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使者の黙示録  作者: 左門正利
第八章 もうひとつの黙示録
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公園

 翌日の日曜日は、おだやかな良い天気になった。


 朝の十時ごろ、ミクは母親といっしょに公園に向かって歩いていた。二人とも私服ではなく、白い修道服を身にまとっている。


 聞けば、祖母であるマザー・ミホも公園にくるという。祖母に会えるのはうれしいが、日曜日に白い修道服を着て外に出歩くのは、変な気分がする。


 ミクとマザー・ミナが公園にたどり着いたとき、ユリアナ聖団のマザーたち五人はすでに到着していた。マザー・ミホの他に、昨日ユリアナ聖団の本部で少女の話を聞いていた幹部たちがいる。


 マザー・ミナは彼女たちに頭をさげた。


「すみません、お待たせしてしまって」


 総裁のマザー・ミホが、微笑みながら言葉をかえす。


「いいえ、私たちもいま到着したばかりです」 


 彼女は自分の孫娘の方へ視線を移し、少女と向きあった。


「シスター・ミク、占い師さんに会った場所は、どこですか?」


 落ち着いて話す祖母の問いかけに、ミクはアーケードの入口を指さしながら答えた。 


「あっちよ、おばあちゃん」


 しかし、そこには誰もいなかった。アーケードを出入りする人の姿が、目にはいるだけである。   


 みんなは、しばらくの間その場所を眺めていたが、占い師が姿をあらわすような気配はない。


 ミクは残念そうにつぶやいた。


「やっぱり、いないなあ」


 すると、少女の後ろから声がひびいた。


「誰がいないの?」


 予期せぬ声にミクがふり向くと、そこには見たことのある顔があった。ミクは、思わず叫ぶような声をあげた。


「あ、占い師さん!」


 マザーたちが驚いたようにミクの方をふり返る。

 彼女たちの知らない間に、ミクが話していた人物が、少女の背後に立っている。


 二十歳ぐらいの若い女性だ。ウェーブのかかった黒い髪が、ふわりと揺れている。着ている衣装は独特のもので、まるで短いマントで身体をおおっているようだ。ひし形を鎖のようにつなげた模様は、とてもカラフルだ。  


 世間一般の人たちとは、見た目からしてかけはなれた人物であるのは、誰が見ても一目瞭然である。


 神秘的な雰囲気を漂わせる彼女に、マザー・ミホは声をかける。


「あなたは、もしかしてルゼ様の……」


 その言葉に、若い女性は首をゆっくりと縦にふった。


「私は、リタといいます。あなた方が聞き及んでいる預言者ルゼフィーヌは、私と同じノートルダムの一族です」 


 占い師リタは、マザー・ミホにそう伝えた。


 肌が浅黒い彼女だが、一族の家系をさかのぼると、もともとはヨーロッパの貴族だったらしい。  


 その昔、ノートルダムは貴族の生活を捨てて、町からはなれた髙地に身を移した。そこではある民族が暮らしており、ノートルダムは現地の女性と結婚して、一族の子孫はいまに至る。 


 現地に住む人々は、あらゆる災害、災難をまぬがれてきた。

 当時のノートルダムには、未来を見透せる能力が備わっていたのだ。疫病や戦争とは縁遠い、平和な日々を現地の人々とともに生きてきた生涯だった。


 ノートルダム一族の人間は、その能力を代々ひき継いでいる。

 ひょっとすると、大昔から有名なあのミシェル・ド・ノートルダム(ノストラダムス)と血縁関係があるのかもしれない。


 マザー・ミホは、黙示録のことが気にかかる。それについては、鍵をにぎる一人であるリタに訊かなければならない。


「あなた様が、ここへ姿をあらわすということは、やはり使者様の子孫の方も」


 深刻な表情をしているマザー・ミホに、リタは優しく微笑んだ。


「彼には、このまえ会いましたよ」  


 ミクが、大事な話の最中に、勝手に割りこんでくる。 


「カヤシマって人のこと?」 


 リタは笑顔で「そうよ」と答えた。


 ミクの幼い頭が考えを巡らす。ユリアナ聖団のマザーたちにとって、カヤシマという人物は非常に重要な存在であるらしい。

 しかし昨日、彼を見た感じでは、ユリアナ聖団とはまったく関係のないように思えた。


 祖母のマザー・ミホは、占い師のお姉さんのことを知っているようで、みんなはどういう関係があるのだろう?


 ──ぜんぜん、わかんない  


 ミクの頭がパンクしそうになる。そもそも、マザーたちがここへきたのは、なぜなのか。  

 ミクは、自分の思う疑問を占い師のリタに投げかける。 


「ねえ、今日この場所でなにかあるの?」 


 リタは、ミクに目線を合わせながら答えた。


「黙示録が実現となる運命にあるなら、私たちは神に導かれる」 


 そういわれても、少女にはさっぱり意味がわからない。リタは言葉を続ける。


「シスターも、私も、そして」


 リタはミクの背中ごしに視線を移した。 


「ほら、彼も」  


 その言葉に、ユリアナ聖団のみんながふり返る。ひとりの青年が、すぐそばまで歩みよってきていた。


 ミクが大きな声で彼の名を呼ぶ。 


「あ、カヤシマさんだ!」


 茅島純司は、優しい目をしてミクに微笑んだ。





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