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使者の黙示録  作者: 左門正利
第一章 ユリアナ教団
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白い少女たち

「祈りましょう」


 街外れにある礼拝堂で、十二人の少女たちが女神の像の前で祈りをささげる。

 少女たちのまとう白い修道服は、けがれのない彼女たちの純潔を主張する。


 教会によく似た礼拝堂は、その広さが学校の体育館の半分ほどもあるだろうか。やたら天井が高く、四方の白い壁が、彼女たちを音もなく包みこんでいる。

 この礼拝堂は、一般の人たちは入ることができない彼女たち専用の礼拝堂である。


 世間から隔離されたような一種独特の空間で、静かに神に祈る少女たち。

 下は六歳から、上は十八歳にいたるこの少女たちは、十年ほどまえに設立した新興宗教「ユリアナ教団」のシスターである。


 ユリアナ教団──その設立は、当初五人の女性によって成された。

 教団は、キリスト教や他の宗教とはまったく関係のない宗教団体である。教団の信者は、さまざまな業界で「大物」と呼ばれている人たちが多く、教団の運営は彼らからの莫大な寄付金で成り立っていると噂されている。


 教団にはこの礼拝堂の他に、街なかにあるもうひとつの礼拝堂と、孤児を養い育てるための男子禁制とする修道院が存在する。


 いま、この時間に礼拝堂で神に祈っているシスターは、その全員が孤児である。

 がらんとした空間のなかで、シスターたちが祈っている後ろで、その少女たちと同じように祈りをささげる二人の女性がいた。


 シスターから「マザー」と呼ばれる中年の彼女たちは、修道院でシスターたちにいろいろと指導を施し、みんなと寝食をともにする存在だ。

 総勢五人いるマザーは、全員が福祉関係の資格をもつ独身の女性である。彼女たちは皆、結婚そして出産の経験があり、それぞれ悲しい過去を胸のうちに秘めていた。

 マザーが着ている白い修道服は、彼女たちの悲しみを、そっとおおい隠している。


 やがて祈りを終えたシスターたちに、マザーのひとりが優しい声を投げかける。


「さ、みなさん、帰りましょうね」


 彼女たちが暮らす修道院は、この礼拝堂からそう遠くないところにある。礼拝堂の外に出た彼女たちは、行儀よく二列にならび、マザーが列の先頭と最後にくる。

 午後一時半になろうとする空は、さわやかな秋晴れであり、もう真夏の暑さは感じない。


 礼拝堂と修道院のあいだを行き来する白い少女の集団は、近隣に住む人々にとっては、いまや見慣れた光景である。歩を進める白い行列が、まわりの風景に違和感なく溶けこんでゆく。


 礼拝堂からしばらく歩けば、近づいてくるのは水色の屋根が目立つ修道院。二階建ての長屋という感じの建物は、白い壁でおおわれ、建物の敷地は高さ二メートルのフェンスで囲まれている。


 そのフェンスには、草花が一様につたって緑のバリケードを作り、静かに呼吸をしている。バリケードの発着点は、アートが施されたエレガントゲートだ。


 礼拝堂から五分ほど歩いたところで、マザーとシスターたちがその門をくぐる。おかえり……と、やわらかな風がそよぐ。

 正面に見える修道院が、いつものように彼女たちを迎え入れる。


 わが家に帰りついたシスターたちには、勉強が待っている。彼女たちにとって、修道院は学校でもあるのだ。

 シスターたちに勉強を教える人材として、教師の仕事を引退した女性たちが派遣され、修道院の教育プログラムにのっとった教育をシスターたちは受けるのだ。


 今日、学習する勉強も、のこりはあと少しである。シスターたちが、それぞれ自分の習う学習室へ向かって行く。


 ここでは、部屋の数と派遣される先生の人数の関係で、年齢に合わせたシビアな教育は行なっていない。

 年齢がひとつちがう子供どうしが、いっしょの部屋で同じ教育を受ける方式をとっている。


 午後三時にはシスターたちの勉強も終わり、彼女たちが楽しみにしている「おやつの時間」が訪れる。食堂に集まり、クッキーをほおばりながら、おしゃべりに花を咲かせる少女たち。

 そのまま時間が進み、みんなが口にするクッキーも紅茶もなくなったころ、食堂にひとりの女性が入ってきた。その女性が、二人の少女に声をかける。


「シスター・マヤ、シスター・メグ」


 呼ばれた二人は、声のする方をふり向いた。



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