森に行こう
オークの集落は深い山の中腹にある洞窟を中心に大体30人くらいで過ごしていた。
洞窟は入り口から中に行くにつれて広がっていて途中いくつか小さな洞があって奥には20メートルほどの円形のスペースがありそこで行き止まりになっている。
恐らく昔大型の魔獣が住んでいた場所だろう。オークの祖先が退治してねぐらを奪ったのかもしれない。
一番大きな広間がオークのねぐらで今は病に倒れた大人たちが寝込んでいる。
子供は入り口近くの小さな部屋に住んでいたが病気の大人たちから離れるように外で木陰に草を敷くなどして野宿するようになっていた。
洞窟の周りはごつごつした岩場に多少の木々がまばらにあるだけで東側に向かっていくと先は崖になっていて西側は下り斜面でしばらく行くと川がある。川に沿って進んでいくとやがてその先も切り立った崖になっていて川は滝となりその流れの先には広大な森が広がっているのだ。
大人たちはこの滝横の岩を降りて、森に行っていた。
ここを降りられるようにならないとこれから食料を手に入れるのが難しくなってしまう。
子供の中では一番大きいのだし、これくらいできるようにならなくてはダメなんだ。
ミノア的にずっと考えてきた計画と決意に俺は涙目でうなづくしかない。
滝の上の10メートルの高さから滝つぼに流れていく水を眺めて絶望をひしひしと味わう。
無理無理無理無理!!10メートルの切り立った断崖じゃねえか!!
何普通に降りてんだよオークども!?てかなんでこんなデッドエンドな山ん中の洞窟に住み着いてるの?
山を登るか崖を降りるかしか選択肢ないのおかしくない?
オークって脳みそ筋肉すぎな!!前世の大人の身体があったとしてもこんな無茶したことないわ!!
しかし、もう昨日食料は底をついた。引くことは出来ない。
森に行こう、と誘った時は嬉しそうだったバルサも滝に近づくにつれて段々無言になっていた。
大丈夫!バルサ君には我が身に代えても怪我なんてさせないよっ!
無理やり作った笑顔で振り返る。
「私が先に降りる!足場を確認しながらいくからバルサは私がいいよって言ったらついてきて!大丈夫怖くない!!」
「おねえちゃーーーーん!?」
山にバルサの絶叫が木霊した。
泣いてしがみついて制止するバルサに「怖いなら一人で行くから大丈夫だよ」と告げたら余計にブチ切れて号泣した。
「絶対行かせないから!他の方法考えよう!」
全力で止めにくるバルサはもう自殺志願者を止める勢いで言葉の通り絶対諦めない目をしていた。
心の9割行きたくないコレ死ぬんちゃう?で埋められてた自分が振り切れる訳もなく、元来た道をとぼとぼ歩く事に…
手はバルサに逃がさないとばかりにギュッと握りしめられて(痛い…)もはや連行されていると言っても過言ではない。
ミノアちゃんガチ勢筆頭は伊達ではないようだ。
そうこうしてるとヤンチャ小僧三人組が遊んでいる岩場を通りかかる。
ダナンがこちらに気づいて大きく手を振る。
ガチで落ち込んでるので無邪気な様子にほっこりする。
「お姉ちゃーん!見てみてー!」
なんだろう?と微笑ましく眺めていると三人は息を合わせて3メートルはあろう大岩に手をかけた。
「「「せーの!!」」」
「……は?」
巨大な岩が彼らの膝の高さまで浮いた。
あまりの驚きに変な声が出た。
オークのちびっこって馬鹿力当り前なのかよ!!末恐ろしいわ!
こちらの驚きっぷりに満足した三人は岩を放り出して得意げに駆け寄ってきた。
「「「すごいでしょ!お姉ちゃん!」」」
「あぁ…うん。あんな大きな岩を持ち上げるなんてダナンたちはすごいよ!お姉ちゃんびっくりした!」
驚きながらも褒めることは忘れないミノアちゃんいい子。
俺の自我とミノアちゃんの意識が混ざっているようで行動の主体はやっぱミノアちゃんで思考のメインが俺というちょっとあやふやな状態なので言動はミノアちゃん。
いやさすがに自分が今ミノアちゃんと言えど年端もいかない女の子の行動をとるのは俺には無理だ。
大好きなお姉ちゃん的存在がいきなりおっさんみたいなしゃべり方をしたら彼らのショックは計り知れないだろう。これでイイのだ。そんなことを考えていたらキュッと小さな手が右手をつかんだ。
やんちゃ3人組の中で、一番引っ込み思案なゾーイがもじもじしながら手を引いてつぶやく。
「あのね、お姉ちゃん……あいつがね、お姉ちゃんにお願いがあるんだって」
ちょっと待って……ゾーイがあいつと言って指さしたのは先ほどの大岩だ。『あいつ』だなんて呼び方をするもんだから、なんだか変わった形で山肌に埋まっているそれは巨大な生き物の輪郭にも見えた。まさかな。そんな馬鹿なことがあるもんかアハハ。
「『嘴』を持ち上げたから話せるようになったんだって!」
だから!誰と誰がお話ししてるんですか!!?嘴?!君たちが持ち上げた大岩が嘴ってどんなけでっかい生き物なの!?ミノアちゃんに一体どんなお願いがあるって言うんだい!?