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使者の黙示録  作者: 左門正利
第一章 ユリアナ教団
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教団の危機

 いまから一年半ほどまえ、教団にとってよくない事件が立て続けに発生する。


 ある宗教団体が、組織的に大麻を栽培していたことが発覚する。組織的といっても、たいして大がかりなものではなく、個人で行うことに毛がはえた程度のものであった。それを団体組織として密かに取り組み、管理していたのである。

 だが、ある幹部が自分だけの利益を得ようと、個人で大麻を育てていた。それを外部の人間に売り出そうとしたところから足がついた。


 これは、宗教界に大きな波紋をのこす事件となった。

 世の中には「宗教」という言葉を聞いただけで、嫌悪感をあらわにする人も多い。ただでさえそうであるのに、この事件は、民衆に宗教のすべてを拒絶する風潮をつくり上げてしまった。


 さらに、ある児童養護施設において、職員が児童に虐待を加えていたという信じられないニュースが全国に流れる。この事件は大きな社会問題として国民に注目され、同じ仕事に従事している人たちはもとより、関連する行政機関もはかりしれないショックを受ける。


 ──まずいわね……


 マザー・アミコに危機感が走る。


 一応、教団の方も不測の事態が起きたときのことを考え、慎重に行動を進めてきていた。

 修道院で養育される少女たちは「孤児」であり「虐待児」ではない。虐待児というひびきは、孤児にくらべると世間にあたえるインパクトが非常に強い。なにかあった場合に、必要以上に目立ってしまう。


 教団が一般社会の裏でやっている事がやっている事だけに、彼女たちはほんのわずかな不安要素も受けいれることはできなかった。

 教団を設立した五人は、修道院で養育する児童はすべて孤児とするように、絶大な権力をもつ信者たちに頼み、行政機関にとりはかってもらっていた。


 万全の注意をはらっていた教団だが、思わぬ事件が起きて以降、一般社会の動向やネットに流される取るに足らない情報をも無視することはできず、安閑としていられなくなった。


 世間の「宗教」というものに抱く嫌悪感や忌避感、そして孤児や虐待児を養育する人たちに向けられる嫌疑なまなざしが、教団に対して予想以上に圧力をかける。

 その圧力に教団はがんじがらめに抑えられ、満足に動けない。闇の仕事どころか、表向きの通常の仕事、運営においても、教団はやたら神経を使わねばならない状態に陥ってしまう。


 宗教や児童養護施設にまつわるすべてが、一般庶民から非難されるような情況のなかで、教団も必要以上にナーバスになっていった。

 闇の仕事ができなくなれば、ユリアナ教団は終わりである。


 マザー・アミコたちがもっとも恐れるのは、裏社会の顧客たちから「ここは、もう使えない」と、見放されることだ。そうなると、顧客たちの素顔や本性を知っている彼女たちは、自分たちの命まで消されるのではないかと思うのだ。

 彼女たちが神経質になるのも、無理はなかった。


 ヘタに動くことができずに、みんなが頭を悩ますなかで、突如マザー・アミコに閃きが浮かぶ。


 ──そうだ、あの子を使おう!


 いまこそ、大事に育ててきた「運命の申し子」の出番だと、闇からの閃きはマザー・アミコに悪魔の知恵を授けるのだった。


「修道院の子供を使いましょう」


 マザー・アミコは、教団の運営にかかわる他の四人に、教団の復興計画を提案する。


 いまは、宗教や施設に向けられる世間の目が確かに厳しいが、要は自分たちの宗教および修道院が健全であり、なにも問題はないということを民衆に理解させればよいのだ。

 自分たちが大っぴらに動けないのであれば、動ける者を使えばいい。


 ──私たちの代わりとして、あの子たちに役に立ってもらわねば


 シスター・マヤとメグを「生きた広告塔」とする計画は、このときに生まれたのである。



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