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使者の黙示録  作者: 左門正利
第八章 もうひとつの黙示録
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神の流れのなかに

 呆然となる純司をそのままに、リタはミクの方をふり向いた。


「シスター、大昔の災害で助けられたのは、セイント・マヤだけではないんだ」

「え?」

「もうひとり、救われたシスターがいてね」


 全然、知らなかった。それはミクの母親も同様で、彼女は目をぱちくりしている。

 この事実もまた、ユリアナ聖団のなかでも一部の幹部しか知りえない、超極秘情報なのだろう。


 リタは話を続ける。


「その少女はシスター・メグといって、幼い彼女はいつもセイント・マヤにくっついて、本当の姉妹のようだったという」


 唖然となっているミクに、リタは物語を聞かせるような感じで話す。


「生涯、独身をとおしたセイント・マヤが他界したあと、マザーとなったそのシスターが、ユリアナ聖団の総統をひき継ぐことになったんだ。彼女は、絶対に自分を『セイント』とは名のらなかった。セイントの称号がゆるされるのは、あくまで初代総統だけであると彼女はその考えを貫き、その意思は現在にいたっていると思う」


 まぎれもない事実だった。


「彼女もセイント・マヤと同じように、シスターと呼ばれていたころから、当時の使者に神様の力を授かる方法を学んでいてね」


 話を聞いているミクは、まったく先が見えないのだが、なにかドキドキしてくる。


「シスター・メグの一族は、神様から授かる力が他の人たちよりも大きかった。それゆえ、ユリアナ聖団の総統は……」


 リタは、不意にマザー・ミホへ顔を向ける。


「代々、シスター・メグの子孫が後継者となっている。そうですね」 


 マザー・ミホはゆっくりと首を縦にふる。


 ミクは目を大きく見開き、驚嘆の叫び声をあげる。


「え、えええっ!」 


 母親のマザー・ミナは、卒倒しそうになるほど驚いた。


 なにも知らされていないのは、若いころからこの事実を知ったなら、なにか自分が偉い人間であるかのように勘違いし、思いあがった傲慢な人間になってしまう恐れがあるためだ。


 メグの子孫である彼女たちが、自分の先祖のことを知らされるのは、だいたい荘年期にはいって以降が常である。


 リタの話は、まだ終わらない。


「ルゼフィーヌの一族である私、使者のカヤシマ、シスター・メグの子孫、そして」


 リタは、ユリアナ聖団のマザーたちを優しい目で見わたす。


「セイント・マヤは、あなた方の心の中に生きている」


 マザーたちの目に涙があふれる。リタは、歓喜の思いでみんなに告げるのだった。

 

「私たちは、今日ここで、家族の再会を果たしたのです」


 使者に救われたシスター・マヤを中心とした、人類の再生。


 シスター・マヤやメグが神から授かる光の中に、人類の行うべき神示が含まれており、彼女たちはそれを人々に伝えてきた。人類は、シスター・マヤを中心としたユリアナ聖団からもたらされる神の言葉にしたがって生きてきた。


 そして現在、家庭や学校の教育は、厳しくも愛のある教育をほどこすようになり、大人になって犯罪に走る人間は、大昔の災害前にくらべて非常に少なくなった。

 国どうしは、けっして武力で問題を解決することはなく、話し合いですべての問題を解決するよう努めている。


 いま、人類は神の流れのなかで、正しい道を歩んでいる。今後も、この流れに逆らわずに生きて行くならば、平和が脅かされることはない。

 黙示録は、それを示しているのだ。


 リタは、マザー・ミホに語る。


「セイント・マヤを中心とした人類の再生は、成功したといえるでしょう。もう『破滅の刻』が訪れ、破壊の王が目を覚ますこともありません」


 青空がまぶしい。その空のはるか彼方で、黙示録のとおりに再会を果たした彼らを、神は見ている。


 耳には聞こえぬ、神のよろこびの言葉が、地上にふり注ぐ。


 ──わが子よ……


 





〈終わり〉



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