。

 そんな真矢の瞳に、マザー・アミコは魅せられる。


 一方的に愛情を求める年頃といってよい真矢は、この年齢ですでに愛情を与える側に立っているような、そういう雰囲気が伝わってくる。


 ──この子は、運命の申し子だ


 教団も、いつかは危機に陥るときがくると思うマザー・アミコは、いつか訪れるかもしれない教団の危機を救う救世主を、真矢のなかに感じるのだった。



 真矢が「シスター・マヤ」として修道院で暮らすようになり、二年の歳月が過ぎたころ、修道院はその運営が軌道に乗ったといえる状態になっていた。


 ある日の朝、修道院のみんなが目覚めてバタバタとにぎやかになり、警備員たちもパトロールを終えて帰社したときに、まるでその隙を突くように修道院のエレガントゲートの前に赤ん坊が捨てられていた。

 それをマザーの一人が発見する。真矢の場合と同じように、赤ん坊はベビーバスケットの中で眠っていた。

 のちに、メグと呼ばれる赤ん坊である。


 修道院のマザーは、すぐさまマザー・アミコに連絡して、彼女の指示を仰いだ。まずは警察に届け出て、同時に救急車を呼んで赤ん坊を病院へ運ぶ。

 そしてマザー・アミコは、福祉関連において権力のある信者に相談をもちかける。


 以前から、教団の創始者であるマザー・アミコたち五人は「もう一人ぐらい、孤児を養育しても良いのではないか」と話し合いはしていた。メグがあらわれたのは、それを実行に移せということなのだろう。

 教団を悪に導く運命は、そのように告げている。


 しかし、捨て子を育てたいと思っても、自由にできるわけではない。孤児と呼ばれる子どもたちにおいては、行政機関の判断と決定に、その行く末が委ねられるのだ。


 救急車で送られた赤ん坊は、しばらく病院に入院した後、乳児院で育てられることになる。

 その後は修道院に移されて、他のシスターたちと生活するように、教団の信者がその権力でもって、関係機関に話を進めたのであった。


 のちに「メグ」と名付けられた女の子は、いつもシスター・マヤにくっついて、彼女からはなれようとはしなかった。シスター・マヤも、そんなメグをうとましく思うことは全然なかった。


 そうして何事もなく、平和に時が過ぎて行った。だが、修道院で健やかに育つ彼女たちを待っていたのは、教団に利用される運命だった。



 ある日、修道院の食堂で、おやつの時間を楽しんでいたシスター・マヤとメグは、修道院のマザーとはちがうマザーに名前を呼ばれる。


 そのマザーをメグは全然知らないが、シスター・マヤには見覚えがある。


 ──まえに、会ったことがあるような……


 実に六年ぶりとなる、マザー・アミコとの再会である。


 シスター・マヤとメグの二人は、教団の危機を救う計画のなかに、なにも知らないまま組み込まれてゆくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ