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ミノアお姉ちゃんが一番!

ミノアお姉ちゃんはとても美しい。

僕たち魔物は生まれ種族による系統からの大まかな素養に大別されるけれど、魔物に属するものはすべからくその知性の高さによって美しく成長する。

ミノアお姉ちゃんは小さな頃からとても可愛くて成長するにつれドンドン美しくなっていった。


その代わりミノアお姉ちゃんは精霊を視認することができないというとんでもない欠点があった。

地水風火僕らの周りにはたくさんの精霊がいる。

火をおこしたり、風を読んだり、水の気配を読んだり、地の恵を祈ったり、精霊は身近で、精霊に愛されし者は精霊を使役し大いなる力を発揮する精霊術師になれるがさすがにそれは特別魔力が強い者に限られるけど日常にそこここにいる精霊たちは、ぼくら魔物にも恩恵を与えてくれる身近で重要な存在だ。


ミノアお姉ちゃんは僕らが見ていてもとても精霊に愛されてるのに何故か彼らの姿が見えていない。

僕らは火の精霊がいるところが見えているので火をおこす時、薪やわら束を持ってお願いすれば彼らの機嫌が良ければそこに火を灯してくれる。

だけどミノアお姉ちゃんは黒くとがった石をカチカチとぶつけてその拍子に飛び散った火花でわらに火をつける。ホントだったら女の子の力で石をぶつけても火花が散る可能性はとことん低いんだけど、石の精霊と火の精霊がこっそりと火花を上げて、わらを燃やす振りをしてる。

けっこうタイミングが難しいらしく、彼らはミノアお姉ちゃんの火起こしの際は決死の表情で挑んでいる。

彼らの頑張りがミノアお姉ちゃんに通じることはないがうまく火が付いた時の嬉しそうな笑顔が何よりの報酬だそうだ。


大人たちはミノアお姉ちゃんを『精霊も見れないロクデナシ』と蔑んでミノアお姉ちゃんの実の母親でさえも彼女を軽んじていた。

大人が狩りに出かけてる間の一切の雑用をミノアお姉ちゃんに押し付けて僕ら子供たちの面倒も全部任せていた。

ミノアお姉ちゃんが美しいのを妬んでいるのもあると思う。

そんな扱いをされても「今は戦で男衆がいなくてお母さんたちは大変だから気が立ってるんだよ」と全然気にしない様子で笑うミノアお姉ちゃんの優しい笑顔に僕たちは何も言えなくなった。


大人たちが狩りで取って来た獲物は大体大人たちが焼いて食べて、僕ら子供にはついでに採って来た木の実や果実ばかりだった。

ミノアお姉ちゃんはすごくきれい好きでそれを全部きれいに洗ってから僕たちに分けてくれた。

食べる前に手を洗う事を、汚れたら洗って綺麗にすること、食べ物だけじゃなくて体も毎日川で水浴びしてきれいに洗うように言う。こういう時のミノアお姉ちゃんはとっても厳しくってまだ小さすぎて自分で体を洗えない子はミノアお姉ちゃんが一人一人丁寧に洗ってくれて、自分でできるくらい成長した子は洗い方を細かく教える。ミノアお姉ちゃんは大好きだけど自分でやるのは面倒くさいとおざなりに洗うやつもいたけどそういうことをしてるとそいつらは体が臭くなったりかゆくなったりしてぼりぼりと体中を掻きむしりだした。

これは大人がよくやってる仕草で『大きくなるとそうなっていくんだ』と漠然と思っていた僕らは毎日ちゃんと体をきれいにしているだけでかゆくならないんだと気が付いた。

そこからはみんな反省してミノアお姉ちゃんの言うことは絶対に守ろう!と固く誓い合ったんだ。

食べ物は洗って食べる。うんこやおしっこの後は必ず手を洗う。体は毎日、汚れたらすぐ洗う。

一回サボって体がかゆくなった連中は洗うことの大切さを身に染みて感じてる。

今はまだ小さすぎて洗われてるちびたちが大きくなったら、誰かしらまたこの道を通るかもしれないな…ってちょっとだけ思ったりした。


ある時流行りだした熱病のせいで洞窟の奥で寝たきりだった年寄りたちが全員亡くなった。

大人たちの中でも何人か体力のなさそうな人が亡くなっていた。


「普通は年寄りと子供からくたばってくもんなのに……子供はかからない熱病なのか…」


そんなことを呟いている大人を横目に僕らはこれもミノアお姉ちゃんのおかげだと気づいていた。

洗うという習慣のない大人たち。何でもかんでも洗っている僕たちを『変わり者』だと笑っていた。

ミノアお姉ちゃんも最初は大人にも洗うことを進めていたが全く取り合わなかった上に「子供が大人に指図するな!!」と殴りつけたのだ。

汚れた手で汚れた肌でいつもかゆそうに体を掻きむしって小さな爪の傷が体中にあってジュクジュクと膿んでいる大人たち。

汚らわしい、と思ってしまった。一度思ってしまうともうダメで、ミノアお姉ちゃんに育てられた僕らはもう実の親であってもああなりたくない。

僕らの親はミノアお姉ちゃんだけだ。

そう思ってしまった。


ミノアお姉ちゃんが大人の命令で死体を埋める穴を掘っている。

道具は腕一本分ほどの長さの木の板のみ。

数が多いので大きな穴を掘らなきゃいけないし大人は体力自慢の者でさえ熱病に罹りつつあって寝込みはじめていた。

せめて土精霊の加護のあるものなら魔力を使って大穴を掘ることもできるけど、ミノアお姉ちゃんの目の前で精霊魔法を使うと自分だけ精霊が見えないことに傷つくかもしれない。と割と精霊魔法を使える子供はそのことを隠している。手伝うにもミノアお姉ちゃんをここから一旦遠ざけなければ。


「ミノアお姉ちゃん!僕がやるから!!ちびたちの水浴びを頼むよ!」


ミノアお姉ちゃんの近くでうろうろしてた土の精霊(成人男性の姿をしているからけっこう強力な奴)がこっちを見てでかした!と言いたげに手を上げたので無茶な労働させられてるミノアお姉ちゃんを心配していたのだろう。


「大丈夫!ここの土何故かすごく柔らかくてとても掘りやすいの!私の方が体も大きいんだから力仕事は私に任せて!」


土精霊が膝から崩れ落ちた。ああ、お姉ちゃんの負担を減らすためにこっそり地中の石やら移動させたり掘りやすいように土を柔らかくしてたんだね。気持ちはわかるけど完全に裏にハマってるよ!


「僕やりたいもん!」


ミノアお姉ちゃんの半分ほどの背しかない僕は力仕事を任せられないのだろう。

やるのはそこで打ちひしがれてる土精霊だから安心してと言えないのは辛い。しかし子供扱いには駄々っ子で返す!そうするとお姉ちゃんはちょっと弱いのだ。


こうしてミノアお姉ちゃんから木のスコップ()を受け取ることに僕は成功したのだった。








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